愛 奴 み あ




第4章  永遠


結婚して2年の月日が流れた。二人の間に子供はなかった。しかし、二人は幸せだった。

ずっといっしょに生きていこう、そう誓った。

町に新しい病院ができることになった。その準備委員会に西は出向することになった。

しなくてはならないことが山積みにあり、毎晩残業だった。時には事務所に泊まるこ

ともあった。みあのことが心配だったが、電話でお互いの様子を知ることをできたので

少し救われた。

みあは、けっして若くない西の身体が心配だった。ただでさえ高血圧なのに寝不足や

疲れは、血圧をより高くする。たまに帰宅する西の顔に、疲れがはっきり見えた。

降圧剤を飲んでいても、血圧は高い。

みあは、西にお願いした。「準備委員会への出向をやめてもらってください。身体が

壊れちゃうよ。お願いだから。」

そう言いながら涙ぐむみあに西は「大丈夫、もう少ししたら楽になるから。後少しの

辛抱だからね。」というと小さな子供をなだめるように、やさしく頭を撫でた。

みあは不安で不安でしかたなかった。看護婦の勘なのか。



久しぶりに西が早めに帰宅した。みあはうれしくて、西の大好物を食卓に並べた。

そして、西も久しぶりにみあを縛った。台所の柱に、みあを縛りつけ、右膝を天井

から吊った。そして、みあの好きなピンクの極太バイブを、しっかりと奥に喰わせ

落ちないように固定した。

スイッチを入れると、みあは喘ぎ声をあげながら、のけぞった。立っているのが

つらいくらい感じてた。愛する人に見つめられながら、快感に喘ぐことのできる幸せ。

もっと、もっとわたしを狂わせて。

ずっと、ずっとみあのそばにいてね。みあを見つめていて。みあを感じていて。

あなたなしでは、もう生きてはいけない。

・・・官能に浸りながら、そう心で叫んでいた。



西は幸せだった。みあの姿を眺めながら、幸せで泣けてきた。どうしてか、泣けて

きた。食事を終えると、西は縄を解き、倒れこむみあを抱きしめて、熱くキスをした。

そのままふとんになだれ込み、ごくごく普通のセックスをした。

身体が一つになる幸せを、ひしひしと感じていた西だった。みあの中は天国だ・・・

そう想った。



翌朝、いつもの笑顔で出かけていった。「今日もなるべく帰るからね。」そう言いな

がら、みあの頭を撫でた。

「今日は、お鍋だよ」みあは言った。西は振り返って、軽く手を振った。

これが、二人の最後の会話になった。



午後、医院に電話が入った。西の同僚からだった。「西さんが倒れて病院に運ばれた。

急いで行って」

みあは、目の前が真っ暗になった。心配していたことがおこった。

「あの人が死んじゃう・・・」

顔面蒼白のみあの言葉に、事情を察した事務のおばさんがすぐ医師に伝え、タクシー

を呼んでくれた。

「しっかりしなさい。みあちゃん」

そう言いながらタクシーにみあを乗せた。

タクシーが病院についた。みあは、泣き顔でロビーの受付に行った。

「先ほど運ばれた西の家内ですが・・・」

職員が救急治療室に案内した。廊下には役場の同僚がいて、みあを見つけて駆け寄った。

「急に頭が痛いっていって、倒れたんだ。救急車の中で、奥さんの名前ずっと呼んでた・・・」

みあは、すぐ何が起こったのか察した。脳内出血を起こしたんだ。血圧が高かったから。

悲しいかな、看護婦ゆえん、西に起こる悲しい結果が見えてしまった。

もう、立っていられない。でも、すぐにあの人に会わなくては、早く会わなくては。

みあが治療室のドアを開けた。

「西の家内です。夫に会わせてください」

叫んだ。

中の看護婦がすぐにみあの手を引いて、診療台のそばに連れて行った。

医師が西に心マッサージをしていた。西の顔は、真っ青で生気がなかった。

「あなたぁ!」

そう叫んで、点滴につながれている西の手をとった。

「死んじゃぁダメェ!死んだら許さない。・・・みあをおいていかないで!お願い!

死なないで・・・」

一瞬、西の手に力が入った気がした。

「あなた!」

モニターの心拍数が0を示していた。西は最後の力を振り絞って、みあの手を握り返したのか。

「午後3時5分でした。力及ばず申し訳ありません」若い医師が、そう言うと頭を下げた。

「やだ、やだ・・・ダメだよ。死んじゃダメだよ。起きてよ、起きてよ。帰ろうよ。ねぇ、帰ろ。・・・」

「西さん、どうして・・・」同僚と上司が、青い顔で近寄った。

西に抱きつき、一生懸命起こそうとするみあがいた。「帰ろう、いっしょに帰ろう」

誰も何も言えなかった。



周りが、西の葬式の準備に追われている間、みあは西に抱きついたままだった。

何も言わず、ただ布団の上から、西に抱きついたまま、じっと動かなかった。

まるで魂が抜けたように。

あまりに痛々しく、誰も声をかけることができないほどだった。

それでも、お通夜のご焼香の間は、みあの母親に説得されて離れていたが、

皆が帰ると、今度は西のふとんに入り、仏に添い寝した。

家族は、「最後の夜だから・・・」と好きにさせた。



冷たくなった西の身体に抱きつき、みあは言った。

「楽しかったよね。覚えてる?いっしょにSLに乗ってさ、お花見したよね。駅のすぐ

したの川原で石投げしたでしょ。

みあのほうが上手だったよね。・・・今度のみあの誕生日、いっしょに北海道に行こうって

言ったよね。みあを連れていきたいって。」

「ねえ、あなた。わたしたち、ずっといっしょだよね。これからも、ずっといっしょだよ。

だって、みあ、一人じゃ生きていけないもん。

あなたといっしょでなくっちゃいやだもん。ちょっと天国に行くの、待っててね。

すぐ、そばに行くから、ね!」

冷たくなった西に、みあは一晩中話し掛けていた。まるで、昨日の夜のように。









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