愛 奴 み あ




第6章  目醒めの時・・・1

未亡人みあは、人肌が恋しかった。

あの時、レイプの如く工事人に無理矢理犯されたのに、

熱い肉棒に貫かれた瞬間、何かがはじけて、狂おしいほどの欲求が全身を駆け巡った。

その後のことは、みあはあまり記憶になかった。

官能に狂った牝の状態の時は、きっと脳の奥の、性の本能を司る部分しか働いていな

いのだろう。



工事人は、犯したつもりだったのに、気が付くと自分がみあの肉体の虜になっていた。

みあの真っ赤な肉壁は、まるで生きもののように肉棒に絡みつき吸い付く。

そして真綿で締めるようにグッと肉棒を熱い粘膜で締め付けるのだ。

話には聞いたことはあったが、これが名器というものか。

工事人はこんな形であっても、みあという女を抱けたことを感謝し、思いっきり堪能した。

みあの獣のような喘ぎ声、果てしなく続く欲求に身をよじらす姿・・・こんな身体を

もちながら

死んだ夫に操をたてて、禁欲の日々を過ごしてきたなんて。

そんなみあを、工事人は切ないほどいじらしく、愛しく感じられた。

「俺が、だんなから解放してやる」そんな身勝手な使命感さえ胸の奥からわきあがってきた。



二人は時を忘れて求め合った。

いったいどれくらいの時間が過ぎたのだろう。

身体も心も満たされ、深い眠りに陥ったみあを布団に残し、工事人はそっと家を出た。

朝日がまぶしかった。大きく背伸びをすると、いい気分で仕事場に向かって歩き出した。

少し歩いて、くるっと後ろを振り向き、みあの眠る家をもう一度見た。

「俺の女にする」そうつぶやいた。





第6章    目醒め・・・2



みあが深い眠りから目を覚ましたのは、工事人が家を出て、二日後の朝だった。

不思議なくらい身体が軽く感じられた。まるで重い殻を一つ脱ぎすてたような。

新聞の日付を見てみあは驚いた。日曜日だと思っていたら月曜日なのだ。

どうして?なんで?と思いながらも、時間が気になり急いで仕事に行く支度をすると

パンを一つ喉に押し込み、家を出た。

家の前の道路工事は終わっていた。きれいに片付いた現場を見て、みあは何か胸がド

キッとした。

しかし、すぐに車を運転すると、それは消えた。



勤め先の医院のロッカーで白衣に着替えた時、愕然とした。

ロッカーの鏡に映ったみあの胸元には無数の赤紫の痣があった。

自分の目で、あらためて身体全体を見てみると、首筋から胸元、二の腕、腹部から

太ももまで赤紫の痣が点在していた。

みあは焦った。これってどう見たってキス・マーク。でもどうして?何があったの?

混乱する頭で、必死で考えていたその時、他の職員の声がきこえた。

「いけない、この痣をみられてしまう」

みあは、急いで首筋が隠れるスタンドカラーの白衣を着て、腕が見えないようにカー

ディガンをはおい、そして、厚手の白ストッキングを履いた。

「おはよう!」と元気にロッカーに入ってきた同僚を避けるように、みあは急いで部屋を出た。



その日は、仕事をしながらも心ここにあらず・・のみあだった。

必死で土曜日の夜のことを思い出していた。誰かが来たような気がする・・・誰だった?

暗室の中で、レントゲンフィルムを整理していると、若先生が入ってきた。

「田中さんの写真、ある?」

と聞かれて、急いでフィルムの山をチェックするみあの背後から、若先生の手が伸びた。

「もう、2年だな。・・・そろそろ恋しいんじゃないか?ん?」

そう耳元で囁きながら、みあを抱きしめ白衣の上から執拗に撫で回した。耳にキスを

された瞬間・・・

「あっ!あの人だっ」土曜日の訪問者の顔が脳裏に浮かんだ。


   第6章   目醒めの時・・・3


土曜日の夕方、みあは居間の蛍光灯が切れたため、必死で交換していた。

背の低いみあは、椅子にのって背伸びをしても、なかなか天井の蛍光灯には手が届き

にくかった。

「本当にもう!」とイラついているときに、玄関のチャイムが鳴った。

慌てて椅子から降りようとして、みあは足を滑らせて落ちてしまった。

ドターンッという大きな音に玄関の客は、「ちょっと失礼します!」と言って

居間に飛び込んできた。

「大丈夫ですか?」と声をかけながら、みあの身体を起こした。

「アッ、ハイ!・・・あの〜・・・?」何か聞きたげにみあは見つめた。

「勝手に上がってきてしまってすみません。大きな音がしたのでびっくりして・・・

 あの、工事終了のご挨拶に伺いましたぁ。」

長身の真っ黒に日焼けした工事人が、人懐っこい顔をして立って言った。

「そうですかぁ、ご苦労様でした。驚かせちゃってごめんなさいね。」

みあは居間のソファに座りながら、ため息をついた。

「あのぉ、蛍光灯の交換ですか。良かったら、僕がやりましょうか?」

瞬間、みあは、うれしそうにニコっとした。

「本当にいいんですか、お願いして。・・・どうしても私では手が届かなくて」

工事人は、返事より早く椅子にのって交換を始めた。

「新しい管をください。・・・・ハイ、おしまい」

みあがあれだけ苦労した交換が、あっという間に終わってしまった。

男手のありがたさを、しみじみ感じたみあだった。

「ありがとうございました。本当に助かりました。よかったらお茶でも飲んでいって

ください」

そういうと、台所でコーヒーメーカーにスイッチを入れた。

二人分のコーヒーを入れるのは久しぶりなのに、スプーンの量の感覚は覚えていた。

なんだか心がウキウキした。

「すみません。かえってお手数かけて・・・」工事人がすまなそうに言った。

「そんなことないですよぉ。・・・私のいれたコーヒー、けっこうおいしいんですよ」

明るいみあの声がかえってきた。

工事人は、ソファに座ったまま、周りを見まわした。

テレビの上に、額に入った男女の写真があった。立ち上がり手にとって、じっと見た。

幸せそうに笑ったみあとやさしそうな笑顔の中年男性が写っていた。

「それね、主人とわたしなの」コーヒーをカップに注ぎながら、みあが照れくさそう

に言った。

「やさしそうなご主人ですね。」写真を戻し、ソファに腰掛けた。

みあが運んだコーヒーをすすりながら、近所の奥さんの話を思い出していた。

「あの家は、一人暮らしだから昼間いないわよ。2年前だったかな、だんなさんが亡

くなったのは」

どこにでもいるおしゃべり好きのおばさんが、聞かないことまで色々話してくれた。

「うん、すごくやさしくて素敵な人よ。」明るくみあが答えた。

「あの、こんなこと突然聞いて失礼なこととはわかっているんですが、・・・一人暮

らし寂しくないですか?

 その〜変な意味じゃなくて・・・困ることも多いかな〜って」

自分で質問して、ちょっと困った顔をしている工事人がなんだか可笑しくて、みあは

笑った。

「知っているのね。・・・う〜ん、寂しくないって言ったらうそになるけれど、夫は

いつもそばにいるから・・・。

幽霊っていう意味じゃないのよ!フフフッ ・・・いつでも夫を感じることがわたし

にはできるから、一人でも大丈夫なの。

それだけで、充分幸せ」みあは意味ありげに笑った。

工事人には全く理解できなかった。

死んだ夫を感じられるから幸せ?なんだよ、それ?

工事人の不可解な表情にみあは、言った。「信じられないって顔しているね。・・・

いいんだ、それでも」

その時、工事人はみあを抱きしめたい、っと思った。無性に抱きしめて愛撫したい、

という衝動にかられた。

どうしてだろう。みあを哀れに思ったのか、それとも、みあの言葉を身体で確かめた

いと思ったのか。




 第6章  目醒めの時・・・4


コーヒーカップを片付けようとして立ち上がったみあを、工事人は後ろから思いっきり

抱きしめた。

みあは、驚いたように手を振り払おうとしたが、日に焼けた逞しい太い腕を女の力で

振り払えようがない。

それでも、身体をよじって抵抗を続けるみあをひょいっと抱えて、工事人は奥の部屋

に行った。

「やめてください。大きな声出しますよ!いやー!」手足を大きくバタつかせたが、

工事人はびくともしない。

寝室のベッドにみあを下ろすと、工事人は言った。

「死んだやつにあんたを幸せにすることなんかできないんだよ。あんたに必要なのは

生の男だよ」

「ちがう!わたしにはあの人しかいないの。あの人でなくちゃだめなのぉ・・・あな

たにはわからない・・」泣き声になっていた。

しかし、みあはもう抵抗しなかった。

女の一人暮らしの家にどんな理由であれ男性をあげてしまった自分の無警戒さが悪い

のだから。

騒いだところで、周囲の人は、みあが工事人を連れ込んだ・・・と思うに決まってる。

いつもそういう好奇心の目で見られているのだから。



工事人は、みあの服を一気に剥ぎ取った。

目の前に横たわるみあの肢体、・・・ふりそそぐ青白い月明かりは、この世のものと

は思えないほどの妖艶さを醸し出した。

工事人も、すばやく衣服を脱いだ。

一糸まとわぬその姿にみあは、息を呑んだ。

鍛えられた肉体は、まるで芸術のような美しさだった。みあは、こんな美しいものを

知らない。

これが「男の肉体」なんだ・・・無意識にみあの両腕が工事人を誘うように伸びた。



工事人は、その腕に誘われるようにみあの肌に触れた瞬間、匂うような色気に頭がク

ラクラした。

女を抱いたのは初めてじゃない。いや、むしろ経験は多いほうだと自分でも思っていた。

しかし、こんなにも胸が熱く切なく女を求めるのは、初めてだった。

静かに二人は唇を重ねた。汗と埃のにおいが、みあの性感を刺激した。

熱く絡みつく舌と舌、お互いをまさぐる手と手。

みあの身体の力がスーとぬけて、かわりに全身が性感帯と化した。

頭の先から足の指の先まで、工事人は、ゆっくりとやさしく舌を這わせていった。

みあは、全身を震わせながら、身体の奥から湧き上がる切ない快感を感じていた。

思いっきり声を上げたい・・・そんな欲求が突き上げてくる。

それでも、まだ、みあには快感に身を任せるにわずかな抵抗があった。

「ううぅぅ〜 はあぁ〜」

声を押し殺すような喘ぎ声。せめてものみあの抵抗だった。

しかし、その声は、男を狂わせる。もっと、もっと悶えさせたくなる。狂わせたくなる。

ツンと起った乳首を抓むと、みあの腰がビクンッと動き出す。引っぱりながら強く捻

ると、「ううぅぅ〜」と唸りながら

腰を激しく振りだす。指を割れ目に滑らせると、中はすでに熱くドロドロにとけていた。

奥から愛液がどんどん溢れてくる。茂みに顔をうずめ、溢れる愛液をすすりながら

充血して膨らんだクリトリスを軽く噛んだ。「ああぁぁ〜」と仰け反りながら、身体

を震わせた。

工事人の太い指が2本、みあの熱いオマンコの中を激しく掻き混ぜ、Gスポットをグイ

グイと刺激した。

みあは、身体の奥から全身に電気が走り駆け巡っているような気持ちがした。

止められない・・・もう止めたくない。そう思ったら、、工事人の腕にしがみつき

自分から腰を激しく動かし奥へ奥へと指を招き入れる。指が中で動くたびに嗚咽がもれ

しなやかな身体が、ビクンッビクンッと飛び跳ねる。

身体の奥から何かが「もっと、もっと」と切なく求めてくる。抑えられない欲求の波。

懐かしい感覚だった。みあの目じりに涙が一筋流れ落ちた。



工事人は、自分の愛撫に狂うみあを思いっきり突き上げ犯したいと激しく思った。

「生きた男だよ。あんたが欲しがっているのは!」

そう言うと、大きく熱く硬くそそりあがった肉棒を、一気にみあのオマンコに突き刺した。

「ううぅぅ〜はあ〜」

とみあの身体が跳ねるように仰け反り、ヒクッヒクッと痙攣を繰り返した。

「あ・な・た〜」

その瞬間から、みあの記憶は途切れた。





  第6章  目醒めの時・・・5



暗室で若先生に後ろから抱きしめられ、みあは思い出した、土曜日の夜の情事を。

身体中の痣の理由を。

「先生、田中さんが待っているんじゃないんですか!」とみあが言うと

「ちぇっ。また後でね」とレントゲン写真を持って部屋から出て行った。

みあにとって、若先生のセクハラは今に始まったことではなく、あしらい方も心得ていた。

それより、工事人は、あの後どこへ行ってしまったのか。

レイプ同然だったにもかかわらず、みあは工事人の行方を気にした。

怒りや憎しみはなく、むしろ愛情に似た気持ちが生まれていた。

たった一回の情事なのに。

何をどんなふうに抱かれていたのかは覚えていないのに

不思議と、みあを抱いている間の工事人のまなざしは、覚えていた。

みあは、官能に浸りながら、みあを愛しそうに見つめる眼差しを心地よく感じていた。

懐かしい温かさを感じていた。



みあが目覚めた時、彼がいた痕跡は、テーブルの上の二つのコーヒーカップだけだった。

長い一日を終えて、家の玄関を上がったとき、電話が鳴った。

「もしもし、俺だけど・・・わかる?」みあの顔がパッと明るくなった。

「うん、うん、わかるよ。・・・土曜日はありがとう。」

「ははは・・・ありがとう、か。そんなふうに言われると困ったな。怒ってないの?」

「怒ってなんかいないよ。わたしね、今朝、目が覚めたとき、すごく身体も気持ちも

軽くなった気がしたの。

 きっと、主人を失ってから知らず知らずのうちに、心に殻を作っていたのかな。。

そんな気がする。」

「・・・よかった。・・・また、逢いたいって言ったら逢ってくれるかい?」

「もちろん。・・・わたしも逢いたい。」

「今、新しい現場に行っていて、ちょっと遠いんだ。俺からそっちへ行くのは、

ちょっと休みが取れなくて

無理なんだけど、もし良かったら、時間があるときに、こっちに来てくれないかい?」

「行くよ。どこだって行くよ。」

みあの心は、既に工事人のところに飛んでいた。

こんな気持ちになるなんて・・・みあ自身が信じられなかった。

夫の遺した言葉を思い出した。「生きなさい」

人は一人では生きられない。いっしょに生きる人を見つけなさい。

そういう意味だったのだろうか。

それでも・・・いつも、何時のときも、あの人は私を見ている。空の上から、熱い眼

差しで・・・。

今、みあは、やっと自分が「生きている」、という実感を得ることができた。

胸が熱くときめいていた。

・・・夫の死から2年が過ぎた春だった。









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