和製クレオパトラ。
そう呼ばれた沙希の美貌は、35を過ぎても尚輝いていた。中年にさしかかり、
より脂ののった沙希の体からは高貴な色香が漂っている。
円城寺家に生を受けた沙希は伯爵家令嬢として何不自由なく育ったが、
円城寺家の内情は火の車だった。明治から大正にかけ、栄華を誇ったが、
二度の事業の失敗、第一次大戦期の新興成金の台頭により、斜陽を
辿っていた。
18才で山縣家に嫁いだ沙希はそんな円城寺家の財政を救うため、
商魂逞しい山縣家とのいわば政略結婚の犠牲になったといえる。
沙希を待っていたのは親子ほど年の離れた夫、山縣昭夫だった。
山縣は、長野の貧しい農家の生まれであることにコンプレックスを
抱いており、沙希との間に血統の良い後継ぎを作ろうと毎晩のように挑み、
白くほっそりとした沙希の身体を蹂躙した。
だが、いっこうに妊娠の兆しを見せない沙希を石女と思い、外に妾を囲い、
子供を産ませていた。だが養育費を払っても、山縣の籍にいれることは
なかった。
嫁いでから19年、終戦の年に沙希の懐妊が発覚した。その時の山縣の
喜びようは凄いものだった。終戦直後の物のない時代にどこから持って
きたのか、疎開先の山縣の実家に牛肉や白米を運び込み、盛大なパーティーを
催したほどだった。
事業に成功すると山縣は真っ先に、故郷の小さな農村に瀟洒な洋館を建築した。
戦時中、沙希はそこで過ごし、妊娠後も混乱の極みにある東京よりは、静かな
地方の方が体に良いということで、長野の洋館に留まっていた。
何で稼いでいるのかわからなかったが、山縣は沙希のために東京からありあまる
食料を送ってきた。山縣が去って後、円城寺家時代から沙希の乳母を務めていた
佳代と呼ばれる60近い老女が沙希の身の回りの世話を焼いていた。
山縣家で唯一沙希が気を許せる相手だった。当時、36才での妊娠は高齢出産で、
危険とされていた。沙希もつわりがひどく、妊娠初期はほとんどおかゆしか
受け付けなかった。
その後の経過は順調で、沙希の体は臨月の妊婦のそれになっていた。
どれだけ、腹部がせり出しても、沙希は洋服を嫌がり、和服をきっちりと着込んだ。
妊婦には辛いだろうと、楽な服をどれだけ佳代が進めても、沙希はたっぷりとした
漆黒の髪を結い上げ、清楚な和服に袖を通した。
“沙希様、今日は良いお天気で。もう、春でございますねぇ。今日は若草色の
お着物になさってはいかがですか?”
“そうねぇ、そうしましょうか。佳代、着付けを手伝って頂戴。”
“さぁ、あまり帯を締め付けると赤ちゃんに良くありませんから、本当はお洋服に
なさっていただきたいんですけれど”
突き出た腹を抱えての和服の着付けはやはり難儀だった。
“佳代、今日はなんだか気分が良いから、少しお散歩にでも行きましょう。”
肥大する腹部を気にして、妊婦の体型になってからは、外出を控えるように
していた沙希だったが、体のことを考え、時折近所を散歩していた。
村人は沙希を見ては天女様と囁いていた。
屋敷の外に出ると、春の香りが鼻腔をくすぐった。
“お気をつけあそばせ。もうすぐお産を控えておいでなんですから。”
“えぇ、わかったわ。”
沙希は腹部を突き出し、ゆっくりと歩き出した。やはりデップリとした臨月の
腹は重いのか、両手で腹部を押えている。どんなに醜く腹部が突き出しても、
沙希は美しく、清楚だった。
佳代はそんな沙希の後ろを満足げに歩いていた。
沙希は路傍の石に腰をおろし、腹部を愛しそうにさする。
“沙希様、そろそろお帰りになったほうが。あまり動かれてはお体にさわりますよ。”
“はいはい。佳代は心配症ねぇ。”
上品な笑い声だった。白い小さな顔に切れ長で澄んだ瞳、すっとした鼻筋、
女の色香を漂わせた唇。どこから見ても完璧な女だった。政略結婚ではあったが、
山縣はそんな沙希に心底惚れ込んでいた。
“さぁ、戻りましょうか。”
優しい春の風が沙希の頬をなでる。
“沙希様、少しお休みにならないと。今、お茶を入れてまいります。”
“そうね、お願い。少し横になります。”
やはり臨月の体にはこたえたのか、沙希は2階の自分専用の部屋へと向かった。
沙希と結婚後、山縣が沙希のために特別に改築した沙希専用の部屋は、リビングと寝室が
備え付けられ、リビングの扉を開けると寝室になっていた。寝室にはキングサイズの
天蓋つきのベッドとドレッサーが置かれ、山縣が不在の時、沙希はいつもこの寝室で
眠っていた。ベッドもドレッサーも山縣が沙希のために西欧から取り寄せたもので、沙希は
ここで出産に臨む事になっている。
“沙希様っ!”
佳代は緑茶と干菓子をのせたお盆を取り落とし、階段の途中でうつぶせになっている
沙希に駆け寄った。
“か、佳代。いよいよだわ”
苦しげに肩で息をしながら、沙希が答える。
“さ、二階へ”
“その前に、厠へ連れて行って頂戴”
腹部の張りとともに沙希は強烈な尿意と便意を覚えていた。出産前の胎児が下腹部を
圧迫しているのだろう。
佳代に肩を担がれ、離れの厠へ向かう。その間も、沙希は苦しそうに肩で息をし、
途中、途中で休みながらようやくたどり着いた。
“沙希様、出産の準備をしてまいります。ご辛抱くださいませよ。何かあったら、この鈴を
鳴らしてくださいまし。”
自室のリビングのソファーに横たえられた沙希は、腹部をなでながら頷いた。
台所では佳代がきびきびと出産の準備に取り掛かっていた。
“はぁぁぁ…….。”
寝室から沙希の苦しい息遣いが聞こえる。額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
佳代は寝室の雨戸を閉め、ベッドのシーツを剥ぎ、出産用のビニールシートを敷き、
その上からシーツを被せる。天蓋からは二本の縄を吊り下げ、沙希がいきむときに
つかまれるようにした。
“うっ、うはぁ”
その間も沙希は腹を抱え、短い呻き声をあげている。
“沙希様、お召し物を”
帯締めをとき、着物を脱がしにかかる。白い長襦袢に巨大な腹が浮かぶ。
ベッドに横たえられ、深い溜息を漏らす。
“沙希様、今のうちに何か召し上がっておかれないと。今、握り飯を作ってまいりますよ。”
“か、佳代。食べられそうにないわ。”
“お子様のためでございますよ。”
沙希は下腹部に断続的に起こる痛みに顔をゆがめる。
“さ、お召しがり下さいまし。”
沙希は少しずつ、握り飯を口にしていった。
産気づいてから、2,3時間は鈍い痛みが、下腹部に広がるような間隔が続いた。
沙希は不安になりながらも、痛みをやり過ごしていた。
“沙希様、お腹の具合を見させていただきますね。”
腹部に慎重に手をあてる。襦袢の上からでも、腹部が硬く張っているのがわかった。
そろそろ本格的な陣痛が始まるだろうということがわかった。乳房も張りを増し、
盛り上がっている。
“んくぅっ。あぁぁぁー”
沙希の口から悲鳴が漏れた。だがすぐに痛みの波は引き、沙希ははぁはぁと
呼吸を整える。
暫くすると、再び痛みの波が打ち寄せる。少し大きなうねりとなって。
“んんうううぅぅっ。あ、あはぁ、あうううぅぅぅっ”
はぁはぁ、はぁはぁ。枕の端をつかみ、痛みに耐える。痛みは徐々に増し、陣痛の
間隔も徐々に短くなっていった。沙希が陣痛のリズムになれようとしても、波は
沙希が思うよりも早く、腹部に打ち付け、長く留まった。
“ああぁぁ。ひぁああああ。おおーーー。あうううううぅぅぅっ。あ、はぁぁぁ、”
深夜から、沙希の陣痛はいっそう激しさを増した。ヘソから下がこれ以上は無理、
というくらい硬く張っていた。
“うああぁぁぁーーー。ひぃいいいいいいーーーっ。
あ〜〜うう、んっくっふぅううーー”
しっかと、枕の端をつかみ、首を左右に激しく振り、下腹部を貫く激痛に耐える。
はだけた襦袢からみえるふくらはぎが艶かしく震えていた。
佳代が沙希の股間をまさぐる。下腹が張るだけで、子宮口は陣痛の強さの割には
拡大が遅かった。
“ああぁぁっ。ああぁぁっ。う、うぷっ”
沙希の口から黄褐色のものが飛び出した。
“うぐ、おげげげぇぇええええっ。げぇーーー”
大きく育った胎児に胃が圧迫され、昼過ぎに食べた物が一挙に逆流する。
“あぁ、は、はぁ、はぁ、はぁ……“
佳代がシーツに飛び散る吐寫物を片付け、沙希の口元を拭う。荒い息遣い。
苦悶に眉をしかめ、激痛に耐える沙希の頬は紅潮し、熟女の色気を漂わせていた。
陣痛は嵐の高波となって沙希に襲い掛かる。
“おうううぅぅぅーーー。ああっ、あぎゃああああああーーーーー。
腹を抱え転がり、シーツをつかみ、のけぞる。乱れた布団の上で首を激しく
左右に振る。
結い上げられた髪は、ほつれ、乱れた髪が頬や額にへばりついている。
陽の光が閉ざされ、ランプと蝋燭の炎が照らし出す室内に沙希の絶叫だけが
響き渡る。
時の流れに見放されように蝋燭の炎だけが妖しくゆれる。時折、雨戸がガタガタと
音を立てた。
春一番が吹き荒れる屋外は既に夕闇に包まれようとしていた。
険しい表情で佳代が沙希の股間に指を挿入する。
“沙希様、子宮口が開いてきましたよ。もう少しのご辛抱ですよ。”
棍棒を局部から下腹部に串刺しにされ、グリグリと内臓を押しつぶされるような激痛が
腹から背中に取り付いているようだった。
陣痛の間隔は既になく、沙希は激痛の塊と化していた。
“ぎゃぁぁあああああっ。あああああぁぁーーー、うぉおおおおおお
おーーーーーーっ、ああっ、あああああぁ、はっ、あ、ああ、い、い、たっ、
あうええええーーーーーーーー”
長い絶叫と荒い息遣いが繰り返される。子宮の収縮は容赦なく骨盤を押し広げる。
腰骨が砕けそうな気がした。大きな鉛玉が腹の中に居座り、下腹部を砕こうと
しているようだ。収縮は止むことなく繰り返され、激痛となって沙希を翻弄する。
今までの陣痛が前戯だったのではないだろうかと思うような壮絶な痛みが
下腹部に走った。
“あぎゃああああああああああああああ。あああ〜〜〜。おうううう
うーーーーーーーーーーー、ひぐうあああああああああああ
あ〜っ、ああああっ、あああああーーーっ”
開いては閉じを繰り返していた子宮口が、大きく拡大していく。内臓が引きちぎられる
ようだ。
“耐えてくださりませぇ、沙希様、耐えて下さりませぇ”
佳代が祈りのように激励の言葉を繰り返す。
両足を大きく開き、股間を突き出すようにのけぞるが、激痛みが治まることはない。
襦袢の裾は乱れ、局部から黒い茂みが垣間見える。はだけた胸からは、張り切った
血管の浮き出た白い乳房が零れ落ちる。黒く変色した乳輪の先にツンと突き立った
乳首は勃起し、乳汁を搾り出していた。
“ああ〜〜、ああ〜〜”
苦悶の表情に顔をゆがめ、苦しそうに息を荒げる。
それまで硬直し、張り詰めるだけだった下腹部が異様な盛り上がりを見せた。
腹の中で鉛玉が激しく動く。下腹の盛り上がりとともに激烈な痛みが沙希を襲う。
絶叫が咆哮に変わる。盛り上がった下腹部は、すぐに元に戻り、硬直する。局部から、
粘液がボタボタと滴り落ちる。盛り上がり、元に戻る。繰り返される咆哮と絶叫。
大きなベッドの上を転がりまわる沙希。既に沙希の出産は2日目も半ばを過ぎようと
していた。
ヘソから下が異様な盛り上がりを見せ、そのままさらに大きく盛り上がった。激痛が
沙希を貫く。天蓋からぶら下げられたヒモをつかみ、えびぞりになる。
デップリとした臀部がグイと持ち上がり、股間が丸出しとなった。あごを突き出し、
大きく見開かれた瞳には地獄が映し出されている。
“あぎゃああああああああああああああああああっ。あああ
あああああーーーーーー
むおおおおおっ。ぎょえええええええーーーーーーーーーっ“
壮絶な咆哮とともに股間から大量の羊水が放出され、シーツをしとどに濡らした。
局部の黒い茂みは羊水で濡れそぼり、黒光りした藻のようにヴァギナにへばりつく。
“破水しましたよ。もう少し。”
ああ〜、はぁ〜、はぁ〜。あは〜。手足をぐたりと四方に投げ出し、必死で呼吸を
整える沙希。激痛に美しかった顔はゆがみ、やつれ果てていた。
佳代はぐたりとした沙希を起こし、排便をするようにベッドのうえにしゃがませる。
“沙希様、後少しですよ。おきばりなさいませ。”
沙希の振るえる両手をそれぞれ天蓋から吊るされた二本のヒモにつかまらせた。
“これにつかまって、うんとおきばりなさりませ。”
肩を大きくゆらし、はぁはぁと苦しげに呼吸する沙希の顔を手ぬぐいで拭う。
全身汗まみれの沙希の体は、襦袢に張り付き、黒々とした乳輪が透けて見えた。
はだけた胸元から片方の乳房は完全に飛び出ている。佳代は汗と羊水で濡れきった
裾を腰まで捲り上げ、娩出の体勢を取らせる。
巨大に膨らんだ腹部に押し出されるように醜く後ろに突き出、デップリと変形した
沙希の臀部があらわになった。子宮口とヴァギナの拡大とともに肛門も押し開かれて
いた。腰が砕かれそうだった。
破水とともに沙希は激しいいきみの衝動にかられた。
“んんんぐううっ、はぁっはぁっ。んんんーーん、んぐぐううううーーーーっ”
せり出した下腹部は硬く、異物があることがわかる。胎児だ。低い唸り声をあげ、
下腹部に留まり、動こうとしない胎児をひり出そうと、必死にいきむ。必死のいきみにも
関わらず、胎児はがんとして動こうとしない。
“んぐぐーーー、はぁはぁっ、うぐうううううーーーー。”
肛門から排泄物が滲み、臀部の周りを汚した。佳代が濡らして手ぬぐいで綺麗に
ふき取る。
“その調子ですよ。きばりなされー”
沙希の口にいきみようの細く小さな丸太のようなものが噛まされた。
“ううっ、んんっ、んはんはんはっ、んんんーーーーーーーっ。”
“うんんっっっ”
下腹部の異物がゆっくりと下に移動し、股間のあたりまで盛り上がった。
“んぐぐぐっ、うぐうううっ”
胎児は産道の入り口で止まり、骨盤が砕かれそうな痛みが襲う。両手のヒモを
握りしいめ、激痛と戦いながら沙希はいきんだ。天蓋がきしむ。胎児が拡大した
子宮口をさらに押し広げて産道へと進もうとする。激痛。燃え盛る松明を局部に
ねじ入れられているような壮絶な苦しみが沙希を打ちひした。
“うぎゃあああああああっ、うぐぐぐぐっおおおおおおおおおっ”
いきもうとするが激痛に押し流され、咆哮をあげる。首を前後左右に振り、無我夢中で
絶叫をあげる。佳代が放り出された轡を再び噛ませる。
“もっと、きばって、もっと”
うはうはうはっ、肩で大きく呼吸しながら沙希は次のいきみに備えた。
“んっぐっ、んんぐんんっぐっうぐぐぐうううーーーー。”
骨盤を砕くかのように必死にいきむ。メリメリ、子宮口の肉片が潰されるような激痛。
“んんんーーーっ、ううんっーーーっぐっーーー”
胎児が産道を降りてくるのがわかった。
“頭がみえましたよ。”
既に3日目の夜が明けようとしていた。胎児は日の出を待っていたかのように
沙希の産道をゆっくりと降り始めた。
“ふうううんっ、はっ、ぐふっ、んんーー、ぐぐっ”
股間に胎児の頭が見えては消える。額に青筋をたて、沙希はいきみ続けた。
茂みからポタリと水滴が落ちる、ヴァギナにねっとりとした血が滲んでいた。
股間が盛り上がる。胎児の頭が押しでようと、いびつに開いた局部に留まった。
“んんっぐううっ。…..うっ。んんんーーーーっ、んはんはんはっ、
んんっどぅうううう、はぁはぁ、”
局部は瘤状に隆起し、胎児が押しでようとする。大きく開いた穴は頭部で押し広げられ、
会陰がちぎれそうになる。
“んんっ、うぐうううっ、ううーーーんっぐぐっ、んぐああーーーっ”
メリメリと会陰がちぎれ、ポタポタと鮮血がたれ、シーツを赤く染めた。
“ううんっ、うおおぉっ、ああっ、あっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、あっ、あっ”
股間からヌルリと胎児の頭が出た。
“きばらないで、大きく息をしてっ”
佳代が胎児の頭を押えながら、腰をさする。
“ああぁ、はっ、あうううううっ”
ヌルッ、血と粘膜にまみれた大きな胎児が沙希の股間から
滑り落ちた。
壮絶な苦闘の後に産み落とされた胎児は大きな産声をあげ、
佳代の手に抱かれていた。
肩で激しく息をする沙希は、ズンとベッドに座り込んだ。
“沙希様、大きな男の子ですよ。よく頑張られましたねぇ。”
ナイフで沙希と胎児を繋いでいるヘソのをを切り、沙希の汗まみれの胸に抱かせた。
胎児は誰に教わったわけでもなく、沙希の乳房をまさぐり、母乳を吸い始めた。
佳代が、ぐにゃりと変形した沙希の腹部を押す。鈍い痛みが下腹部に走る。
“うくっ”
無意識にいきむ。胎盤がズルリと股間から垂れ下がった。
その後、沙希は東京に戻ることなく、3年を過ごし、4年目の夏に女の子を産み落とし、
その生涯を閉じた。
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