小説・<山中の出産地獄>
泰三とその妻しのは出産に備え、産婆のいる集落に向かう途中だった。 新妻の腹部は大きくせり出し、既に臨月を迎え、いつ出産となってもおかしくない状況だった。
山の民として山野を動き回ってきたせいか、華奢ながらも足腰の鍛えられたしのは
前を行く泰三が苦しげな息遣いに振り向く。
“しの、歩けねぇのか?産まれそうか?” “だ、大丈夫だ。ま、まだだ、は、はぁ。まだ、生れねから。” “あと一山越えたら、ばっちゃま達のいる村さつくからな。”
しのは腹を抱えながら、泰三の後に続いた。 だが、華奢な腰は重く、あまりにも大きくせりだした腹部が張り詰めるような感覚は徐々にひどくなっていった。
“あ、あああ〜。うっ、あーー” しのの呻き声に驚き振り返ると、額に脂汗をかき、地面に膝を突して苦しげに肩で息をするしのの姿が見えた。
“し、しの。” “あ、うぅー。う、産まれちまう……。うっ、い、いでぇい……..” しのはそのまま腹を抱えて倒れ付した。 遠くに水の流れる音が聞こえる。
“しの、川まで頑張れ。”
泰三は陣痛に耐えかね、動くこともままならないしのを抱え、先へ進んだ。
“あ、あんた、い、いあ、歩けない。いでぇ、あ、あああああ〜。
泰三に引きづられるようにしながら足を踏み出すしのだったが、歩くたびに振動が腹に伝わり余計に痛みを増進する。
“頑張れ、しの。もう少しだ”
山の民は移動途中に産気づくと、川の傍などの平地に急ごしらえの産小屋を立てたり、雨風をしのげる洞穴などを見つけ、 泰三はしのを川べりまで引きずるようにしてしのを運んだ。
“あぁっっ。うぐぅ〜。い、いでえぇ〜あおっ。”
途中何度もしのは痛みを訴え、その度に立ち止まらなければならなかった。 普通に歩けば15分ほどの距離があまりに長く感じられた。
“しの、着いたぞ。” “おうっ、おおおお、ぐふ〜あああああーーー。” 泰三は既に歩くことも、立っていることさえ間々ならなくなったしのを川べりの洞窟に抱え込むようにして運び込み、 こらえきれなくなったように、しのは腹を抱えて身悶する。
“あんたーーーー、いーーでぇぇひぃいいいいいいいいい”
しのは泰三の腰紐を握り締め、必死の形相で痛みを訴えた。
“ちばれよぉ、しの。ちばってくれぇ”
新妻のあまりの苦しみように逃げだしたい衝動をこらえ、泰三は火をおこし、しのの腰紐を解き、 外には夕闇が迫り、薪の火がしのの張り切って、なめし皮のようになった腹部を照らし出す。
“おおおぅ、うおおおああーーーー” “あ、あんた、い、いでぇ、あ、あぁはぁあああ〜”
痛みと痛みの合間に、しのは懇願するような目で泰三に助けを求める。 まざまざとしのを見下ろすと、苦しみ悶える半裸の新妻は言いようのないなまめかしさを漂わせていた。
“しの〜、きれいだ。死んじゃなんねぇ”
泰三は自分でもわからないままに、しのの裸体にむしゃぶりつき、いきり立った男根を陰部に突き立てた。
“はああ〜〜あああつ、ひおおおああああ〜、あ、あんたぁ〜、ああああ〜“
喘ぎとも、苦悶の悲鳴とも取れる叫びがしのの口から漏れ、わずかに臀部から腰のあたりが泰三の動きに合わせるかのように上下した。
“しの…….”
泰三はしのの黒ずんだ乳首に吸い付き、青く血管の浮き出た乳房をもみしだいた。 乳首からは最初は滲むだけだった乳汁が、泰三が強くもみあげるたびに迸り出、泰三に振り注いだ。
“おぁあああっ、あ、あんたっ。や、やめーでーーー、
乳汁の噴出と共に、激痛がしのを貫き、泰三を放そうともがいた。だが、もがき苦しむしのを押さえつけ、
“うぐっ、ぎゃおあああああああああああっっ。んぐっひいぃーーーー”
体中を汗と乳汁にまみれさせ、激痛と泰三から逃れようと必死にもがくしのの口から咆哮があがり、 萎んだ泰三の男根は赤黒い血にまみれていた。しのの股間も愛液と血液の粘膜にまみれていた。
“うぎゃああーーっ、おおおおーーあああっ、あああああああああああああああああああああーーーーーーーー”
“あ、はぁ、あぁ、んんっ、ううぅは〜”
筵の上に体を横たえ悶絶を繰り返すしのだったが、わずかの陣痛の合間に体を起こし、座産の姿勢をとった。 山の民の女達は年頃になると自分の母親や姉妹の出産に立ち会う。しのもかつて見知ったやりかたで 既に夜が明け、どんよりとした曇空が重く大地を覆っていた。
“い、いでぇ〜、ああっつ、んんぐぐっっ。んぬおおおおおおおおああ、
どんよりとした空からはしとしとと雨が降り出し、地面を濡らし始めた。雨音に混じりいつ果てるとも知れないしのの絶叫があたりに響き渡る。
“ふんんぐうぎゃああああああああああああああああ
白目を剥いて咆哮するしのの口からは涎が垂れ流れ、泰三の前に剥き出しになった股間から大量の羊水が噴出した。
“んぐぎゃぁーーーーーーーーーーーー、あああああっ、
泰三は盥を放り出し、しのの元へ走り寄った。
“しのっ、大丈夫かぁ”
もはや全裸となり、筵の上で腹を抑えてのたうち回る半死半生のしのの体を抱き起こす。
“いでぇ、いでぇよぉ。ややこが、で、でねぇ“
息も絶え絶えに、しのは泰三に訴える。
“んぎぃあああああああああああああっっ。
しのは泰三の着物をしっかりと握り締め、激痛に翻弄され続けた。
“しの、もうすぐだ、しのぉ、きばれよぉ”
だが、泰三の言葉とは裏腹にそれから頑としてしののお産が先へすすむことはなくなった。 日がとっぷりと暮れ、焚き火の燃える音と、しのの絶叫だけが泰三の耳に響き渡った。 泰三がしのを後ろから抱え揚げ、腹部をぐっと押し始めた。しのの股間からどす黒い血飛沫があがり、
“ぎゃあああああああああああああああああーーーーーーーっ、
泰三は構わずに腹部を力任せに押し続けた。 絶叫が続き、とうとう断末魔の叫びがしのの口から迸る。
“んぐううううううううううぅおおおおおおお
一瞬の静寂の後、辺りに胎児の産声が響き渡った。汗と血にまみれたしのは半死半生で筵に横たえられた。
“ま、まだ……。”
虫の息でしのがつぶやく。
“は、あ、はぁ、あ、後産…….。うっ、うっぐぅ。んんーーー”
弱々しい呻き声と共に胎盤を排出したしのはよろよろと立ち上がり、泰三の沸かした湯で血まみれの 乳房からはポタポタと母乳がしたたり落ちた。 木綿の質素な布切れをふんどしの要領で下腹部に巻き付け、壁に寄りかかる。 その後しのは驚くべき速さで回復し、三日後には目指す集落へと旅立っていった。 しのはその後6人の子供をもうけたが、いずれももう諦めるほかはないと思われるような難産であった。 特に6人目の出産は40という高齢に達していたこともあり、凄まじい難産となり、産気付いてから
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