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    五、婬欲の海

 広いというより、キロ単位で遮るもののない空間である。

陰裂に大量の砂をスリこまれて、美果は狂ったような悲鳴を上げた。

だがそれは遠くで見る花火のようなスケールでしかなかった。 

鞭に追われて、美果はヨロヨロと立ち上がった。

車のライトが、波乗り道路に沿って一定の方向に流れている。

こちらを向く車は一台もなかった。もし気がついたとしても、波打ち際に

白い動物が戯れているとしか見えなかったろう。

くろぐろと濡れた夜の浜辺に、傷だらけの人魚がよろめいている。

波から逃れようとすると突き飛ばされ、蹲ると鞭が鳴った。美果は次第に

波打ち際に追い詰められていった。

 ドォンと崩れた波が、足もとまで寄せて飛沫をあげた。引き込まれたら

戻るすべのない大波である。

「タッ助けて…ッ」

「おまんこを洗ってこい。なかは砂だらけだぜ」

 哲彦が鎖を握ったまま言った。

「お前は俺の女だ。身体を綺麗にして出直して来いよ」

「ヒィッ」

思わず夫の名を呼びそうになったとき、次の大波がきた。避けようとして

斜めになったところを、引き波に足を浚らわれて頭から転倒した。

その上を、ザァッと潮が流れ去ってゆく。 美果は、もう起き上がることが

できなかった。満潮が近いのであろう。波は何回も倒れた美果の身体を越えた。

 わたし、いま洗われているんだわ…。

僅かに残った思考力が、美果のどこかでつぶやいていた。不思議な恍惚に

包まれて、海の水は意外にあたたかかった。

 われに返ったのは、首が曲がるほど鎖を引かれたときだ。

髪の毛まで砂にまみれて、美果は這うように暗黒の砂浜を歩いた。

ようやく拾ったのはドレスだけで、あとは下着類や靴などもどこに

いったのか見当もつかない。

車に戻ると、エンジンが掛け放しになっていた。ドアを開けると車内は

暖房がきいて、乾いた空気が暖まっていた。

「仕様がねえな、砂だらけだ」

 後部座席に押し込まれて美果はぐったりと横になった。

ガクガクと身体が揺れて、車が動き出したのがわかる。長い砂浜を

クラウンはときどき車体を傾けながら走った。

やがてスピードが滑らかになる。車内が暖かいので、美果は人心地が

ついた思いで窓の外を見た。

何時の間にか、車は波乗り道路に乗っている。もう眺望はなかった。

真っ暗な海に波頭だけが白く見えた。

対向車のライトが眼に眩しい。夜の空気を巻いて大型のトラックが

擦れ違っていった。 アア…ッ、

 思わず、うわずった声をあげた。

まだ裸なのである。シートにあるのは、クシャクシャになった

チャイナドレスだけ、靴もパンティも捨ててきてしまった。

これでは電車に乗ることもできない、それどころか、車が市街地に入ったら

どうするというのか…。

美果はあわてて乳房の砂を払った。不自由な動作でドレスを着ると、

溜まっていた砂がザラザラと素肌を掻いた。

 指で、そっとワレメをさぐってみる。

湿った砂がべったりと貼りついていた。おそらく、穴の中にも砂を

噛まされているのであろう。

「おまんこは大丈夫か?」

 運転しながら、哲彦が声をかけた。

「な、何ともありません…」

 ドキッとして、美果はワレメから指を抜いた。

「でもわたし、これじゃ家に帰れない…」

「送っていってやるよ」

 ぶっきらぼうに言って哲彦は車のスピードを上げた。

高速道路を乗り継いで千葉から逗子の近くまでほとんど一本道である。

それでも途中に渋滞があったりして、着いたのは、結局12時すぎになった。

「あの、ここなんです…」

 激しく残酷な一日だったが、こんどはいつ逢えるかと思うと降りるのがつらい。

「お疲れでしょ、良かったらコーヒー飲んでいって…」

「そうだな」

できれば、このまま泊まって欲しかった。 車を出る前に素早くあたりを

見まわすと、人通りはまったくなかった。静かな住宅地なのである。

 裸足のまま急いで門をくぐって、玄関のドアに鍵を差し込む。

「………!」

 美果は凍りついたように、その場で動かなくなった。

 家の中に灯がついている…!

 家を出たのは昼少し前である。明りがつけ放しになっている筈がなかった。

「どうした、早く開けろ」

 後ろから哲彦が急かすように言った。

 絶望的な気持で、美果は鍵をまわした。

 ドアを開けると敷石に夫の靴があった。やはり、香港に戻らなかったのだ。

「帰ってください…ッ!」

 振り向いて、美果はかすれた声で言った。「お願いッ、主人がいるんです」

 必死である。この姿で申し開きが立つ筈もないが、哲彦を巻き込みたくなかった。

「美果か…? 遅かったな」

 そのとき、奥からのっそりと茂之が顔を出した。

 とうとう来るときが来た…。しかも、それは思ったよりずっと早かったのである。

 美果は棒立ちになった。

「砂だらけなんで、ここで脱がせても構いませんか?」

 哲彦が低い声で言った。

「はあ、どうぞ…」

 美果は息を引いた。夫の返事が信じられなかった。

「裸になってみな」

 背中のファスナーをおろしながら、哲彦が言った。

「お前が別種の人間だってことを、御主人に良く見せてあげろ」

「イヤァッ」

「てめえ、俺の女だと言われたことを忘れたのかっ」

 ビリッと、縫い目がほつれる音がした。

「世話を焼かせるんじゃねえ!」

 バチッと頬を張られた。

「アッ、ぶたないで…ッ」

 震える手で、美果はドレスを脱いだ。あとは隠しようもない全裸である。

「いつも抱いてもらってたんだろ。羞ずかしがってないで、真っ直ぐ正面を

向いたらどうだ」

抵抗しても無駄であった。もういちど頬をひっぱたかれて、まだら模様に

なった無惨な裸体がさらしものになった。

「なるほど…」

 茂之が、無表情に言った。

「やっぱり、あなたにお譲りしてよかった」

 エッ…、夫の言葉が理解できなくて、美果は呆然としている。

 哲彦は、夫を知っているのだろうか…、

「御主人におまんこを見せてあげろ」

 美果は虚ろな視線で、哲彦を見上げた。

「ど、どうすれば良いの…?」

「いつものように脚をひらくんだよ!」

「ウゥゥ…」

まるで催眠術にかかったように、美果は両手で陰裂をひらいた。

砂にまみれた肉ベラが先刻よりいっそうヌメリを増している。

「ほう、酷いもんですな」

「まだハメておりませんがね、こいつはおそらく絶品でしよう」

「私とやるときは普通の女でしたが…」

 つぶやいて、茂之は思い出をたどるように言った。

「可哀相なくらい辛抱していたようでした。雑誌に告白を書いたりなんかしてね」

「銀の鈴…、ですな」

「結婚する前から、マゾだということはわかっていたんです。いろいろと

調べましたからね。まあ、こうなるまで5年もかかりましたが…」

 陰裂をひらいたまま、美果は痴呆のようにこの話を聞いていた。

「ユ、許してください…」

 僅かに膝を曲げて呻いた。

「わたし変態です、言えなかったんですッ」

「私もマゾだからね、自分の女房を誰かに犯して貰いたい」

 茂之は、どちらにともなく言った。

「マゾがマゾと結婚するんですから苦労しました。でもまあ、

これが私の歓びなんでね」

「わ、わたし離婚されるんですか…?」

「そうじゃない、お前はこの方の自由になって、やりたいことをしなさい」

 茂之は、笑いながら言った。

「今夜からお前は正式に哲彦君のものだ」

「うそ、嘘でしょう?」

「嘘だと思ったら、私の前で哲彦君に抱かれてみなさい」

 婬欲の海に溺れて、美果は男の足もとに身体を投げ出すと夢中で股を拡げた。

「やってッ、わたしを犯って下さいッ」

二人の男の眼が、非情にそれを見下ろしていた。



六、砂の拷問


 その夜、美果は玄関に鎖で繋がれたまま、眠れない一夜を過ごした。

部屋の中で、二人が何を話し合っているのか見当もつかない。

夫の茂之が毛布を与えてくれたが、それきり二度と現れなかった。

美果は、自分の犯した不貞が、こんな形で結末を迎えたことを後悔して

いるわけではなかった。恐ろしいのは、二人が目の前から消えてしまう

ことなのである。

九十九里の海岸で、哲彦にスリ込まれた浜辺の砂がまだ体内に残っていて、

指を入れると、穴の奥までジャリジャリと詰まっているようであった。

 秋の空気が冷え冷えと身体の芯まで滲みとおってくる。

それでも明け方になって、美果は寒さに震えながらウトウトと

浅い眠りに落ちた。

微かな人の気配を感じてハッと眼をあけると、眼の前で茂之が靴を

履いていた。あわてて身体を起こすと、首に巻かれた鎖が哀しい音を立てた。

「あ、あの…」

 美果はすがるように夫を見上げた。

何か言いたいのだが、詫びて良いのか、情けを求めるべきなのか、

それ以上は言葉がなかった。

「………」

無言で立ち上がると、茂之はさり気なく腕をのばして、ささくれだって

いる美果の頭を二・三回撫でた。

 そのまま玄関を出て行く後ろ姿を、美果は呆然と見送るより他になかった。

今度こそ本当に勤務先の香港に発ってしまうのであろう。これでまた、

ひと月は戻ってこないのである。

髪の毛に残った夫の感触は、決して怒っているのでも叱っているのでも

なかった。そうかと言って、もちろん愛撫でもない。それは主人が出がけに

ちょっと飼い犬の頭を撫でて行くといった、まったく感情のないやり方である。

置き去りになっても、何故か自分の家に上がることができない。

冷たい玄関に敷いた毛布の上に美果は長いこと突っ伏していた。

 哲彦が姿を見せたのは、それから一時間も経ってからのことだ。

いつの間にか、また吸い込まれるように眠っていたらしい。首の鎖りを

引かれて美果はアッとわれに返った。

「来い、身体を洗ってやる」

立ち上がる余裕もなく、引き摺られるように廊下を這って、突当たりの

バスルームに入った。使い慣れたいつもの浴室だが、まるで初めてきた

場所のような気がする。

「お、お願い」

 すくんだように、美果が立ち止まった。

「トイレに…」

すぐ隣りがトイレのドアである。昨夜からずっと排泄していないので、

下腹部の張りはもう限界にきていた。

「贅沢言うんじゃねえ!」

 突きとばされて、前のめりに洗い場の隅で丸くなった。

 ジョォォ…ッ、

薄黄色い水が、タイルに沿って流れ落ちてゆく。美果は身体中から

張りつめていた緊張が抜けてゆくような気がした。

「ひどく汚れやがったな」

ザバッとお湯を浴びせられると、冷えきった肌にしみるように熱い。

それがかえって朦朧とした神経を甦えらせてくれた。

「どうだ、この家で暮らす決心がついたか」

「えッ…?」

 一瞬、美果はその意味を理解することができなかった。

「マゾの女として飼って貰いたいのかと聞いてるんだよ!」

 もう一度頭からお湯をぶっかけて、哲彦が言った。

「亭主は、身体ごとお前を提供しても良いと言ってる」

「………」

「変態はとっくにバレてるんだぜ。お前には初めから貞操も人権もないんだ」

「は、はい…」

夫との間にどんな話し合いがあったのかわからないが、それは哲彦との

関係を続けても良いという保証である。

「わ、わたし、この家にいても良いの?」

「仕様がねえだろう。放り出すわけにもいかねえからな」

 苦笑して、哲彦は横を向いた。

 美果は、昨夜から心にかかっていた霧がいっぺんに晴れてゆくような気がした。

夫の茂之が変態だということは信じられなかったが、何よりも、哲彦が

放さないと言ってくれたことが嬉しかった。

「おまんこは自分で洗え」

 哲彦が、湯桶を美果の足もとに投げた。

「あッはい」

お湯を汲んで、陰毛の上からそっとワレメに流す。肉ベラをなぞると、

貼りついていた砂の粒が、蜘蛛の子を撒いたようにタイルに散った。

穴の中に入った砂を掻き出そうとして、おそるおそる指を入れてみたが、

粘膜に棘のように突き刺さった砂は、その程度の作業ではとうてい

出てくる筈もなかった。

「そんなんじゃ駄目だ!」

「ヒェッ」

「こっちを向いて股をひらけ」

いきなり仰向けにされて、美果は本能的に両脚を縮めた。布を引き裂くように

膝頭をひらくと、内股の深いところに昨夜の鞭の痕が斜めに痣になっている。

太腿がタイルに密着するまで開らかれて、美果は、蛙をひっくりかえしたような

恰好で眼をつぶった。

「洗ってやるから、ちょっと我慢してろ」

「はい…」

震えだすほどの恥ずかしさの奥に、奇妙な被虐の快感がブクブクと

泡立っている。

哲彦が、容赦なく陰裂に指を入れた。強引に中指と人さし指を捩じ込むと、

肉のはざまを掻くようにえぐった。

「ギャァッ」

「辛抱しろっ」

「ヤッ、やめてェ…ッ」

 美果は、狂ったような悲鳴をあげた。

「カンニンしてッ、い、痛い…ッ」

 腰を跳ねあげて、必死に苦痛から逃れようとする。

「嘘をつけ、ここは神経が一番鈍いところなんだ」

哲彦が、太腿を抱えてぐいと引き戻した。

「ウウムッ」

指を抜くと、なかから大量の砂が混じったドロリとした薄桃色の

液体が流れ出す。

「見ろよ、こんなに入ってるぜ」

牛乳瓶を洗うように、手荒くなかを掻きまわしてはお湯をかける。

まるで、火傷の跡をヤスリで擦られるような拷問である。

「ヒィッ、助けて…」

「騒ぐんじゃねえっ、もう少しだ」

ドロドロと砂を噛んだ粘液を掻き出すたびに、括約筋が激しく収縮した。

それをこじあけて四・五回繰り返すと、突然、美果が異様な呻き声を上げた。

「くうッ、くッ、くッ…」

 腹筋がヒクヒクと痙攣する。

何かの感覚が爆発して、やがてぐったりと動かなくなった。

痛さに麻痺してしまったのか、一種の放心状態である。

「このやろう、眼を覚ませ!」

髪の毛を掴んで引き起こす。ヨタヨタと立ち上がったところを思い切り

平手で叩くと、尻がバシーンと小気味良い音で鳴った。

「ヒェェ…」

「よし、あとは水洗いだ。おまんこを開けてみろ」

 よろめきながら、美果は無意識に膝を八の字にひらいた。

「そのまま、動くんじゃねえぞ」

 ビニールのホースを蛇口につないで、先端をグサリと穴に突き刺す。

そのまま水道の栓をひねると、ほんの一呼吸おいて、腹のなかから

ブワッと冷たい水が落ちてきた。

「アァッ、ウムッ」

耐えている膝がガクガクと揺れて、ともすればその場に崩れそうになる。

ボコボコと陰穴から冷水を噴き出しながら、美果は虚ろな眼で宙を睨んだ。

「ようし、少しは楽になったろう」

 溢れ出す水でクリトリスのまわりを洗いながら、哲彦が満足そうに言った。

「お前、さっきから何回イッた?」

「えッ…!」

 ドキッとして、思わず哲彦の顔を見た。

苛酷な砂洗いの中でまともにイク筈もないが、たしかに異様な爆発が

あったのである。麻薬に溺れたような感覚が、まだ身体の隅々に残っていた。

「わ、わたしイッたんですか…?」

 美果は、かすれた声で言った。

「そうさ、自分で気がつかなかったのかよ」 ホースを抜いて、頭から水を

浴びせながら哲彦が言った。

「イクのはクリトリスだけだと思ったら大間違いだぜ。身体中どこでも良いんだ」

「………」

 美果はふと、九十九里の海岸でも同じような感覚があったことを思い出す。

「マゾのおまんこは犯されるための道具なんだから、ただの猥褻物だよ」

「あぁッ、ハイ…」

 何故か、全身に火のような羞かしさがこみ上げてきた。



<つづく><もどる>