(7)




    十三、メス猫の舌


 哲彦が、パチッと鞭で尻ペタを叩いた。

「わ、わッ」 顔は泣き出しそうだが、エルは、奇妙にこの場の雰囲気に

順応していた。

 少し前かがみになって、立ったまま、赤いマニキュアの指を陰毛の奥に

挿しこむ。

「カッ、感じる…」

 指をくねらせて、ときどき腰をしゃくり上げるように前に突き出す。美果の

眼の前で、ガクガクと膝の関節が揺れた。

 エルの快感がそのまま伝わってくるような気がして、閉じた肉ベラの間に

またジワジワと淫汁が滲み出してくる。

「おい…!」

 哲彦の声で、美果はハッとわれに返った。

「あッ、はい…」

「お前、もうご主人におまんこを見てもらったのか?」

「いえ…」

「バカ野郎、久し振りに帰ってきたご主人に挨拶くらいしろ!」

「は、はい」

 背筋が寒くなるような思いで、美果は茂之のほうを向いた。

まだ硬直している夫の男根から眼をそらして、頭を下げる。

「お帰りなさい、言い遅れまして…」

「どうだ、毎日が充実して楽しいだろう」

 茂之が、別の女の性器を舐めまわしていたとは思えない落ち着いた

調子で言った。

「しばらく見ないうちに、いい女になったじゃないか。見違えたよ」

「あ、有り難うございます」

 美果は精一杯の感謝をこめて言った。

「あなたも、いい人が見つかって…」

 それは、本当の気持である。

 こうなった自分にくらべて、夫にも愛人がいるというのが、せめてもの

救いだった。

「ああ、エルちゃんのことか…」

 茂之は、ちょっと照れ臭そうに言った。

「あれも苦労して探したんだよ。少しはお前の役にもたつと思って…」

「えッ」

 私のために…?

 美果には、その意味がよく判らなかった。

 ただ、夫が今でも自分を愛しているらしいことだけは感じ取ることが

できる。九十九里の海岸で砂責めにあって戻った夜の出来事を

思い出すと、美果はふと胸が熱くなった。

「見て…、下さい」

 あのときと同じように、内股に指を添えて無毛の陰裂を左右にひらく。

 淡紅色の縦割れの線に先刻からのヌメリがべったりと滲み出していた。

膨脹したクリトリスの包皮が剥けて、内側からピンクの粒がのぞいている。

「ほう、ずいぶん興奮するようになったものだな」

 家畜の成育を確かめるように、茂之は満足げにうなずいてみせた。

「むかしはクリトリスがそんなに大きくならなかったが、哲彦君のおかげだ」

「いや、何も特別な訓練をした訳じゃありませんよ」

 エルのオナニーを監視しながら、哲彦が口を挾んだ。

「マゾの女は、独特の生殖器を持ってるんです。セックスには飢えきって

いますからね」

「アゥ…」

 美果は、思わず軽い呻き声を上げた。

「なるほど…」

 茂之が覗き込むように身を乗り出す。

「よく動いていますな。まるでべつの生き物のようだ」

 濡れた穴のまわりが磯巾着のように収縮して、一定のリズムで

卑猥な蠕動を繰り返すのである。その様子を夫に観賞されていると思うと、

クリトリスがいっそう膨らんでくるような気がした。恥かしさというより、

一種の陶酔に似た歓びである。

「ギャハッ」

 そのとき、エルが突然絞り出すような嬌声を上げた。

「イ、イキそうッ。イッても良い…?」

「ちぇっ、もう少し辛抱しろ」

 ピチッと、尻ペタで細い鞭が鳴る。

「キャンッ」

 犬のように啼いて、エルはガクガクと腰を振った。

「もう駄目ェ、イッちゃうよゥッ」

 たまりかねて、美果は軟らかい陰丘の肉を握った。痺れるような

感覚が全身に広がる。性欲はもう限界に達していた。

「ウウム…」

 自分で快感を放出しなければどうすることもできない。美果は無意識に

クリトリスに指を触れた。

 コリコリした小さな筋肉の塊りを揉みほぐすと、自然に圧し殺したような

声が出た。

「ウゥゥッ…」

 眼を上げると、すぐ横でエルが爪先立ちになって股を拡げている。

 指を二本ふかぶかと穴に突っ込んで、激しく動かしていた。

均整のとれた肉体を下から見上げる光景は、まるでギリシャ神話の

淫神のように美しく猥褻である。

「ウッ、ウウム…ッ」

 快感が、たちまち上昇する。クリトリスを摩擦する指の回転が早くなった。

「どうです、絡ませてみますか…?」

 ふたりの女のオナニーを見くらべながら、哲彦が冷静に言った。

「お任せします。良いようにやって下さい」

 痺れた感覚の片隅で、美果は幻聴のように男たちの会話を聞いていた。

「ウハッ、い、い、いくゥ」

 エルが、切羽詰まった声を上げた。腹筋が巻きあがって、ときどき

ギクシャクと痙攣する。

「ダッ駄目ェ、イッちゃうッ」

「うるせえ、静かにしろっ」

 哲彦が、いきなり茶髪を掴んでグイと手前に引いた。

「ワッ」

 危うく保っていたバランスを崩して、つんのめるように美果の上に

倒れ込む。その背中で、ヒュッと空気を切る音が聞こえた。

「ギャ…ッ」

 淫液にまみれた手で、エルが美果の乳房を握った。弾力のある

ナマナマしい肉体が夢中でしがみついてくる。

「女王様、まだ仕事が残ってるんだぜ」

 哲彦が、髪の毛をひきずるように美果の足もとに据えた。

「ナ、何をするの?」

 タタミに顔をこすりつけられて、エルは怯えた眼で哲彦を見上げた。

「お前レズも好きなんだろ。こいつのおまんこを舐めてやれ」

「エッ、こ、困りますッ」

 美果はあわてて身体を起こそうとした。いやしくも、エルは女王様である。

「わ、わたしマゾですから…」

「良いんだ。お前はどんなイキ方をするか、ご主人にぜんぶ見てもらえ」

「アァッ」

 それは、エルの性器を舐めさせられるよりはるかに淫湿な責めであった。

 茂之とは、結婚してからずっと暗い寝室で過ごしてきた。イクときの

顔を見せたことは一度もないのだ。初めて会った女にイカされる

姿をさらすのはどんな見世物になるのよりつらい。

 だが、それを実行されるより他に燃えさかる淫欲の炎から逃れる

道はないのだ。

「お坊さんのおまんこ、スゴクいい匂い…」

 エルは、もう新しい情況に順応している。無毛の陰丘に頬ずりしながら、

あえぐように言った。

「ね、イクときは一緒にいこう…!」

 表情を変えまいとして、美果は屍体のように上を向いたまま

息を止めた。ひろげた股の間に、温かくてゼリーのような感触の唇が

貼りついてきた。

 エルが自分でワレメをまさぐっているらしい微かな振動が伝わってくる。

「ウムッ」

 ピクンと腰が跳ねた。 筋肉が自然に収縮するのを止めることができない。

クリトリスを吸い込まれるたびに、脳髄に真っ赤な火柱が立った。

「ウゥゥ…」

 視線を宙に浮かして、美果はこみ上げてくる快感に耐えた。

 尿道口のあたりで、エルの舌がザラザラとうごめく。括約筋が締まると、

それを掻きわけるように穴の中まで入ってきた。布団の端を握り締めた

手が、小刻みに震える。肉ベラを痛いほど吸われて、美果は無意識に

眉をひそめた。

「うむ、いい顔をしているね」

 茂之が、美術品を観賞するような口調で言った。

「なるほど、これがマゾの恍惚というやつですか」

 美果は、虚ろな視線で夫を見上げた。


 ビュン…ッ

 するどく空気が鳴って、乳房に灼けるような感覚が走った。

「くゥゥ…ッ」

 猛烈な勢いで、子宮の奥から快感が噴き出してくる。固まっていた

神経がバラバラになって、全身が大きく波を打った。

「見てごらんなさい。こいつイキはじめますよ」

 哲彦が、残酷な宣告を下した。

 ビシッ、ビシッ…、鞭が当たるたびに夫の視線に悶えて、美果は

快楽の反応を示した。

「クワッ、いくゥ」

 突然、エルが場違いな叫び声を上げた。



    十四、小さな噴水


 細い鞭の痕がミミズ腫れになって、乳房の上に幾条も交叉している。

 美果は、まだヒクヒクと痙攣していた。

「おい、女王様」

「えッ…」

 手の甲で唇のヌメリを拭きながら、エルがびっくりしたように

顔を上げた。オナニーで10回以上イッたあと、気が遠くなったように

美果の股間で眠りかけていたらしい。

「こいつを立たせてやれ。フラフラしてるから気をつけろ」

「アッ、はい」

 胸を抱えて上半身を起こす。乳房の鞭痕を見て、エルはギョッと

手を離した。

「すいません、起きられますから…」

 おぼつかない足どりで立ち上がると、哲彦が近くにあった

新しいタオルを投げる。

「おまんこを拭いておけよ。臭くなるぜ」

「あ、私がやってあげる」

 エルが拾って、自分の陰毛を掻きわけるとゴシゴシとワレメをこすった。

それから膝立ちになって、マニキュアの指で美果の太腿をあけた。

「スゴク出してるわね。そんなに気持良かったの?」

「エ、エェ…」

「クリちゃんがでっかいんだもの。これじゃ感じる筈よ」

 指先にタオルを巻いて、内部を抉るように淫汁を拭き取る。

震えがくるほどの恥かしさだったが、美果は、何故かエルの天真爛漫な

態度が嬉しかった。どこか身内のような親しみを感じるのである。

「ありがと…」

 美果はホッと肩の力を抜いた。

「いいよ。私だって、少しはマゾッ気があるんだから…」

 エルが、いま拭いたばかりのクリトリスの先をペロッと舐めた。

「よし、済んだらこっちに連れてこい」

「はい…」

 返事はしたものの、エルは気遣うように美果の表情をうかがっている。

「あ、行きます…」

 一晩中、夫の見世物になるのだ…。

哲彦の責めが、これで終る筈はなかった。

 SMショーの舞台に上がるような気持で、美果は哲彦の前に膝をついた。

 乳房の周辺はミミズ腫れになっていたが、肝心の粘膜地帯は

まだ無傷である。

「誰が座れと言った!」

 いきなり、顔が横に曲がるほどの平手打ちがきた。

「ヒッ…」

 縛られたのは、茂之が脱ぎ捨てた寝間着の紐である。

 手首を交差して、次の間との境の鴨居に紐を通すと、吊り責めでは

ないが、いっぱいにワキ毛を露出した形になった。

 美果は、これまで読んだSMの雑誌に出てくるような専門的な

道具を使われたことがない。鞭はズボンのベルトだったり靴ベラだったり

するのだが、哲彦の手にかかると、これが魔法のように効き目のある

責め具に変わるのである。

 2メートルに足りない寝間着の紐でも、手首をくくって鴨居に結ぶには

十分な長さがあった。

「女王様、こいつでひっぱたいてみな」

 哲彦が細竹の鞭を渡した。これも下の部屋にあった古い釣竿の

先端である。

「いや…、怖い」

「ふん、それじゃお前が犠牲になるか?」

 尻込みするエルの鼻先で、哲彦がヒュッと鞭を鳴らした。

「ウェッ、やッやる…ッ」 女王様のくせに、鞭にはからきし弱いのである。

オズオズと美果の前に立って、エルは気の毒そうにムキ出しの

ワキ毛を見つめた。

「お坊さん、だいじょうぶ…?」

 首を垂れたまま、わずかにうなずく。

「いくよ…」

 ためらいがちに、エルはギコチない動作で鞭を振った。

 長髪にくびれた腰、黒のブーツでも穿かせれば抜群のプロポーションだが、

やはりまだ腰がすわっていない。

 尻を狙ったつもりが太腿に当たって、美果は反射的に片足を縮めた。

「あッ、ごめん」

「ちぇっ、こうやるんだ!」

 パーンと厳しい音がして、哲彦のベルトが巻きつく。美果の身体が

のけ反って、グルリと回転した。

「ひぇぇッ」

 悲鳴を上げたのはエルである。後ずさりしながら夢中で竹の鞭を振ると、

今度はマトモに乳房に当たった。

「いやァッ、こっちを見ないでェッ」

 闇夜に蜂を追い払うように、無茶苦茶に腕を振りまわす。ところ構わず

鞭が当たると、白い肌にピチパチと火花が散った。

 哲彦には一種のリズムがあって、筋肉が自然に反応するのだが、

エルにはそれがない。

 何のテクニックもなく叩き据えられて、美果はユラユラと揺れながら、

意識が次第に遠のいていった。膝で立つ力を失って、ほとんど

ぶら下がり状態になっている。

 ハッハッと肩で息をして、エルは呆然と立ちすくんだ。

「し、死んでないよね…?」

 美果がうっすらと眼をあけると、恐ろしいものから離れるように、

鞭を捨てて茂之の股の間に倒れ込んだ。

「お、おまんこ舐めてよゥッ」

「よしよし、なかなか良くできたよ」

 乳首をつまんで軽い刺激を与えながら、茂之が美果から眼を

離さずに言った。

「ホラ見てごらん、キレイじゃないか…」

 細い竹の鞭は、ちょっと叩いただけでも鮮やかな痕跡を残す。

細身の腹から背中にかけて、酷いミミズ腫れが網の目になって

淫美な刺青のように浮き出していた。

 哲彦が、手首の紐を解いた。そのまま崩れそうになるのを支えて、

右手だけ、もう一度しっかりと結びなおす。

 紐は、もう一本あった。美果が使っていた寝室用の赤いしごきである。

 同じ右の足首に二・三回巻きつけると、哲彦が力まかせに太腿を

かつぎ上げた。「うわッ」

 ガクンと身体が横向きになって、右手一本で鴨居にぶら下がる。

 反対側の柱の一番高いところにしごきを結ぶと、美果は部屋の真ん中で

奇妙な宙吊りになった。

 縛られているのは、僅かに二ケ所である。

 すべての体重がそこにかかって、身体を閉じることができない。

 左手を宙に泳がせてみたが、すぐにダラリと垂れ下がってしまった。

「無駄だよ、楽にしていろ」

 もがいても何の甲斐もなかった。

 すべての抵抗力を奪われて、美果は全身の力を抜いた。

苦痛と快楽は、美果にとって紙一枚の裏表である。

 粘膜が、別の生き物のように蠕動をはじめる。無防備の乳房や腹で、

哲彦の革ベルトが蛇のように躍った。

 ビシャ…ッ、

 鉈で割ったような陰裂に、容赦なくベルトの鞭が喰い込む。

「ぎぇッ」

 必死に股を閉じようとしても、片足の重さがそれを許さなかった。

肉ヒダが二つに割れて、嫌おうなしに内部の臓物を露出する。

 二度三度と、クリトリスがはじけるような衝撃を受けた。

「うぅぅ…」

 痛さを感じる神経が麻痺して、美果は再び恍惚の霧の中に

陥ちこんでいった。

 シュゥゥ…、

 そのとき、鞭の炸裂とは違う微かな音が聞こえた。

「アッ、アアッ」

 茂之の硬直した男根を握ったまま、エルが眼を見張った。

 ワレメの間から小さな噴水が吹き出して、垂れ下がった脚の内股を

伝わってこぼれ落ちている。

 思いがけない初めての失禁である。

 茂之が、エルの手を払ってゆっくりと立ち上がった。

「どうだろう、お願いがあるんだが…」

「なんです?」

「見ているとたまらなくなる。私にもう一度美果を犯らせて貰えないだろうか」

「いいですよ、ご主人が奥さんとヤルのはあたり前でしよう」

 哲彦が笑いながら言った。

「そんなこと、いちいち断る必要なんかないですよ」

「いや、君に預けた女だ。やはり許可をいただいてからでないと」

「それは構いませんがね。ほとんど感じなくなってると思いますけど…」

 縛っていた紐をほどくと、美果はもう動くことができなかった。

横抱きにしてひきずるように布団に投げ出す。茂之が脚を拡げて、

赤紫色に腫れあがった粘膜を見つめた。

「可哀相じゃない。あんたほんとにこのお坊さんとヤルの?」

 遠くで、心配そうなエルの声が聞こえた。

 まだ霧の中にいるような気がする…。

 何かに圧しつけられるように身体が重い。美果は、ぼんやりと

瞼をひらいた。

「………!」

 目の前10センチくらいのところに、性獣のような夫のクローズアップが

のしかかっていた。



<つづく><もどる>