十五、みだらまんだら
時間の経過も良くわからなかった。
哲彦が、立ったままこちらを見下ろしている。直ぐそばで、エルが半分
泣きそうな顔で覗きこんでいた。
ただ、茂之が自分を犯そうとしていることだけは歴然である。
「な、なにするの…?」
ようやく意識が戻って、美果はかすれた声で言った。
「ふふ…、どんなおまんこになったかと思ってね。味を確かめたいんだ」
「ヒッ…」
美果は思わず息を引いた。初めて見る脂ぎった夫の顔である。
「小便を洩らすほど気持ちが快かったんだろう。今までになかった
ことじゃないか…」
エッ…、
反射的に股間に手を入れて、美果は身体を硬直させた。ワレメの外側から
内股にかけて、ベッタリと濡れている。
「わ、わたし、どうかしたんですか…」
「失禁しても気がつかなかったのかね?」
言葉に詰まって、美果は呆然となった。
「エル女王様に後始末をして戴いたんだよ。お礼を言いなさい」
「いいよ、タオルで拭いたから…」
なぐさめ顔にエルが声をかける。恥かしさで身体中がカッと熱くなった。
「さっき中を見たんだが、酷く腫れあがっているな」
茂之が、追い討ちをかけるように言った。
「私はこういうおまんこが大好きでね。ぜひ犯ってみたい…」
おもむろに男根を美果の陰穴に当てる。
「や、止めてください…ッ」
ズリ上がろうとするのだが、身体が言うことをきかなかった。
「わたし、もうあの人の女なんですッ」
美果は、われを忘れて叫んだ。
「わかってる。御主人様の許可はちゃんともらっているんだよ」
有無を言わせず、夫の体重がのしかかってきた。
「お願いやめて…ッ」
穴の状態はあの晩と同じである。だが、傷の程度は今日のほうが
はるかに酷かった。
「ヒィッ」
容赦なく、茂之が太腿を抱えて腰を落とすと、腫れあがった粘膜に
肉塊が無造作に侵入した。
「うむ、これは快い」
茂之が大きく腰を動かしながら聞いた。
「御主人様には、どのくらいハメてもらったんだね?」
「そッ、それは…」
「言ってごらん。ずいぶん可愛がってもらったんだろ」
切り裂かれるような激痛に耐えて、美果はうわごとのように言った。
「イ、一度だけ、お尻のほうに…」
「バージンをさし上げたのか」
「はい」
「良かったな、それだけかね?」
本当にそれだけなのである。
あのとき一瞬挿入されたような気もするのだが、感覚はおぼろだった。
女として、哲彦が性器の結合に眼もくれなかったことは哀しい。
だが美果は、ほかの方法で子宮が溶けるほどの快楽を何回も
味わっていた。あるいはそれが真実のマゾの道なのかも知れない。
美果はうろたえた視線で哲彦をさがした。アナルを破られたときのほかは
肉体を受け入れていないのに、哲彦の前で夫と媾合していることが
たまらないのである。
「………!」
エルが哲彦の足もとにひざまずいて、ズボンのファスナーを下ろそうと
しているところだった。
やめて、代わって…!
美果は心の中で叫んだ。ほとんど触れたことのない哲彦の性器を
エルに独占されることは耐えられなかった。
「うぅッ」
茂之が、ぐいと腰を入れた。
深いところを突かれて、思わず呻き声をあげる。とたんに、クリトリスに
痺れるような感覚が起きた。
「ほう、また感じていますか?」
哲彦が意外そうな顔で振り返った。
「いい素質ですな。こんな生まれつきのマゾは、滅多に見つかりませんよ」
「嬉しいか、褒めてもらったんだぞ」
別人のように怒張した肉塊を抜き挿ししながら、茂之が言った。
「私の眼に狂いはなかったよ。結婚して良かった…」
陰穴の周辺が潰れそうに痛い。だが快感がそれを上回っていた。
美果は歯を食いしばって、ある種の感動と闘っていた。不思議に涙が
溢れ出して止まらなかった。
「どッ、どうして駄目なのよゥ」
突然、エルが焦れったそうな声を上げた。
「お願い、私にもやってよゥ…ッ」
「甘く見るんじゃねえっ。お前はただの淫乱だよ!」
「わァッ」
哲彦が乳房を蹴ると、茶髪を振り乱して夢中で下半身にすがりつく。
「だったらおまんこの毛を剃ってッ。お坊さんみたいにしてェ」
「何だ、女王様やめるのかよ」
哲彦が面白そうに言った。
「私、始めからそんなんじゃないんですッ」
「淫乱だって立派な変態だぜ。そんなにセックスが好きだったら、
もっと修行しろ!」
「グェッ」
顔を上に向けると、いきなり男根を咽喉に突き刺す。髪の毛を掴んで
顔全体を陰毛にこすりつけた。
「グフ、グフ、ゲェ…ッ」
唇の端からよだれを垂らしながら、エルはガクガクと首を振った。
夫の下敷きになって、美果がまばたきもせずその情景を凝視している。
「イ、イキそう…」
異様な嫉妬がたちまち快感に変った。美果は、救いを求めるような
視線を哲彦に向けた。
「イッても、良いですか…」
無断で頂点に達することは、許されない罪悪のように思える。美果は、
感覚の爆発を必死に抑さえながら言った。
「主、主人がもう、わたしイカされそうなんです…ッ」
「夫婦だろ、勝手にイケよ」
突き放すように、哲彦が言った。
「お前、マゾの女だぜ。誰にイカされようと自由じゃねえか」
茂之が情欲に歪んだ笑いを浮かべた。
「お許しが出たか?」
「ハハ、ハイ…」
その間にも、快感が階段を駆け上がるように上昇する。
「よし、イクところを御主人様に見てもらいなさい」
ムチ傷でまだら模様になった身体を抱き上げると、茂之が
腹の上に乗せた。
「うぇぇ、見ないでくださいッ」
タラコのようになった肉ベラに、夫の男根を受け入れている姿を
正面に向けて、美果は恥かしさに身をよじった。
「おいインラン、お前もこっちに移れ」
哲彦が下半身にしがみついているエルを引き剥がして、仰向きに
なった茂之の顔を跨がせる。
「ワッ、また舐めるのッ」
一応は悲鳴を上げたが、茂之の舌が動きはじめるとエルは見境もなく
美果に抱きついてきた。夫を下に敷いて、奇妙な三角形ができあがる。
「お坊さん、好きッ」
べったりと涎のついた唇を圧しつけられると、微かに男根の臭いがした。
二人が抱きあったとき、ビシッと背中で火花が散るような衝撃があった。
イクッ…、
唇を吸われたまま、美果はスウッと身体が宙に浮いたような気がした。
パシィ…ッ!
「ギャ…ッ」
エルが乳房を震わせて、子猿のようにしがみつく。
淫靡な空気を切り裂いて、冷酷な革のベルトが二人の間を往復した。
イク、イクイクッ…、
背中で鞭が躍るたびに、美果は心の中で叫び続けた。
内臓を突き上げるように喰いこんだ男根から、性欲がとめどなく体内に
注入されて全身を駆けめぐる。倒錯した快楽のプラズマが、
オーロラのように二匹の美獣の周囲にふりそそいだ。
やがて…、
すべての力を使い果たして、美果は哲彦にかつがれるようにして
自分の部屋に戻った。
コーヒーを持って上った階段に、溢れ出た茂之の精液がポタポタと落ちた。
エルは二階である。鞭に馴れていないせいか、背中一面が痣になって、
茂之に抱かれてぐったりと眠っていた。
長い間ヘドロのように溜まっていた淫欲の塊りが抜けると、美果は
急に哀しくなった。あの魂を引き裂かれるような恥虐の緊張がなければ、
生きて行く張り合いさえ失ってしまいそうである。
体内には、夫の精液がまだ大量に残っている。美果は今夜もまた、
哲彦とまじわることは出来ない…、と思った。
十六、シャワー地獄
激しい疲労で、美果はたちまち異常な睡魔の虜になった。昨日から
ほとんど一睡もしていないのである。
夕方になって、哲彦が2週間ぶりに戻ってきたのだったが、夫の茂之が
女王様のエルを連れてきたことで事態は一変した。あとは思っても
いなかった出来事の連続である。
片手片足吊りになって失禁するまで、何回イカされたのかまったく
覚えていない。
哲彦の肩にすがって階下の部屋まで降りて来たが、それが限界であった。
腫れ上がった肉唇の間から、まだ夫の精液が滲み出している。
これでは、一緒に横になっても抱いてもらえる筈はなかった。夫から
哲彦の女だと宣告されて、美果はまだ新しい支配者の肉体を知らないのである。
そばにいて貰えるだけでも良い…。
吸い込まれるように、美果は眼を閉じようとした。
「眠るんじゃねえっ」
バシッ…と頬を張られて愕然とわれに返った。だが視線はまだ虚ろである。
「てめえ、そんな汚れた身体で俺に抱かれる気か…?」
美果は、あわてて起き上がろうとした。 哲彦がいま何と言ったのか、
もう一度確かめたかった。
「まだ用は済んでねえんだ。抱かれる前におまんこを清めてこい」
「エェッ…」
「風呂場に行け、俺が洗ってやる」
今度こそ、はっきりと眼が覚めた。
初めて、哲彦から肉体を要求する言葉を聞いたのである。疲れ果てた
神経のどこかで、青白い歓喜の炎が燃えた。
よろめきながら、バスルームへの廊下を歩く。2週間前、残酷な砂洗いの
あとで髪の毛まで根こそぎ剃り取られた浴室である。
入口で化粧台の鏡を覗くと、淫虐の果てにゲッソリとやつれた
女の顔が写った。脂の浮いた肌に、女王様のエルから受けた棒鞭の
ミミズ腫れが斜めの格子模様になっている。先刻の無残な鞭打ちで、
ところどころに血が滲み出しているのが痛々しい。
「だいぶマゾらしくなったじゃねえか」
哲彦が、やさしく肩を抱きながら言った。
「まだ、鞭の痕がちょっと足りねえかな」
「うれしい…」
鏡の中の美獣が、恥ずかしそうに微笑してうなずく。
29才の女の肉体は、それなりに美事な曲線を保っていた。それほど厚くない
乳房の膨らみや、肩胛骨が見える背中の凹凸は、10代の少女の
面影さえ残している。
「まあいいや、傷はすぐに治るさ」
バスルームに入ると、浴槽の湯はすっかり冷め切っていた。
「そこに寝ろ、股をひらけ」
タイルに仰向けにすると、シャワーの温度を調節して全身に水流を
浴びせる。身をまかせていると、火照った肌に飛沫が飛んで、
柔らかなお湯の刺激が心地よかった。
哲彦がシャワーのボリュームを全開にして陰裂に当てた。かなりの水圧で、
腟の中に残っている夫の精液がキレイに流されてゆくような気がする。
やがて、思いがけなくクリトリスに微妙な快感が起こった。それはこれまで
哲彦から与えられたことのない、ソフトで肉欲的な感覚である。
「どうだ、まだイケそうだろう」
え…ッ?
ようやく哲彦の目的をさとって、美果は思わず腰を逃げようとした。
「あ、あの、もう…」
止めて…、と言いかけて、美果は唇を噛んだ。
また、イカされる…!
鞭で打たれるときの感覚の爆発には耐えることができたが、物理的に
イキ続けることは快感の領域を超えた苦痛である。
美果は戦慄した。許して貰えないことは初めからわかっている。
あとは耐えるより他にないのだ。
「ウッ、ウウム…」
夫の茂之に犯されてあれほどイキ続けたクリトリスが、温かい水流を
当てられると痒いところを掻くように気持ち快い。硬い無機質の
電動器具などより、はるかに効果があった。
「クゥゥ、クゥゥ…ッ」
固いタイルの上で、美果が激しく跳ねたのは、それから僅か2分ほど
後のことであった。
「ゲェッ、い、いく…」
腹筋が痙攣して、細身の身体が電気に打たれたように上下にくねった。
10センチほどの至近距離から、強い噴流が絶え間なく吹き出してくる。
がっちりと膝を抑さえられているので、狭い洗い場では逃げることが
できない。
「も、もう許してェッ」
全身の血が粘膜のまわりに集まって沸騰していた。感覚が嫌おうなしに
盛り上がって、限度を超えると、美果の意思とは関係なく連続的に
はじけるような噴火現象が起った。
「ゲフ、ゲフッ」
噴火の間隔が、次第に短くなってくる。
回数で表現することはできないが、強制的にイキ続けて、美果は
一種の窒息状態に陥っていた。
唇の端から粘り気の強い透明な唾液が泡と一緒に垂れている。二日間
ほとんど何も食べていないので、吐きたくても胃袋の中が空っぽである。
ヒクヒクと四肢が痙攣するのを見ると、哲彦はゆっくりとシャワーの
噴流を止めた。
爪先で軽く肋骨のあたりを蹴ったが、美果はもう反応を示さなかった。
完全に力の抜けた身体を引きずって、片足を浴槽の縁に乗せる。
無毛の股間が体内の臓物をさらけ出して二つに割れた。
哲彦が、美女の生き血を吸うドラキュラのように、その上に
覆いかぶさっていった。爛れた粘膜を押し潰ぶすように肉塊を埋める。
神経が麻痺しているせいか、美果はほとんど痛さを感じないようであった。
どんよりと霞みがかかった眼をひらく。見上げるとすぐ上に
哲彦の顔があった。
信じられない…!
美果は呆然と哲彦を見つめた。哲彦を知ってから、何回となく
恐怖と期待に震えた妄想の実現である。美果は夢中で哲彦に
しがみつこうとした。
「もう一度イッてみな」
哲彦が、あざわらうように言った。
「俺に抱かれて、イキきって見ろ」
「ウハッ…!」
だが美果には、クリトリスを爆発させる力がもう残っていなかった。
苦悶の表情を浮かべて、美果は淫欲の血を性器に集中させようとした。
「ウゥゥ…ム」
焦っても、クリトリスが萎縮して立ち上がってこないのである。それどころか
括約筋を収縮させることさえ出来なくなっていた。
「まだか…?」
「つぅッ、ま、待って…」
「お前は玩具なんだぜ。オモチャが先に壊れてしまってどうするんだよ」
腰を揺すりながら、哲彦が冷笑した。
「だらしがねえ、まだ本物じゃねえな」
「アッ、アウゥッ…」
これもまた、哲彦らしい独特の責めなのだろうか…。
「そんなんじゃ駄目だ。もう一度おまんこを鍛えなおせ」
激しく突きまわされると、身体と心がバラバラになって、美果はただ空中を
浮遊するばかりだった。
「起きろ…」
哲彦が無造作に男根を抜いた。
「仕様がねえ、元気をつけてやる…」
フラフラと上半身を起こす。鼻先に怒張した肉塊を突きつけられて、
美果は無意識に口をあけた。
「まだ、お前を孕ませるわけにゃいかねえからな」
冷静というより、ほとんど事務的につぶやいて哲彦が美果の顔を跨いだ。
「ウグ…ッ」
仰向いたまま直角に肉塊をくわえて、美果は眼をつぶった。
「強精薬だ、しっかりと身体に滲み込ませておけ…」
精液ではなかった。咽喉の奥に、生温くてムッと匂いの立つ大量の液体が
洩れた。それはたちまち逆流して、口もとに溢れ出してくる。
必死に嚥み下そうとして、美果は身を悶えた。
「ウゲェ、ブハ…ッ」
耐えきれなくなって噎せかえると、飛沫が顔から乳房にかけて飛散する。
「バカ野郎、吐き出す奴があるかっ」
排泄はまだ続いていた。剃り上げた頭のてっぺんに小便のシャワーが
降りそそいで、ピシャピシャと周囲に散った。
「す、すいません…」
顔に流れ落ちてくるのを掌に受けて、美果は夢中ですすった。
ようやく小さな滝の流れが止まったとき、美果はガックリと汚れたタイルに
両手をついた。顔じゅうに浴びた小便の刺激で、眼が開けられなかった。
「オモチャになれなくて、わ、わたし…」
妄想が実現したと言うにしては、それはあまりにも惨めな結末であった。