二十一、同じ星の下で
哲彦からの電話…!
三角頭巾の男に呼ばれて、美果は身体が震えた。それは、空中から
突然おりてきた一本の蜘蛛の糸であった。
だが哲彦の指示は、いつも限界の一歩先を要求する。
その度に、美果は被虐性の人間のメスとしての成長を遂げてきたのだった。
今度は、何を言われるのか…。
考える余裕もなく、美果は夢中で受話器のそばに這い寄ろうとした。
眼の前で、麻耶が膝立ちになって男の腰にとりすがっている。二人目の男が
ようやく射精しようとしているところだった。
「グフ、グフッ…」
白い咽喉を上に向けて、締めた唇の間を、赤黒い肉塊が激しく出没する。
長い髪の毛がべったりと頬に貼りついて、ピアスから垂れ下がった金色の
鎖が揺れていた。可憐な生きたダッチワイフである。
「クゥッ」
一瞬、幼い少女の面影を残した表情が歪んだ。疲れ果てている様子だったが、
二回めなので量は僅かである。唇と頬の筋肉を使って絞り出すように
精液を吸い取る。
「よし、もう良いんだ…!」
男が、いきなり乳房を蹴った。
「ギャァァッ」
のけ反った拍子に、乳首のピアスを繋いだチェーンに男の足指が
引っ掛かって、麻耶は身をよじるような悲鳴を上げた。先端を毟り取られる
ような激痛に絨毯の上で一回転すると身体をくの字に折って動かなくなった。
「次っ、怠けるんじゃないっ」
三人目の男が、髪の毛を掴んで引き起こすと、まだ硬直していないやつを
鼻先に突きつけながら言った。
「グェェ…」
男の股間にぶら下がるような恰好で、麻耶が肉塊をくわえた。続けざまに
精液を嚥み下して、ほとんど夢遊状態になっている。
無惨な麻耶の横をスリ抜けて、美果はようやく震える指先で受話器を握った。
「モシモシ…、わ、わたしです」
「美果か、おまんこの具合はどうだ?」
「えッ」
ひたすら待ち続けた電話の、それが最初の挨拶であった。
「少しはマゾらしくなったか…、と聞いてるんだ」
「いえアノ、はい…」
美果は、しどろもどろになった。
「変態の男に、子宮の底まで覗かれるのは気持が快いだろう」
とたんに、それまで弛緩していた括約筋がキュウッと収縮した。
性器にスパゲティを詰め込まれて封印されたとき、たしかに、麻薬を
嗅がされたような陶酔があったのである。
「自分がどんなに変態で猥褻な生き物か、解ったか」
「ハ…、ハイ」
受話器に向かって何か叫びたいような気持だったが、周囲には
もっと冷酷な男たちの視線があった。
哲彦に思いのたけを伝えたくても、どうすることもできない。
「あの、い、いつお帰りに…」
それだけ言ったのがやっとだった。
「わからねえな、気が向いたら行くよ」
哲彦は、他人事のように言った。
「当分はひとりで暮らせ。セックスに飢えた男はいくらでもいるんだ」
「エエッ」
「要求されることには、必ず従うのがお前のつとめだ。人見知り
するんじゃねえぞ」
「いや助けてください…ッ」
受話器に口を押しつけて、美果はせっぱ詰まった声を出した。
「わたしッ、やっぱりあなたがいて下さらないと…」
「贅沢いうんじゃねえ」
突き放すような、非情な声であった。
「マゾの女は、初めからただの猥褻物だと言ったろう」
「で、でも…」
「それとも、変態のオモチャになるのは嫌だっていうのか?」
哲彦が、すべてを見透かしているように言った。
「どっちが良いか、自分のおまんこに聞いてみろ!」
美果は、息をのんだ。 見知らぬ男の情欲に翻弄されて、
なぜ発情するのかわからないが、先刻からクリトリスがヒクヒクと
脈動をはじめている。
哲彦の女であるということは、同時に他の男たちの共同の
玩弄物になることであった。
倒錯した矛盾の中で、美果は痺れるような性欲を感じる。
被虐性のメスと呼ばれるためには、どうしてもこの矛盾を
乗り越えなければならないのである。
「嫌ならさっさと家に帰れ。お前にはマゾの素質がねえんだ」
「チッ、違うんですッ」
美果は、必死の思いで言った。 このまま逗子の家に戻されたら、
すべてが無になってしまう。
「オモチャでも良いんです。お願いあなたのそばに…、アッ」
そのとき、美果はふと思いがけないことに気づいた。
あの人は、このビルのどこかにいる…!
声が意外に近く聞こえた。電話でも微妙な遠近感はわかるのである。
どうして、今までそのことに気がつかなかったのだろう…。
まして、この電話は内線専用であった。
食事を運んでくれる麻耶の眼はあったが、哲彦は、今日までずっと
自分を監視していたのではないか…。それでなければ生理になると
同時にスパゲティ男が現れるといった話の辻褄が合わないのである。
「アッ、モシモシ…ッ」
哲彦が近くにいるとわかると、美果は夢中で受話器にしがみついた。
「お願い来てくださいッ。わたしをオモチャにして…」
「………」
だが、電話はもう切れていた。
呆然として受話器を置く。振り返ると、麻耶が肉塊をくわえたまま、
ほとんど失神したようになっていた。
どうしても三番目の男を射精させることが出来ないのである。
男が後頭部を抑えてガクガクと前後に揺すっていたが、両腕を
ダランと垂らして、手を離すとそのまま崩れ落ちてしまいそう。
「わ、わたし、代わりますから…」
美果は男の足もとににじり寄った。それが哲彦へのマゾの証しだと思った。
男が無言でこちらを向いた。三角頭巾をかぶっているので良く判らないが、
体型からしてもかなりの年令である。
「ほう、選手交代か…?」
人形を捨てるように麻耶を投げ出す。
眼の上に膨らみかけた肉の塊りが唾液の糸を引いて
垂れ下がっていた。美果は、迷わず唇を寄せた。
生温かい肉の感触が、口の中いっぱいに広がる。
どうしてもイッて貰わなければ…。 どこかで哲彦に見られているような
気がして、不思議な充実感があった。クリトリスの痺れがいっそう酷くなった。
足もとに蛇のような髪の毛が散乱して、麻耶の頭が転がっている。
焦点を失った眼が半開きになって天井を向いていた。顎の感覚が
麻痺して、唇を閉じることができないのである。
それでも、麻耶は解放されたわけではなかった。四人目の男が
ズルズルと脚を引きずって部屋の中央に移すと、顔を跨いで真上から
強引に腰を落とした。それはまるで、屍体を犯しているような感じである。
「………!」
そのとき、美果は異様な反応を見た。
咽喉に突き刺さった男根は、おそらく食道にまで侵入している。
麻耶の鼻が曲りそうになるほど男が下腹をこすりつけたとき、
ギクッと腹筋が痙攣した。
臍のまわりに嵌めた金色のピアスが3個、プルプルと震える。
続いてまた、ギクッ…ときた。 痙攣は断続的に、しかも一定の
リズムで何回も起こった。
イッている…!
それは被虐性のメスだけが知っている絶頂のしるしである。
美果は、ようやく20才を出たばかりの少女が、こんなイキ方を
しようとは信じられなかった。明らかに、麻耶は同じ星の下に
生まれた女である。
あ…、
内股を伝わって、新しい経血が垂れ落ちてきた。
スパゲティ男が駆け寄って、後ろから太腿を抱えると、ジャムを
舐めるように陰裂に舌を入れた。とたんにゾッと虫酸が走るような
快感が全身を駆けめぐった。
口の中の肉塊が太さを増して、男の動きが早くなった。クリトリスの
痺れに耐えて、美果は懸命に盛りを過ぎた男の肉体を吸った。
「ウッ、ウウム…」
男が残った精液を吐き出したのは、それからまもなくである。
二十二、ピアスと髪の毛
4人の三角頭巾と、スパゲティ男が消えると、あとに2匹の
人間のメスが残った。すぐ横で、麻耶がすべての力を使い果たして
意識を失っている。
乳首のピアスが微かに上下しているのに気がつかなければ、
呼吸していないのではないかと心配になるほどのダメージである。
美果が代行したのは一度だけだが、それだけでも並大抵の
消耗ではなかった。
体力を回復するまで、少しでも眠らせてやりたい…。
美果は、そっと身体を起こした。 内股から尻のワレメにかけて、
また生理の血が滲み出している。いつも簡単にナプキンで処理していた
女の生理が、こんなに始末が悪いものだとは思わなかった。
洗わなければ…。
麻耶が眼を覚まさないように注意して、美果はバスルームの
ドアを開けた。
クリトリスが、まだ疼くように脈を打っている。いつものように
便器を跨いでビデのボタンを押すと、薄い血の色が渦を巻いて
排泄口に吸い込まれていった。何となくすっきりしないので指を
入れてみると、穴の中がバターでベタベタになっている。
下腹が重くなるほど詰め込まれたスパゲティの残り滓が、
まだウジャウジャと入っているような気がした。
これでは、ビデだけではとても落ちそうになかった。
便器をおりて、美果は狭い洗い場にうずくまった。 シャワーの温度を
調節して、ワレメに噴流を当てる。荒れた粘膜に温かい刺激が
こころよかった。指先で揉むように肉ベラを洗っていると、
哲彦のシャワー責めにあって悶絶したことを思い出して、
美果はふと涙が出そうになった。
この部屋に閉じ込められてから、たしか、今日で5日目である。
身も心も哲彦に支配されるようになって、美果には、いつか新しい
貞操観念のようなものが芽生えていた。
以前のように、セックスへの激しい飢えはないが、哲彦に犯される
まで待っていることが当然の義務のように思える。それは貞操というより、
唯一の心の支えであった。
それが、あっさりとゴム風船を針で刺すようにはじけてしまった。
しかも異様な快感まであったのである。哲彦に言われたとうり、
自分の肉体がただの猥褻物になってしまったことが哀しかった。
美果は、せめてオモチャになったあとの汚れを落しておきたいと思った。
うつむいて、指を奥に入れる。
粘膜にへばりついた脂肪を爪で掻き出そうとしたときであった。
ノックもなく、突然バスルームのドアが開いた。
「美果サマ…、あッ」
姿勢を取りつくろう暇もなかった。美果はワレメに指を突っ込んだまま、
ヒィッと咽喉を鳴らした。
「も、申しわけありません」
一瞬立ちすくんで、麻耶は崩れるように入口で両手をついた。
「私、うっかりして…」
失神から醒めて、美果の姿がないのでよほどあわてたのであろう。
まだ朦朧としている様子だったが、麻耶は必死に意識を立て直そう
としていた。
「いいんです、洗っていただけだから…」
どんなに体裁をつくってみても、所詮はマゾの女どうしである。美果は
できるだけ平静に言った。
「麻耶さんは、もう大丈夫なの…?」
「はい」
麻耶は、真剣に頭を下げた。
「申し訳けありません。ご迷惑かけて…」
それから、自分を責めるように言った。
「私、我慢がたりなくて、美果サマにまで…」
「そんなことないわ…!」
あのときの麻耶の痙攣を思い出すと、今でも腰が熱くなってくる。
美果は、初めて自分と同じ反応を示す女に出会ったのである。
それは喜びでこそあれ、決して迷惑などではなかった。
「あの、私がお洗いします」
麻耶が、急いで立ち上がりながら言った。
「お背中だけでも流しますから…」
「えッ」 びっくりして、あわてて股を閉じる。
「でもわたし汚れてるから…」
「そんなこと…、お願いやらせてください」
美果の手からシャワーを奪いながら、麻耶が言った。
「助けていただいたんですから、せめてそのくらいは…」
「わ、悪いわ。疲れているのに…」
「いえ、もう平気ですから…」
本当はまだフラフラしているのだろうが、麻耶はワザと明るい
笑顔を見せて言った。
結局、それ以上は断る理由がなかった。
「有り難う、すいません…」
言われるとうり美果は背中を向けた。
狭い洗い場は、二人で一緒に入ると一杯である。それでも、
ときどきシャワーをかけながら背中をこすられると、美果はホッと
救われたような気持になった。じっさい、タオルも石鹸もない浴室で、
この5日間満足に身体を洗うことができなかったのである。
「……?」
しばらくして、背中の感触が何かおかしいことに気づいた。何気なく
後ろを向いて、美果は軽い叫び声を上げた。
「麻耶さん…!」
思いがけなく、麻耶が自分の髪の毛を束にして、肌にこすりつけて
いるのだった。
「そ、そんなことしないで…」
「このほうが良く落ちると思って…、気持悪いですか?」
「ううん。ウ、嬉しいけど…」
急に、不思議な愛情のようなものがこみ上げてきた。抱き締めたく
なるような衝動をこらえて、美果は背中を向けたまま言った。
「麻耶さん、幾つなの?」
「21…、です」
「ピアスは、あの方がつけたんですか?」
「いいえ」
これまで哲彦が嵌めたものとばかり思っていたのだったが、
あっさりと否定されたことは意外だった。
「ご自分でつけたの?」
「高校を出るとすぐ、はじめは乳首だけでしたけど…」
麻耶は、はにかんだように笑った。
「私、子供のときから好きだったんです。どうしてもやってみたくて…」
マゾとしてのタイプは微妙に違うのだろうが、思春期に被虐願望が
発動していたことは同じである。美果は、何故か奇妙に安堵した
気持になった。
「ちょっと、前を向いてください」
さり気なく、麻耶が言った。
「私、洗ってみますから…」
「えッ?」
「上手くできないと思うけど、汚れを落すくらいは…」
麻耶が、そっと膝を左右に開いた。
「は、恥ずかしい…」
同性に性器をさらすのは、これが2回目である。だが、エル女王様に
弄ばれたときのような緊張感はなかった。麻耶が真性のマゾヒストだと
わかっただけで、他人のような気がしないのである。
「ごめんなさい、そんなことまでさせて…」
すべてを任せたつもりで、美果は狭い洗い場に仰向けになった。
まばらに伸びはじめた陰毛の上で、シャワーの滝が小さな
飛沫を上げた。
「あの…、お楽になさって下さい」
麻耶の指先は、哲彦とはまったく別の動きかたを見せた。
クリトリスと外側の肉ベラをシャワーに泳がせるように濯ぐと、
指を一本だけ入れて掻くように内側の粘膜をなぞる。まるで、穴の中に
小さな魚が迷いこんできたような感触である。
荒々しい男の凌辱に耐えてきた美果にとって、それは、身体が
溶けるほどの優しすぎる愛撫だった。
「アァ…ッ」
たまりかねて、美果は腰を浮かした。
「もう少しですから…」
指を動かしながら、麻耶は看護婦が患者をなだめるように言った。
「我慢して、すぐに終わります」
「マ、麻耶さん…」
このままではイッてしまう。上半身を起こすと美果は無中で腕をのばした。
「お願いッ。あなたのも見せて、ピアスを見せて…!」
「美果サマ…」
「ねえ良いでしよう。もっと近くで、わたしにも触らせて…」
鳶色の瞳が、マジマジと美果を見つめた。
「は、はい」
麻耶がシャワーを止めた。膝立ちになって指先でそっと肉唇をひろげる。
目の前に、シャラッ…と金色のチェーンが垂れ下がった。
まばたきもせず、美果は息をのんだ。
麻耶が、僅かに腰を突き出す。
そっと手を伸ばして、美果は真ん中の鎖を握った。
クリトリスは、美果のより少し大きい。
軽く鎖を引くと、まるで生きているようにピクピクと動いた。