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    二十七、淫肉の味

 クリトリスの痛みは、みぞおちから爪先にまで広がっていた。瞬間的な

鞭の衝撃に比べて、それはマゾの限界を試されるような拷問であった。

「こいつはええ、おもろいわ」

 三吉が後頭部を抱えて、子供が木馬で遊ぶように腰を揺すると、

三ツ折りになった身体が、美果の意思とは関係なくダルマのように

前後に揺れた。ギッチリと肉唇に喰いこんだロープがギシギシと鳴る。

まるでヤスリでえぐられるような激痛である。

「グフ、グフ、グェェ…」

 顎の先端から、唾液が糸を引いて滴る。

 声を出したくても、それだけの空気が肺の中に入ってこないのである。

文字どうり生きている玩具だった。

「気ィつけてや、まだ射精さんといて…」

 冷酷にその様子を眺めながら、はま子が着ていた浴衣を脱いだ。

「うちが可愛がったるさかい。射精すのはそれからやで」

「う、うむ。もうちょっと…」

 三吉がいっそう激しく腰を動かす。

 苦痛が極限を超えると、美果はウットリと宙に浮いているような気持に

なった。一種の失神状態だが、痛さで意識を失うことができないのである。

「ちょっと、はよう退いてんか」

 女房に促されて、三吉はようやく動きを止めた。

「ええ気分や。ほんま尺八だけでもイキそうになるで」

 未練そうに手を放すと、縛られた形のまま美果はゴロッと横倒しになった。

「アッ、気ィつけなはれ。おめこが潰れまっせ」

「おっと、すまんすまん」

 ぼんやりと眼をひらく。朦朧とした視界の中に、全裸の女王様が立っていた。

 若いころの面影が僅かに残ってはいるが、40才をとっくに過ぎた女の肉体は、

胴長短足の三段腹…。腰まわりが美果よりふた廻りほども大きい。

子供を産んでいるのか、乳房がコンドームにミルクを満たしたように

垂れ下がっていた。醜いと言うより、あまりにも動物的な肉体の変貌である。

 だが美果には、それが淫魔のように偉大な女王様の象徴に見えた。

「可哀相に、苦しかったやろ」

 はま子が、締め上げていた股縄を解きながら言った。

「強い子やな。さすが、哲彦の仕込みや」

 エッ…!?

 ともすれば薄れそうになる意識を、美果は必死で呼び覚まそうとした。

「あんた、哲彦の何やねん」

 場違いなほど、やさしい言葉である。

「恋人か…、それともただの情婦かいな」

「ベ、ベ、ベツに…」

 舌がもつれて、言葉にならなかった。

 哲彦の何だと聞かれても、美果は答えるすべがないのだ。

 夫でも恋人でもない。強いて言えば支配者とでも呼ぶべきなのだろうが、

その哲彦を、はま子は平然と呼び捨てにしたのである。

「マ、ええがな」

 手首と足首を残して縄を解いてしまうと、はま子は再び残忍な笑いを

浮かべた。

「どっちみち、今夜はわてのオモチャや」

「は、はい」

 虚ろな眼をあけて、美果は呆然と女王様の三段腹を見上げた。

 この人は、哲彦といったいどういう関係にあるのか…?

 見かけは平凡な中年の主婦だが、はま子が強烈な加虐愛好者であることは

間違いなかった。こんなおばさんから純粋に性的なメスとして扱われている

ことに、美果は身体が震えほどの歓びを感じた。

 股縄を解かれたあとが、火のように熱い。

 不自由な身体を曲げて、美果はようやく白い敷布の上で反転した。

考えてやったことではなかった。マゾの本能が、自然にそうしなければ

いけないと命じるのである。

 もう、羞かしさや怖ろしさはなかった。

 まだ手足を縛られているので、美果は膝を使って尺取り虫のように

はま子の足もとに這い寄っていった。

 亭主の枕にデンと尻を乗せて、はま子は面白そうにそれを見守っている。

 ようやく拡げた足の間にたどりつくと、上半身を乳房の弾力で支えて、

美果は額に汗の滲んだ顔を上げた。

「どないするつもりやねん」

 はま子が、半分からかうように言った。

「その先はおめこや、行き止まりやで…」

 返事をする代わりに、美果は頭を内股にもぐり込ませて、唇を陰毛に

こすりつけようとした。

「へえ、舐めてくれはるの?」

 わざとらしく、はま子が眼を見張った。

「助平な子やな。レズもいけるんかいな」

「お、奥サマ…」

「ほな、遠慮するのも悪いさかい」

 ガバッと脚をひらく。土手の両側から股のつけ根にかけて、蝙蝠が

翅を広げたような陰毛があらわになった。真ん中がふたつに割れて、

年齢のわりにギョッとするほど真っ赤な肉ベラが盛り上がっている。

「しっかりやんなはれ。気持ち快くしてや」

 美果は懸命に頭を持ち上げようとした。

「下手やねえ。そんな恰好じゃおめこ舐められへんやろ」

 後ろ手に縛られた手首が、血の気を失って皮膚が白茶けている。

「よっしゃ、わいが手伝ったる」

 三吉がウエストを抱えて、引きずるように頭を陰毛の上に乗せた。

「ぐふゥ…」

 尻を上げて、美果は前のめりに顔を突っ込んだ形になった。舌をのばすと、

先端がようやくクリトリスに触れた。だが内腿と三段腹の分厚い肉に

さえぎられて、思うように唇を近づけることができない。

「こいつ、もっと気を入れてやらんかい」

 バチッ…、と三吉が尻ぺたを叩いた。

「そんなんじゃ、おめこはイカへんで」

「は、はい…」

 夢中で舌を動かす。ちょうどナマの牛肉を舐めているような感触である。

脂が溶けたような味と匂いが、舌先から鼻の奥まで広がっていった。

 美果にとって初めて体験する女性器の味である。ミンクハウスのエルも、

乙女座の麻耶のときも、相手の肉体に唇を触れることはなかったのである。

 二人とも若くて新鮮だったが、美果には、三段腹の女王様の巨大な性器が

この上なく尊いものに思えた。

 全体にぼってりとした厚みがあって、とぐろを巻いた肉ベラの間から

芋虫のようなクリトリスがハミ出している。変色した土手の両側に

粗くよじれた陰毛が密生して、女という名のひ弱な生き物からは想像も

できない凄まじい迫力があった。

 貼りついてくる粘膜に顔を埋めて、美果はひたすらクリトリスへの

奉仕を続けた。

「よしよし、その調子や」

 三吉が、後ろから美果の腰を抱えた。

「ぎぇ…ッ」

 股縄にこすられて腫れ上がった肉唇に、怒張した肉塊をグサリと突き刺す。

爛れた粘膜が無惨にメリ込んで、ヒリヒリと尻たぶが震えた。

「なんや、またハメるんかいな」

 股を広げたまま、はま子は顔色も変えずに言った。

「いい加減にしなはれ。ごらん、ほんまに痛がってるやないか」

「そやかて、せっかくの穴を遊ばせておくテはないやろ」

 三吉が、容赦なく腰を動かす。

「おめこ舐めさせながら一緒に犯るのもええもんやで」

「ふふふ…、あんたもスキやねえ」

 はま子は、べつに嫉妬している様子もなかった。

「勝手にやんなはれ。どうせ男はけだものやさかい」

「アアゥ…ッ」

 腰を突かれるたびに、つんのめって陰毛がザラザラと顔をこすった。

 股間に頭を突っ込んだまま、傷ついた穴の周囲から痺れるような

感覚が身体中に広がってゆく。苦痛の奥にもうひとつ、まるで宙を舞っている

ような甘美な快感があった。

「たまらんわ、よう締めよる」

 三吉のリズムが、次第に早くなった。

 どうしよう…!

 このまま犯られたら、まもなく頂点に達してしまう。満ちてくる潮のような

快感に耐えて、美果は夢中でクリトリスを吸った。

「イクで…、もう少しや」

「射精すんやったら、口の中に射精さなあかんで…」

 ペットに舐めさせているくらいにしか感じないのか、はま子が冷静な

口調で言った。

「孕ませるわけにはいかんさかいな。気ィつけてや」

 いく、いくぅ…ッ

 美果は心の中で叫んだ。そのとき、三吉がいきなり肉塊を抜いた。

 アッ…!

 横ざまに投げ出されて、振り向くと三吉が女房の腹の上にのしかかって

腰を突き上げているところだった。

「何すんのッ、アホやねえこの人…」

 はま子が、思いきり股を広げたまま、ケラケラと笑い声をあげた。



    二十八、女王様の涙


 夫婦の営みというには、それはあまりにも奇妙な媾合であった。

 射精する直前まで、男は美果のなかに挿入していたのだ。子供が

トイレに駆け込むように、三吉はあっさりと女房の体内に放出してしまった。

「どや、気持ち良かったやろ?」

 はま子がニヤニヤと笑いながら言った。

「うむ、良いおめこや。久し振りに堪能したで…」

 三吉は満足そうに額の汗を拭いた。

 もちろん、二人とも美果のことを言っているのである。

「あんた、まだイッてないやろな」

 はま子がゆっくりと美果のほうを向いた。

「は、はい…」

 胸が、急にドキドキと鳴った。

 この女王様には、一緒にイキかけていたことまで見抜かれて

いるのではないか…。

「来なはれ、今度はうちの番や」

 だが、投げ出されたとき仰向けになったきり身体を動かすことができない。

「どないしてん、動けんのかいな」

「腕が、痺れて…」

「なんやね、若いくせに…」

 太った身体を起こすと、はま子は真上から美果の顔を覗きこみながら言った。

「可愛い顔して…、そんなんじゃマゾはつとまらんで」

 ドキドキがいっそう激しくなって、美果は自然に眼をつぶった。

「羞かしがることあらへん。どうせ、生れつきの変態やないか」

 言葉の奥に、灼けつくような肉欲の響きがあった。

「変態は一生もんや、途中で止めるわけにはいかへんのやで」

「はい」

「眼をあけなはれ」

 ボトッ…と、唇の横に何かナマ温かいものが落ちた。

 ハッとして眼をひらくと、顔の上5センチくらいのところに、便器を跨ぐような

かたちで巨大な肉の割れ目があった。淫汁を含んだ肉ベラの間から、

またひとつ白い滴が糸を引いて垂れ落ちようとしている。

「ホラッ、奥まで舐めさせたるさかい。好きなだけ飲んでみなはれ」

 いきなり濡れ雑巾をかぶせるように、グシャリと腰を落とした。

「むッ、むぐッ」

 夢中で、洞穴に舌をさしこむ。

 先刻までの女の匂いとはうって変わって、ドロドロに溶けた酒粕のような

生臭い味が口の中いっぱいになって、美果はゴクッと咽喉を鳴らした。

「女は、子を孕むときこないなるんや。よう覚えておき!」

 はま子が激しく腰を揺すった。

「うぷゥ…ッ」

 大量の精液が、舐めても舐めても滲み出してくる。射精されたあとの

女の性器は、男のそれに比べてはるかに動物的で、残酷な肉の匂いを

発散していた。

 淫靡なマゾの血が、たちまち狂ったように騒ぎはじめる。

 女王様のクリトリスがボッキして固くなっているのを感じると、突然

ギクッ…と腹筋が波を打った。

「ウッ、ウッ…、あぷッ」

 クリトリスから異常な快感が噴き出して、溶岩が流れるように全身の

神経を灼きつくしてゆく。

 下半身の筋肉が自然に跳ねる。手首を縛られているので、反りかえった

胸が、痙攣するたびに卑猥なリズムで弾んだ。

「こやつ、またイキよるで…」

 足もとに胡座をかいて、三吉が感心したように言った。

「けったいな女やな。舐めさせただけでなんぼでもイキよる」

「ふふふ…、もともと身体のつくりが違うさかいな」

 クリトリスを鼻柱にこすりつけながら、はま子が勝ち誇ったように言った。

「見てみなはれ、この子のおめこがヨダレを垂らしてますやろ」

「なるほど、真性のマゾや」

 新しい快感が衝きあげてきて、美果はまたヒクヒクと痙攣した。

「ほんま、セックスするために生まれてきたような子やさかい…」

 はま子が、ずしりと重い尻を上げた。

「起きなはれ、イクところをもっと良く見せてごらん」

 ヨタヨタと立ち上がって、自然に股を広げる。前屈みになって、美果は少し

腰を落とした。そうしていなければ立っていることが出来ないのである。

 バシッ…と、ロープを束にした鞭が尻たぶを打った。

「あうゥッ」

 二三歩よろめいてようやく脚を踏ん張る。

 バシッ、バシッ…と、ロープが続けざまに鈍い音を立てた。哲彦の

鋭い鞭と違って悲鳴を上げるほどの痛みではないが、身体の芯に

響くような重さがあった。

「あッ、ウウム…ッ」

「ほうっ、珍しいイキかたやな。もっとイカしてみい」

 三吉が面白そうに言った。

「いくッ、ああゥ…ッ」

 打たれるたびに右に左によろめいて、快感があたりに飛び散る。

美果は狂ったように淫楽のダンスを踊った。

「うわっ、危ないやないか…」

 とうとう耐えきれなくなって、頭からつんのめると、三吉があわてて

抱き止めながら言った。

「なんや、蛸みたいにグニャグニャになっとる。大丈夫かいな」

 だが、女王様の責めはそれからまだ際限もなく続いた。ほとんど

夢遊状態になって、美果はイキ続けた。

 はま子が絶頂に近づいてきたのは、もう明けがたに近くなってからである。

「キリがないさかい、そろそろイクで…」

 仰向けにした美果の顔に跨がって、砥石で刃物を研ぐように腰を動かす。

たるんだ乳房が波を打って、真っ赤に膨らんだクリトリスが丸い粒を

露出していた。

「ゲホッ」

 突然、粘り気のない熱い液体が咽喉の奥に噴き出してきた。

唇から溢れそうになって、美果は無意識にそれを飲んだ。飲むというより

直接胃袋に流れこんでくる感じである。

 回数にして5・6回…、はま子は断続的に激しく潮を吹いた。まるで

水鉄砲を撃ち込まれるような感じである。

「おしまいやで、シャンとしなはれ」

 ようやく手首の縄を解かれると、指先まで紫色になっていた。舌の感覚が

麻痺して、眼や鼻のまわりに白い滓のようなものがこびりついている。

 それでも、美果はまだ小刻みに痙攣を続けていた。

「ようイクもんやな」

 三吉がロープを片付けながら言った。

「今日まで、こない感度の良い女は見たことないわ」

「マゾの女は身体中がおめこやさかい。男には解りまへんのや」

 冷えきった身体を抱き寄せながら、はま子はひとり言のように言った。

 その夜…、

はま子の腕の中で美果は不思議なほど幸せな眠りについた。

 翌日、眼が覚めたのは昼近くである。

 美果がとび起きてゆくと、はま子は前掛けで手を拭きながら笑った。

「も、申し訳ありません」

「疲れたやろ、ゆっくり休んだらええがな」

 昨夜のことは忘れたように、すっかり元のおばさんになっている。

 三人で遅い朝食を終わると、まもなく東京に戻らなければならない

時間だった。

「もう一日、泊まっていけたらええのにな」

 はま子がさり気なく言った。本当は美果も同じ気持ちなのである。

「まあええ、駅まで送ったるさかい」

「そやな、また逢えるチャンスもあるやろ」

 それが自然の成り行きであった。 結局、はま子も一緒に新大阪の駅まで

送ってくれることになった。

 美果が現金を持っていないことは知っているので、三吉がチケットを買って

新幹線のホームに上がる。

 ホームには、いつもながらのあわただしさで見知らぬ人々の流れが

交錯していた。いまさら名残りを惜しんでいる余裕もなかった。

 列車が入ってくると、美果は黙って頭を下げた。

何か言いたかったが、言葉が出てこないのである。

「元気でやんなはれ」

 はま子が、ひと言だけ短く声をかけた。

 ベルトコンベヤに乗せられるように、美果は感情を殺して

列車のステップを踏んだ。

 発車のベルが鳴っている。窓に額を擦りつけて二人の姿をさがした。

「………!」

 三吉の後ろに隠れるようにして、はま子がハンカチで眼頭を押さえていた。

 昨夜の淫獣のような女王様が…。

 美果にとって、それは信じられない情景であった。

 思わず飛び下りたい衝動に駆られて、美果は夢中で固いガラスの窓を叩いた。

 そのとき、何の振動もなく列車が滑り出して、三吉とはま子の姿は

アッという間に視界から消えてしまった。



<つづく><もどる>