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    三十五、奇妙な同棲

 エルが、ガバッと股を広げた。

 美果が自分から求めたのは、これが初めてである。

 意外に強い力で、エルが両手で首根っこを掴んだ。流し場のタイルの上を

舐めるように引き寄せられると、顔を上げることができなくて、美果の丸い頭が

直接エルの太腿の間に圧しつけられる形になった。

「アッ、気持ちいい…!」

 エルが奇声を上げた。前後の見境いもなく腰を浮かして、頭のてっぺんに

肉厚の性器をこすりつける。感覚の鈍い頭の皮膚に、柔らかい肉の感触が

伝わってきた。

 ようやく伸びはじめた髪の毛が、ブラシでなぞるように粘膜を刺激する。

たちまち淫汁がきめ細かな白い泡になった。

「ウ、ウ、ウ…」

 ゴツゴツと頬骨がタイルに当たって、美果は呻き声を上げた。

 夫が弄んだ女の性器を脳天にこすりつけられる屈辱は、まるで被虐妄想の海を

泳いでいるような痺れである。

「ウッ、ウウムッ」

 首根っこを抑えられているので、肩から上の自由がきかない。美果は両脚で

跳ねるようにタイルを蹴った。

「ホラッ、舐めさせてあげるよ」

 エルが陰裂をぐいと正面に向けた。ようやく肉の割れ目に舌をさし込むと、

クリトリスが驚くほど固くなっていた。大阪で味わったはま子の巨大なクリトリスが

芋虫とするなら、エルはコリコリしたミル貝の舌ざわりである。

「あ、快いッ、もっとやって…」

 自然の動きが、エルにいっそうの快感を与えた。たっぷりとボリュームのある

太腿が、顔を挟んでぐいぐいと締めつけてくる。

「もう少しだから、気持ち良いんだからッ」

 エルが、激しく腰を揺すった。

「うぷゥッ」

「ウワ、いくぅ…ッ」

 息もできないほど締め上げられて、美果はもう少しで首の骨が折れそうになった。

ようやく太腿の緊張が緩むと、ガクッと首がタイルに落ちた。腹這いになったまま、

美果はかすれた声で言った。

「お、お願い。頭からオシッコかけて…」

「出ないわよゥ、いまイッちゃったばっかりだもん」

 久し振りに、いっぺんにイキ切ってしまったのか、口もとが半開きになっている。

「腰が抜けちゃった、パパよりも快かったみたい」

 美果は、ヨロヨロと身体を起こした。

 膝でスリ寄って、美果は恋人を愛撫するようにエルの肩を抱いた。この肉体が

夫の性欲を高揚させるのかと思うと、ふるいつきたいほど愛しいのである。

「ウフフ…」

 エルが甘えるように鼻を鳴らした。

「ママ、頭にウチのおツユがついてるよ」

「いいわ、あとで洗うから…」

 ドキッとして、美果はエルの顔を覗いた。

「いま、何て言ったの…?」

「だって、パパの奥さんなんでしょ」

「そ、それはそうだけど…」

「だったら他に呼び方ないじゃない。お坊さんなんて呼べないじゃない」

「わ、わたしマゾなのよ。エルちゃんみたいな女王様じゃないの」

「どっちでも同じでしょ。ウチだって変態だもん」

 エルは、無邪気に笑いながら言った。

「ウチのことを、パパはエイリアンだって言ったのよ。女王様なんかじゃないよ」

 思考回路は普通の人間とどこか違うが、素晴らしいプロポーションと派手な

顔立ちは嫌でも眼を引く。エルもまたアブノーマルな血を引く異星人なのである。

 そう言えばピアスに飾られた乙女座の麻耶も、鳶色の眼を持ったハーフのような

美少女であった。

 美果自身、変態クラブの会員が一瞬鳴りをひそめてしまうほど、全身に妖麗な

雰囲気を発散している。すべて、純正変態性欲の女だけが持っている婬欲の

オーラである。

「あ、オシッコ出そう」

 エルがつぶやくように言った。

「やって、わたしにかけて…!」

「いいの?」

「うん、頭から…、お願いします」

 タイルに正座して、美果は両手を膝に置いた。

「じゃ、やるよ」

 立ち上がって、エルが腰を突き出す。

「ママの頭を洗ってあげるね」

 指で肉唇を広げると、輝くようなピンクの粒がムキ出しになった。

 シュゥゥゥ…

 軽くイキミをかけると、意外に太い水流が勢い良くほとばしって、美果の脳天で

飛沫を上げた。

「ウ、ウゥ…ッ」

 突然、子宮の奥に真っ赤な火柱がたった。

 ドッドッ…、クリトリスが正座した太腿の間で心臓の鼓動のような脈を打った。

 気の遠くなるような陶酔のなかで、美果は身動きもせず絶頂に達していた。

 排泄が終ると、美果は無意識にエルの腰を抱いた。

 陰毛を鼻でかき分けて、濡れ光ったピンクの粒に吸いつく。肉ベラからまだ

ボトボトとしずくが垂れ落ちて、少し生臭いような淫靡な変態の味がした。

「ウンッ、そんなことしたらまたイッちゃうわよゥ」

「いいから、口の中にイッて…」

「そ、そんなこと言ったって精子なんか出ないよ」

「大丈夫、ちゃんと出るんだから…」

「き、気持ち良い…ッ」

 中腰になって、エルがしっかりと後頭部をかかえた。ふたつのクリトリスが

連動して、卑猥なリズムを演奏する。

「イク…、マ、ママッ」

 小さな突起が躍るような収縮と膨脹を繰り返した。エルの性器から放出される

プラズマを、美果は媚薬を飲み込むように吸収した。

 異常な性感覚を持った女の性欲の融合である。ヌメリ貝のような肉のはざまで、

エルが痙攣する度に美果は全身がそそけだつようなエクスタシーを感じた。

 こうして…、

 妻と愛人、というより二匹の人間のメスの奇妙な同棲がはじまったのである。

 夫の茂之が香港から戻ってくるまでの間、美果は徹底的にエルに仕えた。

それが、哲彦に逢うことができない心の空白を埋める唯一の手段でもあった。

 無造作に投げ出した足の爪を翦って、一心にヤスリをかける。紫色の

マニキュアを塗ると、エルはスラリと伸びた脚を上げて満足そうに笑った。

「これ、ママの色だね。キャハハ…」

 腋の下は永久脱毛しているのだが、陰毛は以前美果がやっていたように、

周囲をけずり取ってハート型に整えることにした。

 まるで、生きたダッチワイフを創っているような作業である。磨き上げた

エルのボディを夫が抱くときの情景を想像すると、美果の被虐性は炎のように

揺らめくのだった。

 もうすぐクリスマスである。年もおしせまって、茂之が帰宅する日が近づいていた。

 一週間前から、美果はエルにオナニーさせるのをとめた。

 その代わり、寝る前にたっぷりと乳液をつけて性器をマッサージする。

大陰唇を開いて内側から毛の生え際まで、10本の指を使って丁寧に磨くのである。

「アァン快い…ッ。こんなのパパに舐めさせたらきっと悦ぶわよ」

「そうね、もうじき帰ってくるから…」

 クリトリスに、やさしく乳液をスリ込む。

「パパがびっくりするわよ。女王様こんなにキレイになって…」

「えッほんと…?」

 無防備に股間をまかせたまま、エルは嬉しそうな声を出した。

「それじゃママの代わりに、うんと喜ばせてあげるね」

 背筋に悪寒のような痺れが走って、思わず指先がふるえる。

「あッ、イッちゃうよ。そんなしたら…」

「ゴメン、もう少しだから辛抱して…。イッちゃ駄目よ」

 美果は掌でそっと熱い膨らみを抑えた。

「だって、もうずっとオナニーやってないんだもん。スゴクつらいのよゥ」

 エルが恨めしそうに言った。

「ママは、彼氏にハメて貰わなくても平気なの?」

「わたしはいいの。このほうが気持ちいいのよ」

 美果はこみあげてくる感情を殺しながら言った。この若くて性欲に満ち満ちた

肉体を、夫に抱かせてみたい。それがどれほど狂わしい快楽につながるものか…。

「へえ、よく我慢できるわね」

 そのとき、時間はずれの電話が鳴った。

「私だ…」

 哲彦か…、と思ったのだが、出てみると落ち着いた夫の声であった。

「仕事が忙しくてね。今年中はちょっと帰れそうもない」

「ええッ、で、でもエルちゃんが…」

「うむ、私も会いたい。どうだ、クリスマスに二人で香港に遊びに来ないか」

「香港…?」

 しばらくの間、美果は絶句していた。



    三十六、香港ブルーナイト


 二人が成田を発ったのは12月23日、つまりクリスマスイブの前日であった。

 空港は年末年始を海外で過ごす人々で混雑していたが、地上を離れて

窓の下に雲が広がっている景色を眺めていると、嘘のように開放された

気分になった。

「ママ、おまんこ濡れてこない?」

 エルが、耳もとでウキウキとささやく。

「ウチ、たまんない。空に浮いてると気持ちまでヘンになっちゃう」

「シッ女王様、聞こえるわよ」

 周囲の客が妙に旅なれた感じで週刊誌など読んでいる。美果はあわてて

唇に指を当てた。

「いいじゃない。本当のことだもん」

 屈託もなく笑って、エルは夢を見るような視線を窓の外に向けた。

「今ごろは、パパ待ってるかなァ。おチンボ立ってるかしら…」

 横顔に、若い性欲が満ち満ちていた。

 エルがオナニーするのを止めて、ちょうど一週間になる。

 あれから、美果は親鳥が雛を育てるようにエルを磨いた。それが、変態で

あるがゆえに貞操を捨てた妻が、夫に償うことのできる唯一の方法であった。

「ママ、気持ちいい…」

 陰毛の周囲を丁寧にけずって、ハート型に整えてやる。土手のムダ毛を

落とすと、深く切れ込んだワレメの線がくっきりと浮き彫りになった。

「ウゥンッ、イキたくなっちゃう!」

「我慢して、もうすぐパパが帰ってくるんだから…」

 クリトリスに美肌用の乳液をスリ込みながら、美果は嬰児をあやすように言った。

「お願いね、イクのはその時にして…」

 夫の茂之から電話が入ったのは、ちょうどそのときである。

 エルと一緒に香港に来い…、

 美果は、一瞬息をのんだ。年末は忙しいので帰国できないというのだが、

これまでの茂之のやり口からして、ただの観光旅行である筈がなかった。

 いったい、そこに何があるのか…。

 そうかと言って、エルをこのままにしておくわけにもゆかなかった。

「女王様、パスポート持ってる?」

 電話を切って、美果はそっとエルの陰毛を撫でながら言った。

「うん、ハワイなら行ったことあるよ」

 それが、つい二日前の出来事である。

 エンジンの音が、微かなバイブレーションになって座席に伝わってくる。

 エルが言ったとうり、先刻からパンティが少しづつ濡れはじめていた。

美果は、さり気なく座っている腰の位置をずらした。

 夫を追って、性欲の塊りになった女王様と一緒に逢いに行く…。

 美果にとって、それは嫉妬を超え、夫婦のかたちを破った猥褻で苛酷な

精神的被虐遊戯だったのである。

 しばらく海の上を飛ぶと、やがて眼の下に白いコンクリートの街が見えてくる。

翼が山の端をえぐるように旋回して、ジェット機は香港の啓徳空港に降りた。

わずか3時間半の空の旅である。

「タキザワさんか…?」

 税関を通って入国ロビーを出ると、いきなり後ろから声をかけられた。

振り向くと、いかにも中国人らしい輪郭のズングリした男が立っている。

「マスターが待っています。案内するよ」

 乗せられたのは、会社の車らしい黒のリムジンである。

 街は年末の雑踏でごったがえしていたが、それでも繁華街のホテルに

着くまで30分とはかからなかった。狭い東京に比べてもっと狭い、人口の

密集都市なのである。

 男は待っていると言ったが、ホテルに着くと茂之はまだ来ていなかった。

 朱と緑に彩られた中国風のホテルで、部屋はゆったりとしていたが、

気がつくとベッドはシングルである。何故か、美果は急に不安になった。

 部屋に入って5分もしないうちに、電話が鳴った。男が受話器を取って、

すぐにこちらを向いた。

「エルさん、どっち?」

「あ、ウチだけど…」

「マスターが下で待ってる。すぐに行ってください」

「エッ、ママは…?」

「心配ないよ、私がついてる」



 男は、ニヤニヤと笑いながら言った。

「あなた、マスターの女ね。早く行ってください」


「ママ、ど、どうしよう」

「いいの、エルちゃんだけ行って…」


 夫が部屋に入って来ないのは、自分に会うのを避けているためであろう。

美果は、奥歯を噛むような思いで言った。

「せっかく迎えに来てくれたんだから、うんと可愛がってもらわなきゃ駄目よ」

「うん…」

 エルは、ちょっと済まなそうな眼で美果の顔を見た。

「じゃ行ってくる。ママも後からおいで…」

 だが、それがエルの声を聞いた最後だったのである。若い肉体に性欲を

いっぱい溜めた美畜は、それきりこのホテルに戻ってくることはなかった。

「あなた、太太(奥さん)だね。私、陳といいます」

 エルが残していった旅行ケースを片隅に押しやりながら、男は謎のような

笑いを浮かべた。

「香港は、初めてですか」

「はい」

「ゆっくり観光してください。私、これから案内するよ」

「ええでも、今日は疲れてるから…」

「マスターが、ぜひ見ておきなさいと言ってる。一緒に行きましよう」

 声に嫌おう言わせない響きがあった。

 着いたそうそう休むヒマもなく、陳に連れられて美果が街に出たのは

それから30分後のことであった。

「すぐ近くよ、歩いて行きましよう」

 街の灯は、眩いほどきらびやかだった。まして明日は聖誕前夕である。

 それぞれの店が東京のデパートの二倍も明るい。黄金の腕輪をズラリと

並べた宝飾店、ロレックス専門の高級時計店…。

 陳はそんな観光客用の店には見向きもせずどんどん先を行く。角を幾つか

曲がって細い道に入った。

 路地というより、ビルの谷間である。

「ここです」

 新宿の歌舞伎町ならとっくに取り壊しになっている古ぼけたビル…。

コンクリートの壁が剥げた暗い階段を上ると、二階のドアの前に立っている

男に何か話しかけて、陳が金を渡すと男は無言で道をあけた。

 内部は真っ暗といって良いほど暗い。

 眼をこらすと、広さはせいぜい5メートル四方くらいしかなかった。

古い映画館から持ってきたような劇場用の椅子が三列ほど並んでいる。

正面に黒い布地を垂らして、それが簡単なステージになっていた。

 椅子には人影が3・4人見えたが、いづれも外国人である。

「ここにいらっしゃい。良く見えるよ」

 陳が一番前の席をとって美果を招いた。

 客はそれだけで場内はガラ空きである。それでも採算がとれるのか、

番人の男がギイッとドアを閉めた。

 席の後ろから、古風なスポットライトがステージを照らす。

 何の前ぶれもなく、突然腹の出た中年の男とそれほど若くない女が

二人登場した。いずれもドイツ系らしい白人である。

 男が黒幕の影から角材で作った木枠のようなものを引っ張り出すと、

女をくくりつけ、もう一人の女の衣服を脱がせにかかった。

 固い椅子の上で、美果は身動きすることができなかった。まるで、尻の穴が

縮むような恐怖である。やっていることは見世物のようなSMショーらしい

のだが、周囲の雰囲気があまりにも異様だった。

 音楽もない不気味なステージに、ただ一基の照明が女の白い肉体を

照らし出す。裸にされて、半分宙吊りのようなかたちで木枠にぶら下がった

女の腕のつけ根を見て、美果はゾッとして眼をつぶった。

 陰毛は無いが、腋の下に茶色の濃い腋毛を持っている。それがもの凄く

卑猥だった。

「オゥゥ、オゥゥ…ッ」

 二人とも裸にすると、男が先端にヘラがついた乗馬鞭で宙吊りにした

女の尻を叩く。女はオーバーな悲鳴を上げたが、力はそれほど入っていない

ようであった。

 ひとしきり鞭打ちが終ると、男が鎖と鉄の分銅のようなものを持ち出す。

 場内を見まわして美果が女だと判ると、男はオウ…と両手を広げた。

それからゆっくりと近づいてきた。

 ステージに引き出されるのではないか…、

 美果は、背筋が凍りついたようになった。男は手振りでしきりと美果に

手を出すようにと言っている。おそるおそる掌を上に向けると、その上に男が

ズシンと鉄の分銅を乗せた。

「OK…?」

 かなりの重さである。黙っていると、男は美果の手から分銅を取って

半吊りになっている女の股間に置いた。


<つづく><もどる>