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一、歪んだ映像
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「これ、お願いします…」
顔をそむけて、香代は棚から抜き取ったビデオのケースを急いでカウンターに
置いた。
午前1時…、まもなく閉店の時間である。
店にはもう誰もいない。香代が最後の客であった。
受付けの女の子が無愛想に渡してくれたテープを掌で隠して、香代は逃げるように
その店を出た。
郊外の私鉄の駅の、商店街のはずれにある小さなビデオショップ…。
深夜の客が絶えた時間を狙って、それとなく眼をつけておいたアダルトビデオを
素早く借り出す。香代にとっては大変な勇気の要る冒険であった。
店員が男だったら、恥かしくてとても出来なかったろうと思う。
線路づたいの道を小走りに自分の部屋に戻ると、香代はホッと肩で息をついた。
部屋はマンションのワンルームで、シングルベッドのほかに、食卓兼用の勉強机と
本棚がひとつ、それに小型のテレビがあるくらいで、いかにも学生の部屋らしく
簡素で清潔に整っていた。
何か悪いことをしたあとのように、心臓がまだドキドキと鳴っている。
ベッドに腰を下ろして、香代は手早く上着とスカートを脱いだ。
いま、大学の一年生である。
3階なので、外から覗かれる心配はなかった。大胆にブラを外すと、なめらかな
チーズ色の乳房が盛り上がって、乳首がピンと上を向いている。
女独りの部屋ではべつに裸を隠す必要もなかった。
早く見たい…、
パジャマに着がえる前に借りてきたばかりのテープをセットして、テレビの
スイッチを入れた。
「ギャッ、ウワァァ…」
いきなり異様な女の悲鳴が噴き出して、あわててボリュームをしぼる。
『緊縛女体調教・牝蝶の乱舞』
続いて、おどろおどろしい字体でタイトルが浮かび上がってきた。
「やめてッ、許してください」
「それじゃお前さん、借りている金を持ってきたのかね?」
「待って、近いうちに必ず返しますから…」
「駄目だ。今日中に払えなければその身体と引き代えだっていう約束を
忘れたのか」
「ひぇぇ…ッ」
古い座敷で女が二人の男に前後を挟まれてもがいている。
借金を返すことが出来なくなった女が、ヤクザの社長とその子分に責められている
という筋書きである。
「おい、こいつを可愛がってやれ」
「かしこまりました。やい、おとなしくしやがれ」
子分が腕を捩じると、とたんに女はけたたましい悲鳴を上げた。
今どき、現実にこんなストーリーがある筈もないが、パンティ一枚でベッドに
横になったまま、香代は瞬きもせず淫靡な画面を見つめた。
何という奇妙な快楽の世界だろう…、
衣服をむしり取られた女が乳房を露出して後ろ手に縛られている。演技とは
言っても、それは人間の女というよりメスの肉体を持った猥褻な玩弄物であった。
「いい身体してるじゃねえか。金が返せなければどういうことになるか、
覚悟してきたんだろうな」
子分の男が、これでもかという具合に股をひろげた。
「ヒィィ…ッ」
女が卑猥な嬌声をあげて腰を跳ねる。
肝心の部分は濃淡の四角いモザイク模様がかかっていて見えなかったが、
社長が男根に似た大人のオモチャを持って、女の性器に突っ込むと、ヴィーンと
微かな音がして、とたんに女が白眼をむいた。
「社長なかなか上手ですね。この女タップリと感じてますぜ」
「そうか、イキたければ思う存分イカしてやろう」
社長が男根のオモチャを動かすと、その度に女がのけ反って、
淫らな悲鳴を上げる。
「ア、アァ…ッ」
固唾を飲んで画面を見つめながら、香代はパンティの上から無意識に自分の
柔らかい部分を掴んだ。
ビクッと、奥の括約筋が反応する。
ビデオと一緒になって興奮しているわけではないが、何故か身体の芯が
異様な感覚で痺れるのである。
演技に魅せられているのではなかった。香代が感じているのは、
人権を失った女に対する一種の憧れである。
まるで品物のように人間扱いされていない女の映像が、異常な香代の性欲と
二重写しになっていた。
もっと酷くやって…!
ビデオの女に向かって、香代は心の中で叫んだ。犯られるなら徹底的に
いためつけられてほしい。
パンティをワレメに食い込ませて、香代は少しでもその女の感覚に
近づこうとした。
「ワッ、助けてください…ッ」
女が、真に迫った叫び声を上げた。
男たちが、火のついた蝋燭を何本も持って縄でくびれた女の肌に垂らしている。
溶けた蝋の雫が乳首や臍のまわりや太腿など、ところ構わず赤い斑点を描いた。
「熱いッ、ギャ…ッ」
雫が垂れる度に、くびれた筋肉がヒクヒクと痙攣する。
これは演技ではなかった。女が身をよじってのた打ちまわる苦しみが、
そのまま伝わってきた。
「アッ熱いッ、いくゥ…」
女は尻を高く上げて、背中に蝋を垂らされながら後ろから男を受け入れていた。
相変わらずモザイクがかかっていて実態は良くわからないが、性器のあたりが
どうなっているか、大体の想像はついた。
「もっと狂え、存分にイッてみろ!」
「ウゥゥ…、イッ、イッちゃうッ」
眼を吊り上げて、唇から泡を吹いた女の顔がクローズアップになった。
本当にイッてる…!
自然に、指がクリトリスを這った。このままでは、ひとたまりもなく
イッてしまいそうである。
いけない…、
ビデオはまだ続いていたが、ノロノロと起き上がって香代はパンティを脱いだ。
ワレメに食い込んでいたところを広げてみると思ったより濡れていない。
陰毛は多いほうではないが可憐な卵型に生え揃っている。指先でそっと肉唇を
ひらくと、クリトリスが赤くなって表皮が剥けるほどボッキしていた。
まだ、処女なのである。
それでも、ときどき疼くような性欲に身を灼かれることがあった。
そんなとき香代は決まって虐げられる女の幻想を胸に描いた。オナニーしたい
衝動を抑えて奇妙な自虐の快楽に耽る。変態ビデオはその前戯なのである。
素裸のまま、絨毯に膝をついてベッドの下に腕を入れる。引っ張り出したのは
あちこちに結び目がついたロープの束である。
立ち上がって、香代は二つ折りにしたロープを無造作に首に掛けた。
背中に長く垂らして、股の間から前にまわす。ちょうど胸のあたりで先端の輪に
なったところにロープを通すと、うつむいて少し脚をひろげた。
締め具合を調節して、ワレメがしっかりとロープを噛んでいることを確かめると、
香代は思い切って両手に力を入れた。
「うぅむ…」
クリトリスが捩じれて、灼けるような感覚が背筋を走った。
歯を食いしばって、香代は残ったロープでウエストをギリギリと締めた。
それから何本もロープを使って、縦縛りになった身体を俵を締めるように
菱形に編み上げてゆく。誰に教えられたわけでもなく、自分で考え出した
自縛の方法である。完成させるまでに二十分近くかかって、香代はよろめくように
ベッドに倒れ込んだ。
顔だけ上げてビデオを覗くと、イカされたあとの女が、ぐったりした様子で
後ろ手に柱に縛りつけられていた。腕を背中にまわすことは、縛られるときの
基本である。それが自分では出来ないことが香代は口惜しかった。
画面を凝視しながら、香代は異様な嫉妬を感じた。
いったい、どんな気持ちなんだろう…、
撮影の現場では、カメラマンや照明係などのスタッフが見守っているに違いない。
そんな男たちの前に性器をさらして、蝋燭やバイブレーターで無理やりイカされて
いる女が羨ましかった。
この女のように、恥ずかしさの限りをつくして犯されてみたい…。
締め上げたクリトリスが、ジンジンと脈を打っていた。
セックスの奴隷になって、けだもののように差別され、虐待されることに
異常な歓びを感じる。香代は、自分が生まれながらのマゾヒストだということに
ようやく気づきはじめていた。
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二、幼女淫事体験
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香代が、自分の身体に異変が起きはじめたことに気づいたのは中学2年…、
十四才の秋であった。
「イヤ、どうしよう…」
浴室で、香代は途方に暮れたように身体を洗う手を止めた。
覗き込んでみると、細くてワリと真っ直ぐな毛が、いつの間にか3センチほど
伸びている。まだ密生しているという感じではなかったが、間違いなくこれは
陰毛である。
「とうとう生えてきた…!」
何か悪いものを見たような気がして、香代はあわてて足を閉じた。
大人になるための知識はそれなりに持っていたが、自分の内部で、それが確実に
進行していることが恐ろしかった。
実をいうと、香代がそんな気持になるのには理由があった。
小学校6年生のとき、その日は朝から下腹が重くて学校を休もうかと思った
くらいなのだが、3時間目になって腰掛けている椅子の感触がおかしいことに
気づいた。
何かを洩らしたようにパンツの中が濡れている。授業中なので立ち上がって
確かめてみるわけにもゆかず、しばらくそのままで我慢していた。
休み時間になって、椅子から立ち上がったとき、最初に気がついたのは後ろの席に
いた男の子である。
「香代ッ、おめえ血がくっついてるぞォ」
エッ…、周囲の友達がいっせいにこちらを向いた。
「ほんとだッ。何だよォ真っ赤…」
「汚ッたねえ、わァァ」
たちまち悪ガキどもが寄ってくる。
彼らはそれが女の子に特有のものだということをウスウス知っているのだ。
「止しなさいよゥ。あんたたちッ、向こうむいて…ッ」
生徒委員をやっている大場早苗が金切り声をあげた。大柄で、そろそろ乳房の
膨らみが眼につくようになった女生徒である。
先生がとんできて、立すくんでいる香代をかばうように教室から出して保健室に
連れていってくれた。
「アラアラ、近ごろの子は早いのねぇ」
保健の先生は気さくなおばさんだったが、香代の様子を見ると、笑いながら
無造作にスカートを捲った。
「足、広げてごらん」
立ったままパンツを脱がせて、濡れタオルで内股にこびりついた血を拭きとる。
それから半年ほど前に女の子だけで授業を受けた生理の話をもう一度繰り返して、
ワレメにナプキンを当てた。
「家に帰ったら、お母さんに話さなきゃ駄目よ。お母さんはほめてくれるよ」
パンツの代わりにガーゼのT字帯でナプキンをおさえて、先生は血のついた
スカートを器用につまみ洗いしてくれた。
「大丈夫だからね。まだ濡れてるけど、すぐに乾くから…」
「………」
うなだれて保健室を出ると入口のところに担任の先生が待っていた。
まだ若い男の先生である。
「どうする、早退するか…?」
香代は首を振って、あわてて目尻に溜まっている涙を拭いた。
教室に戻ってからも、クラスの全員に見つめられているような気がして顔を上げる
ことができない。クラスにはもう生理を知っているらしい女の子もいたが、
先生も生徒委員の大場早苗もそれきり何も言わなかった。
ときどき、啖のような生温い塊りがヌルッと落ちてくる。生理の時間で教えられた
知識とはだいぶ違う、もっと動物的なナマナマしい感覚である。
「おい、香代…!」
先生が黒板のほうを向いているとき、急に斜め前の席からボスの竜太が
振り返った。
「授業が終ったら、プールの下に来い」
「………」
黙っていると、竜太がもう一度振り返って早口で言った。
「逃げるンじゃねえぞ。わかったな?」
香代は、黙ってうなずくよりほかになかった。
これまでにも、身体に触られたりスカートを捲られたりしたことが何回もある。
イジメというより、香代は本能的に竜太が怖ろしかった。
行けば何かされるに決まっている。行かなかったら今日のことをタネにして
またスカートを捲られるに違いない…。
どちらにしても、竜太に生理になったのを見られたことが恥ずかしくて、
断ることができなかったのである。
放課後…、
みんなと一緒に校門を出たが、忘れ物をしたと嘘を言って引き返すと、
香代は一人でプールの横に行った。
イタズラされるとわかっていても、何故か行かずにはいられないのだ。
心のどこかに、奇妙なときめきがあった。あるいは、早くも被虐の衝動が
芽生えていたのかも知れない。
プールは校庭のはずれにあって、そこだけ少し高くなっている。反対側は金網の
フェンスに囲まれた小さな土手であった。
「香代、こっちだ」
ビクッ…、として足を止める。
土手の奥を覗くと、竜太が子分のマサルと二人で待っていた。
同じ6年生だが、身体はマサルより竜太のほうがひとまわりデカい。鼻の下に
ウブ毛の髭みたいなものが生えていて、同級生といっても身体は香代より
ずっと発育していた。
「おめえ、マンチョから血が出たんだろ」
竜太は好奇心いっぱいの眼を光らせながら言った。
「見せてみな。どうなってンだ」
「キ、汚いよ、そんなもん…」
尻込みして、香代は自然にうわずった声になった。
「いいじゃねえか、見せろ。誰にも言わねえからよ」
いつもの悪ふざけと違って真剣な眼をしている。足がすくんで、香代は動くことが
できなかった。
「早くマンチョ出せッ」
マサルが調子に乗って、いきなり後ろからスカートに手をかけた。
「ウェ…ッ」
両足を揃えて棒立ちになったまま、香代は顔を歪めた。
「へえっ、おめえパンツ穿いてねえのかよ」
まだ女になっていない、人形のような下腹に食い込んだガーゼのT字帯を見て、
竜太はマジマジと下腹部を凝視している。
「それ、何くっつけてんだ」
「………」
恥ずかしさに金縛りになって、泣くことも叫ぶこともできない。それは一種の恍惚に
似た神経の痺れだった。
「貸せ、こっちに出してみろ」
「ココ、コレ…?」
小刻みに震える指先で、香代はほとんど無意識にT字帯をはずした。
ひったくるようにナプキンを奪うと、竜太はひと眼みて奇声をあげた。
「エッどうした…?」
覗き込んだマサルが、アッと息をのんだ。
「血だ、血がついてら…」
「香代、これどっから出たんだ」
竜太が問い詰めるように言った。
「ワ、わかんない」
「ふうん…」
竜太はナプキンに染み込んだ経血を見つめながら、感心したように言った。
「おめえ、ぜんぜん痛くねえのかよ」
痛くはないのだが、貧血を起こしたように頭の中が真っ白になって、立っているのが
やっとである。
「ちょっと、なかを見せろ!」
「エッ、イヤァ」
香代は、みるみる泣き顔になった。
「見せるだけじゃねえか、良いだろう」
マサルが後ろから背中をこづいた。よろけるように土手に両手をつくと、いきなり
足首を掴まれて仰向けになる。
「いいか、先公に言うんじゃねえぞ」
「ウッ、ウゥ…」
泥だらけの手で、マサルが太腿を抑えつけると、竜太が指でツルリとした
感じの陰裂をあけた。
「凄ッげえ」
内側の肉の凹みに黒ずんだ血の塊りが溜まっている。だがクリトリスは
まだ小さくて、穴の様子は良く判らなかったようだ。
「おめえ、いまに毛が生えてくるぜ」
肉唇のまわりを撫でまわしながら、竜太は妙に感動した声で言った。
「こういうのが出ると、女はおマンチョ出来るんだってよ」
だが少年は、自分にはまだその資格がないことを本能的に知っていた。
「いいか、毛が生えたら俺ンとこに来い。マンチョしてやるからよ」
「ウ…、ウン」
「約束だぞ、ほかの奴とヤッたら承知しねえからな」
香代は、このとき二三度うなずいたことを今でも記憶している。
「おいマサル、行こうぜ」
ナプキンを戻すと竜太は逃げるように駆け出していった。プールの土手で、
香代はしばらくの間ぼんやりと転がっていた。
竜太が初恋の男になったのは、このときである。
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