7、淫語インタビュー
隣の部屋にできた急造のスタジオに入るとき、香代はさすがに
足が震えた。
内部は6帖と4帖半をブチ抜いて、粗末な椅子とテーブルが
おいてある。調度品らしいものはそれだけで、テーブルの上に
申し訳けのように一輪挿しの花瓶がのっていた。
「あの椅子にかけな」
言われたとうりにすると、2台のカメラが黒い生き物のように
香代のほうを向いた。
スタッフの男4人の内訳は、カメラマンが2人、照明係が1人、
ADと言えば格好は良いが、早い話が雑用係の助手が1人…。
みんな、けっこう真剣に作業と取り組んでいる。
香代はちょっと妙な気がした。あとは綾子と監督の神谷吾郎しか
いないのである。
いったい、誰に犯されるのだろう…?
不安そうにあたりを見まわしたとき、突然神谷が鋭い声で言った。
「お前、バージンだっていうのは本当かい」
「エッ…」
「返事をしろっ。処女か処女じゃねえのか」
「しょ、処女です」
「好きな男くらいいたんだろ?」
「えッ、はい…」
「そいつとは、おまんこやったことねえのかよ」
「あ、ありません」
「どうしてヤラせなかったんだ?」
「だってまだ子供だったし、それに…」
ハッと気がついて、思わず舌がもつれそうになった。
撮影はもう始まっているのだ。
監督はドキュメントタッチでいくと言ったが、神谷吾郎が質問者になって、
これは奇妙なインタビューなのである。
「しっかりカメラのほうを向け、顔が見えねえじゃねえか!」
「はは、はい」
香代はオズオズと視線を上げた。
気がつくと、部屋の隅にあるモニターテレビの画面一杯に自分の顔が
映っていた。まるで、借りてきたビデオで初めて見る女のような感じである。
「名前と年令を言ってみろ」
「サ、桜井、香代です。19才…」
画面の女が少しどもりながら答えた。唇が小刻みに震えている。
「お前、マゾだっていうじゃねえか。嘘じゃねえんだろうな」
「判らないけど、そ、そうじゃないかと…」
「何か、心当たりでもあるのかい」
「いえでも、小さいときからイジメられてましたから」
「初恋の男はサディストか、それで好きになったんだな」
「そ、そんなことないけど…」
「それじゃ、そいつとセックスできなかったのが悔しいだろう」
「………」
香代はふと涙ぐんだような眼をした。一瞬だが竜太の面影が
頭をよぎったのである。
その気持を弄ぶように、神谷が残酷な調子で話題を変えた。
「お前、今日はこれから処女を奪われることになるんだが、それでも
良いんだな?」
「あぁッ、はい」
「よし。マゾならマゾらしく、カメラに向かって挨拶しろ」
「えッ、どんな…」
「決まってるじゃねえか。初恋の彼氏にお別れの言葉を述べるんだよ」
凄まじい、精神的な拷問である。
「わ、わ、私…」
「しっかりしろっ、ノーカットで撮ってるんだ」
香代は、自分がいまビデオの画面の中にいることが信じられなかった。
過去と現在、現実と妄想がごちゃ混ぜになっていた。
「竜ちゃん…ッ」
突然、演技とはかけ離れたナマナマしい感情が噴き出してきた。
「ごめんね、ごめんね。わ、私…、これからどうなるかわかんないのよ」
香代はひと息に言葉を吐いた。
「約束破って悪いけど…。私のからだ、おかしいの。何だか竜ちゃんとは
違うのよ。もっとイジメて欲しかったけど、おもちゃになりたかったんだけど…」
「なに言ってるんだか意味が通じねえな」
監督が苦笑いしながら言った。
「まあいい、要するに今日かぎり自分の肉体を放棄するってことだ」
「は、はい」
「人権は認められていねえんだぜ。わかってるだろうな」
「はい…」
クリトリスの痺れが、背筋を伝わって脳天まで衝き上げてくる。
香代は、必死で笑顔を作ろうとした。
「自分で、着ているものを脱いでみろ」
神谷が冷酷に次の命令を下した。
「カメラの前で、間違いなく処女だってことを証明するんだ」
上着の前ボタンを外す指先がブルブルと震えた。
ブラジャーを取るとカメラが一台スルスルと前に寄ってきた。
モニターの画面に、驚くほど巨大な乳首がクローズアップになった。
滑めらかなクリーム色の曲線の頂点に、溶けたキャラメルのような
突起が盛り上がっていた。自分では絶対に見ることができない角度である。
「ほう、乳首がボッキしてるじゃねえか」
監督が、モニターを覗きながら言った。
「意外に好きモノだな。この分じゃ中はベタベタだぜ」
写し出されているのは、別人のような女の肉体である。
それを横目で見ながら、香代は震える手でスカートを下ろした。
パンティは初めから穿いていない。
画面には先刻メイク係の綾子が卵型に整えた陰毛が鮮明に
写っていた。カメラの眼が、身体の線を舐めるように移動する。
恥ずかしさを感じている余裕はなかった。
「裸になったら、テーブルにあがってケツをこっちに向けろ」
催眠術にかかったように、香代はテーブルによじ登った。狭いので、
膝をつくと背中を丸めて蹲るのが精一杯である。
「もっと尻を上げろっ」
膝を立てると、嫌おうなしに栗色の肛門が露出する。その下に、
淫ら貝の湿った肉の合せ目が膨らんでいた。
カメラが至近距離で、斜め下からその光景を凝視している。
「奥のほうまで見えるように、自分でワレメを拡げてみな」
「ウェェ…」
この姿勢で、どうやったら良いのか…。
狭いテーブルの上で、香代は傷ついたアザラシのようにもがいた。
乳房の弾力で上半身を支えて、腕を後ろにまわすと尻たぶの肉を
掴んで夢中で左右に広げた。教えられたわけではないが、それ以外に
方法がなかったのである。
「見、見えますか…?」
息が苦しいのか、香代は顔を真っ赤にしてあえぐように言った。
「上等だよ。バージンは保証つきだ」
肉唇が割れて、盛り上がった粘膜の真ん中に、ポコッと鉛筆が
入るくらいの穴があいている。
「おい、処女膜をうまく撮っておけよ」
監督が、カメラマンに声をかけた。
「こんなのは滅多に見られねえからな。いい記念になるぜ」
「アゥゥ…ゥ」
それは倒錯した奇妙な恍惚であった。羞恥を超えた淫虐の炎に
焼かれて、香代はほとんど夢遊状態になっていた。
「オーケイ、カット…!」
綾子がかけ寄って、生きた標本をテーブルから下ろす。それから
べっとりと額に滲んだ汗を手早くガーゼで拭いた。
「おい綾子、座布団もってこい」
「エッすぐやるの?」
綾子が気の毒そうに言った。
「可哀そうじゃない。少しは休ませてやったら…?」
「そうはいかねえよ。こいつ、まだ何もやられちゃいねえんだぜ」
たしかに、香代はまだ性器には指一本触られていないのである。
「お願い…、します」
香代は、ウワごとのように言った。
「は、はやく犯して…」
クリトリスがズキズキと脈を打っていた。ひと思いに加虐の檻の中に
投げ込んで欲しい。神経を刻まれるような淫語の責めにあうより、
滅茶々々に犯されてしまったほうが返って楽であった。
「ふむ、それじゃ続けて本番といくか…」
綾子が、持ってきた座布団を二枚重ねてテーブルの上に敷いた。
「ホラ、今度は反対向きだ」
仰向けにすると、神谷が四本の脚にそれぞれ別々に手足を
縛りつける。テーブルは肩から腰までの長さしかなくて、ガックリと
首を垂れると顎が天井を向いた。
乳房がピンと張って、ほとんど脂肪を蓄積していない腹筋が、
美事な曲線を描いて女体の若さを象徴していた。
曲線が尽きるところに、恥骨の膨らみが柔らかな陰毛を乗せて
盛り上がっている。
「いい眺めだ、タップリと楽しめるぜ」
文字通り、まな板の上の鯉である。
8、無惨な映像
「こいつにも画が見えるようにしてやれ」
監督の指示で、モニターのテレビが頭の前に据えられると、香代は
逆さになった自分の顔とマトモに向い合うかたちになった。小さな箱の中で、
もう一人の香代が焦点のない視線でこちらを見つめている。
鏡に写っているのと違ってまるで人形を見ているような感覚である。
これが、自分なのだろうか…。
香代は、不思議な動物を眺めるように画面の女を凝視した。
「どうだ、面白いだろう」
神谷がカメラマンに眼くばせしながら言った。
「どんなポーズになっているか、自分で確かめてみろ」
カメラがゆっくりと後退すると、テーブルに弓なり…、というより
逆Uの字にくくられた女の全景があからさまになった。
ちょうど、空中でリンボーダンスを踊っているような状態である。
白い肉体が宙に浮いて、腹を上にして反りかえっていた。
「女になる瞬間を確認させて貰えるなんて、お前は幸せ者だな」
やはり、この人に犯されるのだ…、
性器を調べられたときから、香代の胸の中には神谷に対する
おそろしい期待のようなものが生まれていた。それが現実になるのだと思うと、
香代は無意識に身をもがいた。
「ウゥゥ…」
縛られた手足はほとんど動かすことができない。その代わり、
画面の女が胸から下腹にかけて喘ぐように波を打った。
「気をつけろよ、暴れると腕が抜けるぜ」
ピシッと鞭が偏平な腹を叩いた。
「ヒッ」
鋭く刺すような衝撃を感じて、香代は唇を噛んだ。
ピチッ、バチッ…、
画面の女が、ヒクヒクと筋肉を痙攣させている。叩かれているのは
もちろん香代自身なのである。現実と、ビデオの画面が同時進行していた。
「こっち側から撮ってみな」
神谷が、太腿をピタピタと鞭で叩きながら言った。
「傷がつかないうちに、最後のご対面をさせてやろう」
カメラが足もとにまわると、無惨に拡げた太腿のつけ根に、ザックリと
斧で割ったような裂け目が口をあけていた。臘細工のような周囲の肌に
比べて、そこだけ深い陰影がついて色が変わっている。
「よく見ておけよ。ここにお前のマゾの虫が棲んでいるんだ」
カメラが接近して、モニターの画面に淫靡な肉の裂け目が
大写しになった。何か異様な生物に出会ったように、香代は
自分の性器を見つめた。
割れた肉のはざまに、充血した粘膜が膨らんでいる。クリトリスの表皮が
剥けて、先端からピンクの粒が飛び出していた。
幼いころ、それはただ一本の細い縦の線だったのである。男には
まだ触れていないが、女の肉体が成長するにつれて猥褻に変貌する
有様を、まざまざと見せつけられる感じだった。
「アッ、アフ…ッ」
鞭で下腹を叩かれると、とたんにクリトリスが収縮して内側に
まくれ込むような動きを見せる。
「ほう、もう感じてるのか…?」
神谷が、相変わらずねちっこい調子で言った。
「これじや、イクことを覚えるのも早いかも知れねえな」
そのとき、突然ガタンと音がして、部屋のドアが開いた。
「アッごめん、本番中…?」
「マユミか、遅かったな」
「うん、バイトが忙しかったもんで」
入ってきたのは、どうやら若い女であるらしい。
「どうなの、この子…」
刺激を中断されて、朦朧としている香代の様子を窺いながら
女が低い声で言った。
「スッゴク興奮してるみたいじゃない」
「うむ、マゾってのは大体こんなもんさ」
神谷が、パチンと乳首に鞭を当てながら言った。
「ちょうど始めようと思っていたところだ。本格的な責めはこれからだよ」
「さーすが、先生プロだわねェ」
香代は、霞みがかかったような意識の隅で二人の会話を聞いていた。
「処女だから、最初からイクかどうか判らんがね。マユミもやってみるか?」
「やっぱりバージンだったの。初めからそんな感じだったけど」
アッ…!
香代は、全身に鳥肌が立ったような気がした。
マユミと呼ばれたのは、おそらく、駅前の貸ビデオ屋でカウンターにいた
無愛想なアルバイトの女店員である。なぜ神谷に通報したのか理由が
わからなかったが、彼女自身が変態だったとすれば、すべての話がつながる。
やっぱり、そうだったのだ…!
まだ穢がされていない被虐マニヤの女子大生が、深夜ひそかに
変態ビデオを借りにくるのを知って、マユミはカウンターの中で
舌なめずりをしたに違いない。
小刻みに、身体が震えた。
本人を確かめてみようとしても、この姿勢では視線が届かなかった。
モニターを見たが女の姿は写っていない。香代が、テーブルから
ハミ出して仰向けになった首を無理に起こそうとしたときであった。
ピシィ…ッ!
突然、眼の前が真っ赤になって乳房に灼けつくような痛みが走った。
反射的に身体が跳ねたが、ガクガクと頭が揺れただけである。
ヒュウッ…、
間髪を入れず、続けざまに鞭が空気を切る音が聞こえた。
「ヒィィィ…ッ」
避けることも逃げることもできない。これまでの鞭とは違った
鋭さである。振り下ろされる度に、皮膚が裂けるような衝撃があった。
「止しなさいよゥ、怪我するわよ」
見兼ねたような綾子の声が聞こえた。
「退いてッ、危ないよ」
火の球で打たれるようなショックが全身で弾けた。たちまち、乳房と
臍のまわりに血の滲んだ条痕が幾筋も浮かび上がってきた。
ビシャッ…、
釣竿のように弾力のある棒鞭の先端が容赦なくクリトリスの上に飛んだ。
「ギャアッ」
身動きの取れない肉体が、テーブルの上でビリビリと震える。
ヒュッ、ビシャッ…!
「ウゥゥ…ンッ」
縛られたまま、内股の筋肉が激しく硬直する。見る見るうちに
粘膜が腫れ上がって、無惨に膨らんできた。
痛さというより、酔ったような神経の痺れに包まれて、香代は
フワッと意識が遠くなった。
「アア快いッ、オナニーしたくなっちゃう」
マユミの奇妙に弾んだ声が、はるか遠くで聞こえた。
何かがくる…!
朦朧とした意識の底で、香代は、本能的な恐怖を感じた。
何か恐ろしいものが迫ってくるような予感である。
カッと眼をひらくと、テレビの画面一杯に女の性器が写っていた。
だがそれは一瞬で、赤黒い肉塊が突然その前に出現する。
「ギェ…ッ」
タラコのようになった肉ベラを圧し潰すように、丸い頭の部分が、
真ん中の凹みをこじ開けてブチッと姿を消した。
「ハイこれが、女になった瞬間です」
神谷が、まるで他人事のように言った。
「マゾになるための聖なる儀式です。少しぐらい痛いのは我慢しましよう」
それは明らかに、このビデオを見る連中のためのセリフである。
「良く締まっています。たまりませんよ」
肉塊は、すでに半分以上メリ込んでいた。
声を上げることができなくて、香代は眼を吊り上げたままその光景を
凝視している。根もとまで捩じ込むように、男が強引に腰をまわした。
引き裂かれるような苦痛の奥に不思議な陶酔があった。
それから10分後、監督の声がすぐ耳もとで聞こえた。
「もう良い、休ませてやれ」
エッ…?
それでは、あれは誰なのだろう…。
香代は、魂が一緒に引き抜かれて行くような気がした。画面に写っている
男が、何の感情もなく肉塊を抜いた。
「ちょっと、駄目じゃない。あんたイッちゃったの?」
マユミがとがめるように言った。
ハッとしモニターを見ると、閉じることのなくなった穴の奥から、薄いピンクの
液体がドロッと流れ出している。
「心配すんな、イッちゃいねえよ」
監督が、無造作に言った。
「女が出したんだ。こう見えてもマゾは猛烈に興奮しているからな」
「へえッ、初めてのくせに…?」
ビックリしたように、マユミが眼をみはった。