9、裏ビデオの女
手足を縛っていたロープを解かれてタタミに放り出されると、香代は
ビクッとバネのように跳ねた。
六人の男と女が、黙ってそれを見下ろしている。
ビクッ…、
「これからイキはじめるんだ。おまんこが人間より進化しているからな」
神谷が、低い声で言った。
「参考のために見ておくといい。マゾの女は自然にこうなるんだ」
ビクッ、ビク…ッ
カメラマンの一人が、あわててレンズを向けた。
一種の痙攣だが、強烈なショックが余韻を引いて、身体の奥から
得体の知れない快感が溢れ出してくる。クリトリスが卑猥なリズムで
収縮を繰り返すと、その度に香代は全身で脈動した。
「相当な変態だわねェ」
マユミが感心したように言った。
変態という言葉を聞いただけで、クリトリスが激しく反応する。
「まだ跳ねてる、本当にマゾなんだね」
これがイクという感覚なのかどうかわからないが、自分の意思では
止めることができないのである。
「ねぇ、そんなに気持ち快いの?」
マユミが真剣な顔になって聞いた。
香代はぼんやりと眼を開けたが、覗き込んでいるのがビデオショップの
女の子だとわかってももう驚かなかった。
「あんた、毎日お店のビデオ借りてオナニーしていたんでしょ」
「は、は、はい…」
「きっとそうだと思ってた。犯されても嫌じゃないの?」
「べ、べつに…」
香代は、またヒクヒクと震えた。
犯されたと言っても、肉体を破った男が誰なのかさえわからないのだ。
それが、香代の異常な性欲をいっそう掻き立てるのである。ここにいる
男たちの誰かなのだが、監督の神谷を除いて撮影中は声ひとつ出さない。
すべてをさらけ出されて彼等の視線の中にいることが、香代には
至福の恍惚であった。
「あんた、パンティ穿きなさいよ」
ようやく痙攣がおさまると、メイクの綾子が預かっていた下着を
足もとに放りながら言った。
「みっともないからさ、もう終ったんだよ」
起き上がろうとして、香代はタタミにつんのめるように俯せになった。
長時間腕を固定されていたので肩に力が入らないのである。
「危ない、しっかりして…」
綾子が後ろから乳房を抱えるように抱き起こす。
「あッ、すいません」
「綾子、ついでにおまんこ拭いてやったら、ほっとくと臭くなるよ」
「エッでも、痛がらないかしら」
「平気よねえ、処女膜なんて風船みたいなもんよ。破られるときは痛いけど
なくなってしまえばどうってことないんだから」
「そうかなァ、私はずいぶん痛かったけど…」
綾子が尻を抱えて、肛門まで垂れた粘液をキレイに拭き取ってくれた。
「すいません。も、もう大丈夫です…」
恥かしさもあったが、また新しい淫汁が滲み出してきそうな気がして、
香代はあわてて身体を起こした。
「可哀そうに、だいぶヤラれてるわよ」
両手で乳房をかかえて、綾子は血がにじんだ鞭の傷をペロッと舐めた。
「酷い目にあって…、ほんとに後悔しないのかしらねえ」
「わ、私、マゾだから…」
「それは判ってるけど。女って嫌ね、こんな物がくっついているからいけないのよ」
掌で火照った肉唇を抑えて軽く愛撫されるとジンジンと身体の芯にひびく。
綾子にはかなり露骨なレズの気があった。
「こんなに腫れてるじゃない、大丈夫?」
「ダ、大丈夫です」
粘膜の奥に、まだ何かが突き刺さっているような異様な感触が
残っている。処女膜が破れた痕を、綾子はさり気なく確認しているようであった。
「こんなことやってると、今にこっちのほうまで犯られるわよ。それでも良いの?」
「ウゥッ」
綾子が指先を尻の穴に当ててズルッと中に入れた。男が犯す前に
自分が最初の侵入者になっておこうとする、レズの女に特有の嫉妬とも
欲情ともつかない性戯である。
「男の人は怖いのよ、太いんだから…」
「仕、仕方ありません」
レズっ気があるわけではないが、綾子に抱かれていると、香代は不思議に
安堵した気分になった。何故か他人のような気がしないのである。
「どうせ変態なんだから、抜けだせるわけがないでしょ」
綾子の楽しみを見て見ない振りで、マユミが言った。
「お店の中じゃ話もできないもんね。直接呼んじゃったほうが早いと思ったのよ」
マユミにしてみれば、神谷に通報したのはべつに悪意でやったことでは
なかったのである。半ば脅迫に近いが、あんな方法を使えば世間知らずの
女子大生は一発で引っ掛かる筈であった。
「先生、いいビデオ撮れたんじゃない?」
監督を振り返って、マユミが甘えた声を出した。
「顔も可愛いし、お店で見たときから彼女もスタッフにしたいと思ったのよ」
「そうだな。良いことは良いんだが、こいつはウラじゃないと使えねえよ」
「どっちだって同じよ、モザイクなんて邪魔だもん」
それは、マユミの言うとうりである。
「ねえ彼女、ウラだって構わないでしょ」
「え…?」
「せっかくの初体験だから、おまんこを皆に見せてさ。そのほうが
マゾらしいわよ」
マユミは、こともなげに言った。
「きっと凄い評判になるヨ。見た人はヨダレを垂らすんじゃない?」
ウラビデオ…、香代はまだそれを一本しか見たことがない。
アアッ…!
どうして、今まで気がつかなかったのだろう…。
香代は、マジマジと綾子の顔を見つめた。ずっとどこかで会ったような
気がしていたのだったが、あの晩、マンションのドアから投げ込まれた
テープで、強姦同様に犯されていた女が間違いなく綾子なのである。
「あ、あの…」
香代の顔色が変わったのを見て、綾子は複雑な笑いを浮かべた。
「私もビデオに撮られたことあるけど、あのときは可哀そうだったなァ」
ビデオでは20才そこそこの女だったが、今では30才を越えて髪形も
変わっている。
「あのときもう処女じゃなかったけど、あんたより何も知らなかったのよ。
酷かったわ」
「ホ、本当のレイプだったの…?」
「うん、その男には簡単に捨てられちゃったけど…」
綾子は、ちょっと遠くを見るような眼をした。
「だけど、今じゃ変態が当り前だもんね。女って変わるものよ」
香代は、綾子の十年間を一挙に見たような気がした。
「あの、今日のことは、私もビデオになって残るんですか…」
「決まってるじゃない、あんた一人で、これから何万人も興奮させる
ことになるのよ」
「えぇッ、私そんな…」
それは胸を衝き上げてくるような不思議な感動であった。綾子に
愛撫されている腫れた肉ベラの間から、ドッと淫液が滲み出してきた。
「やっぱり紹介して良かった」
マユミが、無邪気に笑いながら言った。
「ビデオ見てオナニーしてるだけじゃつまんないじゃない。これから
一緒にやろうよ」
「エッ、はい…」
リーダーの神谷吾郎が中心になって、ここにいるのはみんな変態なんだと
マユミは言った。
自分はS傾向だし、綾子はレズっ気の強いM女である。男のスタッフも
それぞれがSであったりMであったり、奇癖を持っているのだという。
共通しているのは、セックスに関して何のタブーもないことであった。
そう言えばスタッフには、どこかアットホームな雰囲気があった。
変態ビデオの制作という仕事は、彼らにとって、まさに適職なのであろう。
やっていることは異常なのだが、一流の女子大学に籍をおいて、
結婚するまでは処女でなければみたいな偽善に囲まれているより、
はるかに充実していると香代は思った。
「よし、それじゃ歓迎パーティをやろう」
香代が回復すると、神谷は待っていたように残酷な指令を下した。
「カメラは勝手にまわせ。全員が交代でヤッても良いぞ」
「嘘でしよう…!?」
綾子が悲鳴に似た声を上げた。
「この子、ケガをしているのよッ」
「気にすることはねえよ。すぐに馴れるさ」
おい、どうする…?
男たちが顔を見合わせて、互いに牽制し合っているような様子を見せた。
10、強姦パーティ
貫通したばかりの穴の中を、ゾロゾロと蟻が這っているような感じがする。
突っ込まれれば、また痛いことはわかっていたが、香代はそれほど
怖くなかった。女が責められるビデオは見馴れている。それがお芝居かどうかは
別にして、みんな人権を剥奪され、猥褻の標本のようにされた女たちであった。
だがこんなかたちで処女膜が消滅する現場を撮影されることは、身震いする
ような戦慄である。
先刻からの作業で、男たちはもう十分に発情している筈であった。
狭い6帖の部屋の真ん中に蹲って、香代はお白洲に引き出された
囚人のようにタタミに両手をついた。
「お願いします…」
いい覚悟だ…、
しばらく、息詰まるような沈黙が続いた。
「部屋を変えましようよ」
誰かが、張りつめた空気を払うように言った。
「このままじゃヤリにくいよ。気分を新しくしたほうが良い…」
「うん、そうだな」
監督の神谷の前では、彼等も思い切り欲情をムキ出しにできないのである。
相談は簡単にまとまって、お祭りは隣の部屋でやろうということになった。
「悪いけど、あっちに行こう」
「エッ」 まだ、監督には犯されていない。
それでも良いの…?
香代は、ちょっと心配そうな視線を神谷に向けた。
「いいよ、行ってきな」
香代の気持を察したのか、神谷は平然とタバコに火を点けながら言った。
「俺は、お前の肉体が目的じゃないんだ。滅茶々々に犯されて戻ってこい」
よし…、とカメラマンの一人が裸の腕を掴んだ。
「外は大丈夫かい?」
「そのままで良い、わかりゃしねえよ」
ヨロヨロと立ち上がると、男たちに前後を挟まれて部屋の外に出る。
「それじゃ私がビデオ撮ってあげる」
マユミがすぐ後に続いた。
戸外はまだ明るかった。午後の陽射しが少し傾きかけて、眼の前に
何の変哲もない庶民の生活が広がっている。
部屋から部屋へ、奇妙な行列がぞろぞろと移動していった。もし気がついた
ものがあったとしても、いったい何をやっているのか、見当もつかなかったに
違いない。
空き家になったアパートの二階は、部屋が三つ並んでいた。どれも同じような
間取りなのだが、中に入るとこちらには絨毯が敷いたままになっていた。
子供がいたのか、あちこちにシミや汚れのついた古い絨毯である。
「こっちのほうが良いじゃん」
監督の眼を離れると、スタッフも何となくリラックスして、めいめいが絨毯に
腰を下ろした。自然、車座になって香代が真ん中に置かれる。全員が
今日初めて会った名前も知らない男たちである。
「どうする。ジャンケンで決めようか…?」
先輩らしいカメラマンが、ケロリとした顔で言った。まるで貰ってきた
御馳走を分けるような感覚である。
「俺、いちばん後で良いですよ。さっきハメたから…」
ハッとして顔を上げると、新米の若いADである。
この人だったの…?
何故か、香代は急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「でも、俺イカなかったからね。道具は汚していないよ」
「アッタリ前だ」
「あんたたち、穴は一つだけじゃないんだからさ…」
マユミが、自分も着ているものを脱ぎながら横から口を出した。
「みんなで一緒にヤレば良いじゃない。そのほうが刺激になるよ」
「そうだな、じゃそうしようか」
カメラマンが、香代の腕を引っ張りながら言った。
「香代ちゃん、こっちへおいで…」
後ろ向きに引き摺られて、裸になった股の間に入る。男がワキの下から
手を入れて乳房を握った。
「脚を俺の膝に引っかけてごらん」
もう一人の男が手伝って両足をWの形に開くと、絨毯の上で羽交い締めに
なって、小型の陰毛が鳥の羽のように上を向いた。
おそろしく卑猥なポーズなのだが、そのことは恥ずかしくなかった。
かえってウットリするような陶酔を感じる。
背中にボッキした男根の気味悪い感触があった。香代は、頭の中で
全然別のことを考えていた。
竜ちゃん…、
この場所に竜太がいてくれたら、と思うのである。竜太なら、きっと面白がって
仲間に入ってくれるだろう。
この淫靡なスリルと女を弄ぶ快感を、竜太にも味わせてやりたい…。
それが、被虐性少女香代の夢のような愛の衝動だったのである。
「ムグ…ッ」
いきなり弾力のある肉塊が圧し入ってきて、香代は無意識に口を開けた。
肉塊はそのまま咽喉の奥に突き当たって、ゲェッと胃袋の内容物が
逆流しそうになった。
被虐ビデオのフェラチオシーンを見て想像していたのより柔らかくて、
ナマ臭い不快感がある。
「ホラ、入れな」
背中の男が子供にオシッコをさせるような姿勢で股を広げる。途端に、
火傷のカサブタを掻き毟られるような劇痛が股間を襲った。
「グェェ…」
歯を食いしばろうとして、香代は夢中で唇を男の陰毛にこすりつけた。
噛んではいけない…!
これは、フェラチオを強要された女が共通して示すメスとしての動物的な
反応である。
「どうだ、快いのかい?」
香代を羽交い締めにしている男が、後ろで拍子を取りながら声をかけた。
「快いよ、新鮮だなァ」
股間の男が、中腰になって結合部分を確認しながら言った。
「それにさ、けっこう濡れてるんだ」
「へえ、バージン失った後でもやっぱり興奮するもんかね」
背中の男が感心したように言った。
「香代ちゃんありがとうね。俺こんなの初めてだよ」
「グフ、グェ…ッ」
得難い経験をさせてもらったことを、男は本気で感謝しているのだった。
その割りには手加減もしない。灼けつくような痛みの中を、硬直した
肉塊がますます膨らみを増して出没していた。
「イキそうだ。そろそろ交代してよ」
フェラチオさせていた男が、咽喉の奥からズルッと男根を抜くと股間の
男と入れ代わる。後ろの男が覆い被さるように顔を寄せて、唾液を
嚥みこむことができなくてベトベトになっている唇を吸った。
「アゥ…」
香代は思わず男の首に腕をまわした。
「おい、処女膜ってどれなんだ。ここの出っ張りがそうかい?」
「うん、それなんじゃないの」
「酷でえなぁ、これじゃ膜なんてもんじゃねえよ」
唇を吸われながら、香代は夢うつつに見えない男たちの会話を聞いた。
「ぐちゃぐちゃだぜ。お前、少しデカすぎるんじゃねえの?」
そのとき、ヒクッと腹筋が痙攣した。続いて身体全体が大きく波を打った。
「おい早く入れてみな。イキかけてるんじゃねえのか」
再びギリギリとヤスリを揉みこまれるような痛みを感じて、香代は
咽喉の奥で呻いた。
「いい身体だねぇ、たまんねえな」
痛みが異様な痺れに変わって穴の周囲に広がる。二度三度、続けざまに
激しい痙攣がきた。
「感じてるのかい?」
唇を放して、男が顔を覗きこむ。
「ハハ、ハイ…」
素っ裸のマユミが、三人のまわりをぐるぐると巡りながらその様子を
記録していた。モニターがないので、どこをどう写されたのか見当もつかない。
二人めの男が身体から離れたとき、香代は全身でエビのように跳ねた。
イクときの感覚とは明らかに違う、血管に直接麻薬を注入されたような
神経の麻痺状態である。
汚れた絨毯の上に横転している女を抱き起こして、三人めの男が
囁くように言った。
「香代ちゃん、俺、アナルのほうが好きなんだけどよ。ハメても良いかなァ」
「エッ、エェッ」
何を言われたのか、意味が良くわからなかった。ヒクヒクと身体を
震わせながら、香代は男を見上げた。
「いいだろ、こっちのバージンは俺にくれよな。嫌かい?」
「イ、いやじゃない」
四ン這いにして尻を高く上げると、男が骨盤を抱えてマユミに声をかけた。
「いくぜ、うまく撮ってくれ」
残酷な期待に顔を引きつらせて、香代は汚れた絨毯に爪を立てた。