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      11、アナル淫乱模様

 3人の男たちが香代を抑えつけていた。

 右足にひとり、下から腹を持ち上げているのがひとり、肩を絨毯に

押しつけているのがひとり…。

 それぞれ、カメラの邪魔にならないように姿勢を低くしている。まるで

獲物に喰らいついたハイエナのように、寄ってたかって女の肉体をむさぼる

異様な光景である。

 すぐ横で、即席カメラマンのマユミがクローズアップを狙ってカメラを構えていた。

「いいよ、早く入れなよ」

「もうちょっと、お尻を上げて…」

 4人目の男が両手で尻たぶを開くと、肉塊をワレメの真ん中に当てた。

「人類はみな兄妹…、世界平和のためにセックスをしましよう」

 男が、おどけた節をつけて言った。

 とたんに、グン…、と尾蹄骨を突かれて、香代はイヤというほど絨毯に

額をこすりつけた。上半身を抑えられているので、ズリ上がることが

できないのである。

「ウッ、ウゥ…ッ」

「ホラ、もうそんなに痛くないでしょ」

 それでも心配になるのか、肩を抑えていた男が子供をあやすように言った。

「処女膜は一度破れば、あとは出し入れ自由だからね」

「ウゥゥムッ」

 穴の周囲に灼けつくような感じがあったが、最初のような激痛はなかった。

 赤ムケになったところに次々に挿入され、1時間近く弄ばれているので、

クリトリスが感覚を失っている。

「この人でお終いだから、もう少し頑張って頂戴…」

 犯され喰いちぎられてゆく女の肉体を、マユミのカメラが克明に記録していた。

 これは、決して強姦ではなかった。どちらかといえば、香代は進んで

みんなの共有物になったのである。彼らのいう『お祭り』で、処女破りの現場を

ドキュメントで撮影されたあと、場所を変えて、今度は4人のスタッフを

続けざまに受け入れることになった。

 乱交パーティというより、新しい女の肉体をみんなで等分に味わって

みようという、まるで淫肉料理の円卓を囲んでいるような感覚である。

傷ついた性器を責め苛まれることに変りはないが、変態のよしみというのか、

彼らには奇妙にアットホームな雰囲気があった。

「初めてにしちゃよく濡れるねぇ。やっぱ、真性のマゾは違うもんだね」

 しばらく抜き刺しして、男がゆっくりと腰を引いた。

「この調子なら、こっちもきっと感じると思いますよ」

「クゥゥ…ッ」

 香代は本能的に筋肉を硬直させた。男根の先端が明らかに

排泄用の穴を狙っている。

「そんなに緊張しなくても良いの。ちょっと太めのウンチをすると思えば気が楽だよ」

 もちろん、香代にとっては生まれて初めての経験である。どのくらいの衝撃が

あるのか想像することもできない。

「一日で2回も処女を失うなんて、こんな運の悪い人はメッタにいませんよ」

「ほんと、初体験にしては最悪だね」

 本気とも冗談ともつかないふざけた会話が交錯する。

 いつの間にか、香代は殉教者のように男の欲望に順応していた。こんなかたちで

肉体を蹂躙されることに、苦痛を超えて強烈な媚薬を嗅がされるような

恍惚を感じるのである。

 尻を高くあげ、息を詰めて、香代は絨毯に爪を立てた。

「そうそう、いい子だネ」

 男が両手で骨盤を掴んで、一息に手前に引き寄せようとしたときであった。

「ちょっとォ、あんたたちッ」

 突然おもてのドアが開いて、メイクの綾子が顔を出した。

「監督が呼んでるわよ。いい加減にお祭りは終りだって…」

「えっ何だ、お預けかよ」

 それほどの未練もなく、男たちが一斉に立ち上がった。

 彼らにとってセックスは日常茶飯事だし、女を仲間に入れてしまえば

『お祭り』はいつでもできる。

 この間、誰も射精したものがいないのは、さすがに馴れた連中である。

 素っ裸の香代を囲んで、アパートの外廊下をぞろぞろともとの部屋に戻ると

監督の神谷吾郎があわただしく言った。

「どうだ、良いショットが撮れたか」

「上等よ、バッチリだわ」

「よし、それじゃ次の現場だ。明るいうちにもうひとつ撮っておきたい

シーンがあるんでね」

 時間は、まだ午後の3時だった。

 行き先は新宿だという。スタッフが車に器材を積んでいる間、香代は

肩で息をしながら部屋の隅にうずくまっていた。

「大丈夫? 酷いめに合わされたんでしょ」

 綾子が、犯されてきたばかりの身体を撫でまわしながら言った。

「可哀想に、無理やりイカされちゃって…」

「ダ、大丈夫です」

 イクという感覚とは違っていたが、たしかに全身を引き裂かれるような衝撃と

凄まじい性欲の噴出があったのである。

「痛かったでしょ、よく我慢したわね」

 香代を横抱きにすると、綾子が化粧用のナプキンで腫れた粘膜を

押さえるようにヌメリを拭きとってくれた。

「ホラ見てごらん、これがあんたのバージンとのお別れのしるしよ」

 さし出されたナプキンの表面に、薄い血の色をした粘液がべっとりと

付着している。

 ぼんやりとそれを見つめていると、綾子が囁くように唇を耳の側に寄せた。

「ねえこれ、記念に私がもらっても良い?」

 職業は30才を過ぎた美容師だが、この女も奇妙なレズマゾの変態である。

「薬つけてあげる…」

 バイキンが入るといけないから、と覗きこむように脚を広げて、綾子が

眼を見張った。

「アッ、ヒドい…!」

 一本の縦の線だったワレメの間から、爛れた粘膜が無惨に

ハミ出している。タラコを潰したように全体が充血していた。

 恥ずかしさが麻痺して、指がクリトリスの周囲を這いまわると、自然に

ヒクヒクと腰がふるえた。

 痛みは消えていたが、粘膜のまわりが火のように熱くなって、ズキズキと

脈を打っている。指先に刺激のない軟膏をつけて、綾子が優しく愛撫するように

腫れた肉ベラのまわりに塗ってくれた。

「ウフフ…」

 満足そうな笑みを浮かべて、綾子がスルッと軟膏のついた指を

後ろの穴に入れた。

「こっちは、大丈夫だったの?」

「アゥ、はい…」

「よかった、大切にしたほうが良いよ」

 綾子が、肛門の中でゆっくりと指をまわしながら言った。

「折角のバージンだから、好きな人のためにとっておきなさいよ」

 エッ…、それは香代にとって、思いがけないヒントだった。

 まだ竜太に捧げるものが残っている…!

 毛が生えたら俺のところに来い…、と言われた幼いころの思い出が、

突然よみがえってきた。処女を捨てたことは少しも後悔しないが、

竜太との約束を果たさなかったことは、やはり心残りである。

 初めてのアナルを竜太に犯されたら、どんなに感動することだだろう…。

「アノ…、男の人は、お尻も好きなの?」

 香代は、すがりつくように聞いた。

「そりゃそうよ、入口がおまんちゃんより締まるから、男はたまんないでしようね」

 しなやかな指を、直腸のなかでクネクネと動かしながら綾子が言った。

「それにネ、女だってお尻でイケるのよ」

 言われてみると、指一本入っているだけなのに、クリトリスの裏側に

太腿までダルくなりそうな快感があった。

「ホラ、こうされると何となく気持ち快いでしょ?」

「えッ、ええ…」

 香代はまた、ヒクヒクと震えた。

「よかったら、私がイケるようにしてあげようか…?」

 香代の変化を窺いながら、綾子が少しかすれた声で言った。

「今夜、私の家にお出でよ。二人だけでゆっくりと話そう」

「えッ、いいの?」

 レズだ…、とわかっていても、なぜか他人のような気がしないのである。

綾子はどこか温か味のある女だった。

「香代ちゃん可愛いわ、スキよ」

 不意に、唇が貼りついてきた。

「ウムム…」

 生イカのような舌の感触が歯ぐきのまわりを這いまわって、とたんに、

肛門の括約筋がギュッと収縮する。

 霞みがかかった頭の中に、ぼんやりと竜太の面影が浮かんでいた。

 お尻でイク女…、そのほうが変態らしくて竜太は喜んでくれるかも知れないと

香代は思った。

「おーい出発だよ、車に乗って下さい」

 そのとき、最初に香代を犯した若いADが突然ドアを開けた。



    12、駅前露出人形


「ヒェッ」

 香代はあわてて身体を起こそうとした。

「何よ、そんなに急かせることないでしょ」

 不機嫌な顔で、綾子がさり気なく肛門から指を抜いた。

「すいません、もう時間がないんで…」

 全身の肌が熱くなるような恥ずかしさで、うろうろと部屋の中を見まわしたが、

脱いだ洋服がなかった。誰かがまとめて車に運んでしまったのである。

「そのままで良いですよ、車はすぐ下で待ってますから…」

 若いADが、こともなげに言った。

「乗ってしまえばどうってことないです」

「えぇッ、でも…」

 成り行きとはいえ、初めて身を任せた男の視線がひどく眩しい。

「仕様がないわねぇ。あんたたち、いつもこうなんだから…」

 言葉ではとがめていたが、綾子が思い切りよく立ち上がった。

「行こう、見られても良いじゃない」

 ためらっている余裕もなかった。運を天にまかせて香代は部屋の外に出た。

 心臓が飛び出しそうな緊張と股間の異物感で、ともすれば

足がもつれそうになる。

 すぐ横の道に車が2台停っていて、白のハイエースからマユミが

手招きしている。

 ADに先導されて、綾子の背中に隠れるように香代はアパートの階段を

降りた。乳房がプリプリと揺れて、手は自然に陰毛を押さえていたが、

白昼堂々の全裸体である。階段を駆け降りて車にのめり込むまで、

およそ20秒足らずの冒険であった。

「オーケイ、勇気あるじゃん」

 マユミが急いでドアを閉めた。

 肩で息をしながら、毛布を敷いたフロアにうずくまる。

「公然猥褻物だからね。注意しないと…」

 マユミが、楽しそうに言った。

 ワレメに喰いこみそうなショートパンツに黒のブーツ、革のブラジャーを

つけて、ビデオ屋のカウンターで受付けをやっていた垢抜けない女とは

思えないスタイルである。

「よし、出るぞ」

 女3人を積んで神谷が声をかけると、運転席に入ったADが黙って

キーを回した。スタッフと器材は、後ろのライトバンである。

 窓に目隠しのフィルムが貼ってあるので外から覗かれる心配はなかったが、

車が走り出すといっぺんに気が緩んで、香代はガタガタと震えがきた。

「おまんこの加減はどうだ。痛むか?」

 神谷が、助手席から顔だけ後ろに向けて言った。

「い、いえもう…」

「薬つけたから、すぐ治りますよ」

 震えが止まらないので、綾子が寄り添って肩を抱えながら言った。

「3日もしたら自由に使えるようになるわ。いいおまんちゃんよ」

「そうか、そいつは良かったな」

 神谷はそこでちょっと厳しい顔になった。

「そこまで人権を捨てれば上出来だ。これからは人間のメスだぞ」

「ハハ、ハイ…」

 人間のメスと言われたことが、かえって香代を立ち直らせてくれた。

これからどうなるのか解らないが、処女を失った感傷はまったくなかった。

 あれは、マゾとして脱皮するための手術だったのだ…、と香代は思う。

 ちょうど虫歯を抜いた後のように、ホッとした安堵感のようなものさえあった。

「お前よく変態ビデオを借りて、独りで自分を縛っていたな」

 神谷がまた振り向いて言った。車が世田谷通りを新宿の方向に

曲がったあたりである。

「手を後ろで縛るときはどうした?」

「で、出来ませんでした」

 香代はまた、顔から火が出るような気がした。

「そりゃシロウトじゃ無理もないな」

 神谷が目尻に残酷な笑みを浮かべた。

「マユミ、後ろ手に縛ってやれ。こいつ縄も好きだぜ」

「うん…」

 走っている車の中で、マユミが足を踏ん張って立ち上がった。

「それじゃ、やってみる?」

「………」

 香代は、呆然と変身したマユミの姿態を見つめた。

「おいでよ、気持ち快くしてあげる」

 綾子の膝からペットを横奪りするように引き寄せると、フロアに

前のめりにして、マユミが腕をグイと背中に曲げた。

「くゥゥ…ッ」

 ボキッと、肩の骨が鳴った。

 揺れる車の中で、それは奇妙な格闘であった。

 手首を交叉させたところに、ギリギリと縄が巻きつく。柔らかくて、かなり太めの

綿縄である。もう一本のロープで乳房を上下から挟むように縛ると、乳首が

異様に突起して上を向いた。

「綺麗なオッパイしてるね、締めやすいわ」

 真ん中の谷間のところでロープを二つに分けて首の両側にまわすと、先端を

背中の結び目に通してグイッと引き絞った。

「ウ…ッ」

 関節が捩じれて手首が肩胛骨のあたりまで曲がっている。

 上半身が猫背になって、一度吐いた息を吸い込むことができない。顔を

真っ赤にして、香代は小刻みに咽喉を鳴らした。

「少しキツイけど、これが快いのよね」

 あぐらに組ませた脚を俵締めにして、乳房のロープに接続する。

 まだ脂肪が沈着していない腹が二つに折れて深い溝になっていた。その上から

二重三重に縄を掛けられると、蜘蛛の巣に絡めとられた蝶のように、完全に

身動きすることができない。唇が半開きになって、息も絶え絶えに呼吸するのが

やっとである。

 苦しい…!

 訴えようとしたが、わずかに呻き声が出ただけであった。

 肉体を切り裂かれるような痛みはないが、関節を不自然に固定され、神経が

痺れて意識が朦朧となってくる。ゴツゴツとタイヤの振動が下から伝わって

くるが、なぜか恍惚としたミルク色の霧の中を走っているような気がした。

「西口のデパートの横につけろ」

 神谷が、前方を見つめたまま言った。

 何時の間にか、車が新宿に近づいている。後ろから、スタッフを乗せた

ライトバンがピッタリと尾いていた。停まったところは新宿駅西口の真正面、

無限の人の流れが移動している歩道から、ガードレールひとつ隔てた路上である。

 エンジンを掛けたまま、ADが運転席から降りて、2メートルほど車間をおいて

停まっているライトバンのほうに走った。

 神谷もさすがに緊張して、積んできた小型のテーブルをフロアの最後部に

運ぶと、振り向いて綾子に声をかけた。

「おい手伝え、この上に女を乗せるんだ!」

 アパートで処女破りの台に使ったあのテーブルである。

「エェッ、はッはい…」

 唾液を嚥みこむことができなくて、唇から涎を垂らしている香代を二人がかりで

両側から抱えると、梱包した荷物を持ち上げるようにテーブルの上に据えた。

 若いADが外から手を振って何か合図している。だが、この車に関心を

持っているものは誰もなかった。群衆の眼から見れば、単純な積み降ろしの

作業くらいにしか映らなかったのだろう。

 そのとき、後ろのライトバンのサンルーフが開いて、なかからビデオカメラを

かついだ男が立ち上がった。

「オーライ、本番一発…!」

 神谷が座席に身を沈めながら叫んだ。

 ADが駆け寄って、外からハイエースの後部ドアを上げる。香代の眼の前が

突然パッと明るくなった。

 全身を縄で固められて、香代は動くことも声を出すこともできない。危うく

バランスを保って、まるで生命を失った石膏像のようにテーブルの上に

据えられていた。

 群衆には、何の変化もなかった。

 ほとんどの人が、歩道の外側にある小さな舞台で演じられている奇妙な

露出劇に気がついていないのである。

 カメラだけが、二つのまったく別の世界を冷静に写し撮っていた。

 オヤ…?

 という感じで、サラリーマン風の男が停まっているハイエースの前で足を止めた。

 超短パンにブーツをはいた女が、何か白い物のまわりを動きまわっている。

はじめは荷物の縄を解いているのかと思った。

 それにしても、エロっぽい女だ…。

 その荷物が全裸の女だということがわかったとき、男はあらためて眼を見張った。

 崩れるように床に滑り落ちた女の手首に、まだロープが巻きついている。

 ブーツの女が、車の天井につけたフックにロープを結んで固定すると、Yの字に

なってガックリと首を垂れた女が、ぶら下がるような形で正面を向いた。

 隠しようもない太腿のつけ根に、ほの黒く陰毛のかげが揺れている。

「なっ何です、あれは…?」

 振り返ると、もう一人の男が好奇心いっぱいの顔で立ち止まった。




<つづく><もどる>