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      17、オナニー生活

 香代がようやく自分のマンションに戻ってきたのは、結局、それから

三日後のことであった。

 部屋に入って、魂が抜けたような気持であたりを見まわしてみたが、

部屋には何の変わったところもなかった。脱ぎ捨てた古いパンティが、

ベッドの下に落ちている。しまい忘れた口紅が小さな化粧箱の前に転がっていた。

 ホッと息を吐いて、香代は持っていたバックを勉強机の上に置いた。

 変わったのは、香代自身なのである。 セックスに未経験な20才の

女子大生にとって、あまりにも過激な三日間であった。

 香代はゆっくりと上着を脱ぎ、スカートを取った。すぐにシャワーを浴びようと

思ったのだが、裸になってしまうと、もう一度自分で自分の身体を確かめずには

いられなくなった。

 これまでいつも他人の視線に晒されていたので、処女を失ったあとの肉体の

変化を確認する暇がなかったのである。

 どうなっているのだろう…?

 乳房の重さを計るように手のひらで持ち上げると、勃起した乳頭が一緒に

上を向いた。いつもは陥没して乳房にメリ込んでいることが多いのだが、

これも変化の一つなのだろうか…。

 ふと思いついて、香代は素っ裸のまま、ベッドの横に置いてある化粧箱を

部屋の真ん中に出した。

 学生なので、一人前のドレッサーはまだ持っていない。化粧箱の蓋を開けると

反対側が鏡になっていた。その前に、香代は身体の正面を向けて立った。

 写っているのは臍から下の、陰毛を剃り落とされて少女に戻ったような

クッキリとした縦のワレメである。

 外側から見ただけでは何の変化もない。処女を失ったことなど、判別が

つく筈もなかった。

 香代は少し脚を開いて、両手を滑らかな肉の合わせ目に添えた。

 プロの美容師である綾子が時間をかけて剃り上げた恥骨の膨らみは、

微かに毛根が透けて見えるだけ、他の部分より、肌がしっとりと

湿っている感じである。

 顔が写っていないのでかえって気が楽であった。腰を突き出すと、

香代は思い切って指を曲げた。

 小魚の腹を開くように中を覗く。

 やっぱり違っている…、

 二枚の小陰唇のかたちが、少し崩れているような気がする。それは中央の

凹みが大きくなって、明らかに穴として認識することができるためであった。

 自分の性器をこれほど露骨に覗きこんだのは初めてだが、これまでは、

ただノッペリとした陥没に過ぎなかったのである。

 クリトリスが、まだ勃起していた。表皮が剥けて、中からツヤのある

ピンクの珠が顔を出している。目黒のマンションを出る直前まで綾子に

舐められていた感触がまだ残っていた。指先でそっと押さえてみると、

ビリビリとした感覚が内股に広がって、香代はあわてて指を放した。

今までになく卑猥な淫情をそそる快感である。

 途方に暮れたように、香代は鏡の中に写っている自分を見つめた。

 どうしよう、これから…、

 台風が通り過ぎた後に、ひとり取り残されてしまったような寂しさである。

先刻別れてきたばかりなのに、肉欲だけで生きているあの連中の世界が

懐かしかった。

 何となく気が抜けたような気持で、香代はベッドに身を投げるとぼんやりと

天井を見上げた。仰向けになって、ごく自然に脚を広げる。コリコリした

小さな筋肉の塊りを無心にまさぐっていると、あの空き家アパートで

次々に男を迎えた凄惨な情景が、走馬灯のように甦ってきた。

 あ…!

 ふと、その中に竜太が混ざっているような気がした。

 とたんに、クリトリスがキュゥッと収縮する。竜太の幻が消えないように、

香代は夢中で指先に力を入れた。

 小さなテーブルに固定された股の間に割り込んで、竜太はまばたきもせず

香代の性器を見下ろしている。

「良いおまんこしてるじゃねえか」

 つぶやくような竜太の声が聞こえた。

「こんなのに入れたら、きっと気持が快いだろうな」

「竜ちゃん…ッ」

 本当にそう思ってくれるの…?

 香代は必死に問いかけてみた。

「だったら犯してください。私の身体めちゃめちゃにしても良いの」

 竜太は黙っている。香代は、急に不安になった。

 一晩で雑巾のように汚れてしまった初恋の女の身体を、竜太が抱いて

くれる気持ちになるだろうか…。

「こ、この中に入れて…」

 目を閉じたまま、香代は心の中で叫んだ。

「どんなことしても良いから、お願い好きなようにして…ッ」

 指の動きが、急に早くなった。

「そうか、俺にやらせると言った約束は忘れちゃいねぇんだな?」

 膝をピンと伸ばして、香代は無意識に少し足をひろげた。

「ハメるぜ」

 裸の竜太が、まるで熊が襲いかかるような格好でのしかかってくる。

「くゥッ…ッ…ッ」

 唇の端から思わず本当の呻き声が洩れた。人一倍巨大な竜太の肉茎が、

柔らかいパン生地のような粘膜に突き刺さったのを感じたのである。

それは幻覚というより、異様に現実味をおびた妄想であった。

 一瞬、香代は自分の肉体に新しく出来た穴のまわりが目一杯膨らんだ

ような気がした。同時に、メリメリと肉が裂けるような感覚を思い出して、

香代は息をとめた。

 仰向いたまま腰を曲げると、指を二本、強引に穴の中に入れる。

少しでも竜太に犯されるときの感覚に近づきたかった。

 処女のときには絶対にすることがなかった方法である。だが予想した痛みは

全くといって良いほどなかった。

「ア、ウゥ…」

 これまでのオナニーとは違う。もっと具体的な快感の塊りが、急速に

盛り上がってきた。

 イク…!

 クライマックスの到来を直感すると、クリトリスを爪で跳ね上げるように

指先を痙攣させた。

「竜ちゃん…、竜ちゃん…ッ」

 香代は夢中で竜太の名前を読んだ。だが妄想の竜太は、振り向きもせず

せっせと香代を犯すことに熱中している。

「あぁゥ、い、いく…ゥ」

 肩と踵で体重を支えて、全身で反りかえると、クリトリスの奥から

快感の塊がまるで太い大便を一挙に排泄したときのように飛び出してきた。

「うぇぇぇ…」

 尿道の入り口が緩んで、小便が少し洩れたような気がする。

 これまでのようにビデオを見ながら、画面の女に自分を同化させて

オナニーをやったときとはまるで違った、ナマナマしい神経の爆発であった。

 快感の溶岩が、あとからあとから噴き上げるように沸いてくる。

 綾子に舐めつくされた性器に、まだこれだけの快感が残っていたのか…。

 身体は疲れ果てていたが、いちど指に触れて快感の痺れを訴えた

クリトリスが、もっともっととせがむのである。

 およそ5・6分の間に、香代は少なくとも3回以上の激烈なクライマックスを

迎えた。絶頂と絶頂をつなぐ大小の波が、絶え間なく連続する。最後に

気が遠くなるような大波がきて、香代は精魂尽きたように放心状態になった。

 竜太のまぼろしも、いつの間にか消えてしまった。

 そして、香代は泥のような眠りに陥ちた。 目が覚めたとき、窓の外は

もうすっかり暗くなって、太股まで濡らしていた分泌物が乾いてカサカサに

なっていた。

 気怠く起き上がって、バスルームに入る。身体中に石鹸を塗って

乳房をこすると、少し大きくなった乳首が小気味良く弾んだ。

 柔らかな肉のはざまを抉るように洗うと、何故か言いようのない愛しさが

こみあげてくる。ただ残酷に苛められれば良いというものではなかった。

 それは、一種のナルシズムにもつながる。

 生まれながらに強度の被虐性を持った女の性欲は、処女を失ったあとの

衝撃を同じ性欲で処理する以外に方法がなかったのである。無毛の陰丘を


いとしむように、香代は長い時間をかけて自分の性器を洗った。



    18、媚態を求めて


 オナニーの回数が次第に増えていくような気がする。

 綾子に剃り取られた陰毛が少しづつのびてくると、その部分に何とも

言いようのない痒みがあった。その上、あの日の妄想が頭から離れないのだ。

 毎日毎日、香代は衝きあげてくる異様な性欲と闘いながら過ごした。

 監督の神谷からは、何故かその後何の連絡もなかった。おそらく

次の女を探して、新しいビデオの製作にいそがしいのであろう。

綾子に電話をかけてみようかと思ってもみたが、やはりためらいがあった。

 撮影されたビデオは、どこでどうなっているのか知るよしもないが、

あれほど熱中していたビデショップのAVも、香代自身の体験に比べれば

色あせてしまったような気がする。

 時間だけが無意味に過ぎ去っていった。

 学校には通っていたが、授業はほとんど頭に入っていない。その日も

香代はまっすぐ家に戻ると、近ごろ習慣になっているオナニーをはじめた。

 まだ、午後の4時ころである。

 朝一度、昼間でも発情すると、香代はすぐベッドに横になった。夜はテレビを

消して、2時間もかけて飽きることもなくクリトリスを刺激する。肉体に

溜まっている溶けたバターのような淫欲を吐きだしてしまうと、香代はようやく

安心して眠ることが出来た。

 指の動かし方にも馴れて、イクときはそれほど力を入れなくても、ごく自然に

快感が昂まってきて、ヒクヒクと腹筋がふるえる。やがてスーッと

潮が引くように身体が落ち着きを取り戻してくれるのだが、それは、

快感の排泄行為といっても良かった。

 そんなクライマックスを2回ほど迎えて、3回目がイキかけているとき

であった。珍しく玄関のチャイムが鳴った。

 誰だろう、今ごろ…。

 昼間なので驚きはしなかったが、なにしろオナニーの真っ最中である。

そっと起き上がって音を立てないように扉に近づくと、香代は外部確認用の

レンズを覗いた。

「アッ…!」

 はじめ宅配便の配達員くらいに思っていたのだが、あのときの

若いADだとわかると、香代は息をのんだ。

 どうしよう…!

 幸い洋服は着たままだったがパンティを穿いていない。一瞬迷ったのだが、

香代はすぐ心を決めた。竜太に代わって処女を奪った男をこのまま

帰してしまうことは気持ちが許さなかった。

 とっさにスカートの裾が乱れていないことを確かめると、香代は

インターホンに向かって出来るだけ平静な声を出した。

「どちら様ですか…?」

「あ、僕…、ですけど」

 少し緊張した感じの、朴訥な若者の声が返ってきた。

「はぁ?」

「あの、僕です。先日ご一緒だった…」

 若者も自分を何と紹介して良いのかわからないのだ。その声を聞くと、

香代は急に気持が明るくなった。

 急いで扉を開けると、立っていた若者がテレたように笑って

ペコリと頭を下げた。

「あら」

「すいません、いきなり訪ねてきちゃって悪いと思ったんですけど…」

「どうしたの、何かあったの?」

「いや別に、もう一度逢ってみたくて…」

 香代は、本気でびっくりしたような眼をした。変態集団の中にいたときには

セックスのことしか眼中にない男に見えていたのだったが、こうして

向かい合ってみると何の変哲もない、ありきたりの青年である。

「お入りなさいよ、どうぞ…」

 マンションは、どこから人が顔を出すかわからない。香代はさり気なく

ADをなかに入れると、急いで扉を閉めた。

「いいとこに住んでますねぇ」

 立ったまま、若者はギコチない調子で言った。

「俺なんか、4丈半のアパートだから…」

 オナニーしていたベッドの上が乱れているのが気になったが、若者は

そんなことには気づかない様子だった。

「失礼しました。俺、佐藤です。伸夫っていうんで…」

「あ、伸夫さん…?」

 これが最初の男の名前だった。香代は心のノートに刻みこむように

言葉を区切りながら言った。

「伸夫さん、良い名前ね。私の好きな名前だわ」

「平凡ですよ、こんなの」

 伸夫は苦笑したが、ふと真剣な顔になって香代を見つめた。

「迷惑じゃなかったですか? 俺なんか…」

「うぅん、だって用があったんでしょ」

「はぁ、実は…」

 ちょっと口ごもったが、伸夫は正面から香代を見つめたまま短く言った。

「もう一度、あんたとヤリたいと思って…」

「………」

 ゾクッと身体の奥で何かがふるえた。

「初めてヤッたときから、俺、あんたが好きだったんですよ」

 伸夫は、低い声で言った。

「良かったら俺の女になってくれませんか」

 あまりにも唐突で、常識はずれの愛の告白である。

 金縛りにあったように、香代は顔をあげることが出来なかった。

撮影が終ったとき、みんなの前でいつでも肉体を提供しますと

言わされたことは確かなのだが、まさか本当に訪ねてくるとは

思ってもいなかったのである。

「あのとき、このおまんこは俺のものだって思ったんです。本当だよ」

 処女を蹂躙した最初の男が、自分の性器をもう一度犯したいと

思ってくれたことがたまらなく嬉しい。

 たしかに、伸夫の感覚は普通の若者とはどこか違っていた。

だが変っているといえば、香代のほうがもっと変っていたのかも知れない。

「自分だけヤリたいとは言えないし、今日まで我慢していたんだけど…」

「そんな、我慢しなくても良かったのに…」

 答えてから、香代は真っ赤になった。自分で言った言葉の意味が

良くわからないほど、頭の中が混乱していた。

「俺、Sなんだけど、良いですか?」

「あ、あの…」

 話題を逸らそうとしたのだったが、香代はまた、自分でも

わけのわからないことを口走っていた。

「汚れてるけど、縄で良かったら、私持ってますから…」

「ふうん、どこにあるの?」

「こ、この下です…」

 伸夫がベッドの下を覗くと、しばらく使っていないロープの束が

とぐろを巻いていた。ずるずると引きずり出して、伸夫は射すくめるように

香代を見つめた。

「あんた、縛られるのが好きなのかい?」

 この部屋に入ってきたときとは、明らかに眼の中の光が違うのである。

香代は、鳥肌が立つような戦慄を感じた。

「やっぱ、変態なんだな。俺に犯されても文句ないだろ」

「………」

 返事をする代わりに、香代は黙ってブラウスのボタンを外した。

 ブルブルと指が震える。学校から戻ったままなので、胸がまだきっちりと

ブラジャーで締めつけられていた。

 伸夫の手が伸びてスカートを捲ったのは、その直後である。

アッと腰を引く暇もなかった。

「穿いていないと思った」

 ミニのスカートを太股の上まであげて、伸夫はまるで予期していた

ように言った。

「変ったおまんこだな。これじゃ、人に見せられないよ」

 あれ以来剃っていない陰毛が1センチ近く伸びて、裸の山肌に植えた

杉の苗木のように短毛が一定の間隔をおいて規則正しくならんでいる。

 目が眩むような羞かしさに、香代は思わずよろけそうになった。

「ねぇ、今までオナニーしていたんじゃないの?」

 伸夫の指が軽く陰裂をなぞった。隠しようもないヌメリがツゥッと

糸を引いて、小さな銀色の雫になって足もとに落ちた。

「えぇッ。は、はい」

 何故そんなことを答えてしまうのか、香代自身にもわからないのだ。

「俺、オナニーに狂ってる女って好きだな」

 伸夫が嬉しそうに言った。

「あ、あ、もう…」

 まるで身体が宙に浮いているような気持ちで、裸になった上半身が

伸夫の腕の中に倒れこんだ。

「うッ、痛ゥッ」

 とたんに容赦なく手首をねじ上げられて、香代は軽い悲鳴をあげた。

 両肘を背中で合わせて、ギリギリとロープが巻きつく。もう少しで

肩の関節が外れそうな角度である。

「ウウム…ッ」

「いいね、いい声だね」

 乳房の膨らみにロープをまわしながら、伸夫が人形に話しかけるように言った。

「もっと快くしてあげるからさ。おまんこが見えるように脚を広げてごらん」



<つづく><もどる>