一、狂った要求
「いやッ、妹は犯らないで…」
思わず顔をあげて、美帆は上半身を起こそうとした。
「この野郎、ちんぼを離すんじゃねえっ」
「アッ、はい」
ガツンと乳房を蹴られて、あわててまた男の脚の間に顔を埋める。
「そんなにびっくりすることはねえだろう。言われたとうり何でもすると
言ったんじゃなかったのか?」
「だ、だって…。あの子はまだ高校生なんです。こ、子供じゃない」
亀頭をくわえて、美帆は泣き出しそうな声を出した。
「だったら、ちょうどヤリごろじゃねえか」
ベッドで脚をVの字に拡げたまま、女の舌の感触を楽しみながら、
宗彦は、ゆっくりとタバコに火をつけた。
「高校生なら、毛だってもうちゃんと生えているだろ?」
「し、知らない」
「ケッ、一緒に暮らしていて、妹のおまんこも見たことねえのか」
「そんな、お風呂だって別だし…」
「確かめてみろ。きっと良い身体してるぜ」
「あの子は、本当に男の人を知らないのよ。無理を言わないで…」
「ほうバージンか、そりゃ楽しみだな」
「許してッ。どうして私だけじゃ駄目なんですか…?」
「自惚れるんじゃねえ!」
宗彦が腰を突き上げると、くわえていた肉の塊りに咽喉を圧されて、
美帆は兎のように背中を丸めた。
二十一才、OL一年生…。
街を歩いていると、どこかのスカウトからCMに出てみないかと誘われたりもする。
痩せているわりには、良く張った半球形の乳房と、縦長の真っ黒な陰毛を
もっていた。
男はそれほどたくましいといった体型ではないが、筋肉の盛り上がりが
しっかりして、赤外線で灼いているのか、艶のある肌に細いブリーフの跡が
くっきりと白い。
二人とも、全裸である。ベッドはセミダブルで、窓際に三十六インチの大型テレビが
どんと置いてあった。麻布十番の近く、家賃二十万ほどの洒落れたマンションの
一室である。
「てめえ、一人で俺を満足させられるとでも思ってるのかよ」
「そ、そうじゃないけど…」
「まあいい、嫌ならヤラせなくたって良いんだぜ」
天井に煙を吹き上げながら、宗彦は獲物を追いつめるように言った。
「女はてめえ一人じゃねえんだ。遊ぶ相手はいくらでもいるさ」
「嫌ッ、お願い…」
男根をくわえたまま、怯えた顔を上げて、美帆は夢中で首を振った。
「ス、ステないでッ」
「誰も、捨てるなんて言っちゃいねえよ」
ペットを弄ぶように、宗彦は軽く腰をはずませながら言った。
「いつも同じ女じゃ面白くねえ。妹も一緒に連れてこいと言ってるだけだ」
「ウッ、グフッ」
濡れた肉塊が唇いっぱいに膨らんで、容赦なくピストン運動を繰り返す。
「プライベートで可愛がってほしけりゃ、それくらいの覚悟をするのは当り前だろ?」
「ハ、ハイ…」
「お前が勝手に惚れたんだからな、俺がどんな女を抱こうと文句をつけられる
筋合いはねえ。本気で俺の女になりたいんなら、嫉妬だの独占欲だの、
そんなくだらない感情は捨ててしまえ」
「わ、わかったから…」
ようやく腰の動きがとまって、美帆は、恨めしそうに男を見あげた。
「妹は、もう少し待って…」
それは愛情というより、異常な性欲の泥沼におちこんだ女の哀しい悲鳴だった。
「まあしようがねえ、尻の穴でも舐めろ」
身体の向きを変えて、宗彦は灰皿にタバコの灰を落としながら言った。
「妹の名前は何ていうんだ?」
「せ、聖子です」
後ろから、引き締まった割れ目に顔を差し込んで、美帆はくぐもった声を出した。
唇を吸盤のように丸めて、濃茶色の穴に吸いつきながら、指が無意識にクリトリスを
触りはじめる。普通より大きいほうで、割れ目からとび出した先端の表皮がムケて
薄桃色の珠がのぞいていた。
「あ、あ、うっ…」
美帆は微かに咽喉を鳴らした。
宗彦に抱かれるのは今日で三度目である。
いつも顎の骨が外れそうになるほど舐めさせられるのだが、実を言うと、
オナニーでいかされることはあっても、美帆はまだ体内に射精してもらった
ことがなかった。
宗彦に言わせれば、精液は店で言い寄ってくる金づるの女たちに
与えてやるための、いわば一種の商品である。
プライベートな関係では、射精してもらえないことは仕方がない…。
それは宗彦の女になるための条件でもあった。
恐ろしいのは、宗彦の気持が何時変わってしまうかもしれないという不安である。
何しろ、周囲にはセックスに飽き飽きして奇妙な刺激を求める女たちがウヨウヨして
いる。はじめて会ったときから、宗彦にはいつもそんな危険がつきまとっていた。
二本目のタバコを灰皿にこすりつけると、宗彦は濃い腋毛を見せてベッドに
仰向けになった。
「姉妹二人、並べておいて犯ってみるのも面白いじゃねえか」
枕元に置いた細い棒鞭を弄びながら、ときどきピシッとはずみをつけて
女の尻を叩く。
「ボテボテの三段腹や、すれっからしのソープ女に比べりゃ、そのほうが
ずっと新鮮だからな」
「ほんと…?」
裸のままズリ上がって、美帆は男の腋の下に顔を埋めた。
腋毛をしゃぶりながら、片手でオナニーを続ける。もう一方の手に宗彦の男根を
握っていると、痺れるような蕩酔があった。
「私まだ、あなたに満足してもらったことないから…」
太腿から膝まで小刻みに震わせながら、美帆はうわずった声で言った。
「一度だけ、なかに出して欲しいの。妹を犯ったら私にも出してくれる?」
「贅沢いうんじゃねえ」
ピチッと鞭が背中で可愛い音を立てた。
「ヒッ…」
叩かれると、その部分に火の玉がはじけるような快感がおこる。
「ああっ、たまんない」
美帆が指を使うと、微かな震動が、卑猥なリズムで宗彦に伝わっていった。
聖子を提供できる自信はもてなかったが、いまそれを考えている
余猶はなかった。
「もっと…、やってェ」
パシッ…。
尻を狙った鞭が、良い音を立てる。
「イッ、イキそうになるゥ」
指の動きが、急に速くなった。
乳房を男の肌にこすりつけ、指三本使ってクリトリスをあやつる。
「アァァ…ッ」
掌で膨らんだクリトリスを圧しつぶすように、美帆は全身を硬直させた。
「何だ、もうイクのか…」
宗彦が鞭の先で美帆の太腿を突いた。
「バカ野郎、勝手にイクんじゃねえ!」
黒々とした陰毛の奥を、第二関節の下までもぐり込んだ指が激しくなかを
掻きまわしている。強引に手首をはがすと、指を抜いたあとの充血した肉ベラが
プクプクと白い泡を吹いていた。
「ああッ、もうちょっと…。い、いかせて」
「イクんなら、こいつでいけ」
いきなり乱暴に突っこむ。はじめにオナニーさせてからハメると、女は続けざまに
何回でもいく。宗彦のいつものやり方である。
「アヒィ…ッ」
たちまち最初の大波がきた。
走りはじめたジェットコースターのように、感覚が次から次へと盛り上がって、
うねるような上昇カーブを描く。
「快いッ、く、狂っちゃう…ッ」
回数にすれば七・八回、続けざまにいかされて悲鳴を上げたあげく、
美帆はぐったりと全身の力を抜いた。
「てめえ、根っからのインランだな」
横抱きにくびれたウエストを引き寄せて、宗彦はまだ女を離そうとしない。
「それじゃ、良いものを見せてやろうか…」
腕を伸ばして、美帆の肩越しにテレビのリモコンスイッチを入れた。
突然、大型の画面にかなりのボリュームでJリーグの実況がはじまる。
もう一度ボタンを押すと、今度はビデオに切り替わって奇妙な男女の絡み合いの
シーンになった。
「助けてェッ、キッ気持ち良い…ッ」
特徴のある声に聞き覚えがあった。
美帆は、ぼんやりと焦点のない視線を画面に向けた。
「えッ、えぇッ?」
それは、宗彦に初めてめぐり合ったとき、あの店にいた女…、ではなくて
ニューハーフのケン坊であった。
゜
゜
宗彦とは、去年の忘年会のあと、同じ職場の先輩に誘われて女三人であやしげな
ホストクラブに行ったのが最初である。
ビルの地下にあるその店は、化粧崩れした水商売や、クスリでもやっていそうな
得体の知れない女たちでざわめいていた。
ショータイムになると巨大な男根にリボンをつけた裸の黒人が、黄色い歓声の中を
卑猥な仕草で客席を練り歩いたりする。
すぐ横の席では、酔った女が和服の裾を捲って若いホストにしがみついていた。
先輩たちは羽目を外すことにも馴れている様子だったが、こんな店に入ったのは、
美帆はもちろん初めての体験である。
その日、たまたまこの席についていたのが宗彦だった。
話に聞いていたホストのイメージとは違って、ぶっきらぼうで何の愛想もない。
それでいて、女の心を鷲掴みにされそうな、何だか怖いみたいな感じで、
美帆はほとんど話らしい話もできなかった。
一杯目の水割りのグラスがまだ半分以上残っている。雰囲気に圧倒されて、
ぼんやりとそれを見つめていると、突然うしろから妙にフシのある甲高い声が
聞こえた。
「メリークリスマス…」
振り向くと、一目でニューハーフとわかる女装の男が立っていた。
「可愛いお嬢さんとご一緒ネ。わたし妬けちゃうわ」
「何だ、ケン坊か…」
宗彦がぶっきらぼうな調子で言った。
「ねえ彼女、ちょっとだけ恋人をお借りしても良いかしら?」
美帆が黙っていると、ケン坊は強い香水の匂いと一緒に、あつかましく二人の間に
割り込んできた。
「いじわるッ、この浮気者…」
独特のしなをつくって、両手で宗彦の太腿を揺する。眼の中に本気で嫉妬の色が
浮かんでいた。
「うるせえな。いい加減に諦めろ」
「いやっ、離れたくない…ッ」
ダダッ子のように、いきなり宗彦のズボンの前を開きにかかる。
呆っ気にとられていると、ケン坊はズボンから掘り出したものを掌に包んで
真っ赤なルージュを引いた唇を寄せた。
小刻みに顔をふるわせて、少しづつ吸い込んでゆく。
ヌルッとした感じで吐き出すと、唾液を袋の裏側まで塗りまわして全体を
揉みほぐすように愛撫する。
ときには唇を離して、舌先を尿道に挿し込むように動かしたり、亀頭の溝を
円を描いて舐めまわしたりもした。
五十センチも離れていないところで、美帆は眼のやり場がなかった。
身体を固くして眼を伏せていると、いきなり宗彦に肩を抱かれた。
「よく見ておきな。舐めるのは、男のほうが上手いんだぜ」
敏感なところをしゃぶらせながら、宗彦は平気な顔で言った。
「あんた、本当はこういうのが大好きじゃねえのか?」
「エッ、いいえ」
「嘘をつけ…」
頬がカッと熱くなった。
抱きすくめられたまま、美帆は無意識に逃れようとしてもがいた。
反対に引きつけられ、男の手がブラジャーの上から乳房を握る。
「あ、いや…」
そのとき、軟らかい肉の合わせ目にそってツゥーッと淫液が滲み出してくる
微妙な感触があった。クリトリスが急に膨脹して、割れ目からとび出した先端が
パンティに触れた。ぞくっと身体を震わせると、急にまわりがズキズキと大きな
脈を打ちはじめた。
それは今までに経験したことのない、麻薬のような感覚であった。
「あぁう…」
全身の力が脱けて、美帆はグタッと宗彦の胸にもたれた。
「どうした、もう気分出してんのかい?」
宗彦が覗きこむように言った。
喘いでいる乳房の感触がそのまま男の掌に伝わって、すべてを見透かされている
ような気がする。麻酔にかかったように美帆は動くことができなかった。
「もう良い、あっちへ行け!」
何を思ったのか、宗彦はひと息に水割りのグラスをあけると、いきなり靴で
ケン坊の肩口を蹴った。
「ぎゃっ」
ケン坊は大袈裟に尻餅をついて、あわてて細長い脛を隠そうとする。
「ひどいわ…ッ」
「消えろ、今夜の客はてめえじゃねえんだ」
それきり見向きもせず、宗彦は美帆を抱き寄せて低い声で言った。
「握ってみな」
「エッ」
クリトリスが、相変わらずズキンズキンと脈うっている。
「遠慮はいらねえんだよ」
「………」
「言われたとうりにしろ!」
ビクン…、と見えないところで括約筋が収縮した。
自分の意思とは反対に指先が動いて、美帆はぎこちない動作でズボンから
とび出した肉の塊りを掴もうとした。
「美帆、何をやってるの…?」
そのとき、いままで背中を向けていた先輩が急に振り返って声をかけた。
「えっ、べ、別に…」
「そろそろ帰ろう。あら、日出子はどこに行った?」
「さっきまで踊ってる見たいだったけど…」
さりげなくファスナーを上げて、宗彦が席を立った。アッと思ったのだが、
もうレヂのほうに歩き出している。
後ろ姿を見送って、三十才を過ぎた先輩が耳もとで囁くように言った。
「気をつけたほうが良いよ。あの人アブないよ…」
店の外に出ると、パンティの中が濡れて冷たくなっていた。
あの時のニューハーフのケン坊が、いま眼の前のビデオに写っている。
相手の男性は、もちろん宗彦である。
本人の宗彦に抱かれて、美帆は朦朧と画面を見つめていた。
ケン坊は、肩まであるウエーヴのかかった髮を振り乱して逃げまどう。
股間を狙って鞭が鳴ると、芝居気たっぷりに手足をバタつかせて悲鳴を上げた。
「ギヤァァ、もうやめてェ…ッ」
真ん中に親指ほどの大きさの勃起していない男根が垂れている。盛り上がった
乳房も、どこか人工的で不自然な感じだった。
「許してェッ」
部屋の様子も小道具も、いまここにあるものと同じである。
とすると、このベッドはいったい何人の男や女の汗を吸ったのだろう…。
美帆はシビレるような嫉妬を感じた。