セックスを貢いだ女(1)


女 狩 り



    一、女 狩 り

 私が郷里の静岡から上京して、あちこちにまだ焼け跡が残っている

東京の街に立ったのは昭和24年、美空ひばりがデビューした年であった。

 女たちの服装が急に派手になったのもこのころである。

 世の中はまだ混乱が続いていたが、戦争で抑圧されていたセックスが

解放され、まさに戦後第一期のセックス自由化時代の到来であった。

 そのころ、私は毎日のように新宿の盛り場に通って、闇市で露店の

手伝いなどをしていた。今でいうアルバイトである。

 駅の周辺には屋根の低いマーケットがびっしりと立ち並び、人の流れが

絶えることがない。一日中、笠置シズ子や美空ひばりのレコードが

鳴っていた。

 刹那の流行を求めて、どこからともなく若い女が寄ってくる。当時、

青春真っ盛りの私には、それは全身に蜜のような甘さをもった

美しい動物に見えた。

 郷里からの仕送りとアルバイトで懐は楽だし、盛り場は私の好奇心と

旺盛な性欲を満たしてくれるまたとない狩猟場であった。

 仕事を終わると、決まって新宿の街を流して獲物を物色する。

 歌舞伎町の歓楽街はまだ誕生していなかった。メインストリートは

せいぜい伊勢丹の角あたりまで、現在の靖国通りには、まだ路面電車が

走っていた。

 狙うのは、その日初めて見かけた名も知らぬ女たち…。

 一種のカンだが、人の流れのなかで獲物になりそうな女は不思議と

眼につく。街角で目星をつけた女に声をかけると、成功率はかなり高かった。

「ちょっと、お茶でもつきあわねえか」

「えッ…」

 女は、一瞬絶句して立ち止まる。

 ほとんど化粧をしていない、水色のコートを着た事務員風の女である。

「いいだろ、時間はとらせねえからよ」

「で、でも私、用事があるから…」

 女がチラリとこちらの顔を覗いた。

「どうせ、会社の帰りなんだろ。少しぐらいつきあっても良いじゃねえか」

 ほんの数秒の会話だが、この瞬間が勝負である。

「あんた、彼氏いねえのかい」

「そんなのいないけど…」

「だったらいい話があるんだ。そこの喫茶店で話そう、良いだろう?」

「え、えぇ…」

 戦争中、思春期を迎えた娘たちはセックスに無知、というより男に対する

免疫をほとんど持っていなかった。意外に処女が多かったのも、

この時代の特徴である。

 私が手にかけた中でも、20才をとっくに過ぎて処女だった女が

何人もいた。

 現在のようにテレクラだの携帯電話だのといった身を隠す手段が

ないから、少し色気づいた娘たちは、近寄ってくる狼の前にモロに

素顔をさらすしか方法がなかったのである。



    二、さかさクラゲ


「名前は、なんて言うの?」

「加納淳子です」

「年は、いくつなんだ」

「19…」

 喫茶店で初めて名前を聞いて、しばらくとりとめのない話をしながら、

それとなく女の反応を観察する。

 うわべは取り繕っていても、ときめきというか、発情していることは

すぐにわかった。頬に血がのぼって視線が宙を泳いでいる。

「どう? どこかで遊んでいかねえか。悪いようにはしねえからよ」

「だ、だって怖いもん」

 本題にかかると、淳子は急に怯えたような眼をした。

「そんなに怖がることはねえ。休むだけだから何もしねえよ」

 処女であるらしいことは、話のぐあいでおよそ想像することができる。

 水色のコートの下にどんな肉体が隠れているのか、私はぞくぞくする

ような興味で、膨らんだ胸もとを見つめた。

「なあ、こんなところで何時まで話していたって仕様がねえだろう。行こうよ」

「ええでも…」

 淳子はどうしても踏んぎりがつかないようであった。こうなれば、あとは

押しの一手である。

「出るぜ、いいからついてこい」

 いきなり伝票を取って立ち上がると、淳子はエッという顔をしたが、

一人で残るわけにもゆかなかった。あわててハンドバッグを引き寄せると

オズオズと腰を浮かした。

 コートの上から腕を掴まえて、引きずるように歩く。街灯が今ほど

整備されていないので、メインストリートを外れるとあたりは急に暗くなった。

「ねえ、ど、どこに行くの」

 足がもつれそうになって、淳子は心細い声を出した。

「すぐそこだ、しっかり歩け!」

 電車の線路に沿ってしばらく行くと、大久保の駅の近くに、連れ込み

専門の旅館が四五軒かたまっている。暗い道を曲がった奥の、

突き当たりのようなところに、ひっそりと入り口の看板が出ていた。

 泊り六百円、休憩二百円くらいで、いまなら誰でも公然と

利用しているラブホテルの原型である。当時は如何にも淫靡な隠れ場所

といったイメージが強かった。

 屋根の上に、赤いネオンの温泉マークがついていて、それが目印に

なっている。

 またの名を、逆さクラゲ…。

 看板を見ると、入り口の石塀の陰で淳子はまた立ち止まってしまった。

「イヤ私、やっぱり帰りたい」

 突然、もと来た道に駆け戻ろうとする。

「待て…!」

 ここで逃がしてやるテはなかった。

 とっさに引き戻して平手で頬を張ると、ヒィッ息を引いてその場に

立ちすくんだ。

「タッ、助けて…」

「バカやろう、こんなところで騒ぐと人目につくぞ」

 思いきり背中を突き飛ばすと、淳子はつんのめるように入り口の

敷居を跨いだ。



    三、処女破りの作法


 ラブホテルが現在のようなオートシステムになったのは、つい最近の話だ。

 そのころは玄関で靴を脱ぐのが普通で、帰るとき料金と引きかえに

戻してくれる。情事を終ったあと、男と女の靴が揃って並んでいるのを

見るのは奇妙に猥褻感があった。

「空いてるかい。休憩したいんだけど」

「はい、どうぞ…」

 無理やり連れ込んだことは歴然だが、出てきた仲居風の女が抑揚のない

声で言った。見て見ないふりをするのは、この世界のエチケットである。

 淳子の腕を掴んだまま、女の後について薄暗い廊下を曲がる。

「こちらです、ごゆっくり」

 女は振り向きもせず行ってしまった。 まだベットの時代ではなかった。

牡丹の間と書いた部屋の襖を開けると、八帖一間で、真ん中に

二枚重ねの布団がふたつ並べて敷いてある。それを見たとたん、

淳子は処刑場に入れられた囚人のように震えだした。

「か、帰してよゥ」

「お前、こんなところに来たの初めてか?」

 私は、ポットからぬるいお茶を注ぎながら言った。

「珍しいな。男とヤッたこともねえのかよ」

「ごめんなさい。カ、カンニンして…」

「わかったよ、まあ座れ」

 あとは、じっくりと責め上げれば良い。初めから処女とわかっている

女にいきなり飛びかかるのはシロウトである。

「それじゃおまんこ見るだけにしよう。そんなら文句ねえだろう」

「ええッ、さっき何もしないって言ったじゃない」

 淳子は顔色を変えたが、何を言ってももう無駄であった。

 水色のコートに手をかけると淳子は本能的に身を縮めた。その下は

フレアの多い花模様のスカートである。裾から強引に捲り上げると、

真っ白でパンパンに張った太腿がムキ出しになった。

「やめてェ…ッ」

 淳子は身体を丸くして、両手で必死に陰毛を隠そうとする。

「おとなしくしろ。暴れるとブン殴るぜ」

「うぇぇ…」

 圧し潰したような悲鳴をあげて、淳子はぐったりと身体の力を抜いた。

それから素っ裸で布団の上に転がされるまで、僅か10分足らずの

抵抗であった。

「見せてみろ。本当に処女だったら勘弁してやるよ」

 容赦なく膝を開くと、まだ荒らされていない肉唇が一本の縦の線に

なっている。

 指で広げてみると、中は思ったより凹凸が少なかった。クリトリスの下に

濡れた粘膜が陥没して真ん中に小さな穴が開いている。

「へえ、これが処女なのかい」

 私はしげしげと、捕獲したばかりの新鮮な女の性器を見つめた。

「いい身体してやがんな。お前、本当に男に抱かれたことねえのか?」

「シシ、知らない…」

「なぁお前、ちょっとだけハメさせろよ」

 私は、残酷な低い声で言った。
 


<つづく><もどる>