�A






四、穴人形


ビリビリと自然に筋肉が収縮して、脳天に突き抜けるような感覚、

それは決して快感と呼べるような代物ではなかった。

何とか膝を閉じようとするのだが、嘉助の指は容赦なく

それを圧し分けて入ってくる。

思わず中腰になって、江理子は畳から尻を浮かした。

「おう、よう濡らしとるやんけ」

曲げた指を二本、遠慮なく中を掻きまわしながら耳元に

息を吹き込まれて、ヒクヒクと自然に尻の肉が反応する。

だめ、わかっちゃうッ…

シロクロの演技に集中している見物の視線がもしこっちを

向いたらと思うと、江理子は必死で身体を硬直させた。

「見てみい、あの女もイキよるとこや。お前も一緒にイッてみんかい」

嘉助が、あたりに聞こえよがしに言った。

目の前2メートルと離れていない布団の上で、見世物の女が

四肢を宙に泳がせてもがいている。

両方の乳房を鷲掴みにして引き寄せながら、男が腰を使うたびに、

ビタッビタッと肉のぶつかり合う音が聞こえた。

「うぅぅぅん…ッ」

残った力を振り絞るように、女が陰惨な呻き声をあげる。

「ハイッ、イッてます、イッてます」

司会役の男が、得意げに場違いな合いの手を入れた。

そんなことにはお構いなしに、上になった男が我武者羅に

女を責める。ヒロポンの効果なのであろう。自分の性器が

客の視線に晒されていることなどまったく意識していない様子で、

死ぬまで女を犯すことを止めないロボットのような感じである。

「あふッ、うむゝ…」

女が二度ばかり激しく痙攣して、グタッと全身の力を抜いた。

グニャグニャになった身体を抱え込むように、ロボットはそれからしばらく

抜き差しを続けていたが、やがて、男の尻の肉がピクピクと

不規則に動いた。

「ぐっ、くっくっ」

息が詰まるように咽喉を鳴らして腰を突き出す。上半身を弓なりにして、

そのとき何故か男が虚ろな視線を江理子のほうに向けた。

眼の中に快感の光芒がない、木乃伊のように枯れた視線である。

ぞっとして、背筋に戦慄が走る。そのとたん、突然江理子の身体の奥で

奇妙な爆発が起こった。

クリトリスは嘉助の指で揉み潰されていたが、カッとなったのは

その部分ではなく、もっと身体の芯で何かが溶けて、ドロドロと

崩れ落ちて行くような感覚だった。

まるで自分が犯されて男に射精されたような気がして、江理子は

下半身を支えていた尻をベタッと畳の上に落した。

「ほう、とうとうイキよったか」

嘉助が腕を抜いたのと、ショーの呪縛から解かれた観客がまばらな

拍手を送ったのとがほとんど同時である。

拍手はもちろん、見世物の役目を果たして気息奄奄と横たわっている

加奈という女に向かってのものだが、江理子は全身に火がついたような

感じで俯いているよりほかになかった。

「はい、今夜はこれまで」

司会役の男が照明の電気を消す。

明るさに馴れた眼に、部屋全体が再びお互いの顔が見えない程度の

暗さになった。

「有難うございました。えぇ、お帰りはこちらで…」

見せるものは見せたのだから、あとは勝手に帰れと言ったシステムである。

まだ身体が小刻みに震えている。観客にそれを気づかれないように

肩をすくめて固くなっていると、男たちが一斉に立ちあがった。

客の一人が、まだ動けないでいる江理子にぶつかりそうになって、

おっ…、と声をあげた。はじめて見物人の中に女が混ざっていたことに

気づいたのだろう。だが別に声を掛けるでもなく、客たちはそのまま

ゾロゾロと玄関の方に流れて行く。

「戻るで、はよ立たんかい」

ハッとして顔を上げると、座敷では司会の男が無造作に女の腕を掴んで

引き起こしているところだった。まるで、役目を終わった小道具の人形を

片付けるようなやり方である。

「あんさん、その女、えぇ子やな」

嘉助が無遠慮に声をかけた。

「よう仕込んである。加奈と言ったな、貸し出しもできるんやろ」

「いいですよ、昼間だったら」

腰が抜けたようになっている女を引きずりながら、男が抑揚のない声で言った。

「楽しめますぜ。けっこう元がかかってますんで」



五、家畜の生活


浅草から、そのころまだ少なかったタクシーに乗って家に戻るまで、

江理子は頭の中が痺れたようにボンヤリとしていた。

あんな女が、この世に生きていることがショックだった。

あの人に比べれば、私なんか、まだ…

そう思うと、ふと涙が出そうになった。

シートにふんぞり返った嘉助が胸に手を伸ばしてきたが、触られるままに

なっている。ときどき、摘まれた乳首にジンジンと痛みが走った。

家は葛飾のはずれ、そろそろ千葉県に近い金町というところにある。

かなり広い敷地に焼け残った町工場と、当時としては豪勢な一戸建ての

屋敷が隣接していた。

「どや、面白かったやろ」

家に入ると、進駐軍の払い下げらしい新品のソファに、嘉助がドシンと

腰を下ろしながら言った。

「お茶を持って来い」

「はい」

台所に立って、これも進駐軍放出の紅茶に角砂糖を二個添えて運んでくると、

江理子は大きく股を広げて投げ出した嘉助の足の間に膝をついた。

毛深い脛を抱えて、踵を自分の太腿に乗せると丁寧に靴下を脱がせる。

これはいつもの妾としての江理子のつとめだった。

それから無言で手を差し伸べて、ズボンのベルトの金具を外しにかかる。

「えぇ女やったな、あのイキ方は本物や」

頭の上で、カチャカチャとスプーンで紅茶をかきまわす音が聞こえた。

「お前も興奮したやろ。えぇ、どうやった」

「はい」

「ふん、妾やったら、あの女のように、いつでもイケるようでなくちゃいかん」

「はい…」

俯いたまま感情を殺して答えたのだが、あのとき抉られた穴の周りが、

まだジクジクと湿り気を帯びて気持が悪かった。

太った腹からベルトを抜いて、ズボンの前ボタンを開けると、嘉助が僅かに

腰を浮かした。それに合わせてステテコと一緒に膝下までひと息に下ろす。

奇妙な組み合わせだが、その下は旧日本軍の軍人が常用していた褌である。

晒しの褌を解いて、江理子は右手の親指と中指でまだ柔らかい嘉助の男根を

摘んだ。

亀頭の皮を剥いて、ほとんど習慣のように口に咥える。

舌の上で柔らかい肉の塊がピクピクと脈を打った。

外出から戻ると、ソファにくつろいで腹を突き出した旦那にこうして挨拶するのが

江理子の勤めなのである。

ときとしては一時間でも二時間でも、中年を過ぎた嘉助は舐めさせることが

好きであった。

「どうも、ちかごろは、お前一人では刺激が足りなくてあかんの」

ズルズルと音を立てて紅茶を啜りながら、嘉助がつぶやく。

江理子は無言で一心に作業を続けた。

「めかけと言うもんは、二十四時間旦那に身体を売り渡しているんや。

少しは飼い主の役に立ってもらわんとな」

いったい何を考えているのか、突然口の中で大きくなった肉塊がビクビクッと

跳ねた。慌てて咥えなおして、上眼使いに男の顔色を窺がう。飼い主と言われて

哀しかったが、確かにそのとうりなのである。

結婚して五年目に戦争に駆り出された夫は戦死。

空襲で家を焼け出され、子供を栄養失調で亡くして、闇市の隅で行き倒れ同然に

なっていたのを復員くずれの闇屋にレイプされて、そのまましばらく同棲させられた。

ほとんど痴呆状態になって、男の手でどこかの淫売宿に売り飛ばされる寸前に、

ふとしたことから出会って引き取ってくれたのが、現在の旦那の森口嘉助である。

命の恩人と言えばそうだが、それからの生活は、言われるとうり家畜と変わらぬ

性の玩具だった。

「これ、もっとしっかり舐めんかい」

脇腹を蹴られて、江理子は反射的に咽喉の奥まで嘉助の男根を嚥んだ。

「仕様のないメスやな、男の悦ばせ方もよう知らんのか」

商人らしく奇妙な関西弁を使っているが、もともと東京の人間である。

小さな軍需工場だった町工場が焼け残ったことが幸いして、廃品になった

鉄板を利用して作ったフライパンや鍋が闇市で飛ぶように売れた。

転がり込んだあぶく銭を元手に進駐軍の放出物資を扱っている、

いわば戦後の俄か闇成金である。

「もうえぇ、いつまでももの欲しそうに舐めておらんで、そこに立って

おそそを晒してみい」

年のせいもあろうが、嘉助は自分が射精するより、女を興奮させて

悶えるさまを眺めて楽しむと言う卑猥な性癖の持ち主であった。



六、孤独な羞恥


のろのろと立ちあがって、江理子はスカートに手をかけた。

いつものことだが、頭の中が痺れたようになって何も考えていない。

自分で感情を殺すことだけが、江理子に与えられた唯一の自由だった。

スカートを足元に落とすと、その下はペラペラの人絹のシミーズ。

機械的に指先が動いて、シミーズを裾からたくし上げてゆく。

三十才を過ぎた女の脂の乗った膝小僧から太腿が、何か別の猥褻な

生き物のように嘉助の目の前に露出する。

ズロースのようなものは、浅草にシロクロを見物に行ったときから

穿かされていない。シミーズを臍の上まで捲ると、江理子は立ったまま

少し脚を広げた。

「ふん、えげつない格好やな」

テーブルに紅茶のカップを置いた嘉助が、洋モクの封を切ってマッチで

火を点けながら蔑むように言った。

「女も年増になると、恥ずかしげもなく何でもやりおる」

そんな言葉の虐めには応えず、シミーズがズリ落ちてくるのを気にしながら、

柔らかい肉の土手に生えた陰毛を指に巻いて左右に引っ張ると、先刻から

嘉助に抉られて充血した粘膜が、笑み割れたように無残なかたちを曝け出す。

「おう、よしよし、けっこう濡らしとるわい」

嘉助は上機嫌だった。太った身体を乗り出して、奥を覗き込むようにふうっと

煙草の煙を吹きかける。

淫靡な空気の動きを、江理子は眼をつぶって耐えた。

「毛深いんでよう見えんな。よっしゃ、そこにハサミがあるから持って来い」

「はい」

シミーズをたくし上げたまま部屋の反対側に置いた鏡台から持ってきて渡すと、

無造作に受け取って嘉助はチャキチャキとハサミを鳴らした。

「もっと近くに寄らんかい。そしたらしっかりと股を広げるんや」

「は、はい…」

咥え煙草の嘉助が身を乗り出す。江理子は無意識に両手で陰毛を

抑えようとした。

「邪魔だ、手をどけろ」

腕を伸ばして刃先を女の下腹に当てる。

「アヒィッ」

思わず悲鳴を上げて、江理子は反射的に腰を引いた。

ジャキッと鈍い音がして、切り離された陰毛があたりに飛び散る。

「あ、あ…ッ」

「バカ、せっかく散髪してやろうと言うのに静かにせんかっ」

「は、はい」

ようやく立ち直ったが、膝頭がブルブルと震えた。

ジャキ、ジャキッ…

情け容赦もなく、ハサミが音を立てる。見る見るうちに、足元に小さな陰毛の

塊りが束になって落ちた。

それを防ぐことも逃れることも出来ない。めかけと言うより、檻に飼われた

家畜なのである。

江理子は震える膝を踏ん張って、身体から皮を剥ぎ取られてゆくような

屈辱に歯を食いしばる。

「ホレ、土手の毛を引っ張ってみい。動くと怪我をするぞ」

「あぁ、ハイ…」

嗚咽がこみ上げてくるのをこらえて、柔らかい膨らみの上に生えた陰毛を摘むと、

ジャキッと音がして指先から手応えが消えた。

「今度はこっちだ、もっと奥のほう」

「う、うぅ」

「ケツの方までよう生やしとるな。こういうおそそは淫乱の証拠や」

生まれつき薄い方ではないが、剃刀で剃り落すわけではないから、

長いのや短いのや、切り残しがあちこちに残って、見るも無惨な

トラ刈りである。

「はっはっは、ベロがはみ出しているのまで見えるわ。思ったよりドドメ色やな」

「ハッ恥ずかしい」

「これまで、さんざん男を咥えてきた色や。そのくらいは、まァ仕方なかろう」

チャキチャキと恥骨のトラ刈りに切込みを入れながら、嘉助は面白そうに言った。

「このおそそで、儂の目の前で男に抱かれて見世物になってみるか」

「ダ、旦那様、お許し…」

「お前は儂の飼い犬も同じや。嫌とは言わせへんで」

嘉助は、残忍な笑みを浮かべた。それからフト思いついたように

言葉の調子を変えた。

「いい年コイて恥ずかしがっていないで、そこに立ってもう一度股を広げろ」

ゆっくりと、嘉助が二本目の煙草に火をつける。

「そこでオナニーやってみい。お前、立ったままでもイケるんやろ」



(つづく) もどる