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十三、媚肉たたき


だが女は身動きもしない。

江理子が源次郎と話をしていたのは、せいぜい五分から十分の

間なのだが、縛られて感覚がなくなってしまったのか、縄がきつくて

手足が動かないのか、箒の柄で叩かれると、呻き声をあげて

僅かに身をよじるだけであった。

「この野郎、出て来いっ」

俯いた肩から背中を、叩くというより打ち据える感じで振り下ろす。

バチッと無気味な音で素肌が鳴った。

「クェッ、クゥゥッ」

「淫売のくせに、客を取ることも出来ねぇなら、ここでくたばっても文句はあるめぇ」

「お、お許しを…」

「許してだと?今になって都合の良いことを言うなっ」

ビシャッ、と尻ぺタの肉が潰れたような音をたてた。

「ゲフッ」

横転した女の眼が吊り上がって、唇から白く濁った精液のような

唾が飛んだ。舌が元に戻らないのか、半開きになった唇の端から

ダラリと外に垂れ下がっている。見ているだけで血の気が引くような、

むごい折檻であった。

「買われたおまんこに、女が嫌だ応だと言う権利はねぇんだ」

胡座縛りにした股の間に箒の柄を差し込んでグリグリと捏ねる。

ひとつ間違えば、ズブズブと奥まで潜り込んで穴の底を突き破りかねない

力である。だが周りが濡れていないせいか、柄の先が柔らかい肉を

巻き込んで僅かに没しただけであった。

「あ、あの、あの…」

咽喉の奥からかすれた声を出して、江理子は無意識に女に手を

差し伸べようとした。

「何だ」

「止めてもう、か、可哀相だから…」

「ふ、ふ、ふ」

源次郎の低い笑い声が、江理子の頭の上で聞こえた。

「仏ごころを出すんじゃねぇよ。おまえだってこいつと同じメスなんだぜ」

メス…、そのひと言が、鉄の釘を打たれたようにグサリと胸に突き刺さる。

僅かな哀れみの気持が、灼けたフライパンに落ちた水滴のように

ケシ飛んでしまうのを感じた。

「こいつは三日前に、自分から女郎になりたいと言ってきた女だ」

箒の柄で女の乳房を小突きながら源次郎が言った。

「子供におまんま食わせたいから女郎にしてくれと頼んでおいて、

いざとなると逃げ出しやがって」

江理子には、それだけでこの女の境遇が判ったような気がした。

その当時、戦争に男を奪われて、淫売でしか生きる道のなかった

女の数ははかり知れない。今でこそ戦後成金の妾になっているが、

江理子自身、つい最近までその瀬戸際に立たされていたことを思うと、

この女が哀れと言うより、もう一人の自分を見せられているような

気がしてならないのである。

「わ、惡う、ございました」

その時、女が絞り出すような声で言った。

「します、しますから…」

「今ごろになって上手いことを言うな。いっそのこと腕をヘシ折ってやろうか」

ビシィン、とまた背中が鳴った。

「ギャッ」

「このご時世に女郎が一人や二人、大川に浮かんだって振り向く奴なんか

誰もいねぇよ」

「しますッ、ほ、本当ですッ」

タタミを舐めるように額を擦りつけて、女は乾涸びた声を上げた。

それは謝るというより必死の命乞いである。

「し、します、しますからァ…ッ」

「けっ、小穢ねぇアマだ」

何を思ったのか、源次郎がポンと女の尻を蹴った。

「グェ」

「こっちを向け、貞操だかなんだか知らねぇが、その根性を毟り取ってやる」

髪の毛を掴んで、ぐいと顔をねじ上げる。身動きできない女を、そのまま

ズルズルとこちらの部屋まで引きずってきた。

「あ、あッ、ひィッ」

「うるせぇな、いちいち悲鳴を上げるんじゃねぇ」

無造作に部屋の真ん中に転がすと、源次郎は振りかえってニヤリと笑った。

「おいお前、ちょっとそこで股を広げてみろ」

えぇっ…

呆然としていると、源次郎が箒の柄でワンピースの裾を跳ね上げながら言った。



十四、柔肉の味


「ちょうど良い、脱ぎな。イクまで舐めさせてやる」

ガタガタと身体が震える。これまでのいきさつを見て、逃げても

無駄であることは分かっていた。

もう、なるようにしかならない…

強暴な男の力に圧倒されて、それは一種の快感と言っても良かった。

振るえる指先で、江理子は胸元のボタンを外そうとした。

叩かれることが怖いのではなかった。神経が痺れて、こうすることが

むしろ自然だったのである。

ここに来る前から気にしていた薄手のワンピースを脱ぐと、その下は

白のレースがついたシミーズが一枚。ブラジャーもズロースも

初めからつけていない。流石に自分からシミーズを脱ぐ勇気はなかった。

三十六才の脂がのった太腿がニュッと露出するのを、短いシミーズの裾を

引っ張って抑えていると、俯いた顎のあたりにガツンと竹の棒の衝撃が来た。

「腰を突き出せ。それじゃ舐められねぇよ」

膝を曲げ、両手をタタミについて、閉じていたシャッターを広げるように、

江理子はジリジリと股を開いた。

捲れた裾の奥から、陰毛を刈り取られた土手の肉が、あられもなく

剥き出しになる。

「行け、この女がイクまで舐めろ」

グスッと源次郎が女のどこかを蹴った音が聞こえた。引きずられて

縄目が緩んだのか、女がにじり寄ってくる気配を感じて、江理子は

胸を反らしたまま眼を宙に据えた。

来た…!

次の瞬間、江理子は広げた股の間にズシリとした意外な重みを感じた。

思わず閉じかけた太腿に挟まれて、女の荒い息遣いが江理子の粘膜に

吹きかかる。内股に、べっとりと冷たく濡れた肌の感触がふれ、

鳥肌が立つような戦慄が全身に走った。

「馬鹿、そんなんでこいつがイクかっ」

バシィ…!

「てめぇも女だろう。少しは気を入れて舐めろっ」

ビシャッ…!

「クゥゥ、ウムム…」

ビリビリと、女の苦悶の反応が伝わってくる。

自分が叩かれているような錯覚で無意識に腰がくねると、そのたびに

女の唇がヌラヌラと肉片をなぞった。

「あぅッ」

直接歯が当たったのか、突然クリトリスに鋭い衝撃が走った。

ハッとして眼を開くと、バラバラになった女の髪が、膨らんだ下腹から

臍のあたりに波を打って、顔が深々と股間の凹みに埋まっていた。

だが舐められていると言う実感はほとんどなかった。

女は懸命に舌を動かそうとするのだが、苦痛と息苦しさと、全身を

縛られているので自由が利かないのである。

朝、風呂に入っていないので、その部分は匂いがかなり強くなっている

筈であった。こんな臭くなったところを強制的に舐めさせられている

女をみると、江理子は恥ずかしさより済まないという気持の方が先に立った。

見ると、女の丸くなった背中に、固い竹の竿で打たれたあとの傷痕が

縦横に交錯していた。

ミミズ腫れと違って、肉そのものが盛り上がり、幾筋も血を滲ませている。

その無惨な光景を見ると、江理子はこの女が自分と同類の家畜であることを、

胸を突き刺されるような気持で感じないではいられなかった。

旦那の大友嘉助に与えられている痴虐の数々を思えば、江理子はまだ

恵まれていると言わなければなるまい。

だが何故か、江理子の心に源次郎の理不尽な暴力に対する反撥が

沸いてこないのは不思議である。

それは、江理子が血の中に持って生まれた被虐への願望が、

この場になってようやく蠢きはじめたと言うより他にあるまい。

そのとき、女の身体がまた不規則にグラグラと揺れた。

ギョッとして顔を上げると、股間に食い込んだ縄を掴んで、源次郎が

荷物を持ち上げるように女の腰を立てようとする。足首を交叉して

アグラ縛りになっているので、不安定な姿勢を支えようとして、前のめりに

なった女が顔全体を江理子の股間に圧しつけてくる形になった。

「この野郎、亭主に操を立てやがって、死んだ男のちんぼが

そんなに有り難いのか」

「ぶふぅ…ッ」

股の中で、女が激しく首を振った。

「男を一人食おうが千人食おうが、女の穴はみんな同じだ。

しっかりと味わっておけ」

上半身裸の源次郎がゆっくりと軍隊ズボンを脱いだ。敗戦の軍隊で

生き残ってきた逞しい肉体である。

江理子は、呆然と源次郎の裸体を見上げた。



十五、メスの啼く声


斜めに天井を向いた男根は、戦傷でインポになった嘉助のものからは

想像も出来ないほどの威力があった。

長い間男を挿入されたことのない江理子は、異形の肉塊に一種の

畏敬の念をさえ感じた。

「いつまでも、昔の男に未練を持っているんじゃねぇ」

蹲った女の腰に手をかけながら、源次郎が言った。

「ケツを上げろっ」

強引に持ち上げると、むっちりと肉の張った大きな尻が、白い肌に

クッキリと青黒い痣と血の痕を滲ませている。

江理子は、クリトリスが何故か突然ビリビリと痙攣するのを感じた。

「屑みたいな貞操なんか、早いとこドブの中に捨ててしまえ」

男根に片手を添えて、源次郎がゆっくりと尻の谷間に狙いをつけた。

江理子の股に顔を埋めたまま、女は身動きもしない。子供をどこに

置いてきたのか、身体を売る決心をしてからも、どうしても踏ん切りが

つかなかったのであろう。売春宿の経営者から源次郎のところに

送られてきて、有無を言わせぬ折檻を受けたあとの女は、

見栄や体裁や羞恥心まで剥奪されて、完全に抵抗する意思を

失っているようであった。

「見てろ、このブタがどんな声で啼くか聞かせてやる」

見ていろと言われれば目を閉じるわけには行かなかった。

うしろざまに両手をタタミについて膝を八の字に広げた姿勢で、

江理子はその一点を凝視した。

グフッ…!

女の顔がつんのめって、その拍子に、唇で圧されたクリトリスの表皮が

捲れてビリビリと刺激が走る。

「う…ッ」

声を上げたのは、江理子の方であった。

「うッ…、くツくッ」

1メートルと離れていないところで、戦争で焼け光りした肉体が容赦なく

腰を使う。男が突きを入れると、動きに連動して女の顔がヌラヌラと

やわ肉の間を滑った。濡れているのは汗なのか涙なのか、それとも

女の唾液なのか、江理子が出した粘液とは思えなかったが、

顔が動くたびにクリトリスを圧されて痺れるような感覚が全身に

広がってゆく。

その刺激から逃れようとして、江理子は夢中で女の後頭部を抱えた。

両手を髪の毛に突っ込んで動かないように抑えつけようとするのだが、

こうなると上半身を起こしていることが出来ない。

仰向けになったところを千切られるように肉ベラを吸われて

仰け反るしかなかった。

「うはッ、うぅむ…」

「どうした、気分出してるのか」

やがて、源次郎が面白そうに言った。

「妾のくせに、これで感じられるんなら上等だ。てめぇ相当な淫乱だな」

グン…ッ、と源次郎が腰を入れる。

女の鼻がクリトリスを擦って小刻みに動いた。

「うぇぇぇ、い、いい…ッ」

思わず唇から嬌声に似た呻き声が洩れた。苦しみ悶えている女を道具に

使ってどうしてこんな気持になれるのか、江理子自身、抑えようのない

感覚の上昇である。

「くはッ、カンニンして…ッ」

亀の子のように首だけ持ち上げて、江理子は必死に訴えながら女の顔を

股間にこすりつけようとした。

「イ、イク、アァイク…」

「馬鹿野郎、まだ早いっ」

バシィン…!

いきなり、源次郎が平手で力任せに女の尻を叩いた。ひとたまりもなく

女の身体が横転する。そのとたん、吸われていた肉ベラが伸びて、

江理子は短い悲鳴を上げた。

「この淫乱っ、勝手にヨガるんじゃねぇ」

「うぇ…、は、はい」

痴呆のようになって、江理子は眼を宙に据えた。噴き出す寸前に出口を

塞がれた快感の塊りが、まだクリトリスの周りで脈を打っている。

「いい年をしやがって、この女が犯されるのがそんなに気持良いのか」

「違う、ち、違うんですッ」

自分でも何を言っているのか、江理子にはよく分からなかった。

「わ、私、この人が、身代りになってくれたような気がして…」

「身代りだと?」

源次郎が鼻の先で笑いながら言った。

「こいつには女になることを教えてやっただけだ。イキたけりゃ俺がイカせてやるぜ」

「え、えッ」

瞬間、江理子の脳裏に陰湿で嫉妬深いインポの嘉助の顔が浮かんで消えた。



(つづく)もどる