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二十二、罪状認否


「元気がないな、どないしたんや」

腰の周りが、まだ痺れていた。セックスに満足したと言うより、

溜まっていた性欲の塊りを全部抜き取られてしまったといった

感じである。

ふらつく足取りでようやく金町の家に戻ると、事務室になっている

応接間のデスクで、現ナマを勘定していた旦那の嘉助が

振り向きざまに言った。

「話はついたのかい。まさか失敗じって来たんやないやろな」

「いえ…」

「そうか、女を貸してくれると言ったのか」

「はい、加奈さんと、ほかにもう一人…」

「ほうそうか、そいつはありがたい」

札束を無造作に金庫に放り込みながら、嘉助は機嫌の良い

笑顔を浮かべた。

「加奈というのは、この前見世物になっていた女やろ。

あれは上玉やった」

東京人のくせに、アクセントの悪い関西弁を使う。当時の闇屋が

よく見せた商売人のポーズである。

「で、もう一人の女と言うのは、えぇ女やったか。会ってきたんやろ」

「綾乃さんといって、戦争未亡人だということですけど、キレイな方です」

犬よりも惨めな折檻を受けていた綾乃の痩せ細った裸体が、

ふと江里子の脳裏をかすめた。唇の周りに、まだあの女の

性器の匂いがこびりついている。

「でもまだ、経験が少ないみたいで…」

「新人か、ま、それも良かろう」

うなずいて、嘉助はさりげなく言葉の調子を変えた。

「それはそうと、お前、今まで何をして来たんや。ずいぶん遅かったな」

「えッ」

「いま何時だと思っているんや。話だけなら三十分で終った筈やろ」

「は、はい。つい遅くなってしまって…」

「何をしていたかと聞いてるんや。はっきり言うてみい」

「はいあの、ふ、二人が練習しているところを見せてもらって…」

「練習?そりゃ良かったな」

嘉助が目尻の横から透かすように言った。

「練習をしたのは二人だけでか」

「………」

立ったまま、江理子は唾を呑んだ。とたんに痺れている股間の括約筋が

キュウッと縮んで硬くなるのを感じた。

「お前みたいな淫乱が、よう興奮せずにいられたもんや。

えぇっ、どないやねん」

「し、しました。私も…」

「ほう、やっぱりそうか。やられて来おったんやな。ふぁっ、ふぁっふぁっ」

卑猥に笑いながら、じいっと江理子の表情を見据える。

咽喉が詰まって、江理子は立ちすくんだまま眼を伏せるしかなかった。

嘘を吐いても、問い詰められれば白状しなくては収まらない

この場の雰囲気である。

「源次郎から責められ方を教えてもらって来たのと違うか。

さぞかし濡らしたやろ」

「い、いえ、そんなに」

「嘘をつけっ。調べてやるから、ここに立っておまんこを広げてみい」

ギョッとして江理子は腰を引いた。綾乃に舐められ、源次郎に犯され、

スリコギで掻きまわされてきた道具に、淫欲の痕跡が残っていない

筈はなかった。

それくらいのことは嘉助が見れば一目瞭然であろう。

「早うせんかい。いつものように立ったまま土手を広げて、

サネを剥き上げてみい」

よろめくように畳に膝をつくと、江理子は手探りで嘉助の男根を探ろうとした。

インポの男根を舐めて、少しでも気を逸らしてもらいたいという果敢ない

願いである。

「何やっているんだっ」

「は、はい、遅くなりまして申し訳けありません。すぐお慰めしますから…」

「誰が舐めろと言った。道具を出してみろ」

「お、お許しください。今日は、とても…」

「貴様、まだ何か隠しているな」

嘉助が極めつけるように言った。

「妾の分際で、飼い主に隠しごとをして済むと思っているのか」

「いえそんな、わたし決して…」

「それとも、おまんこを見せられへん訳でもあると言うのかい」

まるで、何もかも見透かされているような口ぶりである。

予期はしていたことだが、もう言い逃れるすべはなかった。

「も、申し訳ありません」

恥もプライドもなく、江理子は嘉助の脚を両手で抱えて、

爪先を顔にこすり付けた。

「お許しください。謝ります。お、お詫びしますッ」



二十三、告白の実演


「謝るって、いったい何をやってきたんや」

嘉助は意外と落ち着いた口調である。

「はじめから全部吐いてみい。隠したら承知せぇへんで」

「は、はい」

「部屋の様子から言うてみい」

「あの、客席になっていた部屋に、綾乃さんが引き出されて…」

「ほう、何をされていたんや」

「裸で、縛られて、お、お、おまんこに、竹の箒を…」

口にするのもおぞましい情景を、江理子は胃袋の内容物を

吐くような気持で、ひと息に言った。

「突き刺されて、お仕置きを受けているところに、ぶつかってしまって…」

「そりゃ良かった。ふっふっ、源次郎のやりそうなこっちゃ」

「怖くなって震えていると、源次郎さんが、綾乃さんにここを舐めろと…」

「ここって、どこだ?」

嘉助が、面白そうに言った。

「こ、ここです」

自分で自分の股間を指さしながら、江理子は頬がカッと熱くなった。

嘉助に身体を調べられるのはいつものことだが、今日ばかりは

身に覚えがある。

「ほう、おまんこを舐めさせる仕置き台になってきたんか」

「はい」

肩をすぼめて肯いたが、恥ずかしさで心臓が躍るようだ。

「面白いな。気持ち良かったやろ」

「ハ、ハイ…」

「よし、それじゃどんな格好で舐めさせてきたのかやってみい」

「えぇッ」

「スカートを捲って、そのときの格好をやってみろと言ってるんや」

「ハッ恥ずかしい」

「いい加減にせぇ。源次郎の前でやってきたことが、わしに

見せられんと言うのか」

「いえ、や、やります…」

仕方なく、江理子はスカートの裾に手をかけた。

少しずつ捲り上げてゆくと、我ながら白くてイヤらしい太腿が

ムキ出しになる。

「そんなんでおまんこが舐められるわけないやろ。もっと膝を開けっ」

「こ、こうですか」

「その時と同じ格好をするんや。どんなことをやって来たのか復習してみろ」

「は、は、はい…」

出来あがったのが、源次郎に要求された最初のポーズ。

尻餅をついて、後ろ手に腰を持ち上げたアラレもない姿である。

「こ、こんなかたちで…」

「ふん、女に舐められた気分はどうやった」

「あぁぁ、お許しください」

「どうやったと聞いているんや。イキそうになったんやろ」

「わ、私、どうすることも出来なくて…」

「イッたのか?」

「いえ、もう少しのところで、ガ、我慢しました」

「ほう、それはエラい。お前みたいな淫乱がのぉ」

嘉助がニヤニヤと笑いながら言った。

「それで、源次郎はどうした。何も手を出さなかったか」

笑いながら、眼は蛇のように光っている。インポなのだが、

嘉助が陰険に欲情していることは確かだった。

「あの男が何もしないという筈はないやろ。えぇっ、どうなんや」

「げ、源次郎さんは綾乃さんを後ろから…」

「ふむ、まるで犬扱いやな」

いちおうは納得したようだが、嘉助はふと言葉の調子を変えた。

「ところでお前、わしのところに来てもう何年になる?」

「もうすぐ三年、お世話になって…」

「三年か、妾になって楽をしたのう」

「はい、御恩は決して…」

後ろ手に尻餅をついて、性器を晒したままの受け答えは

苦痛だった。ともすれば膝を閉じそうになるのを耐えながら、

江理子は唇を噛んだ。

「本当に恩になったと思っているのか」

「そ、それは、もう…」

「だったらその間に、浮気なんか一度もしなかったやろな」

「えッ、はい…」

「ほんまに、間違いないか?」

「………」

「源次郎にも、絶対に犯されなかったと言いきるんやな」

とうとう力尽きて、江理子は浮かしていた腰をガクンと畳の上に

落とした。どう答えたら良いのか、舌が縺れて声にならなかった。



二十四、浮気の報酬


源次郎と嘉助の間がツーカーであることはおよそ想像がつく。

隠そうとしても隠し切れるものではなかった。

ここで言わなければ大変なことになる…

綾乃に与えられた苛酷な仕置きを見せられているだけに、

そこまでは頭の歯車が回転したのだが、江理子の思考回路は

そこでピタリと停止してしまった。

脚を投げ出して性器を露出したまま、江理子は石のように固くなった。

「返事をせいっ」

「も、申しわけ、ありません」

「何が申しわけないんや。ハッキリと言うてみい」

もつれた舌が自然に動いて、シドロモドロな言葉が突き上げてきた。

「わ、わたし、イキかけたところで、上に乗れと言われて…」

「源次郎にか」

「はい、おちんちんが真っ直ぐ上を向いて、こっちに来いと…」

「うっひっひっ」

嘉助が、乾いた声で笑った。

「そうかそうか、ちんぼが欲しくて自分から男の腹を跨いだのか」

「わ、私、何が何だか判らなくなって…」

「この淫乱が、貞操のカケラもない妾だ」

「すいません。申しわけ…」

「いちいち謝らんでもえぇ。どんな格好をしたのか、

ここでやってみろ」

ノロノロと、江理子は身体を起こした。どんな格好と言われても、

相手がいないところで女上位の演技を実演するのは至難のわざである。

男に抱かれていれば格好もつくが、独り芝居の猥褻さと屈辱感は

恥ずかしさを通り越していた。

四つン這いになって、体重を膝でささえ、四股を踏むように大きく

股を広げる。嘉助の目の前で、土手の割れ目がパクッと口をあけた。

「なるほど、そうやると穴が下を向くわけやな。流石は源次郎、

よく考えたもんや」

嘉助が舌舐めずりしながら言った。

「もっと腰を使え。ただハメただけじゃなかったんやろ」

ギクシャクと腰を動かす。その度に、赤く爛れたように濡れた粘膜が

伸びたり縮んだりするのがひどく卑猥だった。

「どうや、イッたのかイカなかったのか、どっちや」

「イ、イ、イキました」

「わしに無断でイキおって、良心にとがめなかったか」

「も、申し訳ないと、思いながら、か、身体が…」

「この助平ブタ、そんな格好で何回イカされてきた?」

「二度か、三度…」

「嘘を吐けっ。正直に言わんと、ただじゃおかんで」

「ご、五回です。いえ、もう少し…」

「それじゃイキッ放しだったんやな。初めての男と、恥も外聞もなく」

「許して、くださいッ。止めようとしても、と、止まらなくなって」

「よう言った。旦那持ちの妾がそれだけ狂えば申し分ないわい」

もう感情を隠そうとしない。脂ぎった顔に淫欲の汗を浮かべて、

嘉助は引きつったように笑った。

「素質があるなら仕込んでくれとは言っておいたが、お前、

思っていた以上の変態やな」

「変態…?」

蛙のようなポーズで、腰を上下に揺すりながら、江理子は

虚ろな視線を飼い主のほうに向けた。

「わたし、変態ですか?」

「当たり前や。それで普通だとでも思っているのか」

嘉助が、真綿で首を絞めように言った。

「お前ももう年や。いつまでも男に不自由させておくのも気の毒やさかい、

芸を仕込んで見世物にでも出してやろう」

「ひぃ…ッ」

思わず、江理子は咽喉の奥で息を引いた。

「タッ、助けて下さいッ」

瞬間、頭の中にあの日多勢の見物人に囲まれて、イクときの顔や形を

披露していた加奈の無残な姿態がクルクルと廻った。

「私そんなこと、と、とても…」

「出来そうもないと言うのかい。だったら、今日の不始末を

どうやって詫びるつもりや」

「わ、わたし、捨てられるんですか」

「阿呆ぬかせ、稼がせるだけや。年増でも変態はいい金になるで。

そのほうが、わしにとっても面白い刺激になる」

実は、これが嘉助の本当の目的だったのかもしれない。




(つづく)もどる