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二十五、宴の前夜


あれから…江理子は一時間以上もかかって、源次郎と綾乃と、

加奈を交えた密室での出来事を再現させられた。

「それからどうしたんや、脚を組み合せて、スリコギで繋がった格好を

やってみい」

嘉助が容赦なく、三人で絡んだ態位を次々と強要する。

相手があってこそサマにもなるが、独りで演ずるセックスの態位は、

猿回しに操られる猿よりも滑稽で、その上残酷なほど猥褻だった。

「綾乃という女の道具はどうやった。しっかりと濡れていたやろ」

「は、はい」

「ヌラヌラと滑って、ブッといスリコギでもズブズブ入ったやろな」

「そ、そう思います。はぁッ」

「おめこを擦りつけあって、そこでまたイキおったか」

「お許し下さい。よく覚えていないんです。ただ、深いところを突かれて…」

「この淫乱が、誤魔化すんじゃねぇっ」

返事が気に入らないと、いきなり素足で腹を蹴られた。

「うゥッ」

「イッたならイッたと、正直に吐いてしまえっ」

「イッ、イキました」

「そうやろな、イクときはどんな声を出したんや。そのとうりに鳴いてみい」

「こ、声は、息が詰まって…」

「嘘を吐けっ。スーハー、イクイクと大声でヨガったんやろ」

「そんな、は、恥ずかしくて…」

「良いからやってみい、わしの前でイクことも出来んというのかっ」

「いえ、で、でも、もう身体が」

「ふふん、気持ち良すぎてオメコが空っぽになるほどイカされてきたんやな」

「チッ違いますッ」

質問と言うより、勝手に描いた嫉妬の妄想を押しつけて来る。

嘉助の追求は詳細、執拗を極めた。

「飢えたオメコに、久しぶりの男の味はどうやった」

「許してくださいッ。私もう、何が何だか判らなくなって」

「そんなことを聞いとるんやないっ。男を咥えて嬉しかったかと言っとるんや」

「えぇッ、はい…」

「どうやって入れさせたんや。そのときの格好を見せてみい」

「わ、わかりません。どうなっていたのか覚えていないから」

「忘れる筈ないやろ。誤魔化すんやないっ」

ヨタヨタと姿勢を変えて、江理子は畳に両手をついた。

膝を曲げ、四ッん這いになって腰を高く上げる。

源次郎に犯されたとき、出来そうなのはこのポーズだけなのである。

「こ、こうやって、後ろから…」

「ふっふっ、犬や、やっぱり犬になり下がりおったのう」

パシィン…、平手で尻ペタを叩かれて、江理子はぐらついた身体を

片膝でようやく支えた。

「それっ、もっと腰を振れっ。オメコが気持ち良いと言ってみろ」

「キッ気持ちが、あぁッ恥ずかしい…ッ」

「何やまだ物足らんようやな。オメコに固いちんぼが欲しいか」

「いえそんな、欲しいなんて」

「あいにくやったな。わしの身体は役に立たんからの。

そんなに欲しければ代わりに指を使え」

「アァはぁッ、お、お許し…」

「やらなければ、台所にある味噌のくっついたスリコギを

突っ込むでぇ」

「うぇぇ…ッ」

背中を丸めて、江理子は右の手首を下から股の間に入れた。

指先がグチャッとした感じの肉ビラを掻き分けて中に沈む。

だがどんなに指を動かしてみても、この状態では絶頂まで

感覚を上昇させるのは無理であった。

「何をモタモタやっとるんや、下手糞っ」

嘉助の罵声がどこか遠くに聞こえる。盛り上がりようの無い快感を

必死に昂めようとして、江理子は顔を歪めた。

「まだだっ、もっとイケるやろ。もっと腰を振れぃ」

「うぅむ、うッうぅッ」

「このメス犬、恥じさらしっ」

下を向いて垂れ下がった乳房に足蹴を食らって、江理子は顔を畳に

こすりつけるようにつんのめった。

「イッ、イキますッ。イク…」

予期しなかったことだが、そのとき突然クリトリスに

灼けつくような痺れが起こった。



二十六、色欲の招待状


始めからこうなるように仕組んでおいて、罠に穽った女への嫉妬を

燃やすことで自分の性欲を掻き立てようとする。

戦争で男の能力を失った嘉助の隠微な企みである。

それが判っていても、江理子にはどうすることも出来ないのだった。

「ウゥムッ、あぁ、はぁぁッ」

指だけが、何故か無心にクリトリスを掻きむしる。快感と苦痛の境目で、

ようやく最初の感覚が爆発した。

「ほう、イクか、こりゃ面白い。お前もう人間やないな」

「イ、イクッ、クッ、クッ」

咽喉の奥から、絞るような切れ切れの呻き声が洩れた。

「妾の分際で、貞操のカケラもない。お前みたいな女を

淫乱と言うんや」

「イク、イッちゃうぅ、わん、わん…ッ」

メス犬…何故、突然口をついて犬の啼き声が出てきたのか、

自分でも判らなかった。

いつか知らぬ間に、被虐への想いが江里子の骨の髄まで浸透していた。

「わっははは、啼け啼けっ。もっと啼け」

「わん、きぃぃん、わん、わん…ッ」

声が次第にか細くなり、やがて嗚咽にかわった。

丸くなった背がヒクヒクと痙攣する。江理子が残っていた力を

すべて吐き出してしまったことを確認すると、嘉助は

「ふふん」

と鼻の先で笑った。

「ダラシがねぇ、もう終りか」

畳に突っ伏して肩で息を切っている背中を見下ろして、ドンと

ソファに腰を落とす。

「こっちに来て舐めろ。畜生のくせに、いつまでも休んでいるんやない」

「は、はい」

虚ろな視線を上げて、無意識に大きく広げた股の間に這い寄る。

手を使わず、垂れ下がった男根に舌を伸ばして顔で押し戴くように

口に入れると、相変らず柔らかくてグニャリとした感触である。

「穢がらわしい。貞操を失ってきたのはオメコだけやないやろ」

下腹を突き出し、ソファにふんぞり返って頭から罵声を浴びせる。

「あいにくと、わしのは立たんからさぞかし物足りないやろうな」

「………」

咥えたまま、江理子は激しく首を左右に振った。

「その口で、固くなったちんぼを咥えたときは嬉しかったやろ」

「ぐふッ、いえ…」

「まぁえぇ、そないに気を使わんでも、よう分かるわい」

何とかして気持ちを鎮めてもらいたい。蒟蒻のような肉の塊りを、

江理子は懸命に吸った。柔らかい亀頭の先が不思議なほど伸びて

咽喉の奥に垂れ下がる。嘉助の粗い陰毛が、唇に摺れて

ジャリジャリと鳴った。

「うむ、もっとしごけ。オメコを絞めるように、シッカリと吸わんかっ」

それでも感じてくるのか、両手で後頭部を抑えて、嘉助が下から

ムクムクと腰を突き上げてくる。

顔全体が陰毛に埋って、江理子は息をすることも出来なかった。

やがて咽喉の奥に、生臭い米のとぎ汁の味がする液体が

少しずつ洩れはじめた。男根が脈を打たないので、吹き出すと

言うのではなく、ダラダラと糸を引いて流れ出してくる感じである。

これが不能者である嘉助の射精なのだった。

およそ5分もかかって、溜まっていたものを外に出してしまうと、

嘉助はふうっと大きなタメ息を吐いた。

「もうえぇ、口をあけろ」

ヌルッと出てきたのは、長さが十五センチくらいあった。

これで勃起することが出来たら、馬並みの逸物である。

「もっとしっかり開けんかい。えぇか、こぼすんやないで」

仰向けに半開きになった口の中に、今度は苦くて酸味のある

液体が、勢い良く噴き出してきた。

「グフッ、ゲホ…」

嫌も応もなかった。唇の端から溢れそうになって、江理子はグフグフと

咽喉を鳴らして異様な味がする液体を、泡と一緒に胃袋に流し込んだ。

「ふっふっふっ、まるで共同便所や」

ソファに腰掛けたまま、気持ち良さそうに出すものを出してしまうと、

さっぱりしたのか嘉助はちょっと言葉の調子を変えた。

「で、女たちの貸し出しは何時になるんや」

「ゲホ…、こ、今週の、土曜日に」

「女は間違いなく来るんやろな」

「はい」

「あと四日しかない。すぐに招待状を出すから用意しろ」



二十七、家畜の盛装


下半身丸裸で嘉助の前にテーブルを置き、直接タタミに座ると、

踵に肉の割れ目が当たってニチャニチャと湿っているのが判った。

雫でも落ちて汚さないように注意しながら、渡された葉書を

受け取る。あて先は全部で八枚である。

地元の闇市を仕切っているヤクザの親分と所轄の警察署長、

進駐軍の放出物資の横流しが専門の取引先のブローカー、

無所属の都会議員、亀井戸遊郭組合の理事長に嘉助と

同業の遊び仲間など、要するに、盛り場の裏社会を操っている

有力者たちである。

人食い源次郎が提供する女と、自分の妾を使って彼らを招待して、

仕事がらみで眼の保養をさせてやろうと言うのが嘉助の計画であった。

おそらく、サーカスの曲芸でも観るような気分で集まってくる

連中であろう。あて先の名前の下に『様』という字を丁寧に

書きこみながら、江理子はふと目頭が熱くなった。

見世物になって、人目もはばかる痴態を曝さなければならないのは、

紛れもなく江理子自身である。自分で自分が演ずる猥褻ショーの

案内状を書かされる屈辱は、畜生になりきっていなければ

耐えられないだろう。

「書いたらポストに出して来い。腰巻を忘れるんやないで」

「はい」

仕事はすぐに終った。当時はまだミニはないから、ふくらはぎまで

あるペラペラのスカートをはいて外に出る。

街の灯りで、すれ違う人の眼に奥が透けて見えないかと、

それだけが心配だった。

ハサミで剪り取られた陰毛がもうかなり伸びて、下腹部に真っ黒な

翳が鮮明である。

小走りに街角を抜けて、赤いポストのところまで5分ほどかかる。

江理子は、風に靡く裾を手で押さえながら走った。

ポストの口に葉書の束を投げ込むと、コトンと硬い音がして、

ようやく今日1日が終ったような気持ちになれた。

だが実は、これからが本番である。

家に戻ると、珍しく精液を洩らしたせいか嘉助はもう布団に

もぐっていた。足音を忍ばせて、そうそうに浴室に入る。

ようやく独りになると、江理子は鏡の前に立って、シゲジゲと

自分を見つめた。

この身体が、見世物に…

三十六才になった女体は、乳房こそまだ張りを保っていたが、

ウエストの周りにタップリと脂がついて、娘時代のくびれが

消えている。

太腿の肉の厚みも恥ずかしかった。濃いめの陰毛に埋もれた

亀裂の間から、猫の舌のようなベラがはみ出して垂れ下がっている。

熟しきった女の、見るも卑猥なセックスの証しである。

こんなものを、アカの他人の好奇と淫慾の目に曝して

見世物にならなければならない境遇を思うと、今から胸が

動悸を打った。それは決して、惨めとか哀れとかいった

感情ではなかった。

それどころか、何とかして一生懸命に勤めなければと思う。

それはこの三年の間、嘉助の妾になって毎日の嘲弄と玩撫に

耐えてきた結果であろう。

流し場におりて、江理子は頭から何杯も新しい湯をかぶった。

進駐軍の石鹸を泡にしてゴシゴシと掌で股間の汚れをこする。

綾乃という女の涙と唾液、逞しい源次郎の男根で突きまわされて

絞った自分の淫液、インポの嘉助が思わず洩らした異様な

匂いのする精液がごちゃ混ぜになってコビリ着いている。

洗っても洗っても、穴の奥からヌメヌメとしたヌメリが滲み出して

くるような気がした。

こうして…

まだ余裕があると思っていた四日間はアッという間に

通りすぎてしまった。

今日がその当日である。

嘉助は朝から上機嫌だった。

「今日はおめかしをせいよ。わしの妾ちゅうことはみんな知って

いるんやさかい」

起きるとすぐに美容院に行かせ、精一杯の化粧をさせて、

着るものにもあれやこれやと口を出していたが、夕方近くなって

ヒョイと思いついたように嘉助が言った。

「わいも阿呆やな。オメコを見世物にする女に、服を着せて

どないするんや」

自分で可笑しくなったのか、嘉助はゲラゲラと笑った。

「そんなもん、みんな脱いでしまえ。見世物は裸が盛装や」

ショーを始めるのは夜だが、昼間から着ていたワンピースを

脱がされ、パンティ一枚になって縮みあがっていると、嘉助が

ジロジロと全身を舐めまわしながら言った。

「ズロースも要らん。オメコ丸出しと言うのも何やから

エプロンだけは着けさせてやる。早ようせいっ」

そのときギョッとするほどの大きな音で、玄関のベルが鳴った。



(つづく)もどる