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三十一、淫肉の芸


加奈の艶技は、それから二十分あまり続いた。

花電車にお決まりの演目は「書初め」である。ガーゼを巻いた太目の

筆を半分ほど穴にこじ入れて、両足を踏ん張った力で文字を書く。

内部のヌメリはガーゼが吸い取ってくれるが、括約筋の締め方が悪いと

筆の穂先がぐらついて文字にならない。誰にでも出来そうな芸だが、

これにはちょっとしたコツとタイミングが必要であった。

加奈がウムッと下腹に力を入れると、陰毛の間から真っ赤な肉が

盛り上がって、ヌメヌメとした口をあける。

「いやぁ、こうやって見ると、女の身体って奴は恐ろしいもんだな」

客の一人が、本気で感心したような声を出した。

「そらそうだ。あの口から赤ん坊の頭が出てくるんだから、男は敵わねぇよ」

「どれ、ふうむ…、なるほど怪物じゃな」

折り重なった視線の中で、加奈は筆の柄を肉の真ん中に当てると、

同時にギュッと腹筋を収縮させた。とたんに、筆の柄が吸いこまれるように

女陰の奥に消えた。

「おお、見事じゃ」

両膝で体重を支えて、綾乃がテーブルの上に敷いた半紙を跨ぐと、

加奈はひと息に棒を一本横に引いた。

縦、横、横と続けて、最後に穂先を圧しつけるように斜めに点を打つ。

これで『玉』という字の出来あがりである。

「お粗末でした」

すぐに横から手が伸びて、半紙は客の手に渡った。

介添えに出ている綾乃が次の半紙を敷くと『寿』『花』『福』といった

縁起の良い文字が、小学生が書いたような字体で次々に客に渡されて行った。

ひとしきりそれが行き渡ると、今度は卵産みである。

卵と言っても本物ではなくて、当時出回っていたピンポン玉であった。

綾乃が口に含んで湿りをつけたピンポン玉を5個、客の正面に向けた

穴の中に1個ずつ圧しこんで行く。

黒い陰毛の間に笑み割れた肉の線が白球を飲み込むたびに、集まった客の

頭が揺れて奇声が上がった。

「ふうむ、ずいぶんと深いもんじゃのう」

「そりゃそうだ、女の穴は底無し沼だから」

ドッと、卑しげな笑いが起こった。

「ちょっと前を空けてください。球が飛びますから」

だが客は避けようともせず顔を突き出す。

その前に白球がひとつ、プスッと微かな音を立てて三十センチほど飛んだ。

「おぉっ」

「ハイ、ひとーつ」

綾乃が声をかけると、両手を後ろに腰を浮かした姿勢で、加奈が大きく

息を吸った。

「ふたぁーつ」

テーブルの上をコンコンと転がる玉を奪い合って、一斉に客たちの手が伸びる。

「みぃーっつ」

花川戸のしもた家でも見せた芸だが、括約筋を締めるのではなく、

子宮全体を上下に動かして圧力をかけるのでなければ産むことが出来ない。

残った2個の球を吐き出すためには相当な体力が必要であった。

色づいた肉の狭間に丸い白球が何回も出たり入ったりするのだが、

なかなか圧し出すことが出来ない。

こうなると、括約筋はむしろ邪魔なのである。

まるで別の生き物が呼吸をするように、穴の入口で白いものが4・5回

見え隠れしたあと、加奈が渾身の力でイキミをかけると、ようやく四個目の球が

ポトンとテーブルの上に落ちた。

「あとひとつだ。頑張れっ」

姿勢を変えて犬のようなウンコしゃがみになると、顔を正面に向けてウムッと

歯を食いしばる。加奈はもともと美人ではないが、女が絶対に他人には

見せることのない淫らな顔であった。

「ご、ごめんなさい、オシッコが漏れそうになって…」

「構わん。やれやれっ」

「ウゥ…ム」

そのとたん、コトリと音がしてテーブルの上で最後のピンポン玉が弾む。

「出た出たっ」

「姐ちゃんようやった。お見事お見事…」

パチパチと拍手をもらって、加奈は神妙に正座してテーブルに両手をついた。

「拙い芸で、お粗末でございました」

それから手を股間に入れて、自分の指で割れ目をなぞる。

観客の面前でやって見せるのもサービスのうちなのである。

どうやら小便を洩らしていないことを確かめると、加奈はホッと大きなため息をついた。



三十二、毛剃りの宴


「今度はシロクロだな。姐ちゃん、イクところをしっかりと見せてや」

テーブルを片付けている綾乃の背中に卑猥な声が飛んだ。

「待て待て」

それまで黙っていた嘉助が、そのとき突然大きな声で言った。

「ちゃぶ台は片付けんでもええ。そこに出しときなはれ」

「あ、はい…」

「もうひとつ余興があるんや。江理子、早よう出てこんか」

テーブルを元に戻して、綾乃が仕切りの襖を開けると、おぉ…、と客たちの間に

ざわめきが起こった。

電灯の明かりを避けた襖の陰に女が一人俯いている。前掛けも取って、

素裸にヴォリュームのある腰の線がクッキリと、それが江理子だった。

「わいの妾や。可愛がってきた品物やが、今夜は皆さんに提供しまっせ」

「えぇっ、それはそれは、こりゃまた有難いお計らいで…」

「ほうほう、初めて見せてもらうが、いい女じゃのう」

「旦那、本当に良いんですかい」

「かめへん、江理子、ここに来て皆さんにご挨拶しろ」

ソフアに腰を据えたまま、嘉助が言った。

「ちゃぶ台の上に乗って股を広げるんや。よう見えるようにな」

綾乃が、すかさずテーブルに座布団を二枚敷いた。俯いたまま

摺り足で歩み寄って、座布団に腰を下ろすと、足元にドッと客が移動する。

江理子はゆっくりと上半身を倒した。

「こいつには何も芸がないさかい、代わりにおめこの毛を剃って

皆さんに進呈するという趣向やが、どうでっしゃろ」

「なぁるほど、こりゃ面白い。剃らせて貰えるのかね」

「モジャモジャと嫌らしく生えてますやろ。好きなだけ持っていったらええがな」

嘉助は夜店の香具師のような品のない口調で言った。

「姐さん、洗面器に水を入れて持っておいで。カミソリは2.3本や」

ハイ…、と綾乃が奥の部屋に消える。

すぐに洗面器を抱えて戻ってくると、カミソリとぬるま湯を畳の上に置いた。

「いい身体しておるのう。このぶんでは観音様もさぞかしご立派じゃろう」

「年増だから脂が乗っていますな。マグロなら、さしずめ中トロというところだ」

客たちが口々にはやす。テーブルの上で、江理子は必死になって

自分の意思で足を開こうとした。だが、どうしても膝を動かすことが出来ない。

仰向けに盛り上った恥丘に注がれている男たちの視線を感じると、

神経が痺れて身動きすることが出来ないのだった。

「何をしているんや。もっとしっかり股を広げんかい」

ソファにふんぞり返った嘉助が、いつもの命令調で無情に催促する。

それからちょっと言葉の調子を変えて

「ひひひ、膨らんだ腹のたるみを見てやっておくなはれ。助平そうでっしゃろ」

「ほう、どれどれ」

どこかの男の手が、腹の肉を摘まむように撫でた。

そのとたん、ビクン、と引き吊ったように筋肉が収縮する。

「アァ、ウゥ…」

江理子は無意識に咽喉を鳴らした。

全身が棒を飲んだように固くなっているのに、何故かそのままピクピクと

小刻みな震えが止まらないのだ。

「こらもう感じておるわい。さっそく頂いてみたいですな」

「まず毛を剃ってからや。その後で気がすむまで味を見てやったらええやろ」

「へぇっ、それじゃジャンケンで…」

「いや待て、年の順にゆこう。わしにやらせなさい」

「よっしゃ、ただし肉を切らんようにな」

ぬるま湯を掌に掬って、禿げ頭の区会議員が陰毛の上に雫を落す。

ゴシゴシと擦られると、下半身の痙攣がいっそうひどくなった。

「動くんじゃないぞ。動くと怪我をする」

太腿の間に割り込むように肥った身体を入れてカミソリを構えると、

一瞬みんな息を詰めて座が静まり返った。

シャリ…、シャリッ…微かな音が、沈んだ空気の中を流れる。

脚の付け根の左側、恥骨の膨らみに沿って陰毛が盛り上ったと思うと、

絡み合った小さな塊になってコロコロとテーブルの上に落ちた。

「ハイ、鍬入れおめでとうござんす。それではお次の方」

すかさず、ヤクザ風の男が声をかけた。



三十三、本番


入れ代わり立ち代り、男たちの手が江理子の太ももから腰の周りにかかる。

あれほど動かなかった脚が、誰にともなく無残に解放され、二枚の肉の舌を

露出していた。始めは陰裂から上のほうを剃られていたのだが、次第に

毛が無くなってくると、内側の柔らかい部分にカミソリがあたるようになった。

自然、指が遠慮なく肉を捲って伸ばしたり裏返したりする。その度に、

ビリビリと身体を突き抜けるような異常な刺激に筋肉が震えた。

「さすが年増じゃな。何だか濡れて来たのとちがうか」

最初に毛を剃った区会議員が、まだ物足りなそうに股間を覗きこみながら言った。

「さっきから濡れていますよ。上手くやらんと、指が滑って危ないから…」

男が、土手の生え際を丹念に剃り落としながらつぶやく。

「ふむ、ウットリして、そんなに気持ええのかい」

ピタピタと誰かに頬を叩かれて、江理子は虚ろな眼を開けた。

「どうだ、お妾さん。旦那の前で剃られる気分は、やっぱり感じるのか」

「は、はい…」

「こりゃ凄い。多賀屋さん、よくここまで仕込みましたねェ」

「ひっひっ、それほどでもおまへん」

多賀屋というのは嘉助の屋号である。

ソファにもたれて、嘉助は得意そうに笑った。江理子と二人のときに見せる

いつもの嫉妬は、何故か感じていないようであった。

「へい、出来あがりました。皆さん、お守りはタップリと頂きましたね」

男が股の間から身をどけると、二・三人の手がテーブルから江理子を

引き起こす。

「おお見事じゃ、年増のツルツルもまた良いもんじゃのう」

「これはこれは、割れ目の奥でサネが宙返りしているのまで、よう見えるわ」

ドッとあたりに笑い声が上がった。

「さてっと、それじゃお姐ちゃん、そろそろシロクロ始めてんか」

嘉助がショーの進行を促すと、綾乃が客に一礼して膝立ちのまま帯を解く。

あれほど死んだ良人に操を立てて、源次郎に責められていた女とは

思えない変化である。

「こら、お前ボンヤリしておらんと、早よう皆さん方のおもてなしをせんか」

俯いたまま両手で乳房を抱えて立ち竦んでいる江理子に、嘉助が厳しい声で

言った。それから客に向かって

「さぁさぁ、ただ見物するだけでは面白うないさかい、遠慮なく剃りたての

おめこを楽しんどくんなはれ」

「いよっ、待ってました」

「さあさあ、お妾さん、こっちにいらっしゃい。一緒に見物しましょうよ」

五・六本の腕が一度に伸びて、足首と手と太腿を同時につかまれ、

江理子は軽い叫び声を上げた。

重心を失った身体が、ひとたまりもなく男の上に崩れ落ちる。

一方…、腰巻も取って素裸になった綾乃が、テーブルを片付けて

夜具の代わりに座布団を三枚、部屋の真ん中に並べて敷いた。

この女は色が白い。電灯の下に透き通るような肌を曝して横になると、

両膝をゆっくりと左右に倒した。

綾乃も陰毛を剃り落されてツルツルである。その脚の付け根に、

色づいた薄赤いベロの塊りがハミ出していた。

そのとき隣の部屋から出てきた男が、客がかたまっているのを無視して

女に近づくと、いきなり綾乃の脛を掴んで身体をグイと客の正面に向けた。

「よく見てて下さいよ。この女、すぐにヨガリますから」

男は誰に言うともなくつぶやいて、片足を肩に担ぐと、先刻打ったヒロポンの

注射が効いているのか、痩せているのに似合わず長くて筋張った男根が

勃起していた。勃起した男根をしごいて、陰裂を掻き上げるように亀頭を

こすり付ける。

何人かの客の腕に抱かれて、江理子は茫然とその光景を見つめていた。

髪の毛に一人、乳房と首筋に三人、腹の周りと恥骨や太腿の周辺に

何人ともわからぬ男の指が、江理子をまさぐっている。

くすぐるように撫で回すのもいれば、抓ったり摘まんだりして感触を

確かめようとする指もあった。その中の一人が、捻じ込むように

内股の間に潜り込ませようとしたときであった。

「はっ、いゃあっ」

奇妙な掛け声ともつかない気合を入れて、男が綾乃の身体を引き寄せる。

ビシャッ、と肉と肉がぶつかる音が聞こえた。





(つづく)もどる