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三十四、人間犬


「アウンッ」

一瞬、綾乃が陰毛を失った白い下腹を突き出して仰け反る。

それが、この乱痴気騒ぎのプロローグだった。

綾乃の快感とも苦痛ともつかない歪んだ表情を見たとき、江理子は

自分の体内に鋭くて長い男の肉棒がグサリと突き刺さったような気がした。

思わずエビのように跳ねそうになったが、男たちに抑えつけられた手足を

動かすことが出来ない。

「アッ、フッフッ…、アッフッフッ」

一メートルと離れていないところに、綾乃の搾り出すような息遣いと、

苦しげに歪んだ顔があった。

「ヒイッ、イッイッ…!」

男が腰を突き上げるたびに、肉と肉がぶつかってグシャッ、ビチャッと

残酷な音が鳴った。

男と女の媾合は、挿入したあと互いの快感を確かめあって、

乳房を吸ったりクリトリスを弄んでジャレあうのが普通だろうが、

ここではそんな悠長な演技は許されていない。

綾乃の太腿を両腕に抱えこむように、男が激しく腰を使う。文字通りピストンである。

「うぅぅ、くッくッ」

ヒロポンの効き目なのか、プロとしての熟練か分からないが、男はさして

呼吸も乱していない。見る見るうちに綾乃の額にベットリと脂汗が浮かんだ。

「よっ、はぁっ」

頃合いを見て、掛け声と一緒に男が焼き魚を裏返すように綾乃の身体を

反転させる。うつ伏せに座布団にしがみついた形で、綾乃は自然に

尻を高く上げた。

「はいっ、お次は後ろ取り。この調子だと女はすぐにイキますぜ」

勝ち誇ったように言うと、容赦なく綾乃の腰骨を掴んで、股間に

叩きつけるように全身を煽る。

「こいつぁ凄え、ひっくり返してもチンボコが繋がったままだぜ」

「ヒッヒッヒッ、あんたの道具じゃちっこいから、簡単に抜けてしまうがな」

そこここから疎らな笑い声、客たちの興が乗ってくると、江理子を弄ぶ

指の動きも次第に露骨になった。

「うぅむ、ハッハァッ…」

「おっ感じとる感じとる。こいつぁ生き地獄じゃのう」

硬直した赤黒い男根が、捲れた肉の間を出入りするたびに、綾乃が

すすり泣くように唇を歪める。

流石に疲れたのか、男が動きを止めて両手で綾乃の髪の毛を

鷲づかみにするとグイと顔を上に向けた。

「見てやっておくんなさい。女がイクときの顔はこうなるんだ」

喘ぎながら客の正面を向いた女の半開きになった唇の端から、

涎がたれて糸を引いている。江理子には、それがまるで自分の

写し絵のように思えた。

「あ、あふッ、いィィ…」

うわ言のように、綾乃の口から吐息が洩れる。見知らぬ観客の面前に

痴態を曝すと、恥ずかしいという感覚を超えて、綾乃は一種の陶酔に

陥ちているようであった。

「こらっ、イクときははっきりイクと言わんかい」

グン、グン、と弾みをつけて男が腰を突き上げると、綾乃はその度に

細くて白い咽喉を見せて、尖った顎を突き出す。

髪の毛を持たれているので、目が吊りあがって唇を閉じることが

出来ないのである。

「アウウ…、イックゥゥ」

「いけっ、もっとイカせっ」

最後の百メートルで鞭を入れる競馬の騎手のように、髪の毛を掴んで

引きながら男が全身に弾みをつけた。

「イクイクッ、アァァ…ッ」

言葉にはなっていないが、綾乃が呻くように喘ぐ。

やがて膝から力が抜けて、ガクンと鼻柱をタタミに擦りつけた。

「よぉし、四・五回はイキやがったな」

男がヒョイと男根を抜いて、そのまま後ろから子供に小便をさせるような

かたちで持ち上げると客の正面に向ける。

「はいよ、よっく見ておくんなさい。イキたての湯気が出ているおまんこだよ」

「わっ本当だっ。動いてる動いてる」

ドッと客の頭が集まって、微かな顫動を見せる性器を覗き込もうとする。

その鼻先にヌメヌメと濡れて光った真紅色の粘膜が、何かを吸いこむように

内側に収縮していた。

「誰か度胸のある人、この女と続きをやってみたい人はいませんかい」

男はまだ射精していないようだが、ニヤリと笑いながら言った。



三十五、狼の群れ


「いや、たいしたもんだのう。この姐さんはあんたの女房なのかね」

「冗談でしょう。てめえの女にこんな可哀想なこと出来やしませんよ」

男は表情も変えずに言った。ヒロポンの力を借りて、男根はまだ

硬直したままである。

「こいつはただのオモチャでさ。イカされることしか仕込まれてないから、

死ぬまでイキ続けますぜ」

「よしっ、俺が試してやる」

若い闇屋風の男が立ちあがってズボンを脱ぎ始めた。

もう見得や体裁を考えている客はなかった。続いて何人かの客が、

先を争って上着やズボンを脱ぎ捨てると綾乃の周りに集まってくる。

「待った待った、それじゃ多すぎる」

女の身体を座布団の上に放ると、投げ出した脚の間に立った男が、

両手で客を制止しながら大声で呼んだ。

「おぉい早く出て来んか。一人じゃ足りねぇぞ」

「ハァイ…」

甲高い返事が聞こえて、隣の部屋から素裸の加奈が現れる。

二の腕をしきりに揉んでいるところを見ると、加奈もヒロポンで残った性欲に

火をつけていたのであろう。

「いよぅ豪華版だな。それじゃ私はこっちに行こう」

頭の禿げた男が、すかさず仰向けに交叉した加奈の足元に這い寄る。

「お客さん、壷の中に精を出さないで下さいよ。後の人が迷惑しますから」

男が禿げ頭の客に念を押すように言った。

「どうしても出したくなったら口の中に頼みます。女に孕まれても困るんでね」

「分かってる、呑ませても良いんだな」

「ちゃんと馴らしてありますから嫌がりませんよ。遠慮なく使ってください」

今ならフェラチオで女が精液を飲むのは当り前だが、当時の尺八は

一種の変態行為で、遊郭の淫売でも客の精液を飲める女は少なかったのである。

「可哀想に、だがまぁ、楽しみはいろいろと変わっていたほうがええからのう」

禿げ頭がズボンを抜き捨てながら、エッヘッヘと卑猥な笑い声を上げた。

「よしっ、それじゃいくぜ」

ガバッと、中年の闇屋風の男が綾乃の上に乗った。片手に固くなった男根を

握って穴の真ん中に狙いをつける。

男の肩から首だけ出して、綾乃は眉を寄せ、下唇を噛み締めた顔を

江里子のほうに向けた。

「うぅん…ツ」

男がグイと腰を入れた瞬間、仰け反った綾乃の感覚が直接江里子に

伝わってくる。男を知ったというより、熟した女の肉体だから感じる性感である。

誰かの指が、陰毛を剃り落とされた割れ目に潜り込んで乱暴にこじる。

剃り跡が熱を持ってヒリヒリと沁みたが、客の手で身体中をまさぐられ、

全身に拡がる痺れに、江理子は身動きの出来ない身体を震わせて

笛のように咽喉を鳴らした。

「ほっほっほ、お妾さんや、あんたも大分きざしているようだな」

「年増は助平だからねえ。女だって女のイクところ見れば興奮するもんでさ」

「本当かね。私にもちょっと嬲らせて下さいよ。ふむ、こりゃたまんねぇや」

一人が腋から乳房に腕を廻すと、もう一人が脚を引っ張って太股を抱え込む。

こうなると、もう女の奪い合いである。

下半身が捩れて、毛のない陰丘が剥き出しになったところに、いくつもの

男の指と手が重なっていた。

「うぅむ、ウゥム…ッ」

綾乃が呻く声が、耳元で圧し潰されたように鳴った。どうなっているのか、

何をされているのか判らないが、江里子にはそれが地獄の悦楽の唄に聞こえた。

「どうだ。ええか、ええかっ」

「あいぃぃッ、アフ、アフッ」

呻き声に混じって、男の荒い息遣いが交錯する。百ワットの裸電球の下で、

男たちの動きが獲物に群がる餓えた狼のように折り重なって見えた。

浅黒い肉体が白い女の肌と絡み合って、いつのまにか綾乃の上に

違う男がのし掛かっている。

攻撃をまともに受けて、綾乃は髪の毛を振り乱しながらて畳の上を

ズリ上がって行った。

ピクピクと締りながら上下する男の尻と、見え隠れする真っ白い太股の奥の

結合部分が江里子の視界に入る。蛭のようなヌメヌメした肉の舌が、

節くれだった男根の胴に貼り付いて蠢いていた。

これが、死んだ良人に操を立てて男に抱かれることをあれほど嫌がっていた

戦争未亡人のなれの果てである。



三十六、淫の華


十二畳ほどの和室に女が三人と男が八人、部屋中にムンムンと裸の匂いが

立ちこめて、相手にしている男の数は女ひとりに二・三人である。

とうてい通常の態位で済む筈はなかった。いつのまにか男の腹の上に

乗せられた綾乃が、下から男根を突き刺されて腰を揺すりながら、

もう一人の男の脚に腕を回してしがみつくように身体を支えている。

仰向いた顔から舌を出して、垂れ下がった袋をベロベロと舐めて

いるのだった。

その向こうに、痩せて骨ばった加奈の背中がギクシャクと揺れている。

両手に勃起した男根を握ってしごいている様子がアリアリと見えた。

「アッ、アゥゥンッ」

突然、綾乃が泣くような咽び声をあげた。

「イクよゥ、まッ、またイクッ」

「綾ちゃん、しっかりしなよ。そんなにイッちゃ身体が持たないわよッ」

男根をしごいていた加奈が、振り返ってたしなめるように言った。

「アッ、イッ、イクゥゥ…」

「バカねぇ、まだ先があるって言うのに」

舌打ちすると、重心を失ってグラグラしている綾乃を押しのけて、

加奈が男根を握ったまま男の上に跨る。

「済みませんねぇ。私のでやって下さい。この子はまだ馴れていないんで」

「おしっ、交換なら早く入れろ」

加奈が腰を捏ねると、今度は男のほうがたちまち盛り上がってしまったようだ。

「たっ、たまらんでぇ。出そうだっ」

跳ね起きると、すぐ横でひっくり返っている綾乃の口にグサリと突っ込む。

「ムッ、うげェ」

唇の端から大量の精液が溢れ出して頬を伝わる。

だが綾乃はこれで解放されたわけではなかった。

次の男がすぐに入れ替わって片足を肩に担ぐ。

「ヒイッ、イッ、イッ」

これがこの女の体質だったのか、あるいは特殊な媚薬でも嚥まされて

いるのか、綾乃は息も絶え絶えにもがきつづける。

「順番ですよ、順番にハメて下さい。焦せらないで…」

イキ続けて声も出せない綾乃の横で、先刻の男が自分で男根をしごきながら言った。

「よしっ、次は俺だ。姐さん上に乗りな」

「うぇぇ、殺してェ、殺してッ」

「イケよ、イケるだけイッてみろ」

もう快感というより苦痛に近い。だが綾乃は止まらなかった。

後ろ向きに男の上に尻餅をついた形で、突き上げられる度に

タプタプと乳房が弾む。

「ハァッ、死ぬ、死んじゃうゥ」

「凄いねぇ、その女、本当に狂っているんじゃないの」

その横で加奈に挿入した郵便局長が、動くのを止めて呆気に

取られたように言った。

「どうだねお妾さん。あんたもやってみたいんだろ」

「えッ、いえ…」

「遠慮せんでもええ。旦那の前だが、こんなの見せられたんじゃ堪らんもんな」

「そうや、お前は何をしているんや」

それまで黙っていた嘉助のダミ声である。

「ボンヤリ見物しておらんと、こっちに来て客人のおもてなしをせんかい」

ハッと我に返って、江里子は二・三度全身を痙攣させた。

あわてて立ち上がろうとするのだが、何本もの手に抑えられていて

どうすることも出来ない。

「早ようサービスをせんかっ。姐さんたちは二人ともおめこが満開やろが」

「はッ、はい」

絡みつく腕をようやく解いて、ヨロヨロと立ち上がろうとする。

客の一人が心得て、よろめく江里子を引きずるように、嘉助の前に

連れてくると

「さぁ、みなさんお待ち兼ね、今夜はお妾さんのご馳走だよっ」

「お客さん方にご挨拶するんや。これからタップリとイカせて貰うんやさかいな」

ソファに腰を据えたまま、嘉助が鷹揚な調子で言った。

「剃りたてのおめこをご開帳して、皆さんに中味をお目にかけろ」

「は、は、はい」

崩れたポーズを整える間もなく、脚を踏ん張って両手で内股の肉をつかむ。

「おぉ、でっかいおサネじゃのう」

客の一人が、股の間に顔を突っ込みながら言った。

「しかし、年増にしては色が薄いですな。まだまだ新品同様だ」

「いやかなり濡れていまっせ。お妾さんも、そうとう興奮しているんじゃないの」

客たちの眼に晒されながら、江里子は虚ろな視線で嘉助を見つめた。




(つづく)もどる