インターネット連載小説
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一、冬の蕾
志乃は、もともと父親ッ子だったと言って良い。
難産で、母親は志乃が産まれるとまもなく死んでしまった。だから
志乃はもちろん母親の顔を知らない。ものごころついたときから、
志乃の傍には父親しかいなかったのである。
山陰の日本海に面した小さな漁村で、父の辰蔵は漁師だった。
教養もなく、ただ肉体だけが資本の荒くれた職業である。
海が荒れれば酒を飲み、大漁だといっては酒盛りが始まる。
「志乃ッ、酒を持って来い。ビンごとで良いぞ」
小学校三年生の頃から、志乃は父親の酒の相手をさせられていた。
それが当り前、というか、女の子だから、台所に立つことは
べつに嫌だとも思わなかった。作れるものは海から上がったばかりの
魚を不器用に切った刺身と、残りを野菜と一緒に鍋にぶち込んだ
アラ煮くらいのものだが、それでも父親を喜ばせなければならないと
思って一生懸命に作った。
貧しくて、ほかに楽しみもない暮らしだったが、幼い頃から
身に染み付いた生活である。だが志乃には、そんなことより
どうしても脱け出すことの出来ない心の重荷があった。
「おめぇさえ産まれてこなかったら、かぁちゃんは死ななかったんだ」
どこから連れてきたのか、得体の知れない女を家に入れて一緒に
酌み交わしながら、酒がまわってくると、辰蔵は娘を睨みつけるように
見据えながらよくそんなことを言った。
「おめぇは、おっかぁを殺して産まれてきた鬼っ子なんだからよ。
親孝行しねぇと罰があたるぞ」
どう応えて良いのか、志乃には見当もつかない。黙ってうつむく
だけだが、本当にそうなんだと思うと、自然に目尻に涙が滲み出して
くる。
「可哀想じゃないの、子供にそんなこと言って、この子に罪はないわよ」
「うるせぇな、手前なんかに俺の気持ちがわかってたまるか」
「あら、まだ死んだ奥さんに惚れてんのね」
「そんなこたぁねぇよ。ホトケとおまんこすることは出来ねぇもんな」
辰蔵がは卑猥に笑って女の股ぐらに手を伸ばす。
「ちょっとォ、止めなさいよ。子供の前で…」
「いいじゃねぇか、いつかはこいつも俺が女にしてやる」
「あんたヘンなこと言わないでよ。気持ち悪い」
「おい志乃、もういい、あっちに行ってろ」
ふた間しかない家の隣りの部屋に引っ込んで、志乃は蹲るように
境の襖に背中を向けた。
いつかは俺が女にしてやると言った父親の言葉が、幼い胸に
グサリと突き刺さっていた。それがいったい何を意味しているのかは
まだよく判らないが、もしかしたら、あの女と同のように母ぁちゃんの
代わりをさせられるのかも知れないと思った。私を産んだおかげで
母ぁちゃんは死んでしまったのだとすれば、それも仕方がない…。
やがて、襖の向こう側から、けたたましい女の笑い声が聞こえた。
「アッアッ、いやよゥ、もっとそっとして・・・ェ」
「ばっかやろ、いいから見せな」
「だってェ、そんなに太いの、怖いわよゥ」
「太いのは生まれつきだ。女はみんな泣くぜ」
「アッ、ふう…、す、すごい」
隣りの部屋に小学生の女の子がいることなど、お構いなしの
嬌声である。とうちゃんがあの女の人と、いったい何をやって
いるのか、志乃にはおぼろげながら理解することが出来た。
それは子供が決して見てはならない、大人にしか許されていない
妖しいいとなみである。
「あやァ、もッ、もう少し…、イッちゃうわよゥ」
「まだだっ、まだまだ、もっとヨガれ!」
「ひぃぃ…ィッ」
心臓がドキドキと鳴って、志乃は息をすることが出来なかった。
父の辰蔵が、この世の人ではないくらい恐ろしいものに思えた。
「あ、あんたッ、イク、死んじゃうッ」
「この野郎、うめぇこと言いやがって、もっとやったろうか」
「こッ殺してェ、うわッ快い…ッ」
微かに床が揺れて、ガサゴソと人間の身体が触れ合う音が聞こえる。
それがひとしきり激しくなると、女が突然けだものに似た叫び声を上げた。
志乃にとって、身の毛もよだつ断末魔の畜生を見るような恐ろしさである。
唇が震えて、胸を締め付けられるような気がする。
だが、この不思議な戦慄、一種のときめきはいったい何なのだろう。
自分ではまだ触ったことのないオシッコの出るあたりが熱くなって、
何故か膨らんでくるような感じがして、志乃はあわててスカートの上から
その部分を抑えた。
こんな経験が、志乃には月に2・3回は必ずあった。
女の人は同じだったり違ったりしたが、その度に苦しそうな、虐められている
ような呻き声を上げる。それでも終った後はケロリとした顔をしているのが
不思議だった。
少しずつ慣れてはきたが、志乃は父親が持っている異様な能力が、
女にはない男だけのものだと言うことを、嫌でも感じないではいられない。
それは尊敬とか、憧憬とかいった気持ちよりもっと上の、男という性に
対する本能的な畏怖であった。
志乃はやがて四年生になり、その年の夏、初めての生理があった。
夜眠っていて、何かにうなされるように目が覚めると、ズロースが
ベタベタと濡れているような気がした。オシッコを洩らしたのかと思って
あわてて起き上がって調べてみると、ズロースの股間にベッタリと
血がついて、シーツにもドス黒いしみが擦りつけたように付着していた。
どうしよう…
隣りではとうちゃんが大きないびきをかいていたが、見つかったら
大変だと言う恐怖がまず先にきた。
そのころは学校でも生理について授業で教えると言うことは
なかったから、知識はほとんど持ち合わせていない。
自分の身体の中で、何か得体の知れない異変が起こっているという
衝撃に、志乃は呆然となった。
とうちゃんにわかったら叱られる…
だがこの夜中では、どうすることも出来なかった。ズロースを脱ぎたい
のだがそれも出来ず、両足を固く閉じて布団に丸くなったが、志乃は
一番中眠れなかった。明け方になると、ベタベタは尻のほうまで
広がってヌルヌルになった。
翌朝早く起きてシーツを洗おうと思ったのだが、子供は子供である。
辰蔵が娘の異常に気がつくまで、時間はいくらもかからなかった。
「志乃、おめぇ何やってんだ」
潮焼けした裸に褌いっちょうで歯ブラシを咥えた辰蔵が洗い場を覗くと、
後ろを向いて汚れたズロースを洗っていた志乃の背中がいっそう
丸くなった。
「なんでぇ、月経か」
ゲッケイという言葉が、身が縮むほど恥かしい。志乃は黙って
洗面器に漬けたズロースを背中で隠そうとした。
「おめぇ、いつからそんなもんになったんだ」
「き、きのうの晩…」
「ふん、急に女臭くなりやがって、仕様がねぇな」
こともなげに言って、辰蔵はペッと白い歯磨き粉の唾を吐いた。
「どっかに古いおしめがあっから、探して拭いとけ」
言い捨てて辰蔵は洗い場から表に出ていってしまった。
ズキズキと、お腹が脈を打っているような気がする。
シーツを洗ったあと、馴れない手つきで初潮の始末をすると、
志乃は部屋に戻って古い布切れを探した。おしめと言うのは、
志乃が赤ん坊のとき、まだ生きていた母親が自分の浴衣を
解いて作ってくれたものである。それをまた小さく裂いて
志乃は股間に挟むように当てた。
かあちゃん…
それだけで、死んだ母親に優しく手当てしてもらったような
ぬくもりを感じて、志乃は目頭が熱くなった。
おしめを当てるとき覗き込んで見たのだが、毛はまだ生えて
いなかった。ただ、胸を触ると多少厚みを増している感じが
することがひどく気になる。
少しずつではあったが、否応無しに自分の身体にある変化が
始まっていることが恐ろしかった。
幸い学校が夏休みになっていたから、友達の前では粗相しないで
済んだが、その期間中、志乃は辰蔵の視線を避けて怯えたような
落ち着かない毎日を過ごした。恥かしいと言うより、こんな身体に
なったことが悪いような、父に済まないような気がしてならなかった
のである。
肉体的にはまだ成熟しきっていなかったせいか、初潮が終ると、
生理はそれから2ヶ月ほど飛んだ。内心ホッとしていたのだったが、
秋になるとまた始まって、今度は前のときよりもずっと大量で
色も濃かった。父親には黙って、かあちゃんが遺してくれた
おしめを挟んで学校に行ったが、いつも股間に異物感があって、
そのことが頭から離れなかった。そう言えば、乳房の膨らみも
このところ急に大きくなってきたような気がする。
はた眼から見れば、少女期の肉体は順調に生育している
のだったが、志乃は自分が次第にけものじみた女になって
いくようで厭わしかった。
それは、子供のとき何回となく見たり聞かされたりしてきた父親
と女の人との異様な行為が、あまりにも鮮明に焼き付けられて
いたからに他ならない。いつかは、自分もあの女の人たちと
同じようなことをするのだと思うと、あの淫靡な情景が甦ってきて、
志乃はいっそ犬に生れて来れば良かったと思うことがあった。
論理的にはかなり飛躍した発想なのだが、それが志乃の肉体に
芽生えた最初の性欲の発動である。
秋がゆくと、日本海は急に荒れる。
毎日風が吹いて、辰蔵は漁に出ることも少なくなった。それでも
娘が成長してきたせいか、それまでのように得体の知れない
女を家に連れてくることもなかった。酒の相手をするのは、
いつも志乃である。
正月も過ぎ、春の気配が忍び寄ってくると、やがて志乃も
5年生になる。そんなある日、相変わらず風の強い夜であった。
「志乃ッ、ちょっと来い!」
どこで飲んできたのか、表の戸を開ける音と一緒に辰蔵の
怒声が家中に響き渡った。
「お帰んなさい」
「てめえ、本町の松吉を知っているだろう」
「うん」
「あいつの息子と乳繰り合っているってのは本当かっ」
「エ、エッ」
志乃にはよく呑み込めなかった。
松吉と言うのは、父と仲間の漁師で、志乃が母親がいないので
可哀想だと言って良く可愛がってくれる人の良い小父さんである。
その息子、雄太はまもなく中学3年生になる、志乃よりも三つ年上の
悪ガキだった。学校も学年も違うので一緒に遊んだことはないが、
ときどき何か判らない理由をつけては志乃に話しかけて来たりする。
顔ににきびが目立ちはじめた逞しい少年である。
幼馴染で、そろそろ色気づいてきた年頃と言えば言えるが、
乳繰り合っていると言われても志乃には返事のしようがなかった。
「知らないよ、あたい…」
「松吉が言っていたぞ。てめえが女らしくなったって、大きくなったら
うちの息子の嫁にどうだと吐かしやがった」
「へぇッ」
子供ながら家事一切を切り盛りしている評判娘の志乃を見込んで
そんな言葉になったのだろうが、縁談と言うには、まだほど遠い
話しである。
「てめえ、まさか、あの息子とデキているんじゃねぇだろうな」
「うぅん」
志乃はポカンと狐につままれたような眼をした。
「だって、あたい、かあちゃんの代わりをやらなきゃいけないもん。
お嫁さんなんか、ならないよ」
「そうか、そんなら良いけどよ」
酒に据わった眼で、辰蔵は穴が開くほど志乃を見つめながら、
少し口調を変えた。
「てめえのお蔭で、かあちゃんは死んだんだからな。そのことを
忘れるんじゃねぇぞ」
「………」
志乃は、それを言われることが一番つらい。その罪を償うためには、
父親にどんなことでもしなければいけないと思う。この気持ちは
幼いころから志乃の胸に突き刺さってきた茨の棘であった。
だが娘の心は不可解である。ただそれだけの話しだったが、
あたいのことを、どこかで興味を持っている男がいるらしいと思うと、
志乃はふと胸の中に小さな灯火がともったような気がした。
「とうちゃん、ご飯食べなくても良いの?」
「いらねぇよ、食ってきた」
辰蔵が家に上がると、志乃は手に余るほどの布団を抱えて
奥の部屋に敷いた。明日は学校があると思うと、少しでも早く
とうちゃんに寝てもらいたかった。
その夜…
なん時だったかは、まったく意識になかった。
志乃は、突然身体の上に何か重い異様な感触を感じて
半睡半醒のまま虚ろな眼を開けた。とたんに、顔の周りに
ぷぅんと強烈な酒の匂いがした。
「あッ、とうちゃん…」
急いで起き上がろうとしたが、抑えつけられていて身動きすることが
出来ない。寝巻きの帯が解かれ、胸を露出させられていることが
分かったのはその直後である。
「ヒィッ」
「静かにしろっ、この野郎、騒ぐんじゃねぇっ」
そのひと言で、志乃は全身が硬直したように固くなった。
頭の中はまだ朦朧としていたのだが、どこかであのけもののような
女の声が聞こえた。
二、悦虐の芽
志乃は目を皿のように開いて、身じろぎもせず父の顔を見つめた。
そこには肉親に特有の、間延びしたように気を許した表情はなかった。
目が怖いほど鋭くなって、親子の情がまったく通い合っていない
他人の顔である。
「いいか、てめえ、今日からおっかぁの代わりをしろ」
赤黒く汗に光った胸と、筋肉が盛り上った太い腕が、圧倒的な力で
志乃を組み伏せていた。抵抗しても、所詮はかない足掻きだったが、
志乃にははじめから抵抗する意思がなかったのである。
とうちゃんがけものの目をして襲いかかってきたと言うことは、
あたいの身体がそれだけ死んだかあちゃんに似てきたからに
違いない…
そんな思いが、ふと頭をかすめた。
あたいのおかげでかあちゃんが死んで、赤ん坊のときから育てて
くれたとうちゃんに報いる道は、これしかないような…
だが、決して恐怖が消えたわけではなかった。
とうちゃんに、大人になった女の人が狂ったように泣いて悶えた
あのことをされたら、果たして耐えられるだろか…
男と女の肉体が結合することを具体的に理解していなかった志乃は、
それが凄まじい苦痛を伴うものであるとしか想像できなかった。
ただその苦痛が、身の毛がよだつほど卑猥で、人に見せては
ならない淫事であるように思えた。
「しっかりせぇ、もっとケツを上げんかっ」
耳元で、辰蔵の大きな声が聞こえて、志乃はハッとわれに返った。
父親の手が、ズロースにかかって引き下ろそうとしている。
「うぅぅんッ」
志乃は反射的に身体をエビのように反らせて寝返りを打った。
その拍子にズルズルッとズロースを剥がれて、小さくて丸い尻が
ピョコンとムキ出しになった。とたんに、猛烈な恥ずかしさが
身体の芯から突き上げてきた。
「とうちゃんッ」
無意識に上半身をよじって起き上がろうとする。そこに、思いがけなく
激しい平手打ちが来た。
「ヒェェッ」
「逃げるなッ、てめえ親の恩を忘れたのか」
違う、そんなことはない、ただ身体が勝手に動いただけだ…
それは言葉にはならず、志乃は両手で頬を抑えたまま、必死で
父のほうを向いた。
「とうちゃん、ゴ、ゴメン…」
「ほう、そうか、それじゃおっかぁの代わりになるというんだな」
「う、うん…」
「よぅし、それじゃ今夜女にしてやろう。そのつもりで支度しろ」
「えぇッ」
まるで飼い犬を屠殺場で処分するような辰蔵の言い方が、強大な
権力のように思えて、逆らうすべもなかった。だが支度したくしろと
言われても、どうしたら良いのか分からない。自然に腰を引いて、
身体が折れ曲がってしまうような恥ずかしさだけがつのるのである。
「台所に行って、洗面器に水汲んで来い」
ふぅっと酒臭い息を吐いて、辰蔵はこともなげに言った。
「おそそを洗ってやる。初めてでバイキンが入るといけねぇからな」
無言で立ちあがって、志乃は台所に行った。何時の間にか寝巻きが
肩から脱げて素裸である。
おそそってオシッコの出るところのことだ。キレイにしておかなければ
とうちゃんに悪いのだろう…
水を汲みながら、前かがみになってその部分を覗き込んで見たが、
毛はまだ生えていなかった。家に来た女の人はみんな毛が生えて
いたが、かあちゃんだって、きっといっぱい生やしていたに違いない。
それに比べると、まだ未完成な身体が申し訳ないような気がした。
部屋に戻ると、辰蔵は布団の上にあぐらを掻いてビンの口から
直接ゴクゴクと酒を飲んでいた。
「てめえ、本当に松吉ンとこの息子とは何もやっていねぇんだろうな」
「うん」
「そんなら見せてみろ。こっちへ来い」
洗面器をタタミに置いてあぐらの傍によると、辰蔵が無造作に
手首を掴んで手前に引いた。よろめいて、そのまま倒れ込むように
うつ伏せになる。自然に尻が上がって父の目の前に曝す形になった。
「ケッ、まだ毛も生えていねぇか」
無骨な漁師の指で太腿を鷲掴みにされ、辰蔵が呟く声を聞いた
ときの恥ずかしさは、全身が痺れて眼が眩むような気がした。
「元服にはちょっと早いかも知れねぇが、女だから、まァ役には
たつじゃろ」
辰蔵が口に含んだ酒をプウッと吐いた。
「祝いだ。ほっておくと、誰に手を出されるかわかんねぇからな」
「う、う、うぅッ」
ヒリヒリと刺激が粘膜に滲み込むような、異様な感覚である。
だがこれが、粗暴で、性欲にかけてはけもの同然の父が示した
唯一の愛の表現だった。志乃は飛びあがりそうになる衝動を
両手で頭を抱えて耐えた。
「そこにしゃがんで自分で洗え。カスを残すんじゃねぇぞ」
モゾモゾと這うように、洗面器を跨ぐ。手のひらで掬ってパシャ
パシャと水をかけると冷たくて気持ち良かったが、わずかな酒で
粘膜がカッカッと火照っていた。
「あ・・・」
溝のあたりを指で掻いて見ると、いつもと違うヌルッとした
液体が付着している。志乃は慌てて指先を洗面器に漬けて
ヌメリを落とした。
「もうええ。何やってんだ」
いきなり後ろから首筋を掴まれて、志乃は危うく洗面器に
尻餅をつきそうになった。
「あぁいや、待って…」
「じたばたすんな、てめえは死刑だ。おっかぁを殺したんだから
身代わりになるのが当たりめぇだろ」
漁師のうで力で背中を突かれて、辰蔵の布団につんのめる。
そのまま半回転して、裸の腹を天井に向けた瞬間、仰ぎ見る
ように視線を上げて、志乃は息を嚥んだ。
目の前に仁王立ちになった辰蔵は文字通り筋肉の塊である。
ふくらはぎから太腿、締まった尻、盛り上った腹筋、すべてが
海で鍛えられた眩しいほどの男の肉体であった。
そしてその中心に、そそり立つように斜めに硬直した肉塊を
見たとき、志乃は、これが家に来た何人もの女の人に悲鳴を
上げさせた凶器なのだと直感した。
「とうちゃん・・・ッ」
思わず、志乃は叫び声を上げた。
男の子の性器は子供のころから何回も見たことはあったが、
これほど狂暴で身震いするほどおぞましいかたちは初めて
である。志乃にとって、それは怖いと言うより、岩の中から
現れた魔神の凄まじい裸形に突然出会った驚愕と、言い知れぬ
畏怖に似た気持ちだった。
「えぇか、ちっと痛ぇかもしんねぇが我慢せい」
それはもう父の声ではなく、抗うことの出来ない冷酷な魔神の
宣告であった。
強大な力で脚が広げられ、真中の柔らかいところに、丸い玉の
ようなものが圧しつけられてきたが、志乃はもう恥ずかしさも恐怖も
感じなかった。頭の中は真っ白になっていたといって良い。
「その顔はおっかぁにそっくりだぜ。思い出させやがる」
娘の腰を抱えて浮かしながら、辰蔵が狙いを定めるように
二・三度揺すった。
やがて、二の腕に力瘤が盛り上ったと思うと、何の予告もなく
志乃の軽い身体をぐいっと手前に引いた。
「ぐぇぇ…ッ」
カッと白眼を剥いて、志乃は大きく口を開けたが、別に息を
しているわけではなかった。めりめりと脚を引き裂かれるような
衝撃に、神経が反応しきれなかったのである。呼吸が止まった
まま、志乃は激しく手足を痙攣させた。
「おりゃっ、しっかりせぇ」
「うむむ」
根元までこじ入れようと、辰蔵が容赦なく全身の重みをかけた。
幼い窪みの土手を巻き込むように、巨大な肉柱がメリ込んで行く。
成人した女たちが眼を見張った男根である。泣くとか喚くとかいった
感覚を通り越して、焼き鏝で抉られるような激痛に、志乃はようやく
微かに咽喉を鳴らした。
「とッ、とうちゃん…」
それは声ではなく、途切れ途切れの空気の音である。
「痛い、いたい、いた…」
「よしよし、いい子だ。そんなに痛がるもんじゃねぇ」
言葉とは裏腹に辰蔵が無理やり腰を動かすと、そのたびにニチャグチャと
粘り気の強い音がする。指先で男根のつけ根を掻くと、陰毛が
血でべッタリと下腹に貼りついているようであった。
「どりゃ、そんじゃ入れなおしてみっか」
呟くように言って辰蔵が男根を抜いた。脚を開かせたまま、
確かめるように両手で肉の合せ目を開く。
「おう、大分血が出てるぜ。おめぇ、まさかまた月経になったんじゃ
ねぇだろうな」
「くぅゥ…」
相当な血が出たらしいことは分かるが、志乃にはその感覚は
なかった。ただ身体が軽くなったことで、幾分意識が戻ってきた
ことは確かである。
「心配すんな。女ってやつは誰でも一度はこうなるんだ」
志乃が顔をしかめたのを見て、辰蔵はこともなげに言った。
「自然に塞がるからよ。おそそに穴があくんだから仕方がねぇ」
再び狙いを定めて、ズブズブッと根もとまでひと息に入れた。
「ひいぃッ」
「ホラ痛くねぇだろ。今度は大丈夫だ」
「とう…、ちゃんッ」
赤ムケになった火傷の痕を、ヤスリで擦られるような激烈な
刺激である。志乃は歯を食いしばってその痛みに耐えた。
「よぅし、よくやった。志乃、おめぇいい女になるぞ」
ガッシリと肩を抑えて、ズリ上がるのを防ぎながら、辰蔵は
上機嫌で言った。
「おっかぁのよりゃよっぽど快いぜ。これから、毎晩とうちゃんの
相手をさせてやるからな」
「クツ、クッ、クゥッ・・・」
「わかったかっ、返事ぐらいしろ!」
志乃は夢中で両手を広げると、父の固い腕にしがみついた。
未熟な肉体を手酷く犯されたことは判るが、不思議と嫌悪感は
なかった。
毎晩とうちゃんの相手をさせてやると言われたことが何故か嬉しい。
恥ずかしいのと、この痛みさえ辛抱すれば、とうちゃんを満足
させられると思うと、それが自分の務めのようにさえ思えた。
今となっては知る由もないが、辰蔵は、もともと強度な変態で
あったのかもしれない。だがそれにも増して、志乃の感覚は
異常だった。父の血をうけて、細胞の一つ一つに被虐の遺伝子を
もって産まれた少女の、それは常人には理解することが出来ない
奇妙な感動である。
「うふ、うふふ、そろそろイクぜぇ」
やがて、遠慮会釈のない辰蔵の腰の動きが速くなる。
それは一匹の魔神が、捕らえた瀕死の生贄を小突き回し
弄んで楽しんでいる姿に似ていた。