インターネット連載小説










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三、夜光虫

「よしッ」

辰蔵が、いきなりズボッと惜しげもなく男根を抜いた。

「うごくな、じっとしとれよ」

膝で志乃を組み敷いたかたちで、握った男根を下に向けると

2・3回無造作にしごく。

「あぷぅ・・・ッ」

志乃の顔に熱くて酒の匂いがしそうな白い粘体が飛び散るまで、

10秒とかからなかった。目蓋から鼻柱、口元にかけて、

寒天のようなナマ温かい塊りを叩きつけられた感じである。

「わっはっは、ようやった。志乃、褒めたるでぇ」

この上ない上機嫌で、辰蔵はドシンと志乃の横に大の字になると

腕だけ志乃のほうに伸ばしながら言った。

「よう我慢した。ふっふっふっ、抱いてやるからこっちを向け」

軽々と腕に乗せて引き寄せると、残ったほうの手で乳首をつまむ。

「えぇ女になりおったぞ、とうちゃんのおかげだ。嬉しいかっ」

生まれて初めて、志乃は父の分厚い胸に抱かれたのである。

その恥ずかしさ、蕩けるような感動と言ったら、何を考える余裕もなく

全身がブルブルと震えた。

「いいか、今夜のことは誰にもしゃべるんじゃねぇぞ」

少し膨らんで、なだらかな丘のように高くなっている乳首をつまんで

ひねりながら、辰蔵がふと我に返ったような低い声で言った。

「世間はうるせぇからな。これまでのとおりムスメのような顔をしていろ」

「う、うん」

「俺が初物をヤッたことは、松吉も気がつきゃしねぇだろう。ふっふっ」

絶対に世間にバレてはいけないと言うことは、志乃にも理解することが

出来た。

とうちゃんがやったことは、他人の目から見れば、物凄く悪いこと

なのであろう。そんな世間の掟を平然と破って、迸るような欲望を

浴びせられたことが志乃は嬉しかった。

「とうちゃん、あたいオシッコに行ってくる」

「ふん」

本当にゲッケイになったのではないかと思うほど、股の間に

ヌラヌラとした感触が残って、そこがズキンズキンと大きな脈を

打っていた。顔じゅうに飛び散ったものを手でこすったので、

手のひらがベタベタである。その上無骨な指で捻り回された

乳首が千切れそうに痛い。

志乃は、父に抱かれている恥ずかしさから逃れるように

身体を起こした。

立ちあがるときちょっとよろめいたが、歩こうとすると脚がガニ股である。

まっすぐに歩こうとするのだが、関節が開いて元に戻らないのだ。

志乃は腰を屈めて、相撲取りが四股を踏むようなかたちで玄関の

横にある便所に行った。

浜の近くにある家はまだ水洗になっていない。キンカクシの前に

しゃがむと、小便はシュウゥッと音を立てて勢い良く出た。

とうちゃんがやった後の穴が大きくなって、ジャバジャバと出てくる

のではないかと心配していたのだったが、あきらかに場所が違う

のである。そのかわり、周辺の粘膜にヒリヒリと刺すような刺激が

あった。

辰蔵に犯られたときはあれほど我慢できたのに、自分で痛くなる

ことには臆病である。紙でこすると痛そうなので、抑えるように拭いて

確かめて見ると、オシッコに溶けた薄い血の色と、乾いた血の破片が

付いていた。志乃は、それを惜しげもなく糞壷の中に捨てた。

それから台所で、精液でこわばった顔と手を洗って部屋に戻って

みると、辰蔵はあたり構わぬ鼾を撒き散らしながらぐっすりと

眠り込んでいた。

その股間にダラリと横になった海鼠のようなものが、凄まじい威力を

持った魔神の武器なのである。志乃はしばらくの間、立ち竦んだように

父の寝姿を凝視していた。

股の間にまだ何か挟まっているような感じが残っていたが、今夜突然

女になったことが信じられないような気持ちである。

かあちゃんにも、こんなことがあったんだろうか…

ふと、顔も知らない死んだ母のことを想った。

そのおかげで、あたいは産まれることが出来たのよね…

誰に教えられたわけもないが、志乃には、それが女の業であるように

思えた。初潮がきて、破瓜されて、そして妊娠、出産と、女の身には

はじめから被虐の環境が備わっているのだ。

夜はもう、だいぶ更けていたが、このままでは眠れそうになかった。

全身にまだ得体の知れない余韻が残っている。志乃はボンヤリとした

頭を冷やすつもりで、寝巻きの上からドテラのような綿入れを引っ掛けると

外に出た。

春一番と言うのか、戸外に吹き荒れていた風も少し納まってきたようで

熱くなった素肌に当たる感じが心地よい。

家を出ると、道を外れて東のほうに100メートルほど行けば海である。

左手が小さな漁港の堤防で、右は大きく湾曲して岬につながる砂浜が

続いていた。その堤防の先端に、微かな灯りが一つ明滅している。

誰だろう…

この風の中で夜釣りをしている人がいるのだ。人口の少ない町なので

どうせ顔見知りである。志乃は小さな灯火に誘われるように、堤防の

上を歩いていった。

近くまで行くと、動いている影はふたつ、月明かりに数本の釣竿が

海に向かって斜めに並んでいる。

「おぅ、お志乃じゃねぇかい。まだ寝ないのか」

声をかけてくれたのは、とうちゃんの漁師仲間の松吉小父さんだった。

「明日は学校だぞ。早く休まにゃ駄目じゃねぇか」

「うん…」

「今ごろまで、どうして起きてるんだ。とうちゃんに叱られたのかい?」

「違うよ」

先刻、松吉の名前が出たばかりなので、志乃はちょっとドギマギ

しながら言った。

「何か釣れた? 明日のおかずにするんだから、少し頂戴」

「鯵だよ、あんまりいい形じゃねぇが、要るだけ持っていきな」

バケツの中を覗くと、掌くらいの大きさの魚が七・八匹泳いでいた。

「雄太、そこにビニールの袋があるだろ。入れてやれ」

息子の雄太が素手で魚を掴んで、黙ってビニールの袋に入れる。

しゃがみ込んで、志乃はその手許を見つめた。

「ありがと、もう良いよ」

「志乃…」

そのとき松吉が無遠慮な声で言った。

「おめぇ、どうしてズロースを穿いていねぇんだ。丸見えだぜ」

「えぇッ」

気がつくとドテラの前がはだけて、膝小僧がムキ出しになっている。

あたりが暗いので、松吉の位置からはそれほど奥までは見えなかった

のだろうが、見られたとすればむしろ雄太だった。

「そんな格好でとうちゃんと一緒にいるのか。気をつけろ」

「う、うん」

とっさに立ちあがる知恵も浮かばなくて、志乃は両手で膝小僧を

抱えながら言った。

「とうちゃんは酒飲んで寝てるから良いよ」

「それが危ねぇんだよ。おめぇはまだ知らねぇだろうが、辰っつあんは

変態だって評判だぜ」

「変態…?」

「飲み屋の女たちがよ、辰っつあんは怖いってみんな逃げているんだ。

そんな格好していると危ねぇぞ」

志乃の脳裏に、つい一時間前に犯されたときの情景がマザマザと

甦ってきた。

あれは、とうちゃんが変態だったからなのだろうか…

「ずいぶんと娘っこい身体になってきたじゃねぇか。なァ雄太、そうだろう」

口では冗談めかしているのだが、松吉は、まるで息子をケシかける

ように言った。

「てめェもそろそろ女が欲しくなる年頃だ。やるんなら、志乃みてぇな

手付かずの娘が良いぞ」

「ふふん」

雄太は鼻の先で笑っただけだが、視線が太腿の奥に行っている

ことは間違いなかった。

バレたらどうしよう…

ジンジンと脈を打っていた股間の肉が、急にギュッと収縮したような

気がして、志乃はあわててドテラの裾を掻き合わせた。相手がまだ

少年であったとしても、雄太にあのことを知られてはならない。

とうちゃんが変態だったら、あたいだって変態だもん…

突然竜巻に襲われたようなただ一度の経験が、志乃を女に変えていた。

それは外見的な容貌や肉体の変化ではなく、内面的な精神構造の

鮮烈なまでの変貌である。

「やっ、おっとぉ…」

魚がかかったらしく、松吉が無造作に片手で竿を上げる。

ギュゥンと穂先が撓って、夜目にもキラキラと光る中型の鯵が、勢い良く

志乃の前に飛んできてピンピンと跳ねた。雄太が手際良く鈎をはずして

ビニールの袋に入れながら言った。

「おまけだ、タタキにして食えよ」

「うん、ありがとう」

これだけあれば、明日の朝とうちゃんに刺身と煮付けにして食べさせて

やれる。袋を持って立ちあがろうとしたとき、不意に、雄太が無言で

ドテラの中に腕を入れた。

「ヒッ」

腫れて疼いているところをいきなり突き上げられて、志乃は2・3歩

後ずさりしたが、何とか体勢を立て直してクルリと後ろを向いた。

「お、おやすみ…」

とうちゃんとのことが雄太にもバレるのを恐れて、志乃は逃げるように

その場所を離れた。松吉は釣りに夢中になっていて、そのことには

気がつかなかったようだ。

堤防の上を引き返しながら下を見ると、ときおり大きな波が白い泡を

噛んで打ち寄せている。

ああ、夜光虫…

波が来るたびに、その泡のまわりが月の光とは別の青白い燐光を放って

揺れるのである。志乃はボンヤリと、少しも明るさを感じさせない不思議な

青い光を見つめた。

ドゥゥン、ザザザ…

いつも耳になれた日本海の波の音が、何故か自分の運命を暗示して

いるように聞こえる。

まだ幼い胸にはそれほど具体的な形にはならなかったが、荒れる海の中に

溶けこんで、波にまかせて淡く光る夜光虫はあたいみたいだ…

ただ漠然とそんなことを感じていた。

それが処女を失った夜、志乃が味わった唯一の感傷である。




四、潮と稲妻



それから志乃は、月に二・三度の割合で辰蔵と関係をもった。

情報も流通もまだ今のように行き渡っていない。労働のハケ口は酒と女

しかない荒くれた辺境の漁村である。男たちは、漁に出れば幾日も

帰ってこない。30トン足らずの漁船で、荒海を朝鮮半島の沖まで

近づいて網を張っているのだ。

浜には、女子供と老人だけが残っていた。

男はすべて波の上、幾日ぶりかで陸に戻ると、溜まった性欲のハケ口を

求めて誰彼かまわず女のところに殺到する。

夜這いや売春は当り前、どこそこの娘が犯されたとか、あそこの嫁は

いくらで抱けるなどといった噂も日常茶飯事で、女もそれを受け入れ

なければ火照った肉の始末がつかないのであろう。この部落に伝わってきた

異常ともいえる乱れた性の風習は、こうした昔ながらの生活と環境に

根ざしたものだったのである。

志乃と辰蔵の暮らしは、生臭い男の精力と女の淫欲が渦巻く環境の中に

埋没して保たれていた。月に二・三度というのは、辰蔵にして見れば

むしろ自制していたくらいだったのであろう。

志乃のほうでも、自分の肉体がとうちゃんの満足のために供されるのなら

それでも良いと奇妙に納得している。生まれながらにして、志乃には

倒錯した淫蕩な血が、遺伝的に色濃く流れていたのかもしれない。

それはひとり志乃だけでなく、この部落全体に漂っている異様な風習で

あった。

「ええか志乃、親孝行をしろ」

酒を飲むと、辰蔵は口癖のように、ようやく膨らみ始めた娘の身体を

眺めまわしながら言った。

「もう子供じゃねぇんだ、役に立たねぇ娘は飯なんか食うな」

役に立つというのは、海でささくれだったとうちゃんの身体を満足させて

やることだ、と志乃は思った。本当にもしとうちゃんが働けなくなったら、

志乃は部落の男たちに身を売って食うしか道がないのだ。

呼ばれれば自分から裸になって、嫌も応もなくとうちゃんに身を任せる。

それが娘としての務めのように感じていた。

その役を果たすことに、志乃はそれほどの抵抗を感じていたわけでも

なかった。一週間ぶりで辰蔵が海から上がると、今晩はやられそうだ

と言うことは雰囲気で判る。大人の女のように欲情することはないが、

いつか微かな期待感のようなものが芽生えるようになっていた。

「どうじゃ志乃、久しぶりで可愛がったろかい」

「うん」

「こっちぃ来い、そんなもん片付けんでもええ」

ズルズルと引き寄せられて、ゴザのようになったタタミに直接横になる。

相変わらず酒臭い息が顔中を覆った。

「おぅ、毛が生えて来よったな。こらァえぇあんばいじゃ」

「いやァ、恥ずかしいよゥ」

「なにぬかす。まだチョボチョボだが、すぐ一人前になるんじゃ」

委細かまわず裸に剥かれて、まだ幼い足が辰蔵の浅黒い腰を挟んだ。

「アッ、うん…ッ」

はじめは息が止まるような衝撃があるが、あとは最初に味わったほどの

激烈な痛みもなく、志乃は父親の魔人のような筋肉に抱きこめられて

揉みくちゃになる。

腕の力瘤よりも固くなった太いやつを股の間に突っ込まれると、突かれる

たびにハッハッと息遣いが荒くなった。苦しくなって布団をズリ上がると、

容赦なく辰蔵が首筋を掴んだ。

「馬鹿ッ、それじゃ奥までとどかんだろうがっ」

「くぅッ、はぁぁッ」

「ちぇっ仕様がねぇな。そんじゃ上に乗れ」

軽々と持ち上げられて繋がったまま腹の上に乗ると、下から跳ね上げ

られる勢いで志乃は人形のように踊った。

快感と言うものはまるでないのだが、辰蔵としても、娘にセックスの快味を

教えようとしているわけではなかった。オモチャ、というより自分の性欲を

満たすための道具としてしか扱っていない。それがかえって父親と娘と

いう異常な関係を希薄にしていた。

その時が近づいてくると、いきなりはちきれそうになったのを抜いて

志乃の髪の毛を掴んで顔全体にこすり付ける。

「おぅし、イッたるでぇ」

思わず開いた口の中に胃袋まで達したのではないかと思うほど深く

ねじ込まれて、顔を真っ赤にして仰け反ったとたん、ブワッと大量の精が

溢れ出してくる。咽喉を逆流して噎せかえりそうになるのを志乃は必死に

なって耐えた。

「よぅしよし、いくら何でも娘を孕ませるわけにはいかんからのう」

ダバダバと溜まった精を吐き出してしまうと身体が楽になるらしい。

辰蔵は大の字になってすぐに鼾をかきはじめるのが常であった。

人間として何の情緒もない交わりだが、自分の身体でとうちゃんが満足した

ことが判ると、志乃はそれだけで安心した。

だから、もともと志乃にはセックスに愛とか恋といった情感を植えつけ

られることがなかったのである。ただ、とうちゃんが鼾をかきはじめると、

股の間に何故か取り残されたような虚ろな気持ちだけが残った。

モゾモゾと起き出して股間の後始末をすると、とうちゃんが眼を覚まさない

ように土間に近い部屋の煎餅布団にくるまって横になるのだが、なかなか

寝つけないことが多かった。

そのころの志乃はまだ、イクと言うことを知らなかったのである。

そんなある日…、

部落の男たちはおとといの朝いっせいに漁に出て、戻ってくるのは明日か

明後日である。港には漁船の影もなく、ヒッソリとした午後であった。

何もすることがなくて、志乃は家の窓からボンヤリと海を見ていた。

沖が荒れているのか、波の音が絶え間なく、砂浜に波が白い泡になって

打ち寄せている。

あの向うに、辰蔵が網を引いている半裸の姿を想像すると、やはり逞しい

男を感じないではいられない。それは初恋とも違う、一種の憧憬に似た

畏怖であった。教養もなく、ただ性欲の塊りのような男の筋肉で犯される

ことが、志乃にとってはセックスのすべてだった。

ふと、志乃は立ったままスカートを捲った。

穿いていたズロースを膝の辺りまで下ろすと、背中をまるめて覗き込んで

見る。この間とうちゃんから生えてきたと言われたことがものすごく

恥ずかしくて、一度自分で確かめて見ようと思っていたのだった。

そろそろ夕方に近い海の明かりに晒して見ると、潮焼けした少女の肌は

決して白いほうではなかった。それが臍の下までくると、生魚の刺身の

ような半透明な色にかわる。下腹には、まだ女の脂肪がついていなくて、

平べったくて固い。その下にポッコリと盛り上った肉が両方から寄り合って

一本の縦の線を形成しているのだが、線の合せ目のところに、辰蔵が

言ったとうり確かに毛は生え始めていた。

「………」

志乃は、無言でゴクリと唾を嚥んだ。

長さはようやく3センチぐらい、ワレメのてっぺんにまとまって生えている

のだが、良く見るとその周辺にも産毛が伸びたような1センチ足らずの

細くて淡い繊毛が色づきはじめている。溝に沿った土手の上はまだ滑らか

だが、志乃には、身体に何か別の生き物が取り付いて、勝手に成長して

いるように思えた。

思い切って指を溝の中に入れると、コリコリとしたしこりがあって、触ると

ジンジンと背骨に響くような感覚がおこった。

気持ちいい…

思わず、あたりを見まわす。

誰もいないはずなのに、その感覚がたまらなく恥ずかしいのだ。

苦痛に耐えることなら平気なのだが、この部分で快感を味わうと言うのは

ひどく淫らなことのように思えた。

そう言えば、近頃はとうちゃんに太いのを突き刺されても、最初に味わった

ような、あの激しい痛みはなかった。

なぜだろう…

セックスが気持ち良いものだと言うことは誰に教わるともなく知っていたが、

それはあくまで男だけのもので、女が感じることではないと言う奇妙な

差別感が、志乃の胸には何時の間にか烙き鏝を押されたように刻印されて

いた。それなのに、この感覚はいったいなんだろう…。

指を二本添えてコリコリしたところをまさぐっていると、とても立っていられない

ほど筋肉が震えて、腰がガクガクと動く。たまりかねて、志乃はとうとう畳に

膝をついた。

キ、気持ちいい…

頭では、必死に父親に犯された夜の苦痛を思い出して快感から逃れようと

するのだが、それがかえって逆の方向に神経を引きずってしまう。

熱い血の固まりがみるみるうちに大きくなって、コリコリした肉が膨らんで

くるように思えた。

ウゥムッ、ウム、ウムッ…

歯を食いしばって志乃は快感に耐えようとした。それは外側から与えられる

苦痛とは違って、身体の内側から盛り上ってくる異様な衝動である。

クッ、クッ、クゥッ・・・

自然に脚をピンと伸ばして、志乃は畳に横転すると二度三度と寝返りを

うった。二本の指が、いつか両手を使って掻き毟るように土手をひらき、

時折ぎゅっと抑えつけては太腿をしぼる。少女が初めて知ったオナニーに

しては、あまりにも淫靡で動物的な情景であった。

アッ、ウゥッ…

そのとき、必死に耐えていた神経の糸がプツンと切れた。

限界まで圧縮された熱い血の固まりが、突然マグマが噴き出すように

身体中の血管を逆流する。稲妻に打たれたような衝撃で、脳みそが

爛れたように溶けて一瞬何もかもわからなくなった。反射的に筋肉が

収縮して、バネ仕掛けの人形のように全身がギクッギクッと跳ねた。

辰蔵にさんざん弄ばれ、嬲りものになっても快感に結びつくことが

なかった神経が開放された瞬間である。

快感はあとからあとから、まるで潮が満ちるように押し寄せてくる。

思考力を失った頭では、指の動きを止めることが出来ない。止めれば

かえって精神状態が可笑しくなってしまいそうなのである。

血管の中を何回となく大きな波が打ち寄せ、打ち返していった。

時間にすればおよそ15分くらいの間、志乃は淫らの毒を飲んだように

狂いつづけた。ほとんど失神したようになって、全身から力が抜けようと

したときであった。

「おい志乃ッ、志乃おらんかっ」

突然、戸口の外で男のわめく声が聞こえた。ハッと我に返る余裕もなく

ガタガタッと表戸が開いた。

「やい志乃ォ、てめえ何やってんだぁっ」

飛び込んできたのは松吉の息子の雄太である。ほとんど半裸のまま、

志乃は起きあがる力もなく、ムキ出しの下半身を隠すことも出来ず、

朦朧とした視線を闖入者に向けた。

「おっ父の船が沈んだっ、辰小父さんも一緒だってよぉっ」

「……… ? 」

あまりの事の重大さに、頭が回転しないのである。雄太の前で無残に

秘部を晒したまま、志乃は凍りついたようになった。

「船が知らせに戻ってきたんだ、みんな浜に行ってるのが分からんのかっ」

「えッ、えぇぇッ」

「早く何か着ろっ。みっともねぇ」

「ひぃ…ッ」

そのとき、志乃はまもなく14才の夏を迎えようとしていた。


<つづく> もどる