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五、初恋人形

辰蔵と松吉の遭難は、小さな漁村を揺るがす大事件だった。が、決して

それ以上のものでも以下のものでもなかった。

現在と違って、情報はまだそれほど発達していない。ラジオのローカル

ニュースで流れはしたが、それも一日だけ、あとは戦争のニュースが

大半を占めて、ほとんどの人が聞き流して終ってしまった。

実際、日本海のド真ん中で海に投げ出された死体は発見されなかったし、

漁師が海で死ぬのは当り前、魚に食わせてやれば何よりの供養だと

いった江戸時代からの根強い風習が残っていた。

身寄りも親戚もあるわけではない、結局、あとに残されたものが自分で

身の振り方を決める以外になかったのである。

強いて言えば、辰蔵が関係した大勢の女たちが寄ってたかって葬式の

面倒を見てくれることになったのだが、そこから先、志乃の母親になって

やろうと言う奇特な女は一人も現れなかった。

結局、志乃は独りぼっちになった。

浜で魚をもらったり、アワビを採ったりして食うには困らなかったが、辰蔵が

いなくなった後の生活が貧乏のドン底であった事はいうまでもない。せっかく

あがった高等小学校にも行けなくなって、一年の二学期で退学と言うことに

なる。

当時、小学校卒という学歴はさして珍しい事ではなかったのだが、まだ

男たちが身体を買ってくれるほどの年ではないし、漁師の手伝いをする

には体力が幼なすぎた。そんなとき、誰よりも心配して力になってくれたのが

松吉の息子、雄太である。

雄太は中学生なので、大人と一緒に沖に漁に出ることはできなかったが、

毎晩のように堤防に釣りに来てはいくらかの獲物を置いていってくれた。

時として、それは大漁の鯵であったり、蛸一匹であったりもする。それを

組合のセリに出して、もらった僅かな金で米やメリケン粉が買えた。

自然、雄太とは親しくなって、寂しくてたまらなくなると志乃は少し離れた

雄太の家に泊りに行くようになった。

「雄太、何だよゥこんな娘ッ子を連れこんで、隅におけないガキだねェ」

松吉の後家はおそのといって、まだ40才前の脂の乗りきった女だったが、

亭主が辰蔵と同じ船で沈んだと言う行きがかりもあって、気軽に泊めて

くれた。だが男たちが漁から戻ってくる日になると、決まって二人を

追い出しにかかる。

「あんたら、今日は忙しいんだから邪魔しないで家に帰んな。雄太も、

堤防に鯵釣りにでも行って来い」

松吉が死んだことは、おそのにとってそれほどの打撃にはならなかった

のであろう。昼間からウキウキして風呂に入ったり、化粧を直しはじめたり

する。言われるままに二人は堤防に出て、夜遅くまで釣り竿の先を

見つめていたこともあった。

こんな関係が半年も続くと、志乃の心の中にも雄太にいつ犯されても

構わないような気持ちが芽生え始めていたのは無理もないことだが、

雄太はいっこうに手を出そうとしない。志乃には、それが何故か焦れったく

思えた。

父親から、仁王が子兎を弄ぶように犯されていた日々が遠くなると、

不思議なことに身体中の血がときどきカッと熱くなって、いても立っても

いられなくなる。

もう一度あの衝撃が欲しくなってくる。

何故そうなるのかは自分でも良く判らないのだが、それと同じことを

雄太に求めるのは無理であろう。ずっと前、一度だけ雄太にムキ出しに

なったどてらの裾の間から指で性器をつつかれたことがあったが、

その時の感覚が懐かしく思い出されて胸がときめくのだった。

その夜…、

志乃と雄太はいつもの堤防の上にいた。

男たちが漁から上がってきたので、振り向くとあちこちの家にはまだ

ほそぼそと灯が点っている。海はあの日の思い出が嘘のように凪いで、

寄せかえす波の音も聞こえなかった。

こんな夜は、釣りにはかえって向かないのである。さっきからアイナメに

似た根魚が一匹釣れただけで、二人は長い間黙って黒い海に浮かんで

いる小さな浮きを見つめていた。

「なぁ、お志乃よゥ」

何か考え込んでいたらしい雄太が、海に向かって膝小僧を抱えたまま

呟くように言った。

「おめぇなぁ、とうちゃんの船が沈んだとき、マス掻いていたんだろ」

「………」

「違うんか、えっ、もう男が欲しくなったんじゃねぇのか?」

「えぇッ、ち、違うよ。そんなこと…」

まともに見られているので否定することは出来なかったが、恥ずかしさに

顔に血が上って、志乃は口ごもりながら言った。

「あたい、知らないもん。あ、あのとき初めてだったもん」

「ふうん…」

相変わらず釣り竿の先を見つめながら、雄太はボソボソと聞きにくい

調子で言った。

「おめぇ、よぅ、そろそろ男とヤッてみる気はねぇのかい」

俯いたまま、志乃はチラッと雄太を見たが、雄太はそれほど興奮している

様子ではなかった。しばらく間を置いて、志乃は低い声で言った。

「雄ちゃんと…?」

「うんにゃ」

雄太が竿をあげたが、魚は掛っていない。餌を付け替えて放り込みながら

雄太はニヤッと薄い笑いを浮かべた。

「おいらの学校でよぅ、先輩たちが女を欲しがっているんだけどよ」

「先輩って、四年生?」

「うん、動員で町の工場に行ってる。工場には女がいねぇんだってさ」

当時の中学は五年制である。戦争が激しくなって、新聞は毎日勝ちいくさの

ニュースを伝えてはいたが、日本の片隅に張りついたような漁村にも、

連日のように召集令状が舞い込んでくる。十代の学生が学業を捨てて

軍需品の生産に駆り出されるようになったのもこの頃である。

「俺、頼まれちゃってよぅ。町の女は犯れねぇから、誰かいねぇかって」

さっきから途方にくれていたのはこのことだったのだろう。いかにも

困り果てた様子がありありと見える。

「悪いけど、やってみてくんねぇか。おいら、女はおめぇしか知らねぇから」

「でも、あたいなんか・・・」

「そうでもねぇ、おめぇは好い女になった。みんな犯りたがるべ」

そんなら何故、雄ちゃんがヤッてくれないの、と志乃は心の中で思った。

だが、それは自分の口から言えることではない。雄太が学校で先輩に

難題を吹っかけられて困っているのかと思うと、何とかしなければ、

という気持ちが先に立った。

「なぁどうだ、魚を分けてやるからよ」

「う、うん」

たしかに、雄太からおこぼれを分けてもらうことで、志乃は生きて

いるのだ。いわば恩人である。志乃は、あいまいな気持ちで頷くより他に

なかった。

「あたいでも、先輩が嫌じゃなければ・・・」

「や、そうか、それじゃ好いんだな?」

「だって雄ちゃんには、お礼しなきゃいけんもん」

「そんなこた良いが、先輩だからゼニは貰えんが、それでもいいか」

「うん…」

「やぁ良かった。助かったぜぇ」

雄太には、志乃が生娘であるかどうかはそれほどの問題ではないようで

あった。母親の行状を見ているだけに、女が年頃になれば誰でも簡単に

男に抱かれることが出来るものだと思っている。

それに引き換え、志乃には辰蔵との想い出が身体の芯に深く刻まれていた。

知らない男とヤルことがどんなにキツくて恥ずかしいことか、身にしみて

分かっている。

とうちゃん、いいんでしょう・・・?

志乃はぼんやりと、静かな暗い沖に視線を向けた。

とうちゃんにして貰った後だから、あたいもう痛くないよ・・・

そう思うと、達蔵が身体に穴をあけてくれたことは、今になってみると

父親の情けだったようにも思えるのである。

「おっと、来たきたっ」

雄太が急に勢い良く竿を上げた。見ると先端に小さなベラが一匹

ぶら下がっている。

「ちぇっ、こんなんじや食えねぇや」

小魚を鈎からはずして海に捨てると、雄太は振りかえってニコニコと

笑いながら言った。

「先輩はよぅ、好い男だからよ、お志乃も気に入るぜ」

「フフッ、そんなこと、ないよ」

「嘘こけ、男が欲しくてマス掻いてやがったくせに・・・」

志乃はまた頬がカッと熱くなった。自分が誰か知らない男に抱かれる

交渉をされるより、そのことを言われるほうがよほど恥ずかしかった。

「知らないってば、あたい、男なんて…」

そう言って、志乃はふと、これで良いのか、という気持ちになった。

オナニーを見られたことは仕方がないとしても、どうして雄太はあたいに

手を出そうとしないのだろう・・・

恥ずかしさを嚥みこむように、志乃は口調を変えた。

「ねぇ雄ちゃんは、それでもいいの?」

「え、何が…?」

「あたいは構わないけど・・・、雄ちゃんが先輩より先にやっても…」

へぇっとビックリしたように、雄太はまじまじと志乃を見つめた。

これは凄まじい愛の告白である。志乃にとっても、雄太に対して初恋など

いままで自覚したこともなかったのだが、突然噴き上げてきた不思議な

衝動であった。

「馬鹿言うんじゃねぇ」

やがて、雄太は吐き捨てるように言った。

「そんなことしたらハッ倒される。おめぇは、黙っておいらの言う事を聞け」

「うん…、ハイ…」

心臓が咽喉につかえてドキドキと音を立てていた。

当時の中学生は一年でもクラスが上なら絶対権力である。軍事教練に

明け暮れ、戦争で死ぬことしか教えられていなかった彼らの規律は、

最近のいじめなどとは質が違っていた。

まして軍国調一色に塗り固まった田舎の中学校である。先輩に

見込まれて女を連れて来いと命じられた以上、雄太には逆らうすべが

なかったのであろう。

「そりゃ、おめぇは好きだけどよ、先輩はいつ戦争に行かされるか

わからねぇんだ。相手をしてやれよ」

とってつけた言い訳のように、雄太が言った。

「お志乃だって、とうちゃんが死んだのは可哀想だと思うだろう」

「いいよ、わかったから」

涙がこぼれそうになって、志乃はあわてて言った。

「どうすれば好いの。あたい、ヤリ方知らんけん」

「おいらだって知らねぇ、まぁ何とかなるべ」

先輩への顔が立つというのか、雄太はそうそうに釣り竿を仕舞いながら

上機嫌で言った。

「早いほうがええ、明日もう一度ここに来い。そしたら連れてってやる」

明日と言われても、志乃にはピンと来ない。突然先輩と言う男に

抱かれなければならなくなったことに戸惑うばかりである。

その夜、雄太と別れて家に戻ってからも、志乃は寝つけなかった。

いったい、何をされるんだろう・・・

薄い布団に横になると、まだ辰蔵の体臭が残っているような気がする。

すると嫌でも、容赦ない手荒さで犯されていた日のことが思い出されて、

志乃は無意識にキュッと股を締めた。

どれくらい、痛いのかな・・・

そんな不安と期待が入り混じった妄想が頭をかすめる。知らぬ間に

頬が赤くなって、志乃は自分を納得させるような気持ちで股の間に

指を入れた。誰も見ていないことは分かっているのに、何故か

たまらなく恥ずかしくなって指先で抑えたり放したりする。

痛くてもいいよ、すぐに終るもん・・・

先輩に抱かれると言うことには、それほどの抵抗はなかった。

辰蔵の次に二人めの男ということになるわけだが、部落中が兄弟姉妹に

なったような環境で育っているから、いまさら好き嫌いを言ってみても

始まらない。口惜しいのは、それが雄太ではなかったということだ。

父親に代わって、雄太が巨大な魔神のように襲いかかってくれたら

どんなに嬉しかったろう。

雄ちゃん・・・

妄想が次第に広がって、日焼けした雄太の上半身を頭に描きながら

真ん中のコリコリしたところを揉むと、筋肉がピクピクと跳ねる。

指を止めうとしても、何故か指のほうが自然に動いてしまう。

辰蔵とのときはこんなことなかったのに、何時の間にか、自分の中に

快感が湧きあがってくるようになったことがうとましかった。

あッ、ふぅ、いや・・・

ピクンピクンと布団の中で跳ねながら、志乃は唇を噛んだ。

それは生まれながらに被虐の遺伝子を持った女に訪れた淫靡な

成熟の兆しである。志乃は男に飢えているのではなくて、あの凄惨な

肉体への攻撃に乾いているのだった。



六、鮫の群れ


翌日、志乃が岸壁に行くと、雄太はもう先に来て待っていた。

先輩に話をしたら、すぐに連れて来いといわれたという。

「猿ヶ鼻の岬のうらで待ってる。誰かに見られるとマズイからな」

使い走りの役目に緊張しているのか、雄太は獲物を逃がすまいと

するかのように志乃の腕を掴みながら言った。

「行こうぜ。先輩たちは喜んでいたよ」

「ねぇ、どんな人?」

それは昨夜から気になっていたことである。想像すると、イメージが

だんだん膨らんで、志乃は余計に興奮して眠れなかった。

「いい人たちだよ。おいらはいつも世話になってる」

「駄目だって言われないかな、あたいなんか・・・」

「しんぺぇすんな、おめぇなら大丈夫だ」

歩きにくい波打ち際の砂を踏みしめてゆくと、岬はまだ遠い。

突端が夕闇にかすんでいて、ここから20分以上の道のりが

あった。

あの向うに志乃を抱きたいと言う男が待っている。

雄太と肩を並べて歩きながら、志乃は何となく自分が海の神様の

貢ぎ物にされに行くような気がした。

それにしても、雄太はいったいどう言う気持ちなのだろう・・・

いくら強要されたとしても、15歳になったばかりの生娘を

飢えた男の人身御供にあげる神経は普通ではなかった。

雄太もやはり淫靡な変態部落の住人なのであろう。

志乃はそこまで考えていたわけではないが、雄ちゃんとは

一生結ばれないような気がした。恋心に近い感情を抱いている

だけに、そのことが悲しかった。

「ねぇ、雄ちゃん、あたい・・・」

次第に岬の突端が近づいてくると、志乃はさすがに足どりが

鈍くなった。

「どうしよう、やっぱ、うちへ帰りたい」

「馬鹿やろう、せっかくここまで来たんじゃねぇか、速く歩け」

「雄ちゃん、あたいが先輩にやられても良いの?」

「約束だ、仕様がねぇだろう」

「だってあたい、雄ちゃんが・・・」

好き、と言いかけて、志乃は言葉を呑んだ。

自分にはそんなことを言う権利はないのだ。たとえ愛されて

いなくても、日ごろの恩返しだけはしなくてはならない。

まるで品物のように、先輩に渡されてしまうことは怖いが、

雄ちゃんの顔が立つならそれでも良い。

そう思うと、身体のどこかに痺れるような快感が湧いた。

「おい、あのへんだ」

とっぷりと暮れた岬の突端につくと、雄太は立ち止まって

前方を透かすように言った。

「一人で行きな、おいらはここで待ってる」

砂浜がきれ、岩がゴロゴロしてその先はまた次の砂浜に

なっている。海岸にはこんな地形が際限もなく続いていた。

先輩はあの岩の向う側に来て待っている筈だ、と雄太は言った。

「うまくやってくれ。おいらに恥をかかすんじゃねぇぞ」

「怖いよ・・・」

「だいじょぶだよ、転ばないように行け」

「うん」

何だかこれがお別れ、と言うような気持ちになって、志乃は

縋りつくように雄太に顔を寄せた。

「お志乃・・・」

その肩を、雄太が抱いた。ぐにゃっと崩れるように、少女の

胸が寄りかかる。

「おいら、おめぇが好きなんだ。学校出たら嫁にしてやるぜ」

「ほんと…?」

「嘘じゃねぇよ。だからヤッて来い」

志乃が苦しそうに顔を上に向けた。力任せに抱きしめられて、

息が出来ない。背の高い雄太の鼻が、その上からまともに

志乃の鼻を圧した。それが稚い少年と少女の最初の抱擁であり、

接吻であった。

「雄ちゃん」

息が苦しくて我慢できなくなったところで、唇をはなし、志乃は

かすれた声で言った。

「じゃあたい、行ってくるから…」

「うん」

好きだと言われたことが、志乃に不思議な勇気を与えたことは

確かである。

雄ちゃんのためなら、なんだってする・・・

自分でも気がつかないうちに、志乃は女としてあてのない人生の

線路の上を走り出しているのだった。

暗がりの中を、ゴロゴロした岩を避けて身体を左右に振りながら

低い坂を降ると、そこは岬の反対側である。昼間でもここまでは

部落からの視線は届かないのだ。

波の上に晧晧と冴えた月がのぼっていなかったら、あたりは

真っ暗闇、人間はおろか、おそろしい海の神様が近づいてきても

わからないだろう。志乃は茫然として、また同じように続いている

砂浜の波打ち際に立ち竦んだ。

「おい、来た・・・」

そのとき、打ち返す波の音に紛れて低い男の声がした。

「よし、こっちに連れて来い」

ギョッとして振りかえって見たが、誰がいるのか良く判らなかった。

突然、ガシッと右腕を掴まれて、志乃は引きつった声を上げた。

「雄太の女だな。おめぇ、お志乃って言うんだろ」

返事をしたくても、腰の力が抜けて立っていられない。フラフラッと

崩れそうになるのを、もう一本の腕ががっしりと脇を支えた。

「返事をしろ、おい!」

「う、ぇ、ぇ」

「間違いねぇ、連れてけ」

今まで考えてもいなかったことだが、相手は一人ではなかった。

ツンと強い男の体臭がして、海坊主のような黒い影が少なくとも

二・三人はいる。

そう言えば雄太は確かに先輩たちと言っていたのだ。だが今になって

気がついても取り返しがつくことではなかった。

腰が抜けて歩けなくなっているのを後ろから羽交い締めにされて、

志乃は波打ち際から乾いた砂の上に引きずられていった。

「来たか、約束どおりだな」

「よぅし、俺が先にやる」

そこでまた、別の男の声が聞こえた。こうなると五・六人、あるいは

もっといたのかも知れない。

砂浜に投げ出されたところに何本かの腕が伸びてきて、身体を

捻じ曲げられるような力で、志乃は着ているものすべてを剥ぎ

取られることになった。

ズロースを脱がされるとき、片足に引っかかったのを無理に毟られた

ので、腰が海老のように浮いて、志乃はそのまま仰向けに股を

開いたかたちで動けなくなった。

ここまで、僅か一分に満たない短い時間である。

意識が朦朧として何をされているのかも判然としない。先にやると

言った男がリーダーらしく、ときどき何か言うが、男たちは意外に

静かだった。まるで、暗い海の底で落ちてきた餌に群がる鮫の群れの

ように静かで獰猛である。

誰がどうやっているのか判らないが、腕を伸ばして手首を砂に

埋める様に抑えつけられ、膝小僧を左右に開かされると、まだ固い

乳房がピンと張って胸がほとんど平らになった。

×の字に固定された志乃の身体に最初の男がのしかかってきたのは

その直後である。

両手で腰を抱えて持ち上げるように尻を太腿の上に乗せると、

闇に浮かんだ白い腹を見下ろしながら、男は呟くように言った。

「お国のためだからな、貴様は女子挺身隊だ」

片手を添えて目的の場所に狙いを定めると、一呼吸おいて、

グン…、と腰を入れる。

「アゥ…!」

脳天まで突き抜けるような衝撃があって、志乃はようやく我に返った。

はっとして無意識に起き上がろうとすると

「動くなっ、命令だ」

ガツン、ガツンと男の筋肉が太腿のつけ根に当たる。手足を

抑えられているので、そのたびに身体の間接が抜けそうになるほど

前後に揺れた。

溜まっていた性欲を一気に吐き出そうとするのか、無言で下半身を

叩きつけるような攻撃である。犯すというより、ただ欲望の道具として

肉の穴を啖っているといった感じだった。

志乃はもちろん快感などある筈もなく、されるままになっているのだが、

不思議なことには、はじめに感じたような恐怖心は何故か消えていた。

雄ちゃんは、どうしてあたいをこんな目に合わせたんだろう・・・

と言うのが、最初に頭に浮かんできた疑問である。

きっと、あたいのことを好きだからに違いない・・・

それは、常人ではとうてい辿りつくことのない、倒錯した思考の

プロセスであった。だが志乃には、それ以外には考えつくことの

出来ない結論だったのである。

「おぅえぇぞ、もっと締めい」

そのとき、志乃は身体の奥で男の肉塊が突然不自然なリズムで

脈動するのを感じて、とたんに全身の血が熱くなった。一種の

恍惚に似た感覚であったといっても良い。

「くわっ、うぅむ」

とたんに、志乃は猛烈な力で胸を締め上げられ、肋骨がミシミシと

鳴った。その上に男の体重がすさまじい重さでのしかかってきた。

「ゲホッ、ゲホゲホッ」

はげしく咳き込んだまま、志乃は息を吸うことができない。

上に乗っていた男はしばらくじっとしていたが、やがて未練気もなく

ズコッと肉塊を抜くと、中からトロトロと血のような生暖かいものが

流れ出して尻のほうに伝わっていくのが判った。

「おしっ、次、かかれ」

男が上半身を起こしながら、低い声で言った。

「自分であります。いいですか」

「うむ、ひとり一分だぞ。可愛がってやれよ」

「はっ」

ほとんど一直線に開かれた足を閉じることができず、志乃は朦朧とした

意識の中で、次の男の攻撃にさらされることになった。

前の男が吐いたものが溢れているので、ニュルッと何の抵抗もなく

二人めの男が侵入する。

両手で乳房を掴まれると、膨らみが十分に出来ていないせいか、

引きつったような痛みがあった。男は我武者羅に、掴んだ乳房を

引き寄せるように弾みをつけてグイグイと腰を突き出してくる。

そのたびに、接合した肉の間でグチャニチャと異様な音が鳴った。

内部に灼けつくような刺激があるのは、ヌメリに付いた砂が

ヤスリのように粘膜をこするのであろう。志乃は歯を食いしばって

その痛みに耐えた。

「痛ぇな、砂が入ってやがる」

こうなると、どうすることも出来ない。流れ出た粘液にベッタリと

砂が貼りついて、動かせば動かすほど中まで入り込んでしまう。

「上に乗れ。そのほうが貴様も楽だ」

男もそれに気がついて志乃を抱き上げようとしたが、手足の自由が

利かないのでともすればズリ落ちそうになる。それを何人かの

仲間が首筋と肩を持って支えてくれた。

身体に杭を打ち込まれるように、下から腰を突き上げると、

志乃は男の腰に乗せられたまま人形のようにヒクヒクと踊った。

「くっ、くそぅ…」

続けざまに身体が宙に浮いたのと、精液が溢れ出すのとが

ほとんど同時だった。

男の腹筋が不規則に痙攣すると、それに合わせたように、

グタッと志乃の全身から力が抜けた。

「次だ、突撃を敢行しろ」

「はっ」

代わって三人目の男が股間に指を触れたが、あまりの汚れ方に

流石に二の足を踏んだようだ。

「先輩、ちょっと洗ってからやっても良いですか」

「時間がないんだ、贅沢言うんじゃねぇ」

「いや、でも中が砂だらけなんで」

「そうか、それじゃ残りは海だ。逃がさんように行け」

「はいっ、おい、一緒に来い」

後ろから脇を抱えるように引き起こされたが、志乃には海の方向が

良くわからなかった。

「どこへ行く、こっちだ」

裸のまま、手首を引かれてつんのめるように歩く。膝頭に力が

入らないので、志乃は二度三度よろめいて足がもつれた。

「危ねぇ、もっとしっかり歩けっ」

その先は、行き止まりのない真っ黒な海である。

とうちゃんッ、雄ちゃんッ・・・!

志乃は、心の中で叫んだ。


<つづく> ,もどる