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七、深層海流


二・三人の男の腕で腋と手と足を掴まれて、志乃は文字通り波を枕に横になった形で

次の男の性欲を受け入れることになった。

波打ち際では砂が混じるので、ちょうど若者の腰のあたりの深さである。身体は支えられて

いるのだが、暗いので加減が良くわからない。波が来るたびに志乃は身体ごと海に沈んで、

何回も塩辛い水を飲んだ。

あたい、殺されるのかもしれない…

ふと、死の影に似た幻影が頭の中をよぎった。

若者たちのなぐさみ物になって溺れ死ぬのだ。だが、それは不思議と恐怖ではなかった。

いいよ、死んだって…

プカプカと波間に浮かんでいるのを、雄太が拾って家まで連れていってくれれば

それで良い。まるで夢でも見ているような、一種の恍惚である。

男が腰を揺すると、股の間に魚が潜り込んでうごめいているような感じだった。

「おいまだか、早くせぇ」

「うん、もうすぐだ。もうすぐイク…」

水の中なので動作が緩慢になるのか、時間にすれば5・6分だったろうが、恐怖も

苦痛も悠久の大自然の中に溶け込んでしまうような忘我の時の流れだった。

「よしイッた。替わるぞ」

「おう、ありがたい」

入れ替わった男が、前の男が出したのを指で掻き出すように下半身を海に漬けて

ガシガシと洗った。潮水が粘膜にしみて軋むようになると、今度は身体を浮かして

グスグスッとメリ込むように突き刺してくる。

「くわっ、たまらんわい」

「快いのんか、そんなに…?」

「当たり前じゃ、女はえぇ、こんなにえぇものを持っていやがって」

ザバッと水から抱えあげると、まだクビレが出来ていない胴体に腕をまわして

下から突き上げる。グニャグニャになった志乃の身体が激しくゆれて、髪の毛から

潮の飛沫が散った。

「うぅむ、まるで竜宮城で乙姫様を抱いているようじゃ」

腰にまわした腕を解いて、男が乳房を握った。まだ固い、ようやく膨らみ始めた

ばかりの扁平な乳房である。

腕を解かれても、硬直した男のものが奥深く突き刺さって、志乃の身体は

男から落ちることはなかった。その代わり全身の重みが穴の入り口にかかって

引き裂かれるように痛い。その痛みから逃れようとして、志乃は無意識に

男の首に両手をまわした。

「なぁこの娘、いったい幾つなんだ」

水の中ということもあるが、あまりに軽いので、抱き上げた男が我にかえった

ように言った。

「まだ子供じゃねぇのか、罪深いことだのォ。ナンマンダ、ナンマンダ…」

念仏の掛け声で拍子を取って、動きはいっこうに止めようとしない。

「よしよし気持ち良いか、子供のくせに、よう感じる奴だ」

志乃がしがみついているのを快感からと勘違いしたのか、動きがますます

激しさを増した。

「何だ、この女、くたばってるみたいだぜ」

横にいた一人が、志乃の様子に気がついて心配そうに言った。

「大丈夫か、さっき水の中に漬けておいたから溺れたんじゃねぇのか」

「ん…?」

抱いていた男が腰の動きを止めて顔を覗きこむ。

「いや、生きてる。こら、何か言ってみろ!」

バシィンと頬を張られて仰け反ったが、志乃は声を出す力がなかった。

「こいつ、しっかりせぇっ」

グン…! と奥を突かれて、志乃は男の首にまわしていた両手をフラフラと

あげ、そのまま万歳の格好で頭からザバァッと水の中に落ちた。

「早くしろっ、長すぎる」

「交代だ交代だっ」

たちまち小さな争いが起こって、身体の奪い合いになる。

「うぉぅ、俺はまだ気を出していねぇぞ」

男根がまだ引っかかっていて、抜けていなかった。焦った男が猛烈に腰を

動かすので、沈んだまま揺られながら志乃はまた大量の潮水を呑んだ。

ようやく抱いていた男の力が緩んで、プカッと海面に浮かぶと、すぐに次の

男の手が伸びて、再び沈みかけるのを支えた。

「おい貴様、やっぱり精を出しゃがったな」

「ふぉっふぉっ、満足したわい。乙姫さまの味は格別じゃ」

「くそぅ、また穢ごしやがって…」

新しい男が、穴の奥から流れ出してくる精液を魚を洗うように抉って海に捨てる。

だがいつ射精されたのか、志乃にはまったく感覚が残っていなかった。

「おかに上げろっ。このままじゃまずい」

「よぅし上陸、上陸ッ」

「わかった、それじゃこっちへ来い」

左の手首を掴まれて、波間を漂う小船のように引かれて行く。

波打ち際に近くなっても立つことも歩くことも出来なくて、ちょうど寄せてきた

大きな波に巻かれて志乃は二・三度ゴロゴロと横転した。

「こりゃ駄目だ、担いでいってやれ」

「仕様がねぇな。立てねぇのか?」

「だいぶ参っているぜ。まだ子供だから、いたわってやらにゃいかん」

これだけの人数が女を襲えば当然のことだが、朦朧とした意識の底で、志乃は

ボンヤリとそんな言葉を聞いた。

お国のためだ…、と言われたことが奇妙によみがえってくる。

この人たちは、明日にでも戦争に行って死ぬのかもしれない。その最後の夜に

女の身体で出来ることと言えば、これしかないんだから…

それは誰に教えられたのでもなく、志乃が自然に身につけた献身の論理だった。

恐怖も苦痛もあったが、その相手に選ばれたことに、意志の力を失った肉体が

不思議な喜びさえ感じるのである。

そのとき、ふわっと身体が浮いて、志乃は二人がかりの男の肩に担がれる

ことになった。行く先は、岬の突端に伸びている波に洗われた岩場である。

そこには確か、雄太がまだ待っている筈であった。

「おおいっ、雄太、どこだ出てこいっ。案内しろ」

誰かが大声で叫んだ声を聞いて、志乃はハッと我にかえった。

いけない…!

雄ちゃんにこんな情けない姿を見せたら嗤われる。しっかりしなければ…、

と思うと、志乃は必死になって男の肩から降りようとした。

「暴れるなっ、落ちたら怪我をするぞ」

否応無しに担がれたまま、ゴロゴロした岬の岩の上を進む。

「雄太、ゴザかなんか下に当てるものはねぇのか」

「無ければ探して持って来い。何をグズグズしているんだっ」

雄ちゃんが来ている、ど、どこに…?

夢中であたりを見まわそうとしたが、どこにいるのか影も見えなかった。

「おう、ここで良い。降ろせ」

平らな岩を見つけて、誰かが声をかける。

「よし、ここだ。落とさないように気をつけろ」

だが勢いがついているので、肩から降ろされたとき後頭部から背中に

かけてガツンと固い衝撃があった。平らだといっても岩には幾つもの

凹凸がある。その上ビッシリと小さな貝殻がついていたりして、仰向けに

なると、そのひとつひとつが皮膚を裂き肉に食い込んでくるような痛みが

あった。

「早くやれ、もう時間がねぇんだ」

「よしっ、俺の番だ」

男がのしかかってきたが、膝をつくことが出来なくて足を伸ばしたまま

全体重を志乃の上に乗せた。

「ぎぇ…、えぇ…ッ」

海水に洗われてキシキシと軋むようになった粘膜に野太い肉塊が

侵入したとき、志乃が呻いたのはその痛みではなく、尻の肉に突き刺さった

尖った貝殻のせいだ。一度限りの欲望を遂げようとして、男がはげしく

身体を動かすと、それにつれて志乃の全身も小刻みにゆれる。

肩と尻の肉が貝殻にえぐられて、自然に唇がひらき、歯をムキ出して、

志乃は痛いと言うより熱いといった感じの拷問に耐えた。

「ムシロ、持ってきました」

「よしっ、ケツに敷いてやれ」

「はっ」

雄ちゃんだ…!

微かに聞こえた声が志乃を支えた。

雄ちゃんの前で醜態を晒してはならない。雄ちゃんに恥を掻かせては

いけない…

どうしてそう思うのか、理屈ではない。それは志乃という女の本能と

言って良かった。

そのとき上に乗っている男とは別の手が志乃の腰にかかり、身体を

持ち上げようとした。

「待て、いま精を出すところだ。後にしろっ」

「はいっ」

わッ、わッ雄ちゃん…ッ

次の瞬間、全身の筋肉が硬直して、志乃は自分でも理解できない力で

海老のように反りかえった。

「あッあァァ、ウゥ…ムッ」

「おぉぉっ、こいつイキやがった。イキよったぞぉ」

誰かがとんでもない高い声で叫んだ。

「ありがてぇ、一緒に行くぞ」

グン、グン、グン・・・、と三回目に、上に乗った男がドサッと身体を預ける

ように力を抜いた。

「ふうぅ…っ」

「どうだ、本望を遂げたか」

「うむ、もう死んでもええ」

志乃の耳もとで、それは何故か哀しく聞こえた。本当ならもっといつまでも

女を抱いていたいのだろうが、未練を持つことは許されていない。

男が立ちあがると、続いてこれが最後の順番に回ったらしい大柄な男が

近寄ってきた。

「可哀想だのぅ、勘弁せいよ」

惨澹たる志乃の様子を見下ろしながら、男はつぶやくように言った。

「近いうちに、みんな陛下のために死ぬのじゃ。女の味も知らんでは

あまりにむごい」

岩の平らなところを選んで、雄太と思われる男に命じてボロボロのムシロを

敷かせると、志乃を抱き上げてその上に移す。

「おぬしも、健気な銃後の婦人だ。礼を言うぞ」

いまどきのひ弱な高校生とは、精神も肉体も違うのである。せいぜい

スポーツでしか、溢れ出る性欲をコントロールすることが出来ない時代

ではなかった。

ムシロのおかげで僅かに痛みがとれ、身体が楽になって、志乃は男の太いものを

受け入れながら、半眼をひらいて茫然と空を見上げた。

月が冴えているので、数はそれほど多く見えなかったが、波の上にきらめいて

いる星の向こうに死んだ父親の顔が浮かんでいた。

とうちゃんは、きっと褒めてくれる…

変態だった辰蔵のことだから、空の上から娘のこの状態を見れば、きっと

ほくそ笑んでいるに違いない。

先刻の海老反りが本当にイッたのかどうかわからないが、いくら腹の中を

突きまわされても、志乃にはもうそれに反応する感覚が残っていなかった。

海の中で大量に呑んだ潮が胃袋に溜まって、下から突き上げられるたびに

逆流して吐きそうになる。何とか耐えようとしたのだが、男の先端に子宮を

突かれたとたん、とうとう堪えきれなくなって、仰向いたままゲボッと口から

海水を噴いた。男はそれに気がつかなかったのか、腰を片腕抱きにすると

グイグイと股間にこすりり付ける。

志乃の小ぶりな身体は、男の下敷きになってほとんど見えなかった。

ただ、男の太腿の間から宙を蹴るように突き出た二本の足だけが、不規則な

リズムに乗ってヒクヒクと動いていた。

その動きが次第に速くなって、男がけものじみた唸り声をあげると、志乃は

身体の中で何かが急に大きくなったような気がした。

「う、うぅむっ、もういかん…」

ビクビクッと体内の肉塊が痙攣して、突然、腹の中が溢れたもので一杯になる。

それは海の水よりも濃く、全身が痺れたように重くなる男の精気の固まりで

あった。

「えらい、これでこそ大和撫子の手本じゃ」

志乃が始めから終わりまで悲鳴ひとつ上げなかったことが気に入った様子で、

存分に思いを遂げた男は、やがてゆっくりと体を起こすと上機嫌で言った。

「こらぁ、もう一人、雄太はおらんのかっ」

「はいっ、ここにおります」

「おぅお前、この女とやったことあるのか?」

「い、いえ、自分はまだ…」

「そうか、それじゃちょうど良い。お前もやれ」

えぇぇ…ッ

志乃の動くことが出来ない身体が、一瞬凍りついたように固くなった。




八、巣立ち 波千鳥


「せっかくだから許す。貴様、この大和撫子と交わってみろ」

「はっ」

そのときまで、感じることがなかった鳥肌が立つような恥ずかしさが志乃を

襲った。絶叫しようとしたのだが、やはり声にはならなかった。

雄ちゃんッ、いやァァ…

心の中で叫んだのだが、脚は濡れた岩の上に投げ出したままである。

「どうした。日本男児だろう」

「………」

「ぐずぐずするな、貴様、それでもちんぼに毛が生えているのかっ」

「はっ、では…」

「早くせい、時間が無いんだ」

誰かに背中を突かれたらしく、男の手がグスッと腹を圧し潰すようなかたちで

覆い被さってきた。

「ゲ、ェェッ」

反動で、胃袋から僅かな内容物と一緒に噴き上げた海水が、バシャッと

顔に落ちる。一瞬気が遠くなったが、ハッと思うまもなく、志乃は広げたままの

股間に異様な感触があるのを感じて凝然となった。

それは今までの男たちから与えられた重い固まりのような感覚とは違う、

ヌルヌルと粘性のある柔らかさである。

「おいおい、貴様何をやっているんだ」

ちょっと慌てたような、男の頓狂な声が聞こえた。

「俺がいま精を出したばっかりだ。そこは汚れとるぞ」

「………」

「このやろう、みっともない真似をするな。早く自分の道具を入れんかっ」

「い、いえ、自分は良いです。この女が汚れては可哀想ですから」

くぐもった声は、間違いなく雄太である。

その声を聞いたとたん、痺れたような志乃の全身がビクビクッと痙攣した。

「こらっ、男ともあろうものが、女の陰部を舐めるとは何事だっ」

「………」

「ちぇっもういい、おいみんな、撤退だっ」

半分テレ隠しのように、男の野太い怒鳴り声がしたが、その後のことは完全に

志乃の意識の中になかった。

失神していたのではない。いくら舐められたからと言っても、戦争で狂った

若者たちに犯された肉体に快感が生まれる筈もなかった。そのとき

志乃の血の中で沸騰していたのは、魂を切り裂かれるような雄太への

羞恥心のみである。

頭の中が真っ白になるほどの痛さがあれば、通常の羞かしさなら感じる余裕も

なくてすむが、苦痛から解放され、ヌルヌルとした舌の感触が穴の中に潜り込んで、

男たちが吐き捨てていった精液を吸い取られていることを思うと、志乃は魂まで

雄太に吸い取られていくような気がした。

五分、十分…、

ピクン、ピクンと不規則に筋肉を痙攣させながら、志乃のすべてが雄太のものに

なっていった。だがそれは支配者と従者の関係ではなく、身に添う影のような

つながりであったのかも知れない。

やがて、二の腕を掴んで上半身を引き起こされたとき、志乃はまだ茫然自失して

眼を宙に泳がせていた。

「服を着ろ。ここにあるぜ」

海で犯されている間に拾ってきたのか、雄太が一かたまりの布地を投げながら

言った。

「まんちょはキレイにしてやったから、ズロースを穿け」

「い、いいよ…」

礼を言うにしては、あまりにも激しい心の動揺であった。志乃は自分でも

不思議なほどぶっきらぼうに言って、気丈に立ちあがると歩き出そうとした。

「危ねぇっ」

よろめいて、岩に尻餅をつきそうになるのを雄太が支えた。

「歩けんのか、転ぶと怪我をするぜ」

「ダッ、だいじょうぶ。あたい、顔を洗ってくる」

志乃は一刻も早く、気力を取り戻したことを雄太に知って欲しかった。

顔や髪の毛が吐き出した潮水でベタベタになっている。雄太にそのことを

知られるのも恥かしかったのである。

這うようにして岩を降り、志乃は波打ち際に向かった。途中何回も足もとが

乱れて砂に片手をついたが、早く立ち直らなければと思う一心で、頭から

波をかぶったとき、ホッと気が楽になった。

早く雄ちゃんの女に戻りたい…

身体中に貼りついた男たちの汗や臭いを洗い落とそうとして、志乃は夢中で

顔を洗い、髪の毛を海に浮かべて、胸や腰の周りを手のひらでこすりまわした。

ゲッ、ゲェェッ…

胃袋に残っていた海水を吐いてしまうと、何故か身体が軽くなったような気がする。

手が自然に股間に触れると、ズキンと奥に響くような鈍痛があった。

でもここは、雄ちゃんが舐めてくれたところだ…

洗うのを止めて海岸に上がると、雄太が服を手に持って待っていた。

「着ろよ、裸じゃ戻れねぇ」

「うん」

ようやく乾いた布地を身につけると、思いのほか身体がシャンとなった。

それから岬を越えて歩き始めたのだが、関節が開いたままになっているようで、

一足歩くたびに脚がガニ股になった。こんなことは、父の辰蔵に初めて

犯された夜以来、二回目である。

雄太は、それきりほとんど口をきかなかった。

済まなかったでもないし、大丈夫かと心配してくれる様子もなかった。

ただ黙々と、三十分近くかかって砂浜を歩く。志乃の家の前まで来ると、

立ち止まって雄太がつぶやくように言った。

「おめぇ、今日は自分の家で寝ろ。おいらのカアちゃんにバレるとまずい」

「うん…」

やっぱり、あたいには魅力が無いのかと哀しかったが、志乃はうなずくより他に

なかった。

「雄ちゃん」

「なんだ」

「あたい、まだ身体がヘン…」

「どうして、気持ち良かったんじゃねぇのか?」

「うぅん、そんなことないよ。まだ平気」

それが志乃の精一杯の誘いだった。自然に顔が火照って、胸がドキドキと鳴った。

「ひと晩寝りゃ治るよ。そしたら泊りに来い」

「えッ」

「カァちゃんが、お志乃に話があると言ってた。働きぐちがあるんだって」

「………」

「でも今日のことは黙ってろ。バラすんじゃねぇぞ」

かすかな期待をはぐらかされて黙っていると、雄太はもう背中を見せて

歩き出していた。

雄ちゃん…

呼び戻そうとしたが、声にはならなかった。

家に入ると、志乃は敷き放しの煎餅布団に倒れこんで、そのまま身動きすることが

出来なかった。頭の中をクルクルと今日の情景が回転していた。

あの人たちは、きっと明日にも戦争にいって命を的に戦わなければならない

人たちに違いない。最後の思い出に、女の身体をもてなしの材料にされたことには

何の後悔もなかった。むしろ、こんな私で良かったのかとさえ思う。心残りなのは、

やはり雄太が何の関心も示してくれなかったことであった。

その物足りない気持ちを紛らわそうとして、志乃は何時ものように指をズロースの

中に入れた。近ごろは独りになると習慣のようになっているが、志乃が誰にも

知られたくない密かないたずらである。

ここを触っていると快感が生まれることを雄太に知られるのは、うんちをするところを

見られるよりも恥かしい。だから止めようと思うのだが、何故かその快感が気持ちを

落ち着けてくれる。独りになると、志乃は良く自分で性器を触った。

普通の娘だったら、もうとっくにオナニーとして自覚している筈だが、志乃には

それがなかった。誰が見ていなくても顔が赤くなるほど恥かしい行為をしている

ことが厭ましい。快感を持って生まれた自分の身体そのものが恥かしいのである。

だがその日は、粘膜が腫れあがっているせいか、クリトリスを揉んでもほとんど

感覚がなかった。

神経の麻痺がまだ続いていて、少しの刺激では反応しないのである。

あぁ、なんともない…

志乃は、何故かホッと救われたような気分になった。

雄ちゃんに、気持ち良くなっているところを見られずにすんだ…

戦争に行く若者たちに犯しまわされたことは少しも恥かしくなかった。それは

雄太の希望でもあり、大和撫子として彼らの役に立ったのだからそれで良い。

その後でまた自分の快楽を追い求めるような、淫らな女ではありたくなかった。

あたい、男の人の道具なんだから…

フッとそんな考えが頭をかすめた。

道具のくせに、気持ち良くなってしまうなんてとんでもない…

不自然で奇妙な論理なのだが、これが志乃の性欲の基調をなす部分だった。

機械的に指はクリトリスを揉みしだいていたが、志乃はそれだけで十分に

満たされていた。激しかった疲れに、いつか眼をつぶり、志乃は吸いこまれる

ように眠りの底に沈殿していった。

翌日もタップリと寝坊をして、眼が覚めて起きあがろうとしたのだが、身体の

節々が痛くて容易に動けなかった。どこかに錘をつけられているように

すうっと意識が自然に遠くなる。そんなことを何回も繰り返して、ようやく

布団から出たのはもう昼近くであった。

いけない…

ゆうべ、雄太が母親のおその後家が話があると言っていたことを思い出して、

志乃はあわてて新しい洋服を探した。それを口実にまた雄太に会えることが

嬉しい。

急いで水風呂に入って、海水でベタベタになった髪の毛を洗う。身体を見ると

あちこちにスリ傷があって、ところどころ皮膚が黒ずんでいた。髪を洗うとき

気がついたのだが、頭には瘤が二つ三つ出来ている。だが服を着てしまうと

肌の痣は何とか隠すことが出来そうであった。

困るのは股の関節がまだ普通に戻っていないことだ。腫れが残っているのか、

歩くときどうしてもガニ股になる。膝の屈伸運動をして確かめてみると、

粘膜にズキンズキンと心臓の鼓動が伝わって脈を打っていた。

それでも何とか仕度をととのえて、家を出たのが3時過ぎである。

「あぁ、お志乃かい」

開け放しになっている台所から声をかけると、奥から男のように太い返事が

聞こえた。

「お入り、ゆんべは雄太と一緒に何をやっていたんだ」

「えッ、なにも…」

「雄太も何も言わんし、二人とも乳繰り合うのはまだ早過ぎるよ」

「違うよ。あたい、雄ちゃんとそんなこと」

「そうなの? なら良いんだけど…」

よく脂ののった小太りの身体を上半身だけねじるように曲げて、おそのは

ジロリと睨むように志乃を見据えた。

「あんたねぇ、正直に言ってごらん。近ごろ、急に娘らしくなったね」

「………」

いったい何を言われるのか、志乃は一瞬呼吸を止めた。

「言ってごらん。お志乃、あんた、その様子じゃもう男を知ってるんじゃないのかい」

「え、え…」

「あたしの見た眼にゃ狂いはないよ。えッ、そうだろう?」

「ウ、ウン」

セックスの固まりのようなおその後家の前では、隠すことも嘘をつくことも出来ない。

オドオドと下を向いて、志乃はうなずくより他になかった。

「そうかいやっぱり、隅におけない子だねぇ」

でも雄ちゃんじゃないよ…!

志乃は心の中で叫んだ。雄ちゃんはあたいの中に出した先輩の精を飲んで、

キレイにしてくれただけだ。だがそんなことは、母親の前で説明できる話では

なかった。

「ならちょうど良い」

志乃の心配をよそに、おそのはさして疑う様子もなく、本当に雄太と何かあった

としても、叱りそうな気配も見せずに言った。

「あんた、そろそろ働いてみたらどうなの。うちもねぇ、いつまでも世話してやる

わけにもいかんし」

志乃は肩をすぼめて、いっそう小さくなってうつむいていた。別に恩に着せられて

いるわけではないが、このところ戦争の旗色が悪くなって、食糧事情が次第に

切迫してきたことも確かなのである。

「オバさんがね、ちょっと頼まれているところがあるんだ。楽な仕事だよ」

思いのほか上機嫌で、おそのは身体を乗り出すようにして言った。

「女なんだから、世の中に出るのは早いほうが良いんだ。行きな」

「ハイ…」

「あんたなら顔も悪くないし、その身体ならもう大丈夫だろう」

「あのう」

志乃はおそるおそる顔を上げた。

嫌とは言わせない話し方で、おそのは一人で納得しているのだが、いったい

どこで働けと言うのか。

「あたい働くけど、ど、どこで…」

「お多福っていう女郎屋なんだけど、いまどき、女郎屋なんて商売は

非国民のすることだからね。女を見つけるのが大変なんだってさ」

こともなげに言って、おそのは片頬に卑猥な笑みを浮かべた。

「若い娘はみんな動員でとられちまって、いい子がいたら世話してくれって

いう話だ。お志乃にはお誂え向きじゃないか。贅沢が出来るよ」



<つづく>もどる