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九、お多福楼


女郎屋というのがいったい何をするところなのか、言われなくても、志乃には

おぼろげながら理解することが出来た。

公娼が公然と営業を許されていた時代である。

そういえば、部落から一時間ほど汽車に乗っていった町にも、小さな遊郭が

あった。お多福と言うのは、きっとその中のひとつなのであろう。

女郎屋で働くことが女の身体で男の人を歓ばせてあげる仕事なのだ、と言う

ところまでは判るが、志乃はもちろん詳しい作法や、しきたりを知っている

わけではなかった。

「だいじょぶかなァ、あたい…」

志乃は、不安そうに眼を伏せるしかなかった。

昨夜、男たちに犯されてグシャグシャになった身体で、みんなに悦んで

貰えるんだろうかというのが、最初に頭に浮かんだ不安である。

かといって、昨夜のことを打ち明けて雄太の母親に相談できる話ではなかった。

志乃が黙っていると、それを嫌がっていると勘違いしたのか、おそのは

急に猫撫で声になって言った。

「志乃ちゃんは美人だからさ。良い着物着て、美味いもの食べて贅沢できる

なんて、ほんと、美人はトクだわねぇ」

「うそよ、あたいなんか」

「ほら、それがいけないんだよ。これからは町の娘になるんだから、あたいじゃ

なくて、あたし…」

「………」

「それから年のことなんだけどね。いいかい、決して15だなんて言っちゃ

駄目だよ。向こうに行ったら18才とお言い」

「えッ、18…?」

それは志乃にとって、まだはるかに遠い先の年令であるように思えた。

「そうさ、警察がうるさくて、女は18にならないと商売が出来ないんだ。

でもあんたなら十分にそれで通るから」

オドしたりスカしたりと言った感じで、おその後家に言いくるめられ、志乃は

いや応なしに承知するしかなかった。心にわだかまっている不安は結局

そのままである。

三日後の木曜日に一緒に町に連れて行かれることになって、おそのは

珍しく、いくらかの小銭と口紅を一本くれた。

「但馬屋にいって、それまでに似合いそうな服を買っておきな。なるべく

派手なのが良いよ」

「うん」

「うんじゃない、ハイというんだ」

但馬屋というのは、部落で一軒しかないよろず雑貨屋である。そんな服を

売っているかどうかも判らなかったが、志乃は嬉しかった。

町に行けば、雄ちゃんの先輩にも会えるかもしれない。あの人たちが

生きて戦争から帰ってきてくれたら、もう一度自由にされても良い、と志乃は

思った。

こうして志乃の旅立ちは、雄太にも相談できず、どこでどう手を回したのか、

おその後家の一存で決まったのである。

そして三日後…。

志乃は物ごころついて初めての汽車に乗った。

新しいブラウスとスカート、半分履きつぶしたような運動靴、口紅を濃いめに

引いて、どこか不釣合いな格好だったが、混み合った汽車の中では

誰もこの二人に注意を払うものはなかった。

「わかってるね、向こうに行ったら年を忘れるんじゃないよ」

人の背中に押されて揺られながら、おそのが耳に口を寄せてささやく。

「うん…、ハイ」

「それから、お多福の旦那はえらい人だから、いつもお父さんと呼ぶんだ」

「えッ…?」

瞬間、死んだ辰蔵の顔が目の裏をかすめた。

お父さんなどとよそ行きの言葉で呼んだことは一度もないが、あの太くて

逞しい肉の塊りは、今でも志乃の身体の奥に深く刻みつけられている。

「あんたの親代わりになってくれる人だからね、気に入られて可愛がって

もらえるようにせなあかんよ」

「はい」

まるで、砂漠の向こうの蜃気楼を見るような漠然とした気持ちだった。

これからお父さんと呼ばなければならない人がどんな人物であるのか、

見当もつかない。志乃はボンヤリと、流れて行く窓の外の景色を見つめた。

今まで見たこともない、海の見えないはるかな大地、遠くに巨大な山波が

かすんでいる。一時間の汽車の旅は、少女にとって、まったく別の世界に

さまよい出して行くような不安な長さに感じられた。

町の駅には急行も停まる。改札口を出ると、駅前の繁華街をおそのの

後ろについて横に曲がり、神社の境内を抜けてその裏手に出た。

昼間からあたりが暗いような、独特の匂いがする路地の両側に、

軒の低い二階建ての家が並んでいる。

いわゆる花柳街だが、戦争が激しくなった今ではひっそりと静まり返って

歩いている人の影もなかった。

「ここだよ、お待ち」

立ち止まった家は、お店だと聞いていたが表に看板もかかっていない。

大きなガラス戸が閉っていて、何を売っているのかも定かではなかった。

おそのが表の戸を開けて声をかける。すぐに手招きされて、志乃は

オズオズと中に入った。

「おおぅ、来たか。よう来た、待っとったぞ」

「ほら、そんなところで突っ立っていないで、こっちへおいで」

おそのに手首を掴まれて、志乃は引きずられるように男の前に立った。

「ふぅむ、若そうだのう。幾つだ」

男は上がり框にドテラの前をはだけて立っているのだが、恥かしくて

顔を見上げることが出来ない。声をかけられて口ごもっていると、

後ろからおそのが、しっかりしろ! と言わんばかりにドンと背中を

突いた。

「えぇあの、18才になったばっかりで、何せぇ田舎もんで返事の仕方も

知らんもんですけん…」

「まぁいい、年のことは聞かんでおこう」

おそのがしゃべりつづけようとするのを抑えて、男は低いがドスの利いた

声で言った。

「このご時世だ、一人前になった娘が遊んでいるわけもねぇ」

「へぇ、ごもっともです」

「この娘は、もう男を知っているのか? 本人は承知しているんだろうな」

「そ、それはもう、ふた親のいないみなし子でして、お世話していただければ

有難いと…、なぁお志乃、そうやろう」

「ハイ」

「うむ、まぁあがれ。ここでは話も出来ん」

男はくるりと背中を向けた。

後について次の間に行くと、周囲を太い格子の障子に囲まれた部屋で、

暗いせいか昼間から裸電球が点っていた。

真ん中にドンと長火鉢が置いてある。男がその前にあぐらをかいて座ると、

おそのは改めて両手をついてタタミに摺り付けるほど頭を下げた。

「お志乃ともうします。お気にいっていただけましたでっしゃろうか」

「ふむ、べっぴんだな」

「これッ、はよう頭をさげんか。おとうさんやでぇ」

あッ…

志乃は、とたんに身体中が固くなったような気がした。

この人が、おとうさん…?

辰蔵のように筋肉の塊りといった感じではなく、赤黒く太って脂ぎった顔の

見るからに怖ろしげな印象である。

挨拶の仕方がわからずオロオロしていると、男が笑いながら声をかけて

くれた。

「お志乃か、ええ名だ。トウちゃんもカアちゃんも死んだのかい」

「うん」

「そりゃ可哀想だが、女郎には親はいらん。身体は丈夫か?」

「うん…、ハイ」

それから、おその後家と二人で何かこみいった話になった。二十分ほど

つんぼ桟敷におかれて、志乃が手持ち無沙汰でいると、男が長火鉢の

引出しから古い封筒のような袋を出しながら言った。

「まぁそれで良かろう。仕込むには手間がかかりそうだが、玉は悪くない。

二百円出してやろう」

「へぇ、それはもう…」

袋を受け取って押しいただくと、おそのは大切そうに懐に入れた。それが

自分が売られた金であることを、志乃はそのとき知るよしもなかったのである。

「お志乃ちゃん、それじゃ元気で…」

用件が済むと、おその後家はそうそうに帰り支度を始めた。

「いいかい、おとうさんの言うことを良くきいて、迷惑をかけるんじゃないよ」

「はい」

おそのの姿が消えると、志乃は急に心細くなった。このだだっぴろい家には

おとうさんの他には誰もいる様子がなかった。これからいったいどう言う

暮らしになるのか、見当もつかない。

後になって判ったことだが、戦時体制の中で遊郭全体が廃業状態で、

わずか二・三軒がもぐり同然に営業を続けていたのだ。女は徴用でとられ

日本人の娼婦は将校用の慰安婦として戦場に送られていて、ほとんど

残っていなかったのである。

その一軒がお多福楼であった。

あるじの名前は太助といって、遊郭が盛んなころ、女たちからはたしかに

おとうさんと呼ばれていた。50代も半ばを過ぎた脂ぎった大男で、今では

元遊郭一帯の在郷軍人会の世話役をしている、と言うのが表の顔である。

お多福楼には身の回りの世話をするギンという名前の遺り手の婆さんが

住み込んでいたが、いつも台所にこもったきり、客が来てもお茶も出さない。

そんな家の中に、志乃はポツンと一人取り残された形になったのだった。

「志乃、お前に名前をつけてやろう」

おその後家が帰ってしまうと、太助はドテラの前をはだけたまま上機嫌で

言った。

「牡丹がいい、派手で色気があって…」

「はい」

「それじゃ牡丹、衣装を替えてみろ」

えッ…、と戸惑っていると、太助が奥からおギン婆さんを呼んで着物を

もってこいと言う。運ばれてきたのは、安手だが赤や黄色の模様が

けばけばしく染め出された振袖の和服である。

以前店で働いていた女郎が着ていたのだろうが、志乃にはものすごく高価で

見たこともない豪華なものに思えた。

「こんな、あたい…」

手に触わるのも勿体ないような気がして躊躇っていると、委細構わず、

太助が押しつけるように言った。

「いいから早よう着てみい。衣装代は一日三円だ。しっかり稼がんと

追いつかんぞ」

まだ一円、一銭といった単位が通用した時代、当時の三円は今で言えば

五千円くらいの代価に当たる。

「そんなん着ていたら商売にならんじゃろうが、早よう脱いでしまえ」

せっかく今日のために買ってもらった服なのにと思ったのだが、

おとうさんの言うことに逆らってはいけない。仕方なく、志乃は着ていた

新しいブラウスを頭から脱いだ。

洋服は新しかったが、ズロースまでは気がまわらず古いままである。

身が縮むほど恥かしかったが、それも脱げと言われて、志乃は何を

考える余裕もなく丸裸になった。

「おう、良く似合うぞ」

素肌に長襦袢と振袖をかぶせて、太助は満足そうに言った。

「乳も張っているし、毛もよう生やしとる。これなら年を咎められることも

あるまい」

男のゴツい手で撫でまわされ、息も止まるような思いでされるがままに

なっていると、ふと太助の手が止まった。

「何じゃこれは、あっちこっち痣だらけじゃねぇかい」

それを聞いたとたん、志乃はふうっと気が遠くなったような気がした。

たった四日ほど前、雄太の先輩という兵隊さんの卵たちから交代で

手当たり次第に輪姦されたとき、岩にぶつけて出来た傷跡である。

かなり回復してはいたが、あちこちに青い痣やかさぶたになって

残っていた。だが太助は、まさかそこまでは気がつかなかったようだ。

「ふぅん、漁師の娘じゃ仕様がねぇか」

独り言のように言って、手を下腹の毛の生え際あたりに伸ばす。

「この年で、男は何人知っているんだ。言ってみな」

「ひ、ひとり…」

志乃が初めて吐いた嘘であった。頭の中に、雄太の顔だけが点滅していた。

「けっ、一人じゃあ駄目だ。男の扱いがわからなくては女郎は勤まらんぞ」

いきなり肩口を掴まれ、ねじるように押し潰されてその場に腰を落とす。

「ちょっと、なかを見せろ」

尻餅をついた形で見上げると、はだけたドテラの間から、浴衣の裾が割れて、

白いふんどしからハミ出した図太く黒いものがぶら下がっている。

ギョッとして、志乃は思わず顔をそむけた。

「ここは商売道具だからな。よぅく慣らしておかなければいかん」

言いながら、無遠慮に腕を伸ばす。

「ん…?」

ぐいと股を開けて、太助はちょっと眉をひそめた。

「何じゃ、この引っかいたような痕は…、マスでも掻き過ぎたのと違うか」

胸がドキドキと鳴って、志乃は返事をすることが出来なかった。

あのことがバレるのではないかという不安と恥かしさで生きた心地も

しなかったのだが、太助は幸い志乃が思ったより淫乱な女だと勘違い

してくれたらしい。

「女郎になればマスを掻く癖はすぐに治るから心配ねぇが、道具は、

それほど荒れてもいねぇようだな」

指先で真ん中のコリコリしたところを摘んで弾く。その度に、ピリピリと

電気に打たれたような感覚が背筋を走った。

「ほう、感じるのかい。若いくせに、色気の強い娘じゃのう」

「ハッ恥かしい…」

ようやく、それだけ言葉が出た。志乃にとっては、自分の身体に快感が

あることを知られるのが一番恥かしいのだ。

「女はみんなこうなるんだ。恥かしがらんでもえぇ」

こともなげに言って、太助は言葉の調子を変えた。

「どりゃ、わしも久し振りだ。ひとつ若い娘の味でも試してみるか」

えッと聞き返すヒマもなかった。

帯を締めず、はだけたままの振袖を踏みつけられると、それだけで

身体を起こすことが出来ない。背中で波を打っている着物の感触に

身を任せて、志乃は眼をつぶった。

犯される、と言うことは判っていたが、おとうさんと呼ばなければ

ならない男の権力は絶対であろう。

あたいには断る権利も資格もないのだ…

というのが、瞬間的に志乃の身体が判断した行動である。




十、女郎教育


ペッ…!

まだそれほど膨らんでいない肉の土手を無骨な指で左右に開くと、

太助はさっきまでヒクヒクと感じていたクリトリスに顔を寄せて思いきり

唾を吐いた。

それから自分で男根を握ると亀頭の先で粘膜全体に塗りまわす。

志乃は眼をつぶっていたが、何か丸いものが圧しつけられたような

感じがして、続いてヌルッと男の肉塊が中に入ってきたことが判った。

以前のように子宮を突き上げられるような衝撃もなく、関節が外れそうに

なるほど股を広げる必要もなかった。ただ顔にかかる男の生臭い息が

気持ち悪くて、志乃はその度に呼吸を止めた。

「おぉ、こりゃあえぇ、えぇ道具じゃのぅ」

女の肉の感触を確かめるように、ゆっくり、ゆっくりと動かしながら、

片手で小さな蕾のような乳首を捏ねる。

「あぁ、ふッ」

突然、乳首に舌を巻きつけるようにきゅぅっと吸い上げられて、

志乃は思わず背骨を反らした。ビリビリッと頭の芯までひびく快感が

はしって、とたんにクリトリスが煮えたように熱くなった。

「ふっふっ、道具は子供じゃが、よう締めよるわい」

太助が愉快そうに笑った。

「これ、そう気張らんでもえぇ。ゆっくりとイカしてやるけん」

ひぇぇ…ッ

志乃は心の中で叫んだ。男の人に気持ち良くさせられる、志乃にとって

何よりも恥かしいことなのである。犯されるのはそれほど恥かしいとは

思わないのだが、そのために気持ち良くなってしまうところを見られるのは

耐えられなかった。

思わず何か口走ろうとしたとき、太助がズコッと男根を抜いた。かわりに、

太い二本の指をグシュグシュと卑猥な音を立てて捻じ込む。

「あッうぅん」

自然に腰が浮いて、志乃は激しく首を左右に振った。

「ここはな、女のツボや、どうだ気色がえぇじゃろうが」

いまで言えばGスポット、恥骨と子宮口の間の凹凸のある肉の固まりを

グリグリと捏ねまわされると、みるみるうちに尿道のまわりが熱くなって、

小便が洩れそうになる。

「あぅん、いやッ、いやァ」

志乃は夢中でこの奇妙な快感から逃れようとした。

「ふひ、ふひ、ふひひひ」

もがく様子が面白いのか、太助は卑猥な笑い声を上げながら言った。

「えぇか、女郎というもんはな、客の前で気持ち良くなって見せるのが

商売のコツや。それ、もっと跳ねてみい」

志乃が耐えようとすればするほど、指の動きが速くなる。

さすがに女郎屋の主人だけあって、自分の満足は後まわし、少女が

悶える様子を冷酷に観察して品定めしているのだった。

「こっちはどうだ、サネは小さいほうやな」

指を刺しこんだまま、親指の腹でクリトリスの表皮を剥きあげると、

ヌメリを絡ませるようにヌラヌラとしごく。

「あひッ、ひぃぃッ」

とうとうたまりかねて、志乃は悲鳴に近い呻き声を上げた。

内側と外側から激しい電流が同時に起って、全身の血管を伝わって

脳天に突きぬけて行く。それを繰り返されると、太腿の筋肉が反射的に

ビクビクと痙攣して踵が宙を蹴った。

「ほう、やっぱり感じとるんと違うか」

「くぇッ、いッ、いやァァ」

「ふむ、こりゃあえぇ。若いけん汁はいくらでも出る」

何を言われても、男に馴れていない志乃には自分で感覚をコントロール

することなど出来る筈がなかった。刺激を受けるたびに否応なしに

筋肉が反応して全身で跳ねる。神経の痺れがその一点に集中して、

今にも爆発しそうになったときであった。それを見極めたように太助が

ズルッと指を抜いた。

「ちょっと起きろ、着物が台無しじゃ」

眼を虚ろに開けて、志乃は男の顔を見上げた。このまま起きろと

言われても力が入らないのだ。

太助に腕を取られてようやく上半身を起こすと、志乃はふぅっと

溜息をついた。

「えぇから上に乗んな。わしの腹を跨げ」

ヨタヨタと立ちあがろうとして、志乃は慌てて前屈みになった。

クリトリスが異常に膨らんで、中からウジャウジャと蟻のようなものが

這い出してきそうな気がする。身震いするような刺激の感覚が

まだタップリと残っているのだった。

「何をしとるんじゃ、早よう来んかい」

着物の裾を気にして、オズオズと男の腹を跨ぐ。

眼の下に赤黒い男根が上を向いているのを見て中腰になっていると、

太助が下から腰を突き上げるように動かしながら言った。

「早ようせい、ビクビクしておらんと、自分で穴に入れてみい」

「こ、これを…?」

「そうよ、入れたら根元までしっかりと埋まるように腰を下ろせ」

「は、はい…」

志乃が熊のように濃い陰毛の中から突き出している肉の棒を摘んで、

こわごわ穴の入り口に当てると、下から太助がピクンピクンと動かして

みせた。

「どうじゃ、こんな太いもんがスッポリと入るんやで、ふっふっふ、女の

身体は便利に出来ているもんだのう」

グスグスと少し軋むような感じがしたが、少しずつ腰を落としてゆくと

案外楽に入ったのは志乃にも不思議だった。根元近くまで来たとき、

奥のほうで何かが押し上げられるような鈍痛があったが、耐えられない

ほどのものではなかった。

「おう、壷の入り口に当たるわ。これがまた千両じゃ」

「アッ、ハッ」

グン、グン…、と突き上げられると、その度に身体が浮いて空気をはらんだ

着物の裾がふわふわと舞った。

「ほれ、自分でやってみい。女郎は腰使いが上手くならなければいかん」

「ハッハッ、ふゥゥ…」

「バカそれじゃ抜けっちまうじゃねぇか。下手糞っ」

「ごッ、ごめん」

何とか真似をして身体を動かそうとするのだが、なかなか巧く行かない。

それよりも先刻嬲られたあとのクリトリスが痺れていて、太助の陰毛に

こすられるとたまらないのだ。自分で触るときよりも身体の芯にひびく。

クリトリス全体が、みるみるうちに充血してくるような感じである。

「うぅん、くッ、くッ…」

いつのまにか、志乃は恥かしさを忘れて、結合した部分を太助の陰毛に

擦りつけるような動きに変わっていた。

「よしその調子だ。もっと腰を回せ」

腰骨を掴んでぐりぐりと廻されると、全身に痺れるような血がまわって

身体中がカッと熱くなった。噴き上げてくる衝動をどうすることも出来ない。

「だめだッ、あ、あたい、おかしくなっちゃうッ」

「それをイクと言うんじゃ。辛抱せんかてえぇ、思いきり精を出してみい」

辰蔵は自分の精液を吐くために志乃を犯していたのだったが、太助の

違うところは、自分の欲望を満たすより女を絶頂に追い上げて、もがく

様子を確かめながらじわじわと責め苛むところにあった。

「アッ、ご、ごめん、くわァ…ッ」

とうとう、志乃は恥も外聞も忘れて悲痛な叫び声を上げた。

「それでえぇ、穴を絞めろ。イクときはイクと言えよ」

「あイクゥ、イク…ッ」

イクという言葉が自然に口から出た。独りでやっていたときにも何かが

イクと言った感じはあったが、言葉として志乃の口から出たのはこれが

初めてである。続いて、全身の皮膚が裏返しになって弾けたような

感覚の爆発が起った。

「うんッ、あッ、あッ」

子宮から快感が吐き出される度に、尻の肉がピクンピクンと収縮して

バネ仕掛けの人形のように男の腹の上で踊る。

「う、は、は、イキおったか、えぇ子じゃ、えぇ子じゃ」

やがて痙攣が鎮まって力が抜けた身体がグニャグニャになると、

太助は満足そうに志乃を放した。

「とても十五・六の娘とは思えんわい。お前は生まれつきの淫乱やな。

これなら店に出しても悦ばれるじゃろう」

グッタリと顔を伏せているのを、手首を掴んで勃起したままの男根を

握らせる。

「ほれ、これをしごいてみい」

「ふぇッ」

頭の中がまだジンジンと痺れていて、何をやっているのか自分でも

良くわからなかった。

「もっとしっかり擦らんかい。それじゃ出るものもよう出せんわ」

言われるままに、ズブズブに濡れて生暖かい肉の棒を握って、夢中で

手を動かす。

「どや、イッたとき、気持ち良かったろうが」

「ご、ごめんなさい、あたい…」

「恥かしがらんでもえぇ、女がイクのは当り前じゃ。だがな、間違ったら

あかんで」

仰向けになって男根を握らせたまま、太助は悠然とタバコに火をつけ

ながら言った。

「女郎ちゅうもんはなぁ、自分はどうなっても客が精を出すまでは

勤めは終らんのじゃ。えぇな」

「う、うん…」

「女郎は人間じゃねぇ、玩具だ。金で買われた身体だちゅうことを忘れるな」

「ハイ」

「それとも、女郎になるのは嫌いか?」

「うぅん、えッ、いいえ」

志乃は顔を真っ赤にして答えた。

あの感覚は、独りで触ったときにもあったことはあったのだが、今日ほど

激しいものではなかった。

それだけで、心が金縛りにあったような気がする。身体に潜んでいる

恥かしい感覚を暴き出されて見られてしまった以上、志乃はもうここから

逃げ出すことは出来ないと思った。

奇妙な発想だが、志乃が生まれながらに持っている思考回路の自然な

発動である。

「わかったら明日から客を取れ。股を広げるのを嫌がるんじゃねぇぞ」

「ハイ」

こんな会話とは裏腹に、早く精を出してもらいたいと思って一生懸命になって

男の肉塊をこするのだが、馴れない指の動きでは、太助の男根はビクとも

するものではなかった。

ゴリゴリと固くて、表面の皮だけが滑らかにすべる感触は嫌ではなかったが、

人間の身体にこんな固いところがあることが不思議でならない。手首がダルく

なるのを我慢して一心に動かしていると、まだるっこくなったのか、太助が

舌打ちしながら言った。

「ちぇっ下手糞やな。まぁえぇ、自然に覚えるじゃろ」

それからもう一度股を広げて、穴の絞めかたと力の入れ方を教えられ、

目の前に突きつけられた男根で男の道具の扱い方を事細かに説明された

あと、今度は太助が呼んだおギン婆さんに着物の着付けを習わねば

ならないことになった。当時の女郎はすべて和服で、腰巻の下は何も

穿いていない。ちょっとタヨリない感じだったが、おギン婆さんに腰巻を

付けてもらうと、志乃は急に大人になったような気がした。

「よかろう。うちの客はえらい人ばっかりだからな、礼儀正しくせんと

あかんぞ」

その晩も次の日も、化粧法から言葉の使い方、男の道具につける

サックの装着法まで、即席だが面倒な女郎屋のしきたりを次から次へと

教え込まれて、志乃はヘトヘトになった。男に抱かれて乱暴に犯されて

いるほうがよほど楽だ。

こうして出来あがった16歳の娼婦は、見てくれは人形のように可愛くて

派手だが、中味はまだ熟していないトマトのような未完成の玩具である。

食べても決して美味なものではないが、女郎の平均年令がだいたい

二十七八才、夜毎の荒淫で煮崩れたような女が多かった時代に、

志乃が髪の毛や全身から放つ独特の青臭い香気は、物好きな客に

とっては珍重される逸品であるとも言えた。

時の流れとはいえ、こんなところに目をつけた経営者の太助も、ただの

ねずみではなかったのであろう。

お多福楼といえば名前はチャチだが、そのころ町に駐屯していた連隊の

幹部に取り入って女を世話する。その見かえりに戦時下の商売を黙認

させて営業を続けるといった、いわば陸軍御用達の淫売宿だったのである。

その翌日…、

太助は電話口でペコペコと何度も頭を下げながら長話をしていた。

「へぇ、そりゃもう飛びっきりの上玉で、今夜が初見世ですから」

「ほうそんなにいけませんか、それでは本土決戦も近いですなぁ」

「アメリカの軍隊が上がってくりゃ、女は皆んなもって行かれますぜ。

いただいておくんなら今のうちで…」

「いや隊長さんは心配ありませんよ。何しろこんな田舎ですから、身を

隠すところはいくらでもありまさ」

「へい、じゃ今晩。首を洗ってお待ちさせておきますんで…。例の配給切符の

ほうはよろしくお願いします」

こんな言葉が途切れ途切れに志乃の耳にも届いた。自分の事を言われて

いると思うと緊張もするが、それ以上に日本が負け戦らしいのが気にかかる。

「おい、牡丹」

受話器を置くと太助は振り向いて、ちょっと怖い顔になって言った。

「お客さんのことは軍事機密だ。誰にも言っちゃならん。下手にしゃべったら

首が飛ぶぜ。いいな」

「はい、誰にも言いません」

「お前のからだがお国の役に立つのだ。しっかりと勤めにゃあかんぞ」

「はい」

機械的に返事をしたが、お国の役に立つと言われて、志乃はふとあの

若者たちの事を思い出していた。

あの人たちもお国のためだと言っていたけど、もう死んでしまったのだろうか…

そしてまた、次の男が身体の上に降りてくる…

と思うと、志乃は何故か敬虔な気持ちになった。

良い道具だと言ってくれたら嬉しい。あたいの穴で、いっぱい楽しんで

くれますように…

神棚に手を合わせて兵隊さん達の武運長久を祈りながら、志乃は

自分の身体がこの人達の捧げものになることに、一種の使命感のような

ものさえ感じていた。

<つづく>もどる