悪女繚乱






2・淫に溺れて


一、みぞれの国道

 横浜新道から新保土ヶ谷で右に折れると、三浦半島を縦断して久里浜に至る、

いわゆる横浜・横須賀道路に入る。

 高速道路といっても、その先がないので往来する車の数も限られていた。

一台の車が、かなりのスピードでこの道を疾駆していた。


運転しているのは陣内徹也、加奈子の新しいご主人様である。

その横で、加奈子はコートの襟で頬をおさえ、瞬きもせず前方を見詰めていた。

「やっぱ降ってきたぜ。もうすぐ春だって言うのによぅ」

呟くように言って、徹也がワイパーのスイッチを入れた。加奈子の目の前を黒い影が

スッスッと半円を描いて揺れる。ホテルを出るときから寒かったのだが、窓の外は

季節が逆戻りしたような霙だった。


夫が会社の都合で遅くなるというので、これがチャンスと電話をかけて、今日が

三回目の逢瀬である。徹也に逢えたのが午後の六時過ぎ、時間はそろそろ九時を

回っていた。


早く戻らなければ…

と心では思うのだが、横浜インターの近くにあるホテルで抱かれたあとの余韻が、

まだジンジンと身体の芯に燃え残っていた。

太腿を両腕で抱えられ、後ろから男根を突き刺したまま腰を使う。ぐいぐいと

煽られるたびに、絨毯に掌をついて前のめりになった腕が曲がった。

「でっかいケツだなぁ。肉が邪魔で、ちんぼが動かないよ」

「いやァ、ご免なさいッ」

「仕様がねぇな。それじゃお前、もうひとつの穴でやろうか、どうする?

「あぁァッ、ご主人様のお好きなように」

「ふぅん、やっぱり入れたいんだろ。えぇっどうなの?

「い、入れてください」

「どっちでやりたいんだ。おまんこか、ケツの穴か」

「えぇ、どっちでも…」

「お前に決めさせてやるから、はっきり言いな」

「お、お尻に…」

「そっかぁ、やっぱりマゾなんだなぁ」

「はい、ご主人様のためなら何でもします」

「それじゃケツあげて、自分で穴をひろげてみな」

「ムムゥ…」

そのままの姿勢で両手を後ろに回し、加奈子は自分で尻たぶの肉を左右に開く。

絨毯に頬が擦れて、乳房がグニグニと歪んだ。

「お前、旦那の前でいつもそんな格好しているのかよ」

徹也が面白そうに言った。こともなげに骨盤の骨を持ち上げると、尻の穴が

見事に天井を向く。

「チッ違いますゥ」

「まぁいいや、いくらなんでもこんな犬みたいな格好は旦那には見せられねぇだろう」

言いながら真ん中の膨らみに亀頭を当てると、徹也は容赦なく体重をかけた。

「うげェェ…」

「痛いの?

「い、いえ、気ッ持ちいいですッ」

いつもなら入口が裂けて多少の出血を見るのだが、グスッと根元まで入った。

いまにも先端が口から飛び出してきそうな錯覚で、加奈子は眼をカッと開けた。

「よし歩け、潰れるんじゃねぇぞ」

グン…、と一突きされると、よろめきながら肘を張って絨毯の上をヨタヨタと動く。

尻の穴に嵌めた男根の付け根で女を操る勃起力は相当なものであった。

肩の関節が抜けそうになって、加奈子が力尽きると、いきり立った男根を

突きつけて徹也が言った。

「綺麗に舐めな、汚れがついた」

「はッはいッ」

仁王立ちになった男の腰に縋るように、加奈子は唇を寄せた。汚いとか

不浄だといった感覚はなかった。


私はご主人様の遊び道具なんだから…

赤黒い肉棒の根元から、睾丸の袋の裏側まで、顎の骨が外れそうになるほど

舐めて、加奈子はホッと息をついた。

「よし、ついでにオシッコも飲みな。こぼすんじゃないよ」

「ウグ、ウグゥゥ」

突然ジョオォッと生暖かいものが直接咽喉の奥に流れ込んでくる。噎せかえり

そうになって、加奈子は夢中で顎を上下させた。

「さてっと、そろそろ出るぜ」

溜まっていた小便を女の胃袋に吐き出してしまうと、徹也はいかにもサッパリとした

調子で言った。



       二、淫乱ドライブ

「えッ、それじゃ仕度を…」

「服なんか着なくても良い。車は寒くないからそのままで行こう」

そういえば、ご主人様はまだ射精していない。まだ何かある…

チラッと、そんな不安が加奈子の胸をかすめた。

髪の毛はバラバラ、化粧は剥げてほとんど素顔である。女がこのまま

外に出るのはかなりの勇気が要った。


結局、洋服を着ることも許されず、加奈子は素っ裸にコート一枚羽織って

部屋を出た。


途中でアベックとすれ違わないように、それだけを祈りながら、徹也の後ろから

すり抜けるようにレジを通って、加奈子は車を停めてある駐車場に走った。


その後ろから徹也がゆっくりと歩いてきて、先にドアを開けて車の中に入る。

早く、早く…!

地団太を踏むような思いで、加奈子はワザとらしいご主人様の緩慢な動作を

見つめた。


ようやく助手席側のドアが開いて、加奈子が身体を丸めてなかに潜り込むまで、

時間にすれば僅かに一分足らずであったろうが、この間の気持ちの焦りといったら

なかった。


車が走り出したとき、加奈子はふと、こんなところにもご主人様のサディストとしての

奇妙な才能が働いているのだと思った。ちょうど蜘蛛の網にかかった蝶のように、

女が逃げたくても逃げることができない魔力なのである。


まもなく三月になろうというのに、今日の風は肌に沁みこむように冷たい。

だが身体の芯に残っている蕩けるような快感の余韻が、寒さをほとんど

感じさせなかった。


徹也が黙っているので、行き先はどこになるのか判らない。どうやら自宅とは

反対の方向にむかって走っているようであった。


仕事で遅くなるとはいっても、夫のほうが先に帰っていたらどうしよう…。

そのときはそのとき、浮気がバレて離婚されるならそれでも良い、加奈子は

覚悟を決めた。


こうして、みぞれの国道を突っ走っていると、夢の中で宇宙船に乗ってご主人様と

二人だけの世界に旅をしているような気がする。


ホテルでは何回イカされたかも覚えていないが、三十女の性欲はいくら絞っても

枯れることはなかった。

「黙っていないで、オナニーでもしてろよ」

チラリと目尻でご主人様の横顔をうかがって、加奈子は右手をコートの中に入れた。

その下は直接覆うもののない素肌である。

「アゥ…」

車のスピードにのって、加奈子は軽い呻き声を上げた。

徹也に言われて自分で自分の股ぐらをまさぐっていると、いつか自然にジットリとした

湿り気が滲み出してくる。

「相変わらず淫乱なんだね」

加奈子の状態を見透かしたように、徹也がハンドルを握ったまま言った。

「こうやると、クリが感じるんだろ」

腕を伸ばして、手加減もせず剥き出しの乳首を摘む。

「ムヒィッ」

「コートを脱ぎな。そんなもん着てたってしょうがねぇ」

「はい」

袖を抜いて肩から襟を落とすと、照明のない狭い車内に真っ白な女の肌が

浮かび上がった。滑らかな曲線を、対向する車のヘッドライトが一瞬キラッと

照らして消えてゆく。

「シートを倒して、脚を上にあげろ」

無言でシートを操作するとガクンと倒れた背もたれに仰向けになって、加奈子は

八の字になった脚をフロントにピンと伸ばした。
 

徹也の指が、無言で盛り上がった恥骨の膨らみを掴む。毛を剃っているので

肉を直接絞られるような感じで、指が二本、ネットリと湿った割れ目の中に入った。

「ウィィッ」

「あんまり暴れるなよ」 

指の腹でクリトリスをしごかれて、加奈子が座席から跳ねるように身を捩ると、

徹也が平然として言った。

「事故ったらおしまいだぜ。百二十キロは出ている」

車が走っているということは判るのだが、

スピード感はまるでなかった。加奈子はただ身体の芯を抉られる強烈な刺激に

歯を食いしばり、ともすればバネのように痙攣して勝手に踊りだす関節を

抑えるのに必死である。

「またイクか、ほれっ」

突然、徹也がジュボッと音を立てて指を抜いた。

「ウェッ、エェェッ」

 たまらず、加奈子は全身をビンビンと二度三度伸縮させた。



三、繋がれた牝犬

それでも狭いボックスの中で無意識に身体を動かして、運転を危険にさらしては

いけないと必死に堪えようとするのだが、そんなことには一向に構う様子もなく、

徹也はまた恥骨の奥深くに指を入れた。

「うわわ、ごッご主人さまッ」

抉っては激しく引き抜く、それを繰り返されると、自分の意思とは別のところで、

感覚が耐えられないほどの絶頂に導かれてしまうのである。

それと、もうひとつ…、

加奈子は先刻から、口に出せない衝動に苛まれていた。ホテルに入って裸にされてから

2時間あまり、その前に家を出たときからずっと、加奈子は一度も排泄をしていない

のである。


責められている間は無我夢中で、トイレなどと言っている余裕もなかった。

あのときゲップが出るほど飲まされた徹也の小便がようやく全身を一巡して、

今になって膀胱に戻ってきたのだ。

「トッ、トイレに」

とうとう堪りかねて、加奈子は訴えるように言った。

「出、出ちゃうんですッ、これ以上イクと、洩れちゃうゥ」

「なにぃ?

指先の動きを止めて、徹也が言った。

「冗談じゃねぇ。こんなところで潮吹かれてたまるか」

クリトリスを弄ぶのはやめたが、それからまたしばらく走って、急に車のスピードが

落ちた。外が見えないので、どこを走ったのか判らなかったが、どうやら逗子の先

あたりではないかと加奈子には思えた。

「着いたぜ、ここなら良いや。コート脱いで車から降りな」

倒したシートから身体を起こして外を見ると、小さなパーキングエリアで、あたりは

薄明るく照らされてはいたが、売店の灯も消えて客のいない自動販売機が並んでいる。

数台のトラックがその辺りに停まって仮眠を取っていた。

ドアを開けると意外に風が強い。火照った肌に、冷え切った霙の粒がいきなり

斜めに降りかかってきた。

「その格好で、トイレまで行くのは無理だろう。そこの隅っこでやりな」

「え、えッ」

 トイレは販売機のすぐ横にあるのだが、距離にして百メートル近くあった。それに、

その前に停まっている大型トラックの運転手が眠っているという保証はどこにもないのだ。

どうしよう、歩いてはとても行けない…

素裸で立ち竦んでいると、トランクから細いロープの束を出して徹也が呼んだ。

「こっちへ来いよ、面白いことしてやる」

振り返ると、ちょうど車の陰になる反対側が、高い金網のフェンスで囲まれた

境界になっていた。その向こうを、小さなパーキングエリアを無視して先を急ぐ車の

ヘッドライトが絶え間なく流れている。

手首を掴まれて、加奈子はよろめきながらフェンスに身体を寄せた。

ご主人様なら見られても仕方がない…

思い切ってその場にしゃがみ込もうとしたとき、輪にしたロープを右の手首に

引っ掛けて、徹也が金網のフェンスに通した先端をグイと引いた。

「ギャァッ」

腋の下を露出して、片腕を高々と頭上に吊り上げられたまま加奈子は一回転した。

「ほら、もうひとつこっちもだ」

同じように左の手首にも縄がかかった。

「うわわ、たッ助けて…」

 正面を向いて、バンザイの姿勢でフェンスに貼り付けられた形である。

「そのままで小便出してみな。しっかりと前に飛ばせよ」

高速を飛ばしてくる車のライトが、一瞬だが、ギラッと加奈子の裸身を照らし出してゆく。

霙に濡れた白い肌が、そのたびに微妙に光った。

 ジョッ、ジョジョジョ…ォッ

そのとき意外に太い一本の水流が、ほとんど真下に向かって噴出した。靴は

履いているのだが、足元で激しい水しぶきを上げる。


偶然に通り過ぎるドライバーたちにこの姿を見られているのか、もし気づかれたとしても、

彼らがここに戻ってくることはできない。
みるみるうちに膀胱の緊張が解けてゆくのを

感じながら、加奈子は恍惚とした一種の陶酔に陥っていた。

「よしここでやろう。もっと脚ひろげて、おまんこをこっちに向けな」

「ごッご主人様ァ、やって、イカせて…」

もう誰に見られても良い…

靴の踵を金網にかけて腰を落とすと、加奈子は半分宙吊りのまま

ガバッと膝を開けた。




 

<つづく>  <もどる>