3・窓に映る淫火 中央線、夜のラッシュアワーといえば十時を回ってからである。 遠距離用の通勤快速が終りに近くなると、それまでどこで飲んでいたのか、 その夜、加奈子はそんな電車の片隅に、酒臭い息に囲まれて身を固くしていた。 今日もまたご主人様に呼びつけられて、日暮里のホテルでさんざんイキまくった 痴漢だ… いやよ、みっともないじゃない… 理性ではそう思うのだが、心のどこかで痴漢に手を出されている自分が嬉しかった。 痴漢が眼をつけてくるというのは、それなりに女の匂いがしている証拠なのだし、 私にも、まだこんな色気があるんだわ… 腫れ上がった尻たぶの肉を撫でられると、何故か加奈子は笑いがこみ上げてきた。 這い回る指の感触に任せていると、内腿から股の付け根まで来た痴漢の動きが あ、いけない… はっと思い当たって、加奈子は反射的にキュッと股を締めた。ご主人様に逢うときは 考えがそこまで進むと、加奈子は反対に開き直ったような気持ちになった。 いまさら騒いでみたって痴漢と一緒に自分も恥をかくだけだ。いっそのこと、 電車はようやく新宿に近づいていた。 客の乗降が激しいので、駅に着くと加奈子は痴漢に押されて反対側のドアの横に 「ねぇ、どこまで行くの?」 電車が動き出すと、男が耳元に息を吹きかけるようにして言った。 「パンティ穿いてねぇじゃないか、どうかしたの?」 少しアルコールの匂いがしたが、感じではごく普通のサラリーマンである。 「………」 黙っていたが、加奈子の心にふと奇妙な衝動が起った。 ほんの少し腰を動かしてやると、男の手が前に伸びやすくなる。 とたんに、ギョッとして戸惑ったような痴漢の顔、触れたのは、ツルツルに陰毛を 二、公園裏の冒険 三鷹で電車を降りて、男と女が肩を並べて歩いていた。 このあたりに気の利いたラブホなど、ある筈もない。あったとしても、加奈子は 何となくその気になって、一緒に電車を降りてしまったのだが、結末をどうつけたら 「ねぇ、どうするつもりなの」 「いや、僕は別に…」 「お住まいは、この近くなんですか」 「駅の反対側です」 だったら早くそう言えば良いのに… ご主人様に抱かれた後の気だるい身体は、ここまで来てわざわざ家から遠く離れる このまま家まで着いてしまったらどうしよう…、と加奈子は焦った。 「君んちはアパートかマンションじゃないの?」 男はそれを当てにしているようであった。 「そんなこと駄目よ、私は母と一緒だから…」 すぐ前の道を曲がれば我が家である。いくらなんでも痴漢に自宅を教えるほど 「ねぇちょっと、こっちに来て…」 そこは、住宅街のせまい空き地を利用した児童公園である。昼間は子供をつれた 児童公園といってもブランコも滑り台もない、粗末なベンチと砂か土か判らない砂場が 「ここで良いでしょ。あたしが気をイカせてあげるから…」 「ちょっと待ってよ」 ためらうと言うよりたしなめるような調子で男が言った。 「人が来たらどうすんの。かえって丸見えじゃねぇか」 言われてみると、交差した道に面した空き地は四方から筒抜けで、身を隠す場所はなかった。 加奈子は男の手をとって強引に公園の中に入った。出来るだけ隅のほうに行けば、 「待ちな、こっちへ来いよ」 危ないことは承知の痴漢常習者である。覚悟を決めると男は急に大胆になった。 電話ボックスより大きくてゴツイ感じのコンクリート造りで、内部はむき出しの 「うわぁ、臭い」 ドアを開けたとたん、加奈子は悲鳴に近い声を上げた。 「いやよぅ、穢いわ。汚れている…」 便器にこびりついた独特の異臭が鼻を突いて、思わず噎せ返りそうになる。 「ちぇっ、仕様がねぇ、外でやろう」 臭いから逃げるようにコンクリートの後ろに回ると、そこはさすがに街灯の照明からも 「君、スカートの中、見せてよ」 「見たいの? どうして…?」 「だってさ、毛が無かったじゃねぇか。何故なんだよ」 「ウフフ」 発情してくると人間が変ってしまうのが加奈子の体質である。ご主人様の徹也に トイレの蔭にしゃがむと、男は短いスカートを両手で上げた。太くてタップリと 「凄んげぇなぁ、剃っているんだ」 「そんなに珍しい?」 「うん、初めて見たよ」 立ったまま、加奈子は軽く脚を広げた。 「舐めてもいいかい」 「いいわよ。早く、人が来ないうちに…」 頭髪を下から擦り上げるように、男の顎が股の間に割り込んで、加奈子はヨタヨタと 三、軒先の情事 身体を支えるところは、トイレの壁しかなかった。先刻からの不潔感で、加奈子はようやく クリトリスが下についているのか、男がしきりと鼻で腰全体を持ち上げようとする。 「あぁうむ、きッ気持ち良い…ッ」 股縄でまだ腫れているクリトリスに、ヂンヂンと響く。ご近所の誰かに見られたらという 「ねぇッ、も、もう我慢できない」 5分もしないうちに、加奈子は男の髪の毛を掴んで激しく左右に振った。 「あんた、ヤリたくないの? ねぇねぇ、私の中に入れてぇ」 「どうすんだよ、どうやってヤルんだ」 そのとき、いつの間にか近づいてきた勤め帰りらしい中年の男が、すぐ横の道を 「こっちへ来て、良いとこあるから…」 こうなると女のほうが積極的であった。加奈子にはもう前後の見境がなかった。 ここまで来て安全な場所と言えば、我が家しかないのだ。スカートが捲れて太腿が あ… 家の前まで来て、加奈子は唇をかんだ。 「ここ…、ここなら見えないわよ」 「大丈夫なのかよ。こんな、人の家の庭に入り込んで…」 男が小声で囁く。ここが女の家であることには気がついていないのだった。 「いい、絶対に声を出しちゃ駄目よ」 「判ってる」 石の門柱に圧しつけるように男がのしかかってきた。ズボンを膝の下までおろすと、 「クッ、クッ、クゥゥ…ッ」 男のゴツい指が、クリトリスを捻じるように揉んだ。 角度をあわせて男根を挿入したが、不安定な姿勢でなかなか思うように動かない。 声を出して家の中の夫に気づかれたらそれで終りだ。そのスリルがまた、いっそう 「うぅぅむッ」 ご主人さまとイキ狂ってきた肉体のどこにこれだけの快感が残っていたのか、 グスッと異様な音を立てて、嵌まっていた男根が抜ける。ほとんど反射的に、加奈子は 「ウグッ、グフッ…」 あっと思うまもなく、生臭い味と臭いが口の中いっぱいに広がる。 「に、逃げてッ、誰も来ないうちに…」 精液を嚥みこんでしまうと、加奈子は呻くように言った。 「また逢おうぜ。今度はいつが良い?」 「だ、駄目よ、人が来るッ」
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