悪女繚乱






4・飾り窓の戯画



一、裸女のいる風景

都心から一時間、国道十六号線を越えるとまわりの風景が明らかに変化を見せる。

整備された道幅だけが広く、新式の照明に鮮やかに浮かび上がっているのだが、

その両側はまだ農村である。中古自動車の展示場があったり、ガソリンスタンドが

あったり、時として場違いに派手なネオンを灯したパチンコ屋があったりするのだが、

全体はもうシンとして寝静まっていた。

加奈子はその道路横に車を停めて、先刻からジッと前方の店の明かりを見詰めていた。 

ここに車を停めたのが十二時ちょっと前だから、かれこれ三十分以上動こうとしない。


店と言うのは、郊外に良くあるファミリーレストラン、それも良く見る大手の

チェーン店ではなく、小規模な焼肉専門のドライブインである。

表の看板のネオンはもう消えていたが、窓越しに見える店内にはまだ明かりが

点いていて、時おり人影が動くのが微かに判る。

客の姿はなかった。つまり、店は営業を終わって一日の後片付けをしているのである。

もうすぐだわ…

と思うと、急に胸がドキドキと鳴りはじめた。二週間ぶりに恋しい男を求めて

身体中の血が熱くなる。

夫の勝彦が泊り勤務の夜を狙って幼い子供を寝かしつけ、大急ぎでシャワーを

浴びて郊外のご主人様の仕事場まで車を飛ばすのは、かりそめにも人妻の加奈子にとって

極めて危険な冒険であった。それでも来ずにはいられないのは、それがマゾ牝加奈子の

本性だからなのであろう。

やがて、従業員専用らしい裏口の扉が開いて、男と女が下りてきた。

眼をこらしていると、男が駐車場の隅に置いてあったバイクの後ろに女を乗せて、

タタタタタと軽い音を響かせて走り去っていった。

加奈子の携帯電話に着信があったのはその直後である。

「ハイッ、わたしです」

「もう着いているの?」

「えぇ、ついさっき…」

「言っておいたとおりの格好で来れたのか」

「はい」

「それじゃ、車を駐車場に入れな」

「もう、大丈夫なんですか」

「駐車場に入れたら、そのまま店に入れ」

「えッ、えぇッ」

それきり、電話が切れた。

店にいるのは、ご主人様の徹也が一人だけだ。従業員を帰してしまった後の、

人気のなくなった郊外のレストラン。徹也の仕事場を見るのは加奈子も初めてであった。

エンジンを切っていたので、車の中は冷え切っていた。徹也に言われたとおり、

薄いコートの下には何もつけていない。

これで良く一時間以上も車を走らせてきたものだと思うが、事故と交通違反さえ

起こさなければ、どうということはなかった。だがこれから車を駐車場に入れて、

先ほど従業員が降りてきた階段を昇って店の中に入るまでの五十メートルは必死である。

駐車場には、見慣れたご主人様の車が店から一番はなれた場所にポツンと置かれて

あるだけで、ほかには一台も停まっていない。こうなると意外に広いスペースである。


その横に車を停めると、エンジンを切りサイドブレーキを引いて、加奈子はゆっくりと

肩からコートを脱いだ。

深夜とはいえ、街道筋の車の往来は頻繁である。グズグズしていると、裸で空き地を

駆ける姿を見咎められないという保障はどこにもないのだ。加奈子にとって、近くに

見える窓の明かりが唯一の拠りどころだった。

何も考えずに、車のドアを開ける。冷えた夜の空気が裸の全身に触れた。

スルリと車から出ると、正面からヘッドライトの光が猛スピードで近づいてくる。

一瞬その場に竦みそうになったが、手に持ったキーですばやくドアを閉めると、

加奈子は夢中で階段に向かって走った。

わずか数秒の間だったが、階段に取りつくまでの距離の長かったこと、加奈子が

駆け上がると、鉄製の狭い階段がカンカンカン…、と意外に大きな音を立てた。

「ご主人さま…ッ」

思わず声を出して入り口の取っ手を握る。無造作に手前に引こうとしたのだが、

カシャカシャと空しい音がするだけで明らかに鍵がかかっていた。これは思っても

いなかったことだ。

「ごッご主人さま、私ッ、私です…ッ」

立往生している加奈子の横を、猛烈なスピードで車が二・三台走り抜けていった。

ようやく内側から鍵を開ける音が聞こえたのは、それから暫く経って、加奈子が

ヘタヘタと扉の前に崩れ落ちたときであった。



    二、厨房の細い溝


「何だよ、遅かったじゃないか」

遅かったどころではない。一時間も待ち続けてようやく辿り着いた入り口である。

加奈子は両手を伸ばすと、無言で徹也のズボンにしがみついた。

「こんなところで、誰かに見られたらどうするんだ。中に入れ」

髪の毛を掴んで引かれると、よろめくように上りかまちに膝をつく。そこはタイルも

張ってないザラ目のコンクリートだった。

それでも必死に両手で腰を抱いていると、ドアを閉めて立ったままの姿勢で徹也が言った。

「どうしたのそんな格好して、もう舐めたいのかい」

「は、はい…」

「すっけべぇだなぁ。こんなことをするために、わざわざ車飛ばして来たのかよ」

「そうなんです。ご主人さま…」

「それじゃあここで舐めな。素っ裸でも誰も来ねぇよ」

震える指で、男のズボンのファスナーを探す。それを見下ろしながら、徹也は

別に発情した様子も見せなかった。

重なり合った布を掻き分けて中からようやく膨らみかけた肉塊を掘り出すと、加奈子は

餌を与えられた牝犬のように、頬一杯に口に含んだ。

「ウゥゥ…」

口の中でグッグッとボリュームを増してくる感触がたまらないのだ。加奈子は素肌が

総毛立つような快感の戦慄に呻き声をあげた。

コンクリートに直接擦れる膝がビリビリと痛い。姿勢を変えてしゃがみ込んだ形になると、

今度は足首が痺れて感覚がなくなってしまった。


徹也が腰を突くと、先端がモロに咽喉仏の奥まで届く。

 ゲフ、ゲフ…ッ

唇の端から、涎が糸を引いて剥き出しの乳房の上に垂れた。

「お、お願いです…」

やっとの思いで男根を吐き出すと、濡れた肉棒に頬ずりしながら、加奈子は

甘えた声を出した。

「あの…、お、おトイレに…」

「なにぃ?」

「さっきからずっと、我慢していたんですけど、もう苦しくて…」

家を出るときからコート一枚の裸である。途中で用を足すわけにも行かず、生理的な

欲求はもう限界に来ていた。

「ちっ、しょんべんかよ」

「すいません、おトイレを貸して…」

無人の店内には、もちろん客用のトイレがある筈であった。

十分以上も中腰でしゃぶっていたので、力を入れないと立ち上がることが出来ない。

加奈子はヨタヨタと膝を伸ばした。

「それじゃ靴を脱いで、こっちに来な」

えッ…

と思ったのだが、素っ裸にハイヒールだけ履いているのも可笑しなものだ。

それにいくら人がいないといっても、神聖なご主人さまの仕事場に土足で

入ったのでは申し訳がないという気持ちもあった。

言われたとおり、出入口の扉の前に靴を脱いで裸足になると、徹也が乳首を

捩じるようにグイと摘んだ。

「アヒイッ」

「こっちだ。狭いから滑らないように気をつけな」

脳天が痺れるような痛みに耐えて、牽かれるままに奥に入ると、そこは加奈子が

初めて見るレストランの厨房であった。

大きな冷蔵庫が二つ、調理用のレンジと皿洗いの水槽が並んでいる。一日の仕事を

終えて先刻帰っていった従業員が水を流して洗ったのか、コンクリートのタタキが

ビショビショに濡れて小さな水溜りが出来ていた。

「ここでやんな。こっち向いて、溝を跨ぐんだ」

見ると、調理台の横から冷蔵庫の下に直接水を流して清掃できるように、二十センチほどの

幅で下水に繋がった溝が切ってある。

「は、はい…」

 立ち竦んだように、加奈子は息を止めた。

「早くやれ。もう遅いんだ、グズグズしてるんじゃねぇよ」

こうなったら裸足で溝を跨ぐより他になかった。片手を冷蔵庫で支えて腰を落とす。

家を出る前に剃ってきた陰裂の襞がパクッと開くのがわかった。

「も、申し訳けありません」

ご主人さまが働いている仕事場で、おしっこなんて…

緊張しているせいか、溜まっている筈なのになかなか出てこない。始めはポタポタと、

だがやがてジョオォォッと激しい音を立てて水流が迸ってきた。




    三、窓越しの構図


「おうおう、すんげぇ量だな」

正面で見ていた徹也が面白そうに言った。

「お前、ふつうより膀胱がでかいんじゃねぇのか?」

何を言われても、徹也の前では家畜同然の玩具である。加奈子は子供のように

無邪気な笑みを浮かべた。

「はい、ご主人さまの奴隷ですから…」

「そうか、いつも俺の小便を呑んでいるからそのせいかな」

「はい、きっとそうです」

「それじゃ今夜も呑むか?」

「あッ下さい。お願いしますぅ」

 しゃがんだまま顔だけ上に向けて、加奈子は口を開けた。その唇に亀頭を乗せると、

徹也が軽くいきみをかける。すぐにシュゥッと微かな音がして、口の中一杯に小便の泡が

溜まった。もう少しで溢れそうというところで、たくみに排泄の流れを止める。

ゴクッと咽喉仏を上下させて、加奈子はそれをいっぺんに呑んだ。今では慣れて出来るように

なったが、始めのころは噎せかえって霧を吹いたり、呑み込むのが遅くて眼や鼻の穴にまで

小便を浴びたこともあった。

ひと息に嚥み下してすぐに口を開ける。そこにまたシュゥゥッと次の噴流が

注ぎ込まれて泡を立てた。それが三回続いて、四度目に男根をしごきながら徹也が言った。

「もう終わりだ。お前ほどは出ないよ」

「はい、有難うございました…」

加奈子は、胃袋が一杯になって小便のゲップが出そうになるのを堪えながら言った。

「嬉しいです、ご主人さまが私の身体の中に入って…」

どういう経路をたどるのか判らないが、徹也の排泄物が自分の肉体を通過して出てゆくのが

たまらなく嬉しい。加奈子は冷蔵庫で支えていた手に力を入れて、よろよろと立ち上がった。

「こっちに来い、ハメてやるよ」

「はいッ」

思わず声が弾んだ。導かれるままに湿った厨房を出て、カウンターの横を抜けると

客席である。ガランとして人気のない客席は明るくて眩しいくらいだった。

おそらく、外から見れば窓越しに裸の女がチラチラと動いていることはスグに

わかったことだろう。考えただけでも、普通ではちょっとありえない奇妙な光景であった。

「さてっと、今日はどっちに入れて欲しいんだ?」

脱いだズボンを客席のテーブルの上に放りながら、徹也はこともなげに言った。こんなとき、

ご主人さまは意外に大胆なのである。

「どっちなんだよ。後か前か」

「あの、う、後のほうへ…」

「相変わらず、好っきなんだねぇ」

 笑いながら、片手に握った男根をブルンブルンと上下に振って見せる。

「むこうを向いて、ケツをこっちに出しな」

「えッ、はい…」

「そこのテーブルだよ。後で拭いておけばわかりゃしねぇから」

 むこうというのは道路側である。テーブルに上半身を伏せて腰を立てれば、

裸の身体は隠れるのだが、顔だけがモロに窓の外を覗いている形になった。

「こ、こうですか」

「もっとケツを上げろ。それじゃハメられねぇよ」

「はい…」

三十女のタップリと脂肪がのった尻タブを掴むと、徹也がグイと左右に広げた。

「うぐ、ぐうぅ…」

思わず加奈子が呻き声をあげる。

割れ目からジットリと滲み出している粘液を指につけると、細かい皺の重なった周りに

塗りつける。上を向いて反り返っているやつの角度を調節して、徹也は後門の真ん中に

狙いをつけた。

「よいしょっと…!」

「ぐえぇッ」

痛いのではなかった。突然身体中の臓物が一杯になったような膨満感、肛門の括約筋が

拡大して、身震いするような戦慄が走った。

「いぃぃ、いぃぃ…ッ」

窓の外を、ヘッドライトが真正面から近づいてきて、さあっと流れ去っていった。

徹也が腰を突く度に、テーブルに伏せた乳房がグニグニと前後にゆれる。

「いッ、イキます。もう…」

加奈子が最後の許しを請うような悲鳴をあげるまで、五分とはかからなかった。

「イッくぅぅッ」

「ふん、淫乱なメスだな。ケツの穴でもイケルのか」

「はッ、はいッ、ご主人さまァァ」

窓の外から見れば、それは一匹の牝犬となり果てた女の、淫らなうつし絵であった。




 

<つづく>  <もどる>