悪女繚乱






5・嬲られメス


一、危険な電話

 平日の午前十時といえば、亭主族が自分の女房の行動をいちばん掌握しにくい

時間帯であろう。言い換えれば、毎日のように亭主や子供の世話で息の抜けない

女房にとって、ゴールデンタイムなのである。

加奈子がいつも利用しているのもこの時間だった。

結婚して三年目くらいからめっきりと回数が減ってしまった夫との交わりは、

今ではほとんどなくなっているが、かえって煩わしさがなくて助かっている。

五年目に六歳年下の徹也と偶然出会って、いわゆるSMの味を知った。

その前から何人かの男と浮気の経験はあったが、徹也は特別である。


今朝も夫が出勤してしまうと、すばやく洗濯物を干し、台所を片付けて、

待ち兼ねたように加奈子は携帯のボタンを押した。

「モシモシ」

「あぁ、なんだよ」

かえってきたのは、眠りを覚まされたらしい不機嫌な徹也の声である。

「うるせぇな、昨夜仕事が忙しかったんで、眠たいんだよ」

「申し訳ありません。どうしても、ご主人様の声が聞きたかったもので…」

「ふん、昼間からもう濡らしてんの。助平だね」

「いえ、ハイ…」

じィィ…ん、とクリトリスに虫を乗せられたようなムズ痒い痺れが走った。

「今日はちょっと忙しいんだ。これから友達が来るんで、お前とは逢えないよ」

「はい、分かっています。お邪魔にはなりませんから」

 ただ声が聞けただけで良いんです。という思いを込めて加奈子は言った。

「まぁいいや。オナニーを聞いてやるから、おまんこに触ってみな」

「えッ今から、ここで…?」

「嫌なのかよ」

「いえ、えぇぇ…」

手が自然にスカートを捲くる。パンティを穿いていないのはいつものことだ。

陰毛を剃り取ったあとの割れ目に指を入れると、ジットリとした湿り気が伝わってきた。

「どうなの、もう濡れてるんだろ?」

「はい、さっきから…」

「けっ、淫乱…!」

徹也が吐き捨てるように言った。そのあざ笑うような口調がいっそう加奈子の

淫情を掻き立てるのである。

「あァあッ」

六歳も年下の男に何故これほど燃えるのか自分でも判らないのだ。

「あ、あぁッ、ご主人様ッ」

どんな気持ちで聞いているのか、受話器の向こうで微かに口笛の音が聞こえた。

虐めようとしてやっているのではない。ご主人様にとって、これはごく当り前の

自然な行動なのだ、と思うと、加奈子は身震いするほどの恋しさで徹也の性欲に

引きずり込まれていった。

携帯を口元に押し付けて、右手で小刻みにクリトリスを掻きあげる。何も考えずに、

その動きが次第に早くなった。

「アゥ、アゥ…ッ」

イキますッ、と叫ぼうとした瞬間、耳の奥に、徹也の妙に明るく邪気のない

声が聞こえた。

「おッとぉ、ちょっと待った…ァ」

「え、え、えぇぇッ」

「オナニーは中止だ、お前まだイッちゃいねぇだろうな」

「あァはい、で、でも…」

「変態っ、サカリがついた猫みたいにミャーミャー啼くんじゃねぇよ」

「ウゥム…ッ」

指がまだ動いている。加奈子は今にも爆発しそうになる神経を必死で抑えた。

「あのな、好いこと思いついたんだ」

眉を寄せ、唇を喰いしばっている加奈子の表情には関係なく、徹也がこれまでと

変わらない調子で言った。

「金がないから、先輩をソープに連れて行くわけにも行かないしな」

「は…?」

「どうしようかと思っていたんだけど、お前が代わりをやれ」

どういう意味なのか、加奈子はとっさに理解することができなかった。

「だからさァ、これからすぐこっちに来て、先輩の相手をしてくれと言ってるんだよ」

呆然として黙っていると、徹也が言葉を続けた。

「だってさぁ、お前にはそのくらいしか役に立てることはないじゃん」



       二、ブラ抜きの荒わざ


ご主人様のために…、

お前にはそれしか役に立つことがないと言われると、加奈子は改めて自分の身分を

確認させられたような気がした。

奴隷として、ご主人様をもてなすには肉体を提供するしかないのかも知れない。

それは少しも嫌なことではなかった。何故か反対にわくわくするほど嬉しいのである。

「お前は淫乱だから、男なら誰だって構わないんだろ」

心の奥を見透かしたように、屈託のない徹也の声が聞こえた。

「はい、ご主人様のお役に立てますなら…」

「じゃちょうど良かった。これからすぐに支度して出ておいで」

「はいッ」

今日は声だけと諦めていたのに、思いがけなく徹也に呼ばれて、加奈子は

弾んだ声を出した。

ご主人様から与えられた男に抱かれるのは今日が初めてだが、それほどの恐怖は

なかった。むしろ気に入ってもらえるかどうかが不安である。


身も心も徹也に惚れて、虜になっていることは確かなのだが、これまでにも、

加奈子はご主人様に黙って違う男と関係したことは何回もあった。

誰にでも求められれば応じてしまう。淫乱というより、牝の家畜としての加奈子の

体質がそうさせるのである。だからと言って、ご主人様に仕える奴隷としての

奉仕の気持ちは少しも変わることはなかった。


もし知られたとしても、ご主人様は

「ばか、色気違い…」

とあざ笑って鼻の先で吐き捨てるだけであろう。

だが今日の相手は、ご主人様と親しい先輩であるということが気にかかった。

失望されたらご主人様に申し訳がない。


ご主人様の目の前で、性の玩具としての奴隷になりきることができるのだろうか。

それは物凄く恥ずかしくて、耐えられないことのように加奈子には思えた。


電話を置くと慌ててバスルームに駆け込んでシャワーを浴びる。念入りに

シャンプーをして、乾かす時間を利用して剃刀で陰毛を剃った。いつ呼ばれても

良いように一昨日剃ったばかりなのだが、もうザラザラと掌に摺れるほど伸びている。

元はと言えば毛深いほうなので、三日に一度は確実に手入れしないと恥ずかしかった。


パンティは始めからつけて行かない習慣が身についている。膝小僧の出るミニスカートに

薄手のサマーセーターを着ると、乳房の揺れを両手で隠すように、加奈子は小走りに

駅に急いだ。自宅からご主人様のアパートまで、およそ一時間はかかる。


郊外の駅に降りると、歩きながら携帯に電話を入れた。

「これから伺ってもよろしいでしょうか」

「いいよ」

「鍵を開けておいてください。もう近くまで来ていますから…」

「わかった」

携帯をバッグに収めると、加奈子は歩きながらセーターの裾から背中に手を回して、

ブラジャーのホックをはずした。素早くあたりを見回してすれ違う人がいないのを幸い、

強引に胸から引き剥がす。生暖かい体温に湿った布地が、ズルズルとセーターの下から

顔を出す。部屋に入るとき、ブラジャーをしていると叱られるので、ご主人様の

アパートに通いながら覚えた荒業である。

アパートの鉄の階段を、足音を忍ばせて二階に上る。大きく息を吸って気持ちを

整えてからドアの把手を回すと鍵は開いていた。加奈子は身体を斜めにして、

滑り込むように中に入った。

玄関に続いて八帖ほどの洋間、トイレとダイニングキッチンがあって、その奥が

六帖の和室である。ご主人様には同棲している彼女がいるのだが、今は勤めに出ていて

留守なのであろう。奥の部屋の襖が閉っているので、

加奈子は無言で靴を脱いで片隅に寄せた。

そっと、音がしないように襖を十センチほど開けると、徹也は寝転がって

ビールを飲んでいた。こちらに背中を向けて、もう一人の男が蹲っている。

「ご主人様…」

いつもなら走りよってズボンに手をかけるのだが、加奈子は小さな声で言った。

「遅くなりました」

「ああ、早かったな」

寝そべったままビールのグラスを空にすると、徹也はよっこらしょと上半身を

起こしながら同室の男に向かって言った。

「コウちゃん、これ、俺んちの犬…」

「………?」

男が、首だけで振り返った。



       三、道具になる歓び


「犬か…、かなりおばさんだな」

食べていたカップラーメンの汁をズルズルと吸い込みながら、コウちゃんと

呼ばれた男が言った。

「呼ばれると自分から遊ばれに来るの? ずいぶん好きなんだねぇ」

「まぁね、家畜になりたいというんだから仕様がねぇ」

「うふふ…」

コウちゃんが低い声で笑った。

ご主人様の徹也が、どちらかと言えばスリムで都会風なのに、コウちゃんはゴツくて

いかにも肉体労働者といった感じである。

「良いから入りなよ。四時までは鳩も戻ってこないから大丈夫だからさ」

部屋の入口で腰を引いている加奈子に、徹也が促すように言った。鳩と言うのは、

ご主人様がこの部屋で同棲している女性の愛称である。

「はい」

六帖の部屋にテレビと洋服ダンスがあって男が寝そべっている。真ん中にテーブルが

出ているので加奈子が座る場所がないくらいに狭かった。ようやく身体を横にして

徹也の隣に座ると、正面にコウちゃんが大きな胡坐をかいて、無遠慮に顔を見詰めた。

「ここでヤレるかい。俺いま、給料前で金がねぇんだ」

「うんいいよ、そんな金使わんでも良い」

「それじゃ、俺はコンビニに行って本でも立ち読みしてくるから、その間にヤッてよ」

「あの、あのぅ私…」

思わず、加奈子は横から口を出した。

「ホテル代くらいでしたら、持ち合わせていますけど…」

「いいんだいいんだ、女に出させるわけにゃいかん。十分もすればイッちゃうんだから…」

コウちゃんが急かされたように立ち上がって、テーブルを足で部屋の隅に押した。

「何しろ、ひと月抜いていねぇもんだから、溜まっちゃって…、悪いね」

 いきなり腕を掴んで引き寄せると畳に押し倒そうとする。

「あん…ッ」

あわてて振り返ると、ご主人様は別に面白くもないといった顔でいつものジーパンを

穿いているところだった。本当にこのまま出て行ってしまうつもりなのだろう。

「ごッご主人様…ッ」

「しっかり相手をしろよ。コウちゃんの道具はデカいから効くぜ」

自分の女が犯されるのに、嫉妬のカケラも感じていないらしい。徹也はニヤニヤと

笑いながら言った。

頭をぶつけそうになるほどの勢いで畳に圧し倒されると、セーターを裾から容赦なく

捲り上げられる。その下はシャツ一枚つけていない素っ裸の白い肌である。

「ふぅん、いい乳しとるのう」

着ているものを脱がせるわけではない。これで十分と露出した乳を眺めながら

コウちゃんが言った。

「おばさんと言っても、身体は搗き立ての餅みたいだ。悪くねぇよ」

「それくらいの年になったほうが、かえって面白いんだってよ」

「ふゝゝ、何でも思いどうりに言うことを聞くだろうからな」

女は犯らせるのが当たり前、といった感じで、強姦とは雰囲気がちょっと違っていた。

パンティを穿いていないミニのスカートを腰骨の上まで捲くられると、加奈子は早くも

抵抗する意思を失って全身の力を抜いた。

「あぁッ、ご主人様お願いです。どこにも行かないで…」

「俺にも見ていろっていうのかよ。お前露出狂か?」

「ハッハイッ」

加奈子は縋るように言った。犯されて、嫌でもイカされるところを見られてしまえば、

いっそうのご主人様の家畜になれる。

「俺は構わねぇからよ」

コウちゃんが、両腕で力任せに広げた脚の間に割り込みながら人ごとのように言った。

「この餅肌、久しぶりだぜぇ」

「あひぃぃッ」

上半身をかぶせて、いきなりガブリと乳首に噛みつく。歯を立てたまま捻じられると、

急激な痛みが爪の先まで伝わって加奈子は鋭い悲鳴を上げた。

「おい隣があるんだ。でっかい声出すな」

とたんに、グググッと膣口に硬い肉の塊が圧し込まれたのを感じて、加奈子は

反射的に仰け反って目を宙に据えた。

「ウゥゥムッ」

イカされるのは時間の問題であろう。

加奈子は、道具に使って貰える自分の肉体が嬉しかった。家畜としてまた一歩、

ご主人様に近づくことができたような気がした。





 

<つづく>  <もどる>