悪女繚乱






6・神を穢すもの


 

       一、SM出会いサイト 

「それで、私はどうすれば良いの?」

「神社の裏の鳥居のところにベンチがふたつあるから」

「そこで待っていれば来るのね?」

「あぁ、行くよ」

「誰にも見られないでしょうね」

「あそこなら大丈夫だ。暗いし、木がいっぱいあるから」

「きっとよ。じゃ、待ってる…」

電話は、それで切れた。二つ折りの携帯を閉じて、アンテナを押し込みながら

加奈子はホッとタメ息をついた。

とうとう、やってしまった…

緊張が解けた後の軽い気だるさに、しばらく呆然として仕事が手につかなかった。

結婚してやがて十年になる。

世間体は何不足ない人妻で、リストラの心配もない会社勤めの夫と子供二人の

平和な家族なのだが、夫の勝彦との性生活はもう五年も前から中断していた。

好きとか嫌いとかいった段階ではなく、夫との性生活に魅力を感じないのだ。


全精力を仕事に傾けている勝彦は、ときどき手を出してくることもあったが、

断っても別に怒るでもない。三度に一度は機械的に股を広げてやるが、勝彦も

上に乗って生理的な欲求を満たしてしまえば、あとは他愛もなく寝入ってしまう

だけなのである。こんな程度のセックスでは、加奈子にとって何の足しにも

ならないのだった。


生まれついての犯され願望というか、自分をめちゃめちゃに侵し穢してくれる相手を

求めて、加奈子は半年ほど前からご主人様を持った。


六歳も年下のご主人様になった徹也に口での御奉仕、ゲップが出るほど小便を飲まされ、

それほど荒れていなかった穴にいきなり
足の指を突っ込まれて悲鳴を上げたり、牛乳で

浣腸されたあげく、ご主人様のブッとい肉棒でアナルを突き破られたり、奴隷として

一人前の躾を受けさせられることになったのだが、加奈子はまだそれでもどこかに

未開拓の部分があるような気がしてならなかった。

夫を裏切り、年下の男の玩具になって貞操のない背徳の人妻に堕ちたことは少しも

後悔していない。今ではご主人様の奴隷であり、惚れていることは確かなのだが、

できることなら、もっと徹底的に穢されてズタズタにされた身体になってみたいのである。

それで今日、いつもの出会いサイトに伝言を入れてみた。

三十六歳の人妻です。でも実はマゾなんです。電車で痴漢されてそのまま夜道で

複数にレイプされることを想像して濡らしています。私の為にそんなチャンスを

作ってくれる方いませんか?
 待ってます」

反響は驚くほど早くあって、たちまち十通を超えた。

手当たり次第、返事を入れてみたのだが、大部分はヤリたさ一心の高校生であったり、

遠隔地に住んでいたりで条件に合わない。

その中でこれなら実現できるかも…

と思わせたのが先刻の電話である。

加奈子の家からそれほど遠くない郊外にある神社の境内に出て来いという。

二・三度通ったことがあるが、かなり大きな神社で、周囲を森といってよいほど

古い大木に囲まれていることは知っていた。

時間を合わせてそこに行けば、男が待っていて強引に犯してやると言うのである。

もちろん初対面で、顔も年格好も定かではない。それだけに、未知の男に

犯されるという奇妙なアイデアに加奈子の胸が躍った。

一種の疑似体験だが、現実に強姦される雰囲気を味わうにはこのへんが限界であろう。

電話を切って、加奈子はしばらくの間ボンヤリと暗い神社の森を想像して、それだけで

ジットリと粘液が滲み出してくるのが止まらなくなってしまった。


そして、約束の日…。

夫の勝彦が今日も遅いことを確かめると、子供たちに先に寝るように言って加奈子は

外出の支度にかかった。

着ているものを汚されることを思って、念のために予備のスカートとブラウスを用意する。

それでもご主人様の徹也に言われたとおり、パンティとブラは始めからつけてゆかない

ことにした。

このほうが強姦するほうにとっても犯しやすいだろうという、笑い出したくなるような

理由でもあった。

わざと十分ほど遅れて家を出て、電車で二十分、そこからバスで十五分、神社は

車の往来の激しい街道筋に沿ってあったが、そこだけはシンと静まり返った別天地である。


お化けでも出るんじゃないかしら…

加奈子は、フト逃げ出したくなるような恐怖を感じた。



       二、暗闇の影


樹齢は二百年くらいたっているだろう。都内にはこうした神社にしか残っていない

老木の塊りである。奥のほうに、影のように神社の建物が見えたが、人が住んで

いるようには思えなかった。

すぐ前の道には、ひっきりなしに車が通っているというのに、ここはまさに別天地

なのである。

そんな必要は少しもないのだが、加奈子は跫音を忍ばせるようにして境内の中に入った。

雰囲気からしてアベックがいちゃつくような場所ではないので、薄気味が悪いというより、

何か別の物語の人物になったような感覚である。


どこに隠れているのか…

約束の時間はもう過ぎている。だが、人の気配はどこにもなかった。

こんなところで待っていろと言った電話の男はいったいどこにいるのか、加奈子には

振り返ってみる勇気がなかった。

来ていない筈はないのに…

不審と不安と、物の怪に取り憑かれたような恐怖に、加奈子はそうそうに引き返そうと

思った。いくらゲームだといっても、こんなところで見知らぬ男に強姦されるなんて、

冗談がきつ過ぎる。

電話ではベンチがふたつあるといっていたがどこにあるのか見当もつかない。

気がつくと、ちょうど神社の裏側に来ていた。カミサマなどというのは正面の賽銭箱に

向かって拝むから格好がつくので、裏に回れば長年の風雨に晒されたあばら家である。

建物はそれ程大きくないが、結局加奈子は普通の家よりもずっと高い廊下をめぐらしてある

周りを一周して、表道りに抜け出そうという形になった。その角を曲がろうとした瞬間、

加奈子は思わずワッと声を上げそうになってその場に立ち竦んでしまった。

目の前に、高い床の柱に寄りかかってじっと動かない黒いものが、暗がりで、それが

間違いなく人間だとわかるまでしばらくの時間が必要であった。

「やっぱ来たな。奥さんよ」

低く押し殺したような男の声であった。

「おとなしくしてろ。デカイ声出すと本当に絞めるぜ」

声には演技ではない殺気があった。

男の腕が突然伸びて加奈子の顎の下にまわった。グイと引き寄せられると、上半身を

弓なりにして息が出来ないほどの力である。

「奥さん、変な奴を一緒に連れてきたりしちゃいねぇだろうな」

「し、知らない、知らないわ」

声が出たのはやっとそれだけである。どういう成り行きなのか想像もつかないのだが、

電話で打ち合わせした男ではないことだけは確かだった。それでも加奈子がここに

くることを男は知っていて、待ち構えていたのであろう。

「こっちへ来い。声を出すんじゃねぇぞ」

否応なしに神社の高い廊下の下に引きこまれて、加奈子はそのままヘタヘタとその場に

しゃがみこんでしまった。捕まえられた拍子に、どこか首筋のあたりを殴られて、その衝撃が

立っていられないほど全身に回っていた。

「おい本当に来たぜ。ずいぶん物好きな奥さんだな」

男は一人ではなかった。少なくとも電話をかけてきたもう一人の仲間がいる筈である。

黙っていると、男の手が遠慮なく乳房を探る。ブラジャーをしていないので、腕が直接

肌に触れると、ゾッと戦慄するような刺激に全身が硬くなった。

「まぁいいや、おとなしくしていりゃ可愛がってやるよ」

男は蔑んだような笑いを含んだ声で言った。

「だッ、誰なの、あんた・・・」

「電話で奥さんにおまんこさせてくださいと頼んだものですよ」

「違うわ! そんな声じゃなかった」

「俺だよ。奥さん、この声なら間違いねぇだろ」

「ひいぃっ・・・」

突然後ろからもう一人の男に抱きつかれて、加奈子は咽喉で息を引いた。間違いなく

電話の声の男である。

「電話は一人でかけているとは限らねぇんだぜ」

相変わらず笑いを含んだ声で、もう一人の男が言った。

「交渉はもう済んでいる筈だから、奥さんそろそろヤラせて下さいな」

「わ、分かったから、手を離して」

背中に張り付いている男の腕をようやく振りほどくと、加奈子はようやく落ち着きを

取り戻していた。

「わかったわよ、二人にヤラせて差し上げれば良ろしいんでしょう。その代わりあんまり

酷いことしないで」

「よし、こっちへ来い」

ゴツいほうの男に肩を押されて、加奈子は神社の高い床下に押し込まれる形になった。



   三、けもの妻


床下は、大の男が中腰になって歩ける程度の高さである。

床柱の数が多く、ともすれば正面からぶつかりそうになりながら、加奈子は首をすくめて

手探りで歩いた。

「アッ、危ない!」

つまずいて手を突いたところに、茣蓙かマットのようなものが置いてあって、そこだけ

何とか役目を果たすことが出来そうである。あとはザラザラした下地で、直接コンクリートの

上に仰臥して股を広げることは不可能であった。

男たちは昼間調べて知っているのか、マットのところまで来ると

「そこに寝ろ」

と言った。ちょうど神さまを祀ってある真下あたりの位置である。

「あぁ駄目、これじゃ駄目よ。出来ないわ」

加奈子は呻くように言った。猛烈に埃臭い、長い間放置されているせいか、マットの山が

ゲジゲジや地虫などの巣になっているような気がして、とてもここでおまんこを広げることは

出来そうもなかった。

「ちぇっ、ヤリ難いな。腰を上げて柱に寄りかかってみろ」

男もさすがに激しい異臭に辟易したのか、すぐに方針を変えた。こうなったら、あとは

立ったまま犯されるしか方法はなかった。

「柱を抱いて、ケツをこっちに向けろ」

その柱がまた、何年も人の手が触れたことがないように、ベッタリと埃に

まみれている。薄い衣服についた汚れを、家に戻る前にどうやって落としたらよいのか、

加奈子は考えている余裕がなかった。言われるままに、加奈子は腰を高く上げ、

肩と両腕で、一抱えもありそうな床柱にしがみついた。

「おう、奥さんノーパンだぜ。物分りが良いな」

パシィン・・・

男がスカートを捲った後の尻ペタを思い切り叩く。

「クゥゥッ、ごッご主人・・・」

加奈子の胸に、突然ご主人様の徹也の顔が浮かんだ。

こんな、けものみたいに犯されている私を見てくださいッ・・・

もともと自分から望んで、ご主人様にも内緒で実行した強姦ごっこである。心のどこかに

どんなに酷くやられても仕方がないと言う納得と、奇妙な陶酔があったことも事実だった。

先刻から、ハッハッと電話の男の荒い息遣いが聞こえる。だが後ろから、バックスタイル

とも言えない体位で、牛が交尾するようにのし掛かってきたのはゴツいほうの男だった。

「それようッ、ちゃんと濡れていねぇと痛えぞ」

声と一緒に、グス、グスッと肛門の直下にある軟らかいほうの穴に、カチカチになった

男の肉塊が侵入してくるのが分かった。

「ウッ、快い、たまんねぇぜ」

これは、電話の男の声である。

「こっちも快いよ、淫乱なメスが、すっかり気分を出しやがって」

エッ、エエェッ・・・

そのとき更に、加奈子はこの場がもっと異常な状態になっていることに気づいたのである。

男が乱暴に腰を突き出すたびに、ゴツゴツと肩と頭が丸い柱に当たる。周囲の様子を

確かめることも振り向くことも出来ないのだが、間違いなく、ここにはもう一人犯されて

いる女がいる。

そう感じた瞬間、加奈子は全身が痺れたようになった。

「はぁぁぁ・・・ッ」

犯されている無言の女は、いったい誰・・・?

加奈子がここまで連れてこられるまで声を出さなかったと言うことは、女も強姦ゲームの

なかまなのか、それとも強制的に言葉を封じられて、何も言えない状況になっているのか。

「あッ、あへッ、アヒィィ」

そんな女が傍にいると判っただけで、子宮の奥から急激に快感が衝き上げてきた。

「イイッ、イッ、イッちゃうゥ」

マゾの女は、クリトリスを摩擦されて絶頂感を示すのではない。筋肉が痙攣するほど

緊張して、全身の神経が一挙に爆発を起こすのである。

「グッ、グッ、クゥゥ・・・」

圧し潰されるような呻き声を上げて、加奈子は丸柱を抱いたまま、ズルズルとその場に

崩れ落ちた。

「何だ、奥さんもうイッちまったのかい。好きなワリにはモロイんだな」

男が髪の毛を掴んで加奈子の顔を股間にこすりつけた。

グビグビと咽喉を鳴らして、加奈子は肉塊の先端で気管の奥を衝かれる刺激に耐えた。

「それよっ、しっかり飲んで、吐き出すんじゃねぇぞ」

とたんに大量の精液が咽喉仏から口腔内に逆流して、生臭い味と匂いがひろがる。

噎せ返りそうになるのを必死に抑えて、加奈子はドロドロとした生臭い塊りを嚥んだ。

射精はまだ続いているのか、咽喉の奥でヒクヒクと肉塊が脈動するのを感じて、加奈子は

スーッと意識が遠くなってゆくような気がした。

「おいっ、行くぜ。そろそろ終わりだ」

「あいよ、了解・・・」

少し離れたところから、電話の声の男が言った。

「どうだい見たか。女はああならなくっちゃ駄目なんだ」

それは加奈子にではなく、もう一人の無言の女に言っている言葉である。

「わかったな、お前もこれからしっかり修行するんだ。怠けるんじゃねぇぞ」

朦朧とした意識の底で、加奈子はボンヤリと考えていた。

私のほかに、マゾの教育を仕込まれている人がいる…

それがどんな女なのか、どうしてこの場に連れて来られたのか、確かめるすべはなかった。

男が背を屈めて神社の床下から出て行ってしまった後、ひとり取り残されて、加奈子は

ブラウスにベッタリと付着した汚れを手で払った。だが長い年月をかけて、砂塵とスモッグで

練り固まったような都会の汚れは、それくらいのことで落ちるものではなかった。

念のためにと持ってきた予備のブラウスとスカートがあったことを思い出して、加奈子は

暗闇を幸い、思い切って全裸になった。

早く家に戻らなければ…

誰も見ていないことはわかるが、異様な緊張感である。ブラウスは新しくなっても、その下に

ブラジャーを着けていないことは同じだった。

電車やバスに乗っても怪しまれない程度の服装になっているか、自信がもてない。この服装で

何も知らない夫がもし先に帰っていたら、万事休すである。

加奈子は、よろめきながら神社の床下を出た。境内を少し歩いて鳥居をくぐれば、そこはもう

二十四時間車の流れが絶えない大通りである。

ご主人様、またやってしまいました…

暗い空を見上げて、加奈子は心の中で呟くように言った。

わたし、獣ですね。ご主人様のおかげです…





 

<つづく>  <もどる>