魅せられて

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  1 ・ 幼女のつまづき


紫織が初めて携帯電話を手にしたのは、その日からわずか2週間前のことであった。

母親にねだって、みんなが持っているから学校でもないと不便だと理屈をつけてようやく

買ってもらうのに半年かかった。紫織にとっては何ものにも換えられない宝物である。

毎日メールに熱中して、使い方はすぐに覚えた。若いから慣れるのも早い。わずか2週間で、

歩きながらでも友達と話しながらでも、パパパパッと文章が打ち込めるようになっていた。

まだ14才、中学2年生である。

いま学校で流行しているのは、当然のことながら出会い系サイトである。

もちろん学校では禁止されていたが、みんなそれぞれに秘密のアドレスとハンドルを

持っていて、詳しいことは友達にも教えない。感覚的に言えばクラスの友達はライバルで、

顔も知らないメル友のほうが何でも話し合える親友なのである。

楽しもうとすれば、授業中でも独りで誰にもわからないようにお好みのサイトにアクセス

することが出来る。14才の女の子にとって、次から次へと見も知らぬ男たちから接触の

電話がかかってくるのだから、これ以上面白くて好奇心を満たしてくれるものはなかった。

だから紫織がのめり込んでいったのも、決して素行不良とか不純交遊とかいった古い

道徳感覚で捉えられる出来事ではなかった。あとはチャンスと、その日の運が良かったか

どうかといった問題である。

たしかに、出会い系で処女を失った友達は何人もいた。だがそれは彼女たちにとって、

過ちでもなければ心の傷でもなかった。むしろ、これで大人の仲間入りをしたといった

自信と誇りにつながっているのかも知れない。隣の席にいる友達がいつバージンを

失ったかということには、沙織は興味も関心もなかったのである。

沙織自身の肉体にそのことが起こったのは、初めての出会い系サイトを知って三日目の

ことであった。

「セックスしたい。誰か頼むお願いよ」

そんな簡単明瞭で理解されやすいカキコミを読んで、紫織は即座に返事を打った。

「初めてだけど良い?」

「大丈夫、おれ三度目」

「いくつなの」

「中三、いやですか」

「いいよ、優しく愛して」

これで、すべては決まりだった。住んでいるところは千葉県で東京の近くなので、紫織は

JR駅前の巨大スーパーの自転車置き場を指定した。ウィークデーの午後である。

現れた少年はどこにでもいる平凡な男の子、紫織には、ちょっとナヨッとした感じの

あまり強そうでない軟派風に見えた。

「おれ、タケオっていうの。呼び出してゴメン」

「ワタシ富岡紫織、イヤな名前でしょ」

「そんなことねぇよ、可愛いじゃん」

「ねぇ、もう経験あるんでしょ」

「うん、すこしな」

「付き合っているコ、いるの?」

「いや、みんな一度だけだ。もてねぇから」

「その方が好きよ。好きな人なんかいない方がいいわ」

「それじゃ、やらしてくれる?」

「いいけど、場所あるの?」

「ここの八階まで行けば何とかなるんだ」

スーパーは六階までが売り場で、その上は食堂、最上階は市の文化センターというのか、

いろいろな催し物があったりボランティアグループが会議に使っていたりする。

売り場に比べればガラガラに空いているのだろうが、そんなところでセックスをやることが

出来るんだろうか、と紫織は不思議だった。

だがこちらには経験がないので、黙ってついてゆく以外に確かめようもなかった。二人は

長い間待たされて混み合ったエレベーターに乗った。お客の大部分は七階の食堂街

行きで、八階まで乗ったのは紫織とタケオだけである。

エレベーターを出ると、フロアはここがJR駅前のスーパーであることが嘘のように

森閑としていた。どこかで会議でもやっているのか、人影は全くなかった。

「こっち、こっち・・・」

タケオに手招きされてついて行くと、思いがけなく女性用のトイレの前である。紫織は

エッと言ったまま立ち止まってしまった。

「早く来い。誰もいねぇ」

否応なしに引きずり込んで内側から鍵をかける。人の気配はまったくなかったのだが、

雑踏するビルの最上階という意外な密室に、紫織はかえって緊張した。

「後ろ向いて脱いでよ。パンツだけでいいから」

言われたとおり、目の前の水道管にすがって身体を支えながら、紫織は穿いていた

パンティーを太股の下にずらした。

狭い箱の中に入っているので、それ以上は膝を曲げて

脚を抜くことが出来ない。紫織はのけぞるように

よろめいて、タケオの上半身に体重をかけた。

「アッ、あぶねぇ」

少年は体勢を立て直すと小声であたりを

気にしながら

「もういいよ、それ位でデキるんじゃねぇの」

「どうするのよ、ワ、ワタシわかんない・・・」

「もっと開くんだよ。ケツをこっちに出して・・・」

少年は、掌を不器用に紫織の股の間に

突っ込みながら言った。

ムチムチとそれを跳ね返すような弾力を持った

最深部の肉が緊張していっそう硬くなる。少年には

たまらない感触だったようだ。

「こっち向け。いいから脚を広げて・・・!」

上半身を捻じ曲げるように向かい合うと、少年は膝の下まで下ろしたズボンの中から

自分の肉棒をつかみ出してグイと上を向けた。

生白いというか、まだ完成しきっていない。それでいて驚くほどの太さとボリュームを

もった肉塊である。

もちろん、紫織にはそんなものを眺めている余裕はなかった。タケオが洋式トイレの

上蓋を下ろしてその上に腰を下ろす。真正面から向かい合った形で、紫織はその上に

抱き上げられた。パンティーがまだ足首に引っかかっているので、ものすごく不安定な

抱かれ方である。手を広げて左右の壁を押さえていないと、重心を失っていまにも

転がり落ちそうな体勢である。

それでも、タケオの男根は硬直して、未成熟とは思えないような硬さで突っ立っていた。

その先端がグリグリと膨らみかけた陰丘に当たる。まだ大陰唇の肉が薄いので、

鋭い棒の先で突かれているように紫織には思えた。

「タッ、たまんねぇ。イッちゃうよ。早くッ、中まで入れさせてよぅ」

タケオが切羽詰ったように言った。自分のちんぼがおまんこの穴の近くを突いている

という、それだけの刺激がたちまち射精を呼んでしまう。女の尻の一番太いところを

抱えて、タケオは我武者羅に揺すった。

「ギェェッ」

それはほんの一瞬ではあったが、いつも触ればくすぐったいような感じのする

軟らかいところに、まるで引き裂かれるような激しい痛みを感じた。

「ウエッ、痛ッたーいよぅッ」

全体重の衝撃がその一点にかかって、メリメリと音がしたような気がする。

初めてのときは痛いという予備知識はあったが、これほど突然にくるものだとは

思わなかった。紫織の場合、多少不自然な情況ではあったが、多くの少女たちの

場合も大同小異であろう。

女にとって、それはたいてい予期せぬときに突然にやってくる。お互いに納得の上で

ラブホに行ったなどというケースの方が、むしろ少ないのである。

だが紫織の痛さはそれほど長くなかった。タケオがハメ方も腰の動かし方も

知らないものだから、処女膜を破ったまでは良いが、次の瞬間、肉棒がクッションの

バネのように曲がって穴の入り口から飛び出してしまった。紫織にとって痛かったと

いえばそのときが一番だったかも知れない。

大量の精液の放出が始まったのはその直後からである。

男根が股の間で捻じ曲がっているにもかかわらず、精液は紫織の髪の毛まで飛んで

ベッタリと垂れ下がった。

「うっ、うっ・・・、うぉぅ快いいいッ」

咽喉が引きつったような声で呻くと、タケオはそれまで抱えていた女の尻から

突然手の力を抜いた。

「ウワァァッ」

ゴツゴツッと身体のあちこちが四囲の壁に当たって、紫織はトイレのタイルの床に

したたかに尻餅をついた。

「危ねぇ、気をつけろッ」

立ち上がってズボンを上げながら、タケオは飛び散った精液の後始末に焦っていた。

その無様な格好を、尻餅をついたまま呆然と見上げる紫織、痛みは嘘のように消え、

そのかわり何か棒のようなものを脚の間に挟んでいるような奇妙な感覚が残っていた。

トイレが汚れていなかったことは幸いであった。ようやく外に出ると、先刻までの性欲が

急激に褪めてしまったのか、タケオは半分逃げ腰になって言った。

「おい、大丈夫だろうな。こんなこと誰にも言うんじゃねぇぞ」

「うん」

「解ったら良い、それじゃオレ、先に行くぜ」

「一緒にエレベーターで出ないの?」

「馬鹿、誰かに見られたらヤベーじゃねぇか」

「ふぅん、じゃいいわ」

まもなくエレベーターが来た。髪に粘りついた精液がまだうまく取れていないような

気がする。うつむいて指先で確かめている間に、ドアが閉まった。タケオが何か言った

ようだが、紫織はもう何の反応も示さなかった。

これが、紫織の初めての体験である。

愛もなく、いささかの好奇心と早く大人になりたいという単純な願望が招いた小さな

出来事であった。

紫織にとって、それは小さな事件だったが、もしかしたら、少女の肉体と精神のどこかに

秘められていた異常な性感覚の必然的な発露であったとは言ええないだろうか。



  
2 ・ 母系の血


タケオからは、それきり何の音沙汰もなかった。

それで良いのだ。紫織も別に何の感情も持っていたわけではないし、初対面の

少年に好かれようと思って処女を与えたわけではない。黙って消えてくれれば

紫織の携帯には、次の日もまた次の日も新しい男からいくらでも連絡があった。

自然、紫織の頭の中から初体験の思い出は何の影響も残さず消えていった。

セックスはもともと嫌いではなかったが、進んでやりたいといった感じでもない。

それまでは、自分はまだ子供なのだから、大人のやることをして失敗すれば

相手にバカにされるという引け目みたいなものがあって、誘われても躊躇して

いたのだったが、いちど垣根を踏み越えてしまえばもう行動の妨げになるものは

何もなかった。

中学生としては深夜の10時過ぎてから市営団地の我が家に帰っても、母親の

絹枝はまだ戻っていない。友達に羨ましがられるほどの自由な環境である。

はっきりした事情は幼かった紫織には判っていないが、小学校二年生の頃、

父親の伝次郎が絹枝を捨てて家を出て行ってしまってから、女一人の手で娘を

育ててきた。年令的にはまだ三十代半ばだから十分に再婚のチャンスもあった

ろうが、なぜか絹枝は現在まで独身である。

父がいた頃から水商売に勤めていたから、帰りはいつも一時過ぎであった。

その生活が今も続いて、紫織が夜危険な時間になって自宅に戻っても咎める

親はいなかったのである。それどころか、絹枝は時として二晩三晩続けて家を

空けることさえあった。

娘にはお客さんの招待で団体旅行だと弁解したが、嘘らしいことは14才に

なった女の本能がすぐに感知していた。だから紫織には、セックスを体験した

という自信こそ出来たが、母親に対して後ろめたい気持ちなど爪の先ほども

持つ必要はなかったのである。

それどころか、絹枝が帰ってこない晩など、

あの人は今頃セックスで気持ち良いことして貰っているんだろう。ワタシも早く

男から自由にされるような年になりたい・・・。

と、母に対して羨望と嫉妬めいた気持ちに駆られて、無意識に自分の指で

クリトリスを摘まみ上げてグリグリと捏ねまわしてしまう。そのためかどうか、

紫織が本格的にオナニーを覚えたのは処女を失って一月ほど経ってから

のことであった。

つまり、実体験のほうが幻想よりも一足早かったのである。

あれから4人、5人と出会いサイトで男の子とも会った。誘われれば抵抗なく

抱かれることもあったが、それでも魂が抜けるほど気持ち良いと思ったことは

一度もなかった。

感覚的には後から覚えたオナニーの方が勝っていたのである。

それが何故なのかは紫織には理解することが出来なかったが、毎晩毎晩、

頭の中が虚ろになるほどオナニーに耽って、そのまま眠ってしまう。

それが癖になって、あるときはオナニーをしながら夢路に沈むように眠り込んで、

明け方近くなって戻ってきた母親に、ようやく毛が生えそろったムキ出しの

下腹部をモロに曝してしまったこともあった。

眠っていたので気がつかなかったが、きっとそうだと思うと、そのときは流石に

恥ずかしくて、朝になってから母親の顔をまともに見れなかった。

母ちゃんはどんな気持ちで私の陰毛を眺めたのか、紫織はひどく気になっていた

のだったが、絹枝との間で話題がそのことに触れることは一切なかった。

母ちゃんはきっと私がバージンじゃないことに気がついている。でもそれを認めて

ワザと黙っていてくれるんだ・・・。

そんなところに、紫織は不思議に母と娘の性欲の絆のような繋がりを感じる。

実を言うと、紫織のほうにも母親の絹枝には決して言わない暗黙の秘密が

あった。それは決して別れて行った父を憎いとか、母を哀れとか思う以前の

紫織独特の女としての情念であったのかも知れない。

小学校一年生といえばまだ子供で、大人たちのすることの意味は理解できない

というのが普通なのだが、紫織はその頃から父と母の歪んだ性生活の実態を

目撃していた。

当時絹枝は東京の下町にある妖しげな場末のキャバレーで働いていた。

父の伝次郎は長距離トラックの運転手、そこで知り合って同棲、結婚とお決まりの

コースを進んだのだが、すぐに妊娠して産まれたのが紫織である。

「紫織っていう名前はよ。お前が産まれたとき、俺が惚れていた女の名前を

取ってつけてやったんだ。今でも忘れていねぇが、いい女だったぜ」

いつだったか無神経な父親からそんな話を聞かされたことがある。

そうなんだ、私の名前は父ちゃんが一番好きだった人・・・

無骨な父にしては、紫織などという気取った名前は馴染み難いと思っていたが、

それで謎が解けたような気がした。

母の名前でないことは寂しかったが、それだけしか事情を明かされないままに、

紫織は何となく納得してしまったのである。

長距離運転手の父は全国を飛び回って、水揚げのすべてをその土地土地の女に

注ぎ込んでしまうから、家計はいつも火の車だった。

キャバレーの客だった時代には絹枝もその中の一人だったが、始めのうちは

ともかく、結婚してしまえばもう餌をやる必要もなくなった女である。

その分他所の女に回ってしまうから、ヤンママになった絹枝は、紫織の面倒を

見ながら生活のために相変わらずのキャバレー勤めを続けなければ

ならなかった。

女には手当たり次第でけじめのつかない男だったが、伝次郎は紫織のことは

猫可愛がりに可愛がってくれた。

仕事は一週間程度のスケジュールで、戻ってくると絹枝の欲求には構わず

紫織と遊んでばかりいる。あちこちで女は食い散らしてくるから家に戻って

女房を抱く気にもならなのであろう。

単純な男の身勝手だろうが、はじめは仲が良かった夫婦にヒビが入ったのは、

当然のことながらこれが原因である。

金欲しさ、ロマンス欲しさにたまりかねた絹枝がいつか客の男に身を投げる。

それが亭主にバレるまで、それほど長い時間はかからなかったろう。紫織が

覚えているのは、そのころの暴虐な伝次郎のやり方である。

「てめえっ、よくも俺の顔に泥を塗りやがったなっ」

ばっしぃぃん・・・

素っ裸で両手首を縛られて、先端を梁にくくられて棒立ちになった絹枝の

横っ腹に、拳骨とも平手ともつかない男の右腕が飛んだ。

「ぐぇ、げえぇ・・・」

吐き気が突き上げてきて嗚咽しそうになるのを、髪の毛を掴んで強烈な

往復ビンタ、絹枝の身体がグニャグニャと揺れて、そのままガクリと

気を失ってしまったようだ。

紫織は布団から顔だけ出して、目を皿のようにしてその場景を見ていた。

「父ちゃんやめて・・・

普通の娘だったら、飛び起きて父親にしがみつくところかも知れない。

だが紫織には、奇妙なことにはそんな衝動は起きなかった。それは恐怖とも違う。

全身が痺れたまま何かに包まれて、空中を浮遊しているような快感である。

母ァちゃんが、死ぬわけない・・・

紫織には、なぜか不思議な確信があった。

どんなに乱暴に叩かれても、母ァちゃんは生きている人だ・・・

身勝手な父の暴力と、気息奄々と気絶寸前の母の惨状を瞬きもせず

凝視しているうちに、紫織は本能的に女のしたたかな強靭さを体感していた。

そのことがあってから後も、紫織は何回となく絹枝が父の暴力を受ける

現場を目撃したのだったが、そのたびにワクワクするような歓びに似た

感覚を味わっていた。

最近のように家庭内暴力がうるさく言われるような時代になっても、紫織は

真一文字に開いた股間を踏みつけられ、終わったあとすぐには

起き上がることも出来ないほど痛めつけられる母の姿を羨ましいと思って

いたのだった。

だがそれは、紫織がまだセックスとは縁がない子供だったからであろう。

やがて、伝次郎に母よりも気に入った女が出来ると、紫織は呆気ないほど

簡単に父親に捨てられてしまった。

「おめぇもな、母ァちゃんみてぇに、男を見ればくっついて行くようなダラシねぇ

女にはなるな」

出てゆく日、伝次郎は学校から帰ってきたばかりで何事が起こったのかと

目を丸くしている沙織の頭を撫でながら言った。

それが伝次郎との最後の会話である。

こうした幼い日の出来事を、紫織は母親に一言も話をしていない。

絹枝は、自分が伝次郎から受けた仕打ちやそのときの狂態を、同室していた

紫織に見られているであろうということはうすうす感づいていたであろう。

それは母親にとって見られてはならない最大の恥辱であり、陰事なのである。

そして、紫織のほうでも、いつの間にか生えてきた陰毛を晒して、オナニーで

赤みのさしたワレメを剥き出して眠りこけている姿を目撃されている。

お互いに、まるで気がついていないような顔をしているのだが、それは決して

母娘の断絶ではなく、口に出さないことが、むしろ暗黙の絆だったのである。





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