魅せられて

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5 ・ 意外な訪問者


それからひと月、毎週土曜日ごとに紫織はみどり橋の下に通い続けた。

若者のメンバーはその都度変わっていたし、なかには一週間待ち焦がれて紫織を抱きにくる

少年もいた。口コミで評判を聞いて、他のグループから常盤台一家に乗り換えてくる奴もいて、

自然、相手にする人数が多くなって手に負えなくなってしまう。

リーダーの健は考えてくじ引きにしたりジャンケンで決めようとしたりしたのだが、しょせん

こうなると腕力の世界だった。

グループの中でも年長で、喧嘩の強そうなのが権利を主張する。彼らは小遣いも豊富だから、

暴走の後に限らず普段の日でも向こうからラブホに誘ってくるようになった。

こうなると、最初に感じたようなスリルや陶酔はもうなかった。

それではと誰かが新しい女の子を連れてくると、雰囲気を察しただけで命カラガラ逃げ出して

しまう。無理に追えば事件になりかねない様子なので、結局これも中止になった。現代の若者は

野放図なようで、こうした保身の術にはきわめて敏感で聡明なのである。あの日のことは、

紫織という人材を得てたまたま偶発的に起こったことだから、あんなに上手くいったのだと

健は言った。

「俺っちは軟派じゃねぇんだからよ。いい加減で女のケツを追っかけるのはやめにしようぜ」

正統派の暴走族に戻ろうという健の提案に反対するものは誰もなかった。一昔前のように、

女が原因で内輪もめが起こったり、奪い合いの喧嘩になるのを防ぐことが出来たのは、

青年期に特有の潔癖感のたまものであったろう。性欲は一生のうちで最も盛んな年代だが、

それにも増して組織を守ろうとする意欲の方が強かった。日教組の間抜けな教師の手に

かかった現在の大人たちはクズだが、自立した意識が芽生えた若者に託された日本の

将来は、決して悲観したものでもあるまい。

こうして紫織はせっかくのめり込んだ車から下ろされ、再び平凡で退屈な毎日を送らなければ

ならないことになった。ただ、それ以来ずっと心にかかっていたのは、健とキネ子の妖しい

姉弟の関係である。

オナニーするときには、必ずと言って良いほど二人のカラミのシーンが目の裏に浮かんできたし、

授業中でもフトそのことを思い出すと、モゾモゾと腰を動かしてワレメから首を出すクリトリスを

抑えなければならないほど発情した。

姉ちゃんと抱き合って快楽を共にする、そんな生活をしている健が羨ましくてならなかった。

奇妙なことに、そんな羨ましさが嵩じて一種の愛情に変形する。そんなことから、紫織のほうから

誘いをかけて、その後も健とは時々デートするようになっていた。

逢うのは母親の帰ってこない紫織のマンションである。ここならば金はかからないし、若い二人には

贅沢すぎるほどのセックスが出来た。だがいくら聞き出そうとしても、健はキネ子との関係を

話してくれようとしない。聞けば聞くほど、真相は茫洋とした夢の中に迷い込んでしまうのである。

キネ子にしても、まだ20代前半だからプロポーションは素晴らしい。未完成な紫織の曲線より

遥かに上のようにも思えた。

この飛びぬけた現代風の女性が、暴走族という若者の遊びに熱中して、リーダーの弟と

おそらくは肉体関係を持っているという事実は、紫織のような大人の世界に片足突っ込んだ

だけの少女にとっては、憧れというより映画の中のアクションシーンを見るような夢の世界だった。

この年代の少女が胸をときめかすのは、決して軟弱なメロドラマや甘いラブシーンばかりでは

ないのだ。

その日も、紫織は携帯で健に連絡を取ろうとしたが、繋がらなかった。

キネ子の電話番号は健に聞いても教えてもらえないので、二人とも昼間から何をやっている

のだろうと想像は想像を呼ぶ。またモヤモヤと頭の中に妖しい場面が浮かんできて、紫織は

自然に指を陰毛の周りに這わせていった。

もうほとんど日常化したオナニーの始まりである。

紫織のような年令の少女にとって、それは直接異性との性交欲に結びつくものではなかった。

男の子に抱かれて乱暴に捏ね回されるよりも、オナニーの方が、いっそう淫靡な輝きに満ちた

幻影の世界に遊べるのである。

紫織は健の逞しい男根が何回も自分とキネ子の間を交互に往復する夢を描きながら、一回、

二回と絶頂に達した。それだけで、充分に満足である。

時間にすれば一時間近く、回数で十回近く気をやって、紫織はいつの間にかウトウトと眠り

かけていた。けたたましく、玄関のチャイムが鳴ったのはそのときである。

「ふぁあい・・・」

寝ぼけたような返事をして、紫織はよっこらしょと起き上がった。捲くっていたスカートを

すばやく下げる。部屋中に女の匂いが充満していたが、そんなことはどうでも良かった。

健ちゃんかな、どうして今頃・・・

先刻携帯にメールしたとき、都合が良いときに返事をくれと書いておいたが、何故本人が

直接訪ねて来たのかわからなかった。オナニーの幻影がまだ続いていて、紫織はヒョロヒョロと

踊るような足取りで玄関のドアを開けた。

「健ちゃん、どうしたのよぅ・・・。アッ」

絶句して、紫織は一瞬立ちすくんで、そこに立っている男の顔を仰いだ。

「ふむ。お前が紫織か、俺を覚えているか・・・?」

一瞬、紫織は思考力を失ったような顔をしていた。

「俺だ、お前の父ちゃんだぜ」

男はためらいもなく腕を伸ばして、紫織の頭のてっぺんをぐりぐりと何回も撫ぜた。

「大きくなりゃがったな。ちょっと見ねぇうちに、もう立派な娘だ」

男の笑顔が、紫織の胸の中で急に大きくなった。

伝次郎と別れたのは、小学校一年生そこそこのときだったから、やがて八年になる。

その頃のことをはっきりと記憶しているわけではないが、当時、夜中に目が覚めて

布団の中から瞬きもせず凝視していた父親の印象は、声を出せば踏み殺されそうな猛獣

であった。

押し潰したような悲鳴を上げる母の絹枝を、打つ蹴る殴ると暴力を振るう伝次郎の存在は、

紫織にとって父親というより一人の男そのものだったのである。畏怖と尊敬が交錯して、

どんなに優しくされても親しめない存在であった。

それが・・・

いま紫織の目の前に立っている男は、みすぼらしいという訳ではないが、頭が禿げ上がり

デップリと肥って腹の出た、援交でいつも出くわす小父さんとあまり変わらない中年男である。

「お、お父さん・・・?」

「そうよ、思い出したか」

伝次郎は、両手で紫織の腰の括れを抱えてグイと抱き上げようとした。だが軽々と目の上まで

差し上げることが出来ないほど、娘が成長していることに気づくと、唇の端にウッフッフッと

自嘲的な笑いを浮かべて言った。

「誰もいねぇのか、中に入るぞ」

もちろん、拒む筋合いはなかった。八年ぶりに再会した肉親である。紫織は踊りたくなるほど

嬉しいような、ウキウキとした戸惑いを感じながら伝次郎を部屋の中に上げた。

「おう、それほど貧乏している様子でもねぇな」

すばやく辺りを見回して、伝次郎は、ふと目に留めたインスタントラーメンの空食器に視線を

落としながら言った。

「絹枝は、昨夜も部屋に戻ってこなかったのか」

「う、うん・・・」

「いい年コキやがって、まだ男に夢中になっているんだな。ええっ、そうだろう」

「よ、良くわかんないけど、誰かはいるみたいよ」

「あの色気違いが、娘がこんなに大きくなって、いったいいつになったら病気が治るんだ」

呟くような伝次郎の言葉を聴くと、幼い頃抱いていた印象とはかなり違う。

むごく家を出て行ったとしか思えなかった父の方にも、大人の世界では、それなりの理屈が

あったのかもしれない、と紫織は思った。

だがいくら理解しようとしても、こんな話は親に向かって聞けることではなかった。

そんなことより、紫織の頭の中は、八年ぶりで戻ってきた父をどうやってもてなしたら

良いかということで一杯になっていた。

2DKの居間から続いた炊事場でやかんにお湯を沸かしていると、背中から伝次郎が

屈託のない声をかけた。

「おめぇ、幾つになった。あの時は確か七つだったけど・・・。あれから、病気なんか

しなかったろうな」

「十四才・・・、うん、中二です」

「ふうむ、それにしては女臭いな。しばらく見ねぇうちに、大きくなったもんだ」

フフフッ・・・

紫織は父に背中を向けたまま、声を出さないで笑った。



6 ・ 家族風呂


久しぶりに会った父から女臭いと言われたことが妙に嬉しい。昔のように子供扱いされない

ことが、成長の証しだった。

「ねぇ、お風呂に入りますか? 今日はゆっくりして行けるんでしょう」

紫織は急に思いついたようにいった。

母親が帰ってこなければ料理も駄目だし、父娘と言っても、紫織に出来ることは何もなかった。

以前のように運転手をしているのかどうかわからないが、きっと身体は汚れているだろう。

絹代は今日は着ているものを代えに、多分夕方には戻ってくる筈であった。それまでの時間を

稼ぐには、風呂に入ってもらうのが一番の方法である。

「おう、ありがてぇな。それじゃ沸かしてもらおうか」

団地の浴槽は、温度を調節して蛇口を開けておけば自然にお湯がたまる仕組みである。

伝次郎は、仕事着ではないが、よそ行きの背広でもないブレザー風の上着を無造作に脱いだ。

幼い頃に布団の中から凝視していた父の裸体は、まるで猛獣のような印象だったが、いまは

流石に当時の若さを失っている。それでも紫織には、久しぶりに見る父の裸が眩しく輝いて

見えた。

思っていたよりも早く風呂が沸いて、紫織が新しいタオルを渡してやると、伝次郎は無言で

それを受け取って浴室のドアを開けた。以前からそうだが、タオルで陰部を隠すようなことは

しないのである。

瞬間、視線の片隅でチラッとその光景を映すと、紫織はワクワクと胸が躍るほど嬉しくなった。

父ちゃんのほうが、援交の小父さんなんかよりずっといい・・・

毛むくじゃらの下腹部から、ダラリと下がった父の男は、いつも抱かれている金持ちの親父の

比ではない、と紫織は思った。

わたしのお父さん、やっぱり凄い・・・

そう思うと、なぜか気持ちがウキウキして、自然に笑いがこみ上げてくるから不思議である。

ザァザァと、浴室から景気良くお湯をかぶる音が聞こえる。その音を聞くたびに、紫織の感覚は

異様な変化を示した。自分がもう数え切れないほどの男を知った女であると言う意識が

少しも沸いてこないのである。代わりに紫織を駆り立てていたのは、幼い頃、父親に抱かれて

可愛がられていた頃の、誰にも言わなかった懐かしい衝動であった。

「お父ちゃん、ねぇ・・・」

紫織は浴室のドアを開け、風呂場との仕切りになっている曇りガラスに上半身をこすり付ける

ようにして声をかけた。

「ねぇ、お父ちゃんてば・・・」

「おう何だ。あはは・・・、いい湯だぞ」

「ねぇ、背中、流してあげようか・・・」

「う・・・? 背中か、紫織が流してくれるのかい」

「うん、あたしがやってあげるわよ。嫌じゃないでしよう?」

「おう頼むぜ。それじゃ早く入って来い」

「はあぁぃッ」

弾んだ声で浴室のドアを離れると、紫織は手早くスカートを脱ぎ、パッパッと上着を脱いだ。

小学校一年生の頃と比べて、こんもりと乳房が小山になり、陰毛が黒々と生えてきたことも

気にならなかった。純真と言えば純真無垢だが、突然の父との再会に浮き立った気持ちは

いつの間にか完全に幼女の頃に戻っていた。

「ワッ、キャハハ・・・」

躊躇いもなく浴室の曇りガラスを開けると、湯舟に浸かっていた伝次郎が

「ようっ、来た来た。わっはっは・・・」

それまでの他人行儀でギコチなかった気持ちが、いっぺんに吹き飛んでしまったような

笑い声である。

「お、お父ちゃぁん・・・ッ」

紫織は男根をぶら下げて立っている伝次郎の胸に、

しがみつくように抱きつくと、毛の生えた乳首に

夢中で頬ずりした。

嬉しい、嬉しい・・・

顔をこすり付けるたびに止めどもなく涙が溢れ

出して、伝次郎の濡れた胸を二重に濡らした。

「おらぁ、泣くんじゃねぇよ。みっともねぇ」

伝次郎は、ガシッと紫織の肩を抱きしめながら言った。

「これから当分は親孝行させてやる。まぁ、絹枝が

どういうかもあるがな」

「お父ちゃん、お父ちゃんッ、ウッウッ・・・」

こみ上げてくる嗚咽で、言葉にならなかった。娘が父親を

慕う気持ちは、性的な関係を持った女房とはまた違うもの

なのかも知れない。今日まで、父ちゃんが突然いなくなってし

まった寂しさや哀しみを意識の外に

追い払って出来るだけ明るく生きてきた紫織にとって、それは夢のような過去の修復であった。

小さな胸が潰れるほど伝次郎に抱き締められると、紫織は腕の置き場所がなかった。

ダラリと腕を下げ、半分背伸びして抱かれている無防備な姿勢が、紫織に何よりの幸福感を

味あわせてくれた。

フッと気がつくと、手の甲にシャリシャリと父親の陰毛を感じる。下腹いっぱいに毛が生えて、

父ちゃんは毛深い方だから、手の退けようがなかった。

「ウエェ、エエン・・・」

嗚咽を繰り返しながら、紫織は全く衝動的に、何の計算もなく無意識に手のひらを返して

伝次郎の肉棒を握った。それがそのとき最も自然な行動であった。

それはまだ軟らかかったが、筋張って一握りにあまる。グッと握り締めると反射的に脈を打って

グイグイと太くなってくるのがわかった。

「ちえぇっ、子供のくせに、てめえ・・・」

乱暴に紫織を突き飛ばしたが、伝次郎は拒否も嫌悪もしている様子はなかった。

浴槽の中に突っ立ったまま正面を向いているので、肉塊がみるみるうちにその形を変える。

「うわ、わ・・・」

紫織はよろめくようにタイルに膝をついて、父を見上げた。

援交の親父などとは比べ物にならないほど怒張して、獣じみた体毛を持つ伝次郎の肉体は、

これが男だ・・・

と言わんばかりに無言で紫織を圧倒する。

紫織は唇か半開きになって、両手を恐る恐る差し伸べると伝次郎を仰いだ。

「てめぇ、女になる儀式はもう済んでいるのか」

「はッ、はい・・・」

それが何を意味するのかわからなかったが、すでに女になっていることには確信がもてた。

「ふうむ、いつまでも子供だと思っていたが・・・」

独り言のように言って、伝次郎はそのときようやく勃起している自分の男根に気がついた

ようだ。

さりげなく湯舟に身体を沈めると、ザバッと頭からお湯をかぶって、父親の声に戻って言った。

「それ、交代だ。紫織もよぅく温ったまらなければ駄目だぞ」

浴槽のふちを大きく跨いで外に出る。巨大な陰茎がブラブラとした袋をぶら下げて紫織の

目の前を横切っていった。

幼い頃からそうだったのだが、伝次郎は娘の前で決して恥部を隠そうとしない。

露出マニヤとかいった変態的な動機からではなく、それが肉親として当然のことだと思って

いるのだった。だから紫織は両親の性生活は飽きるほど見慣れていたし、絹枝があれほど

暴力を受けても、男と女はこういうものだと思い込まされていたフシもあった。

父に陰部を見ても別段恥ずかしいとも思わなかったが、

ただそれが、いきなり八年という空白を飛び越えて起こったので、女として成長した部分を

忘れてしまったというのが本当のところである。

それは、父の伝次郎にとっても同じだった。

何の予告もなく陰茎を握られて、たちまち勃起するほど紫織は成長していた。イメージとして

持ち続けてきたのは、まだ性徴の現れていない小学校一年生の幼女だったが、風呂場に

飛び込んできたわが娘は、小高く盛り上がった胸に栗色の乳首を持ち、明らかにそれと判る

股間に茂みを靡かせた若い女だった。思わず勃起してしまったことは、動物の本能として

恥じることではあるまい。

だがこのとき竜巻のように起こった父娘の性欲は、深く互いの胸に刻まれて、絶対に消えることは

なかったのである。






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