魅せられて


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7 ・ 愛と妄執の狭間で


絹枝が二日ぶりで戻ってきたのは、それから30分後、夕方の5時少し前のことであった。

玄関のチャイムが鳴って紫織が出てゆくと、ドアを開けた玄関の前で、絹枝はいつになく

厳しい口調で言った。

「紫織、誰か来ているの? これは・・・」

玄関に脱ぎ捨ててある靴を見れば、学校の友達でないことは一目でわかる。

「お友達? 違うんでしょう・・・?」

「ちがうよ、いい人・・・」

紫織はニコニコと笑いながら言った。何となく、胸の弾みがまだ続いているような感じである。

「えっ、それじゃ誰なのよ」

何か変な予感でもしたのか、絹枝が急に引きつったような声で言った。

娘が男でも引っ張り込んでいるのであれば、戻ってきた母親を迎えてこんなに嬉しそうな顔を

する筈がない。

とっさにバッグを持ち代えると、絹枝はドアのノブに手を掛けながら言った。

「あ、お母さんちょっと、今日はこのままお店に行くから・・・」

紫織から目を逸らして、あわててドアを締めようとする。

「悪いわね、お弁当を買うお金は持っているんでしょう」

呆気に取られている紫織の前で、ドアが半分閉まりかけたときであった。

「この野郎、逃げ出すんじゃねえ」

ドスの利いた伝次郎の声が、紫織の背中で聞こえた。振り向くと父はまだ湯上りのパンツ一丁

である。

「入って来い。ここはてめぇの家だろうが」

「あ、あ、あなた・・・」

「別れた亭主が戻ってきたからって、そんなにオドオドするこたぁねぇ。挨拶ぐらいしたらどうなんだ」

「あっはい・・・」

首根っこを掴まれた犬のように、絹枝は座敷に上がった。真ん中にある座布団をよけてスカートの

裾を気にしながら正座すると畳に両手をついた。

「あの時は、本当にご迷惑をおかけして、申しわけ・・・」

「そんなこたぁどうだって良い」

毛脛をむき出しにして、伝次郎はドカッと座布団に胡坐をかいた。

「相変わらずの淫乱は収まらねぇんだな。マゾだか変態だか知らねぇが、男に虐めてもらうのが

そんなに嬉しいんか」

「い、いえそんな・・・」

「誤魔化すんじゃねぇ、紫織が全部白状しているんだ」

伝次郎は勝ち誇ったように言った。

「このところ、ほとんど家に帰ってこないそうじゃねぇか。また新しい男でも作ったんだろう」

「ち、違います・・・ッ」

「違やしねぇよ。性懲りもなく、男に遊ばれることばっかりじゃねえか」

「いえ、こ、こんどのご主人様は・・・」

「何だとぅ、ご主人様だと・・・? この野郎

パシッと、絹枝の頬が鳴った。

「あッ、や、やめて・・・」

「うるせえっ・・・

座敷の隅で、紫織は呆然として棒を飲んだように立ちすくんでいた。

あの頃は、ただ母ちゃんが虐められているとしか思えなかったが、その奥にあった事情を

うすうすながら察すると、紫織は急に胸がドギドキと鳴り始めるのを感じた。

それは、忘れていた幼い頃、全裸で父の暴力を受けていた母の姿そのものである。

「やめてください。紫織の前で、お願いだから・・・」

「フフン」

伝次郎は鼻の先で笑いながら言った。

「てめぇ、さっきご主人様と言ったな。情夫のことを、いつもそう呼んでいるのか」

「違いますッ。つい、口が滑って・・・」

「隠さなくたって良い。俺は何も、てめぇに未練があって帰ってきたわけじゃねぇんだからな」

「わ、わかっています」

「紫織を、どれだけ大切に育てているか、それを見に来ただけだ」

「は、はい」

「さっき、紫織から聞いたが、母親らしいことは何もやっていねぇようだな」

「いえただ、毎日お店が忙しくて・・・」

「都合の良い言い訳するんじゃねぇ

胡坐をかいた足を伸ばして絹枝の肩先を蹴ると、後ろ向きに仰け反った拍子にスカートが

捲れて太股が露出する。慌てて裾を引っ張って元に戻そうとする母の姿に、紫織は痺れた

ようになった。

今までは父ちゃんが勝手に女を作って出て行ったとばっかり思っていたのだが、両親の

離婚の原因というか、責任や弱みは、どうやら母ちゃんの方にもあったらしい。これは、

この日紫織がはじめて知った事実である。

母が二・三日帰ってこなくても、それはそれでかえって都合が良いと思っていたのだったが、

紫織の方にも身に覚えがあるので、考えてみればその方がよほど不自然である。

父親の伝次郎にも、絹枝ばかりを責められない行為があったことは事実だろうが、揉め事の

真相は淫乱な絹枝の男関係に主な原因があったのではないか・・・。

そう言えば、父が出て行ってからも、紫織は母と一緒の布団で寝たという記憶が

ほとんどなかった。

今では慣れっこになって、別に淋しいとも思わず、食事はコンビニの弁当、夜は援助交際か、

健のアパートかグループの誰かの部屋に行って弄ばれながら眠る。

居丈高になった父に縋って暴力をとめるでもなく、紫織は部屋の片隅に立ったまま、この母の血が

自分にも色濃く流れていることを思い知らされるような気持ちで見つめていた。

「紫織、お前いつまでもそんなところに立っていないで、こっちへ来て座れ」

声をかけられて、紫織は人形が歩くようなギコチない動作で父の横に来てベタリと横座りになった。

「いいか、これからお前の母ちゃんがどんな女か教えてやるからな。よぅく見ておけ」

「え、えッ、お願いです許して」

絹枝が震える声で後ずさりするのを、腕を伸ばしてグイと髪の毛のてっぺんを掴んだ。

「うるせぇっ。ご主人様には今でも毎晩やっていることだろうが・・・」

ズルズルッと引き寄せて、絹枝の顔をそのままパンツ一丁の下腹部にこすりつける。

「ウッ、ムムゥッ」

引きずられたとき洋服を半分剥がされて、下着から乳房がこぼれ落ちそうになっている

「ほらっ、てめぇが大好きだった芋の味だ。久しぶりにもう一度舐めさせてやらぁ」

昔からそうだったのだが、伝次郎は娘の前で自分の陰部を隠すことをしない。パンツの横から

ヌッと太くなった奴を掘り起こすと、絹代の唇にグリグリとなすりつけた。半立ちの肉の塊が、

みるみるうちに太く大きくなってくる。紫織は眼を見張った。

「ムハッ、や、やめ、て・・・」

濃い色の口紅が、パンツについて赤く染まるのも構わず男根を突きつけられると、たまりかねて

絹枝が僅かに口を開く。その間隙に容赦なく奥までこじ入れると、絹枝はむせ返りながら、

思い切り大きく口を開かなければならなかった。

「あれは、健ちゃんのよりずっと太い・・・」

先刻思わず握ってしまったときの掌に余る感触がよみがえってくる。

眼を半開きにして視線を中に泳がせながら、苦しげに口を開けている無残な母の表情は、

紫織にとって間違いなく一種の恍惚であった。いつの間にか、紫織は父の背中に寄りかかって、

両手を首に回してしがみついていた。

「グフッ、グホッ、ウゲェェ・・・」

紫織が後から支えているので、伝次郎は絹枝の頭を抱えてガシガシと大股広げた下腹部に

こすり付ける。

それが10分近く続いて、ようやく髪の毛を離したときには絹枝の唇の周りは真っ赤になっていた。

そのまま捻じ伏せるように仰向けに転がすと、唇の端から涎か胃液か判らない粘り気の強い液体が

ダラダラと流れ出す。絹枝にはそれを拭おうとする力も残っていなかった。

「ふふん、てめぇのご主人様と

どっちが上だ。言ってみろ」

ヨレヨレになった上着を

引っぺがし、露出した乳首を

無惨に揉みしだきながら

伝次郎が言った。

「あ、い、痛い・・・ッ」

「ふはは、この程度で音を上げる

ようじゃ、てめぇのマゾもまだまだ

だな」

嘲るように言いながら、膝の上まで捲くれたスカートを遠慮会釈なく胸の近くまで引っ張り上げた。

エッ、ああッ・・・

父の肩越しに見た、白い蛙の腹のような女の下半身。

紫織は無意識に、思わず声を上げそうになった。

母はパンティーを穿いていなかった。それは紫織も最近ではノーパンで街を歩くことが多いから

驚くほどのことではなかったのだが、ビックリしたのは、投げ出された脚の合わせ目に、

あるべき筈の黒い部分が見当たらないことであった。

母の陰毛は、幼い頃の記憶でもハッキリしているのだが、目の前に晒された絹枝の性器は、

笑み割れたような割れ目の奥から、朱鷺色に変色した小さな肉片が僅かにハミ出している

だけなのである。

「フン、おまんこの毛まで剃っているのかよ」

絹枝が剃毛されていることは、伝次郎もはじめて知ったらしくて、腹立たしげな声で言った。

「てめぇとはもう他人だ。ご主人様に可愛がってもらっているんならそれでも良いが、紫織の

母親だっていうことだけは忘れるな」

「ああぁッ、お、お願いです・・・」

そのとき、突然絹枝が首だけ持ち上げて呻くように言った。

「何だ、今頃になってお願いだと? どうせろくなことじゃあるめぇ」

「わ、私やっぱり、もう一度あなたのお側で・・・」

「ざけんじゃねぇ。てめぇはさっさとご主人様のところへ帰れ」

伝次郎が吐き捨てるような声で言った。

「俺が、一度別れた女とヨリを戻すとでも思ってんのか。考えが甘ぇんだよ」

ガックリと畳に顔を伏せた絹枝の首筋で、バラバラに乱れた髪の毛が絡みあっている。

紫織は何の感慨もなく、父の腕に縋って絹枝の滑らかな背中を見つめていた。



8 ・ 滲み出す淫情


いつまでも、娘の前に醜態を曝しているわけにはいかなかったろう。気を取り直したように身体を

起こすと、絹枝は自分で衣装箪笥の扉を開けた。後を向いて腰をかがめ、新しく出したパンティーに

足を入れている格好は、これが肉親の母親だとは到底思えなかった。

その気持ちは、おそらく絹枝も同じだったろう。パンティーを穿くと、ようやく何かが吹っ切れた

ように言った。

「すいません、お腹が空いたでしょう。いまお寿司でも取りますから・・・」

時刻は、もう夜の8時を回っていた。

近くの寿司屋から三人前の寿司を取ってつまみながら、紫織は他人に話しかけるような調子で

言った。

「ねぇ、あんた・・・」

街角で、知らない人に道を聞くような言い方である。

「えッ?」

「あんた、毛をどうしたのよ」

「ご主人様に剃って貰っているの」

さすがに視線を合わせることは出来なかったが、絹枝は何のためらいもなく言った。

娘には絶対に見せてはならないものを曝して、これからは恥も体裁も、母親としての権威も

捨てなければならない。 絹枝はようやく、母であることをやめる決心をしたようであった。

「こんなこと、紫織に言うのはおかしいから黙っていたけど・・・」

「へぇ、そんなことされても嫌じゃないの?」

「別に・・・、ご主人様に言われれば仕方がないもの」

「そうかなぁ、だってそれじゃ、他の人とヤルとき困るじゃん」

「いいのよ、母さんにはご主人様しかいないんだから・・・」

「おいおい、格好の良いこというじゃねぇか」

それまで黙っていた伝次郎が、面白そうに口を挟んだ。

「てめぇはいったい、その男の何なんだ。奴隷なのかい」

「はい、誓約書を書かされましたから」

「けっ、それでも人間かよ。犬に生まれたほうが良かったんじゃねえのか」

「そうかも知れないわねぇ。あなたのおかげですわ」

「ふふん、初めから変態だったからな。今度のご主人様は、可愛がってくれるのかい」

「いえそれが・・・、いくらお願いしても中に出していただけないの」

「孕まれると困るからじゃねぇのか」

「やっぱり、奴隷としてまだそこまで認めてもらえないからでしょう」

絹枝は珍しく投げやりな調子で言った。

「出すのは口の中か?」

「はい」

「ふはは、その調子だと小便も飲まされているな」

「はい、奴隷ですから」

結局、伝次郎の問いに答えて、ご主人様という男との生活も曝け出されることになったが、

絹枝にはもう悪びれる様子もなかった。

紫織にとって、それはまるでお伽噺を聞くような母の生きざまである。

無毛の性器を見せられたとたんに、この女が自分を産んだ母親だという気持ちはどこかに

吹き飛んでしまったのだが、それは決して哀しみや怒りといった感覚ではなかった。むしろ、

幼い頃から引きずってきた胸の重みが取れたというか、一種の開放感、誰にも束縛されない

自由のパスポートを得た勝利感に近いものであったと思う。

「おい、そろそろご主人様のところに戻らなくても良いのか」

はじめの暴力沙汰はどこへやら、伝次郎は上機嫌で言った。

「きっとお待ちかねだぞ。前の亭主の相手をしていたなんてことがわかるとお仕置きだぜ」

「いいんです、一晩くらい・・・」

絹枝は、この部屋から離れたくないような素振りだった。

突然現れた別れた亭主に未練があるわけでもないのだろうが、考えてみれば裸に剥かれ、

咽喉が詰まるほど奥深く舐めさせられはしたが、伝次郎は挿入はおろか、使い古した

女の道具に興味はないと言わんばかりに、性器には指さえ触れていないのである。

三十も半ばを過ぎて熟しきった女の肉体に、これが拷問に近い責め苦であることは

容易に想像がついた。

「お父ちゃん、ねぇ、泊まっていくんでしょう?」

紫織が鼻声を出して甘えるのを聞き流して、伝次郎が冷酷に言った。

「出て行け。俺はお前なんか抱く気はねぇよ」

とりつくシマもなく突き放されて、絹枝は無言で俯くばかりだった。

娘に見送られて、父親とも違う男のもとに去らなければならない屈辱は、眼の前で犯されるよりも

ずっと残酷で惨めな思いである。だからと言って、今更伝次郎に泣き縋れば、結果はさらに

悲惨なめに合わされることは判っていた。

絹枝は本当に犬になったような気持ちで着ているものを替え、色違いのハンドバッグを持って

伝次郎の前に両手をついた。

「いろいろと、ご心配をかけました。いやな思いをさせてしまって・・・」

「うむ」

そして玄関を出るとき、思い出したように紫織に声をかけた。

「ごめんね、紫織・・・。お父さんのこと、お願いね」

「いってらっしゃい」

紫織はキッチンの方を向いたまま、声だけで応えた。

絹枝の姿が消えると、部屋の中には奇妙に張り詰めた空気が残った。

形はどうであれ、三人が顔をつき合わせていれば、それなりに親と娘の家庭である。

だが伝次郎と二人だけになると、いくら父親といっても男と女。紫織の五感のすべてに、

圧倒的な男としての父の迫力がのしかかっていた。

年令から言えば、いつも援助交際する中年の小父さんとそんなに変わらないのだが、

母に対していやらしいお世辞や助平な笑いのない父の態度は、紫織にとって理想的な

征服者のように思えた。

強引な思いやりのないやり方で、絹枝をいたぶってくれたことが凄く嬉しい。

紫織が初めて見る父の巨大な肉棒を咥えて、顔を真っ赤にして喘いでいた母の

苦しみが小気味良かった。

だが紫織はそんなことはおくびにも出さず、三才の幼女に戻ったように逞しい父の素肌に

まつわりつき、腕に抱かれて甘えた。伝次郎もそれが当然のように娘の肢体を愛撫する。

だが、いやらしさや淫らな下心はないようであった。

意識のどこかで、お父さんかいつ私の股を広げてくれるんだろうと期待しているのだが、

伝次郎は決して娘の性器に手を触れようとしないのである。

畳に仰向けになって、腕を紫織の枕にしている父の腋の下から、男の匂いがムンムンと

漂ってくる。長くて濃い腋毛を指で摘まんで引っ張って、紫織はキャハキャハと笑った。

笑いながら視線を下にずらすと、パンツの下で男根が見事に突っ立って帆柱を掛けている。

「お父ちゃん、好きぃ・・・」

健や仲間たちには出したことのない甘い声で、紫織は父の胸に頬擦りするように顔を寄せた。

「うわっはっは、くすぐってぇな」

あんなに立派な帆柱が立っているところを見れば、興奮していない筈はないのだが、伝次郎は

楽しそうに笑っただけであった。

「ねぇ、お布団敷こうか? 寒くなってきたでしょ」

「そうだな、お前が敷けるのか」

「お父ちゃん一緒に寝て、いつも独りで寝るの。淋しいから」

だから毎晩部屋に戻らず、泊めてくれる仲間を探して携帯をかけまくっているのだったが、

今夜は違う。父のにおいを嗅ぎながら一緒に寝られると思うと、紫織は心臓が躍るような

ときめきを感じた。

「よし、それじゃ久しぶりで、紫織と寝ることにするか」

ムクリと起き上がると、いつの間にか父の勃起はおさまっていた。

部屋は寿司を食べ散らしたままになっているので、紫織はいそいそと奥の間に布団を敷きに

立った。

夜具はもともと二組しかないのだが、母のものには目もくれずに、いつも使っている自分の布団を

部屋の真ん中に敷くと、紫織は縦折りにした毛布を二枚並べて、掛け布団の代わりに置いた。

「・・・・・・?」

太股に、何か変な感じがする。パンティーは穿いていないので、無意識に手を伸ばして、紫織は

エェッ・・・、と息を止めた。

布団を敷くのに身体を動かしたせいか、穴の奥からトロトロとねばつく液が滲み出してきて、

ワレメから溢れて内股の方までヌラヌラと濡らしている。

それこそ、紫織の偽りのない父への発情のしるしだったのである。






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