魅せられて



�J






21 ・ 母の実像


その夜、健から聞き出せたことは何もなかった。

肝心の絹枝と話をする時間も、いつもスレ違いでままにらならない。母は紫織が

学校に行っている間に戻ってきては、必要な用事だけ済ませると置手紙もなく

ご主人様のマンションに帰ってしまう。

別に淋しいわけではなかった。それだけで、十分に母娘の絆は繋がっている。

畜生になった絹枝に通俗的な母の愛を求めているわけではないが、そんなことから

紫織のセックスの対象は急速に異性としての父の伝次郎に傾いていった。

畜生の腹から産まれたんだから、わたしだって畜生でも良いじゃない・・・

性的に父の肉体を求めることが自然だとは紫織も思っていないが、だからといって

健のようなノーマルな若者を恋人に持つ気持ちにはなれないのである。

だがその父も、ここ半月以上、団地の部屋に姿を見せてくれないのだった。

きっと、他の女とヤルのに忙しいんだ、と紫織は思っていた。

お父さんの精力とあの素晴らしいおちんちんに触れたら、女のほうがついてこない

わけがない。それは紫織にとって密かなプライドあり、父を追う女たちへの優越感

であった。娘として、性器が立派な父親を持つより上の誇りはない。

オナニーは毎日のことだが、それで性欲が鎮まるということでもなかった。

こうしてすぐにひと月ほどが経って、紫織はとうとう我慢できなくなって母の携帯に

電話をかけた。いつもはこちらから連絡することなどないのだが、業を煮やして

いったいどうしてくれるのよ、と言った気持ちである。

「ハイッ、絹枝でございます」

おそらくご主人様からの電話だと思ったのであろう。母の声は上ずったように

高く早口だった。

「お母さん・・・?」

「えッ、あッ、紫織・・・

一瞬絶句したが、絹枝はすぐに語調を立て直して言った。

「どうしたの、今ごろ、何かあったの?」

「ううん、そんなんじゃないけど、ご主人様いないの?」

「今はお仕事でしょう。お忙しい方だから・・・」

「ふうん、じゃご主人様のメアド教えて」

「ええッ、何でそんな、メールなんかしたらご迷惑でしょう」

「いいじゃん、あんたは毎日会っているんだから」

「・・・・・・・・・」

「わたしなんか、あれっきりよ。ご主人様に私を呼べって言われたことないの?」

「あぁ、ときどきはまた呼んでやろうとおっしゃって下さることもあるけど」

「あんたが、逢わせないようにしているんじゃないでしょうね」

「えッなんで、お母さんはそんなこと・・・」

「だったら、ご主人様に言ってよ。わたしが待ってるって」

「えぇぇ紫織、あなたそれ本気の?」

「わたし、ご主人様が好きよ。好きになっちゃいけないの?」

「そ、そんなことはないけど・・・」

「あんた、ご主人様の家畜でしょう。ご主人様がわたしと遊ぶの見てたって良いじゃない」

「そッそれは、はい、いいわよ、構いませんけど・・・」

とっさに判断したのであろう。絹枝は半分口ごもりながら言った。

「お仕事の都合もあるから、今度言われたらすぐに連絡する」

「そんな、ズルい。あんたからご主人様に言ってよ」

「えぇ、どうやって・・・?」

「ご主人様に言われているんでしょう? 母親が娘を提供するのは家畜の義務だって・・・」

「そ、それは、だから私もそのつもりで・・・」

「だったら良いじゃない。娘が好きだって言っているんだから、もう一回やんなさいよ」

「・・・・・・・・・」

中学3年にもなれば、理屈では親を負かす。紫織に家畜と言われて、絹枝は返す言葉が

なかった。

「あんた犬と同じなんだからさァ、ご主人様が誰とヤッても文句言わないんでしょう」

「それはだって、あの方の自由ですから・・・」

「それじゃわたしとヤラせて、あんたが仲立ちしたんですからね、責任持ちなさいよ」

「し、紫織・・・」

「何さ犬のくせに、ハイッて言いなさいよ。躾が悪いんだから・・・」

「ハハ、ハイ・・・」

家畜として飼われている以上、何を言われても仕方がない。絹枝はもう

紫織の母親ではなかった。いわば、牝犬が犬の仔を産んだに過ぎない。畜生に親子の

区別はないのだ。

「ねぇあんた、そういえばさァ、この間、健ちゃんのお姉さんと逢ってくれたんだって?」

絹枝が自分に対してもマゾとしての反応を示していることを知って、紫織は言葉の

調子を変えた。

「えッ、ああ、キネ子さん・・・?」

「うんそう、それでどうだったの? あの人、やっぱり女王様?」

「えぇまぁ、それはそうなんだけど・・・」

「あの人レズなんでしょう。どんなことされてきたのよ、教えて・・・」

「教えてと言われても・・・」

それは確かに電話で話せるようなことではあるまい。絹江は急に口ごもるように言った。

「なんだか、私では駄目だったみたいで・・・」

「へぇ、気に入ってもらえなかったの?」

「えぇ、私が言われたとおり、できなかったから」

「何故よッ、犬なんかにも出来ないことってあるの?」

「犬、犬って言わないで・・・」

耳に当てた薄い携帯の奥から、今にも泣きだしそうな絹枝の声が聞こえた。

「わ、私、もしかしたらそんなものにはなれないのかも・・・」

「変態じゃないって言うの? 馬鹿なこと言わないでよ」

紫織は無性に腹が立って、思いつく限りの言葉を使って絹枝を罵倒する。

だが絹枝はいくら問い詰めても、最後まで、何が出来なかったのか、どうして

出来なかったのか、答えようとしないのである。それは言い訳とも違う、

どうしても話すことが出来ない絹枝の必死の弁明であった。

いったい何のことだろう・・・?

紫織が言葉を切って考えていると、反対に絹枝が、何か危ないものに触るような

調子で言った。

「紫織、あなたときどきはキネ子さんと会うことがあるの?」

それは、キネ子と女同士の肉体関係があるのかどうかを、間接的に聞いているのだ。

「ううん、顔は知っているけど、二人だけで逢ったことない」

「そう、それならば良いの」

「健ちゃんのお姉さんだからね、あいつが逢わせたがらないのよ」

「あ、そうか、姉弟なのね」

「でもさァ、あの二人、同棲しているんだよ。健ちゃんは逃げたいらしいけど・・・」

「そうなの? 紫織は、彼氏とは仲良くしているんでしょ」

「うんまぁ、そんな好きっていうほどじゃないけど、やっぱお父さんのほうが良いもん」

「えぇぇ、お父さんと・・・?」

「あんたも馬鹿ねぇ、あんな立派なお父さんに捨てられて、ご主人様なんかと・・・」

「そ、そうね、お父さんは、時々来るの?」

「うぅん、今はほかに女の人が出来て忙しいみたい」

話をしていると、伝次郎への恋しさがこみ上げてくる。ご主人様とは、あの粘っこい

蛭のような刺激が欲しくて、もう一度抱かれてみたいと思っただけだが、

父親の伝次郎には、男として痺れるような恋慕の情があるのを否定することが出来ない。

紫織は急にせつない気持ちになって、ご主人様の都合を聞いておくように命令調で

絹枝に伝えると早々に電話を切った。

キネ子と母のことは依然として謎である。

電話の感じでは、絹枝のほうに奉仕できなかったことがあるらしいのだが、健ちゃんの

お姉さんは、それほどの怖ろしい変態なのだろうか。

紫織は母の血を引いて多分にマゾっぽいところがあるが、本質的には多重姦、肉親姦、

露出姦のマニヤなのである。どんな屈辱にも侮蔑にも耐えてご主人様の犬に

なりきろうとする絹枝の気持ちも判らないわけではないが、キネ子の要求を満たす

ことができなかったと言うのは、一種の拒絶反応が起きたのだろう。

あんな、人権を失ってしまった女に、拒絶反応なんて起きるものなんだろうか・・・

と紫織はためらいを見せた母の態度が腑に落ちなかった。



22 ・ 男くらべ


ご主人様から、もう一度紫織に会おうという連絡があったのは、それから三日ほど

経ってからであった。

電話で取り次いだ母の絹枝が、クドクドと待ち合わせの方法を説明する。前回と

違って、今度は絹枝の立会いなしに二人だけで逢うことになったのである。

絹枝にしてみれば、娘に嫉妬するわけではないが、ご主人様が紫織に何をする

のか、気にかかるのは無理もなかった。

場所はJRの駅の近く、ご主人様のマンションを使わずに車でラブホを利用する

と言うのだから尚更である。

「お願いよ、紫織、ご主人様に失礼なこと言ったりしないでね」

「判ってるよ。そんな、いちいち心配されなくたって・・・」

母にとってはご主人様でも、紫織にはただの男だ。それほどの気遣いをする

必要もなかった。指定された日、紫織は学校から戻ると、紺のひだスカートに

ルーズソックスと言った中学生スタイルのまま約束の場所に行った。

駅前にある大型スーパーの喫茶室に入ると、ご主人様は時間より前に来て

待っていた様子だった。

「こんにちわ、この前はどうも・・・」

「うむ、何か欲しいものは?」

「うんじゃあ、アイスクリームにしよう」

ご主人様はコーヒーを半分以上のみ終わっていたが、待たされたと言って

不機嫌な顔もしていない。昼間の明るいところで見れば、女に優しい普通の

小父さんである。犬だ奴隷だとまつわりついている絹枝がいないので、

紫織も打ち解けて気楽に話すことが出来た。

「どうだね、紫織も今年は高校受験じゃないのか」

「うん、どうなるか判らないけど・・・」

「そうか、まあ、お母さんと同じ道に進むのも良いが」

ご主人様はニコニコと笑いながら言った。

「こういうことに興味を持つようになったのは、幾つぐらいからだね」

「よく判んないけど、お父さんのをいつも見ていたから・・・」

「ほう、両親のセックスをか?」

「そう」

「それじゃ、初体験はいつだね」

「ずぅっと後よ。去年の夏ごろだったから」

「痛くなかったかね」

「痛かったことは痛かったけど、でも平気だったもん」

初体験が輪姦だったことは黙っていた。

初体験はいつだとか、痛くなかったかと言った話は援交の小父さんからも

良く聞かれることで、ご主人様のような中年には興味がある話題らしいことは

紫織も知っていた。マワされたことなど話して、そのときの様子をひつこく

聞きただされることが煩わしかったのである。

千葉県の田舎には、東京からのドライブ客を狙ってかなり豪華なドライブインが

ある。

スーパーの喫茶室を出て、ご主人様の車が入ったのは、市内から小一時間

走った森の中の中世のお城のような建物で、紫織もこんなゴージャスな

ラブホは初めてであった。

部屋に入ると、正面に�]字型の角材が取り付けてあったり、壁の凹みに

牢獄のような鉄格子が嵌め込んであったり、またいでも痛くないように

レザーを張った木馬が置いてあったり、要するにSM専用のホテルなのである。

そのわりには、ベッドがありきたりのダブルサイズで、SMと言っても、最後に

ヤルことはみんな同じなんだな、と紫織は思った。

洋服を脱がされ、�]柱にくくりつけられて写真を何枚か撮られた。ご主人様は

背広を着たままで、額に汗を滲ませながらあれこれとロープを操作するのが

何だか大変そうで、お父さんならきっとこんなことはしない。床に転がしておいて

獣のようにのしかかってくるだろう・・・、そう思うと、ご主人様の努力が気の毒で、

申し訳ないような気持ちになってくる。

「どうだ、少しは感じるか」

「うん、はい・・・」

「逆さ縛りにしてやろうか、これはキツいぞ」

何をされるのかと緊張していると、ご主人様が�]柱の金具をどこか動かして

カチャリと音が聞こえた。

何と、今まで気がつかなかったが、この�]柱は

全体が動くのである。

ア、アッ・・・、と思うまもなく柱がグルリと回転して、

頭が下になった。

「うはは、女子中学生の逆さ責めだ。こいつは

値打ちものだぞ」

上を向いた肉の割れ目を指で掻き分けて

覗き込みながら、ご主人様が言った。

「穴はちゃんと締まっているな。ふつう、ポッコリと

空気が入ってしまうものだが」

「アァウン、ククク・・・」

「うん何だ? お母さんがお前と同じようにされて、

もがいている姿を想像すると、妬けてこないかね」

「ふゥん、はァ・・・」

何か言いたくても言葉が出てこない。頷いて見せようとするのだが、

首が動かなかった。

「はっはっは、苦しかろう。お前のお母さんもこうされるのが好きだ」

ご主人様は、年のわりには濃い陰毛を引っ張りながら言った。

「このポーズでおまんこの毛を剃ってやるとな、ひぃひぃと啼いて悦ぶんだよ」

故意に絹枝の話をして、紫織の反応を試そうとする。ご主人様一流の

精神的な責めなのである。だが紫織は、頭に血が下がって、顔を

真っ赤にして耐えるのが精一杯だった。

「ふうむ、お母さんよりは毛深いんだな。どうだ、ここで剃ってやろうか」

お父ちゃあぁん、助けて・・・ッ

紫織は頭の中で叫んだ。

毛を剃られたら、恥ずかしくてお父さんに見せられない。第一、とてもそんなに

長い時間、逆さ磔を我慢することなんか出来そうもない・・・

「ははは、そうか、ツルツルにされるのは嫌なのか?」

ご主人様は、ゆっくりとズボンのベルトを外しながら言った。

「それじゃこれを舐めろ。上手く舐められたら剃るのは勘弁してやる」

少し膝を曲げると、ちょうど紫織の顔の前にご主人様の袋がぶら下がっていた。

必死に舌を伸ばしてそれを捉えようとするのだが、向こうから近づけてくれない限り

届くわけもなかった。

「それ、まだ訓練が足りんぞ。早くお母さんのような牝犬になれ」

とうとう力尽きて、唇を開けたままガックリと顎を上げると、ご主人様が自分で

男根を握って容赦なく開いたままの口の中に入れた。

「奥まで行くぞ、少しぐらい苦しくても辛抱しろ」

ゲエェェッ・・・

胃袋から、スーパーの喫茶室で食べたアイスクリームが鼻の穴まで逆流して、

紫織は全身で痙攣した。

ゲホ、ゲホッ、ウゲェェ・・・

「馬鹿者っ、こんなところで吐く奴があるかっ」

流石にやりすぎたと思ったのか、ご主人様が男根を抜いて、�]字柱をあわてて

元に戻す。頭からスゥーッと血が引いて、気が遠くなってゆくのを、紫織はなんて

気持ちが良いんだろうと思った。だが、溶けたアイスクリームに胃液が混じった

嘔吐物で噎せた咽喉はまだ痙攣を続けている。

「ふん、まだまだ母親には及ばないな。まぁ若いから仕方がないが」

ご主人様の言葉を虚ろに聞いて、紫織は、この人はどうしてセックスを楽しもうと

しないんだろうと思った。

初めてのときには母と二人の道具の味比べをやってくれたから嬉しかったが、

今度のように苦しいだけの責めには我慢できない。それも痛いだけならまだ

快感に代えることも出来るが、呼吸も出来ないようでは気持ちよくなれる筈も

なかった。

紫織がグッタリとしてしまったので、ご主人様も普通の男に戻ったようだ。

あとはベッドで、母のイキ方と比較しながらようやく射精まで達して、その日は

終わりだった。

「お前も早く、お母さんと一緒に私の相手が出来るようにならなきゃいかんな」

「はい」

「どれ、足を広げてみなさい。ここの毛も、いつか剃ってやろう」

母と娘を一緒に犯すという行為は、ご主人様にとっては一生にまたとない

快楽なのかもしれない。だが紫織には、たまたまそうなっただけの話で、一度

通り過ぎてしまえば、それほど性欲を掻き立てられるような設定ではなかった。

べつにご主人様が嫌いなわけではないが、こうなるとますます逢いたくなるのは

父の伝次郎である。

「さぁ、そろそろイクぞ、紫織もイキなさい」

「はい」

「いいか、そら、今だ・・・」

「ふぅん、いい・・・ッ」

腹の上に夥しく流れ出した精液をホテルのタオルで拭きながら、紫織はボンヤリと

お父さんは今頃、どんな女の人とヤッているのかな、と考えていた。





<つづく> <目次へ>