魅せられて



�K






23 ・ お人好し


ご主人様と別れて、気持ちの落ち着かぬままに、紫織は一日おきくらいに

伝次郎の夢を見た。

べつに犯されているとか、セックスをしている夢ばかりではないが、目が覚めると

思考がそっちのほうに傾いてしまって、布団から起き出す前についオナニーを

やってしまう。それが朝起きるときの楽しみでもあった。

そんなこんなで、何事もなく月日が過ぎる。

ご主人様と逢ってから三週間ほど過ぎた夜のことであった。

この間、援助交際の小父さんたちからの電話で、紫織の携帯はメールの途切れる

ことがなかった。

自然、暴走族の車に乗ることもなく、紫織には級友も誰も知らない生活が続いていた。

成績はクラスでも十番以内には入っていたが、高校に進む気がないので、中学を

卒業したら、ホテルマンの養成学校にでも行こうかと思う。一流のホテルに就職して

メイドになったほうが、受験競争に追い立てられるよりよほど楽しい・・・、と紫織は

思っていた。

そんなある日・・・、

もう春も終わって、梅雨時の蒸し暑い空気が夜になっても部屋の中に漂っている

季節だった。

紫織は援交のおかげで新しく買ったベッドの上で、パジャマの下は素っ裸、パンティーも

穿かずにひっくり返っていた。

いつ新しい彼氏が出来ても良いように、ベッドはセミダブルである。というより、このベッドで

父の伝次郎に抱かれてみたいと言うのが、紫織の夢なのであった。

だが伝次郎は、女漁りに忙しいのか、あれきり顔を見せることはなかった。

お父さんにとっては、私は女のうちに入っていないんだ・・・

それが紫織の哀しい諦めである。

ピンポーン、ピンポーン・・・

もう夜の11時過ぎ、玄関のチャイムがけたたましく鳴った。

こんな夜更けに、もしかしたらお父さんではないかと思ったのだが、チャイムの鳴り方が

違う。続けざまにボタンを押しているらしく、切れ目なくピンポンピンポンと鳴るのだが、

伝次郎ならこんな鳴らし方は絶対にする筈はなかった。

誰なのさ、今頃・・・

舌打ちをしたいような気持ちでベッドを出ると、紫織は入り口の扉越しに大声で言った。

「誰ァれ、何の用なの・・・?」

「わ、私よ、エリカ・・・。ねぇ早く開けて・・・」

今度はトントンと鉄の扉を手で叩く音が聞こえた。

二人でマワシをとられたときの女子高生である。あの夜は一晩停めてやったが、

それ以上親しく付き合う気もなくそれきりになっていた。エリカなら追い返すことも

出来ないと、紫織はドアの内鍵に手をかけながら言った。

「どうしたのよ。こんなに遅く・・・、また何かあったの?」

「あッ、ありがとう・・・」

半分開いたドアの隙間をスリ抜けるように入ってくると、エリカはまだ興奮が

収まらないといった感じでオーバーな声を上げた。

「あぁいや、また吐きそう。ちょっとおトイレ貸して・・・」

紫織が呆気にとられていると、エリカは玄関の横にあるトイレのドアを開けて

便器の前にへたり込むと、本当にゲ、ゲェッと咽喉を鳴らした。

「どうしたのよッ、あんた、そんなとこでゲロ吐かないでよ」

酒に酔っている様子でもない。服装も、それほど乱れているわけでもなかった。

紫織は便器に顔を突っ込んでいるエリカを見下ろしながら、腹立たしげに言った。

「どこで、何をされてきたって言うの。いっきなり飛び込んできてさ」

「ご、ごめん、だってぇ」

ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、エリカはしゃがみ込んだまま、顔だけ

便器から上げて言った。

「ひどいんだよ、あの女・・・。あぁもう、あんな変態

「変態って、誰・・・?」

「健ちゃんのお姉さんだって、本当? あの、キネ子っていうの・・・」

「えぇッ、あの人なら、わたしも良くは知らないけど、何でもSだとかって」

「Sか何か知らないけど、健ちゃんが逢ってくれって言うから逢っただけよ」

「へぇ、健ちゃんが? あんた、ずうっと健ちゃんと付き合っていたの?」

「えッ、あ、あぁそういうわけじゃないんだけど、あいつがしつこく言うから・・・」

「あいつって、健のこと?」

「あ、ごめん、ついいっちゃった」

エリカはバツの悪そうな顔で、手のひらで唇を抑えるような仕草を見せた。

道理で、近ごろ健が姿を見せないわけだ・・・

あんなに酷いめにあわされて、結局エリカは健の女になっていたんじゃないか、

と判ると、紫織はなぁんだ・・・、と言う気持ちにはなったが、嫉妬は沸かなかった。

「それで、どうしたのよ。健ちゃんのお姉さんが・・・」

そのほうが、よほど重大な情報なのである。

「あぁ、キネ子? でも健ちゃんも悪いのよ。どうしても私に逢ってくれなんて言うんだもん」

エリカは、健に熱を上げていたことを言い訳するように言った。

キネ子が以前から女の肉体を欲しがっていることは紫織も知っている。だが健が

言葉を濁して、どうしても逢わそうとしないのである。結局母の絹枝を紹介すると

言うことになって、おかげでご主人様に母娘ドンブリを提供するハメになってしまった。

その母も、キネ子とのことはあまり語ろうとしない。

絶対に何かある・・・

紫織から盗むような形になったエリカの弱みをついて脅せば、きっと白状させることが

出来るだろうと、紫織はとっさに計算した。

「あがんなよ、隣りに聞こえるからさ」

「あの、悪いけど、お風呂、入らせてくれない?」

「へぇ、今から?」

「だってぇ、身体中が臭いんだもん。ねぇ、そっちまで匂わない?」

思い出すと、また吐き気がこみ上げてくるような顔でエリカが言った。

「何よ、いったい何をしてきたのよ。さっきから聞いてるじゃない」

「うんあの、健ちゃんが、キネ子に逢って相手をしてくれって言うから・・・」

「それで行ったんでしょう。キネ子ってあの人、姉弟で関係があるんだからね」

「そうなんだって、私知らなかったの。でもまさか、あんなことしているなんて」

「だからさ、あんなことって何よ。はっきり言いなさいよ

「あんた、本当に知らないの?」

「いちいち探る必要ないじゃない。あんな姉弟の関係なんか」

「姉弟の関係なんて嘘よ。キネ子がやっていることは・・・」

紫織は、エッと思った。それでは姉弟で同棲していると思っていたのは間違い

だったのか。エリカの口ぶりでは、二人の変態行為の中に巻き込まれたというのとも

違うようだ。

「健はキネ子の番犬なのよ。本当の妖怪はキネ子なんだわ」

ここから先の話を、二人の会話で表現していたのでは際限がない。簡潔に要点を

拾って記録しておくことにする。



24 ・ キネ子という女


約束の時間にマンションに行くと、健は待ちかねていたようにエリカの服に

手をかけながら言った。

「ちょうど良かったな、キネ子はいま風呂場に行ったばっかりだから、一緒に入んな」

くるくると丸裸にされて、健に背中を押されるように浴室のドアを開ける。

その視線の先にあったのは、湯ぶねに漬かったキネ子の滑らかな首筋から

肩にかけての曲線であった。

「・・・今晩わ」

「エリカ? よく来たわね」

後ろを向いたまま、キネ子は低い声で言った。

マンションの浴槽は狭い。無遠慮に湯の中に足を入れるわけにも行かず、ボンヤリと

立っていると、突然キネ子がザバッと湯ぶねから立ち上がりながら言った。

「何してんのよ、いいから一緒に入んなさいよ」

危ない足取りで浴槽のふちを跨ぐ。とたんにザアァッとお湯が溢れ出して、タイル張りの

洗い場が水浸しになった。

四本の脚を交叉させるような形で、キネ子の指が何の予告もなくエリカの性器に伸びる。

「アッ、うぅん」

避けるにも避けられない狭いスペースだった。女の指のしなやかな弄りをまともに受けて、

エリカが上半身を震わせながらキネ子の首にしがみ付く。女同士の誰に憚ることもない

痴態だったが、そのときのエリカには警戒心など微塵もなかった。レズというのは、

エリカにとって生まれて初めての体験である。男に無理やり迫られるような恐怖はないし、

甘美でロマンチックな先入観もあって、エリカはたちまち快感の虜になっていった。

「可愛いねぇ、さ、そこに横になって、お尻を向けてごらん」

先刻大量の湯が溢れ出たので、タイルが暖まっているのか、少しも違和感がなかった。

狭い洗い場のタイルに身体を丸めて、キネ子に尻の穴を舐められたとき、エリカは

あぁ何て快いんだろう、もっとやって・・・、と叫びだしそうになった。そして次の瞬間、

これまでに味わったことのない異様な感覚を下腹部に感じて、エリカは本当に

叫び声をあげた。

「うわわ・・・ァッ」

「静かにしてッ、動くんじゃない」

いつの間にそうなっていたのか、エリカの尻に短いビニールのパイプが突き刺さって、

反対側をキネ子が口に咥えていた。

「いいかい、これから最高に気持ち良いことしてあげるから、動くんじゃないよ」

洗面器に汲んだ浴槽の湯を直接口に含むと、ブワッと風船を膨らませるように

エリカの直腸に送り込む。

「ぐはァ・・・ッ」

止めて、と叫ぼうとしたのだが、急激に膨らんだ下腹部の鈍痛に、エリカは

押し潰されたような呻き声を上げた。

たどたどしい話のいきさつを聞いてみると、高校生のくせに、エリカの行動は

軽率でお人好し過ぎると言ってよい。

もともと初めから好奇心と、男ほしさの衝動でグループに入ったのだが、

紫織のように身についたセックスの自覚がなかった。だからグループの

下っ端にまでいいように弄ばれ、遊び道具にされてしまうのである。

いわば隙だらけ、おもちゃにされていると言う現実さえ把握できていない。

そしてその夜のエリカは、まるで絵に描いたようにキネ子の術中に

はまり込んでいったのだった。

水と空気で思い切り膨らまされた直腸の痛みに耐え切れず起き上がろうと

するのだが、両足を抑えつけられて動くことが出来ない。キネ子が呼吸を

緩めると、猛烈な腹圧で直腸の内容物がビニール管を逆流する。それが

どうなっているのかを考える余裕もなかった。

「いい子ねぇ、あんた、もう少し我慢して、キスして上げるから」

そんなことをキネ子が言ったのだが、もちろん聞こえてはいない。

キネ子の柔らかい肢体が蛇のように絡んでエリカの胸に這い上がってきた。

両手で頬を挟まれ、上に向けた顔に

キネ子の唇が覆いかぶさってきた。

無意識に開いた口の中にブワッと

吐き出されたのは、ビニール管から

逆流した異様な味の液体である。

「グヒャアァァ・・・

エリカは、世にも惨めな呻き声を

あげた。

「美味しいだろ。ねぇ美味しいだろ」

猛烈に不潔な味と臭いのする水を口いっぱいに含んだキネ子に

口移しにされて、エリカが身悶えする。

肛門に突き刺さったビニールの管から、吹き込まれた風呂のお湯が

逆流してくるのをキネ子は何のためらいもなく飲み込んで、溜まった汚物を

エリカの口に移すのである。

「うっぷ、げへぇ・・・」

「あら、あんた吐くの? それ頂戴・・・」

反射的に胃袋が痙攣して、咽喉の奥から胃の中の内容物が戻ってくる。

唇から溢れ出した薄黄色の液体を、キネ子が舌を出してベロベロと舐めた。

「ふうん、凄いんだねぇ」

ようやくここまで聞き出して、紫織は一種の感動に似た溜め息をついた。

「それで、どうしたのあんた。お尻のほうは・・・」

「だって我慢できなかったのよゥ。お腹が痛くなっちゃって・・・」

「全部出しちゃったの?」

「う、うん、そうしたらそれを、あの女が私の顔に・・・」

さも穢らわしいと言うように、エリカは顔をゆがめた。

「まだ髪の毛に臭いがこびりついてる。お願い、もう一度お風呂で洗わせて・・・」

「そんな変な匂いなんかしないけどね」

紫織は他人事のように言った。

おそらくは、母の絹枝も同じようなことをされてきたんだ。もしかしたら自分で出した

ウンチくらい食べさせられて来たのかもしれない。

犬畜生になった絹枝が、排泄物を口いっぱいに頬張って涙を流している姿を想像すると、

紫織は身震いするほど興奮する。

何故か判らないが、母が人間とは違った世界に堕ちれば堕ちるほど、紫織は自分との

絆が深まってゆくように思えるのである。

「いいよ、お風呂はいってきなよ。あんた、どうせ自分のウンコ食べさせられてきたんだろ」

紫織は母に投げつけるような、ぞんざいで軽蔑しきった口調で言った。






<つづく> <目次へ>